とりあえず病院へGO
10月20日。土曜日。晴天なり。
指定された通り、伊月総合病院にやってきた。
マップの表示に偽りはなく、うちから40kmほど離れたところにあるクソでかい病院だ。
外観もやけに綺麗で、それでいて敷地がめちゃくちゃ広い。
っていうか広すぎるだろうこれは。
いや……
待て……
来たこともないのに…この病院を何で懐かしく感じるんだ……?
もしかして俺、この病院で何かあった……!?
少しずつ……
昔の記憶が……
という、現実的にまずありえない【 よくあるテンプレ 】の妄想をしながら、病院の入口へ向かう。
でもなんかみた事があるんだよな。ここ。
ブゥーーーーン。入口の自動ドアがゆっくりと開く。
「……?? 」
入口からエントランスに足を踏み入れた瞬間、例えようがない違和感を感じた。
何かおかしい……その「何か」が分からないが、とにかく変な感じだ。
これは妄想じゃない。ガチで感じてる。
例えとして拙いが……『非日常』な空間に足を踏み入れてしまった。そんな感じだ。
はっきり言葉として言えないのが気持ち悪いが、とりあえず早く受付を済ませてしまおう。
病院の受付の子が超可愛い!!! ……だなんていう幻想は2秒で大破。
受付のおばちゃんに満面の笑みで出迎えられて声をかけられる。
「こんにちは。今日はどうされましたか? 」
ニコニコしているおばちゃんを見て、さっきまで感じていた『非日常』は、なんてことのないただの『日常』に戻った気がする。
「あの、血液検査の結果を聞きにきたのですが」
通知書に同封されていた紹介状を渡しながらそう答える。
「お名前をよろしいでしょうか? 」
「はい。松田です」
紹介状に書いてあるよおばちゃん…。と猛烈に突っ込みたい。
「松田さん…… はいはいはい。少々お待ちください。 …………はい。伺っております」
「そのまま3番診察室の前でお待ちください。えーっと、ここから左手側に進んでもらって奥の診察室になります」
「ありがとうございます」
言われた通り左の奥側へと足を運ぶ。
程なくして、3番診察室の前に着く。
診察室の向かいには、背もたれ付きのふかふかそうなソファーが3列に並び、診察室のドアの横にも同じソファーが置かれている。
待っている患者同士が、対面で顔を合わせてしまうこのソファーの配置。
病院なら、もっとそういうところに配慮を向けるべきなんじゃないか?
3列のソファーには誰も座っておらず、診察室横のソファーには母娘と思われる2人と爺さん1人の3人が座っている。
周りを見渡しても他に誰もいない。
…………。
あっそうか。
ふと、さっきから感じていた「変な何か」に気づいた。
今日は土曜なのに、『 診察待ちの人が異様に少ない 』
だからとてつもない違和感があったんだ。
普通の病院なら、もっとごった返しているものなのに。
駅から結構距離あるから、立地の問題もあるんだろうけど、これだけ広くて綺麗なところだからこそ、余計に変な感じがしたのだろう。
病院が繁盛していないのはいいことなはずなのに、なんだか患者が少ないのはもったいないな……と思ってしまう。
でもまぁ…… 「異世界に紛れ込んだ」とかじゃなくてよかったわ。はははははは。
そんなくだらない事を考えながら、診察室向かいのソファーに座り、手を組み、地面を見つめる。