57話 地獄の底! そこに愛しの彼女と賢者と聖女をみた!!
あらすじが内容と乖離しすぎてきたので、書き直しました。
それと話が長くなりそうなので、章で区切ることにしました。
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溢れかえる魔人どもの坩堝の中、必死に防衛線をはる計都五拳達。
だが、突然におこった大爆発により空いた空白地帯へと逃げ込んで、とりあえずの一息をつくことができた。
「いま落ちて爆発したのは、あの性悪坊ちゃんか?」
リューヤの問いに答えたのは、周囲を見てどこか生き延びる手立てはないか探していたヴィジャスだった。
「間違いないね。どうやらアリエスの方は、予想以上に上手くいったようだ。魔法も使えるようになったし、上は安全地帯になったとみていいよ。となると上へ脱出だ。みんな、飛べるだけの力は残っているか?」
まず答えたのはガイだった。
「俺はいけるぜ。ちっと疲れちゃいるが、飛ぶだけの火力は問題ない」
次にリューヤ。ヴィジャスを抱えながら答える。
「俺もだ。風は存分に吹かせられる。ヴィジャス卿、あなたは俺が運びます」
シンは、魔人どもへと一歩進んで答えた。
「……そうか、ならお前らは行け。殿はおれが引き受けてやる」
「シン?」
見ると、シンの脇腹あたりから薄らと血がにじんでいた。
他の者より汗も大量にかき、ひどく具合は悪そうだ。
「はっ……アリエスの癒やしてくれた傷が開いちまった。あの娘をさらってから何度か死ぬ目にあってきたがな。今度こそはダメのようだ。もはやおれに飛ぶだけの力はない」
同様に、同じくらい体調の悪そうなフェイルーも、シンの隣に並んだ。
「ハァハァ……私もです。やはり魔法なしで戦うのは、この体では無理がすぎたようです。シン、つきあいますよ」
「ってことだ。行け! 行ってアリエスを守って脱出してくれ」
計都五拳は修行の過程で、このようなとき生きる者が生きるべきと教えられている。
仲間を置いていくことも、残って仲間の負担にならないことも覚悟済みだ。
「……わかった。シン、お前に負け越したまま終わっちまうのだけが残念だ」
「あばよシン、フェイルー。忘れねぇぜ」
「ゴメン。俺ちゃんがもっと慎重にやっていれば、死なすことはなかった」
リューヤ、ガイ、ヴィジャスが上方の観覧所へと飛ぶなか、シンとフェイルーは再び襲ってきた魔人どもから退路を守るための戦いを開始する。
戦いの中、ふいにフェイルーはシンに聞いた。
「シン、ひとつ聞かせてください。アリエスの魔拳のせいで、私達が彼女に恋してしまったって話。あなたはどう思っていますか?」
「関係ないさ。おれは彼女が、おれのために一緒にラドウの正体を調べてくれると言ってくれたとき、もっと好きになっていた。そして体を張って傷を癒やしてくれた時にもな。おれはおれの本心で、間違いなく彼女が好きだ」
「……そうですか。私の方は自分の意思とは言い切れませんが……それでも、アリエスに感謝してます」
「感謝? なんでだ」
「ずっと大人になれる女の子達を妬んでいました。私は成長できなくて、子供みたいな体のままですから。あなた達と同じ年なんですから、本当ならもっと胸とかもあったはずなんですよ?」
「そういや、そうだな。お前がそんなことを気にしていたとは意外だ」
「そんなこと、知られるわけにはいかないじゃないですか。でもその魔拳のお陰で、そんな醜い嫉妬心から解放されました。今でもずっとアリエスのこと好きです。だから……幸せです……」
バタリ
フェイルーはとうとう力尽き、その場に倒れてピクリとも動かなくなった。
シンは彼女にほほ笑んだ。
「おれもだ、フェイルー。おやすみ。おれは、もうちっと踏ん張ってから行くぜ」
さて、どんな死に方をしようかと考えたときだ。
上から愛しの彼女の声がふってきた。
――――「シン! フェイルーを守ってくれ! いま行くぞ!!」
「バカ! 何言ってやがる! 来るな! おれ達はもう助からん!! ……え?」
上を見上げたときに、シンは信じられないものを見た。
突然、黒い炎が上空からふってきたのだ。
そしてそれは、周囲に這い寄ってきた魔人に直撃し燃やした。
不死身のはずの魔人であるが、その炎は魔人の再生力をも上回る速度で、その肉体を燃やしている。
「これは高位魔法? いったい誰が……」
――――「闇と炎の混合魔法の黒炎。焼熱温度が通常の火魔法よりはるかに高いから、魔人を焼くには最適だよ」
その言葉とともに、謎の青年がアリエスを抱えて、この場におりてきた。
若く見えるが、年を重ねたような不思議な雰囲気の緑髪の青年。
アリエスは彼から離れると、倒れているフェイルーに駆け寄り、体を調べながら処置をする。
シンは彼女より、突然現れて高位魔法を使用した彼にどうしても注目してしまう。
「だ、誰だ?」
「この姿で君と会うのは、ずいぶん久しぶりだったっけねぇ。でも別れたのはついさっきじゃない」
その声で、シンは彼の正体に思い当たった。
「ま、まさか……ヴィジャス卿……なのか?」
「そうさ。ようやく亜空間から解放されたよ。山霊獣、今まで俺ちゃんの体になってくれてありがとう」
「ナー」
ヴィジャスは、懐にいたさっきまでヴィジャス本人だった山霊獣に挨拶する。
「ヴィジャス卿、この世界に戻ってくることが出来たのですか。しかし、どうして突然……」
――――「私がヴィジャスを呼び戻したのです。彼を封印したのは、私ですから」
いつの間にかもう一人、シンの背後に女性がいた。
振り返ってそれが誰かを確認すると、さっき以上にシンは驚愕した。
それは先ほどまで、最大の敵であったはずの者。
「せ、聖女トゥーリ!!?」




