56話 賢者の弟子必殺の暗殺拳! 外道貴族よ・きさまの処刑はすでに完了だ!!
高位貴族とはいえ、悪には報いを与えるのが賢者のさだめ。
卑劣なアミヴァ卿に、ついにアリエスの怒りが爆発する!
CV・千葉繁
「フフフわたしは選ばれし血統の者。きさまは、貴族の圧倒的パワーで蹂躙される愚劣な庶民の悲哀をとくと味わうがよい」
ゴキッ ゴキュッ
アミヴァ卿は悪魔細胞で巨大化した肉体をみせつけるように、関節を鳴らす。
さながらその様は、大型肉食獣が小動物をいたぶるかのよう。
されど『黙ってやられる』なんて選択はない。
頭のツボを突いて高速思考モード発動。
まずは初撃をかわす!
ニャギとの戦いの経験を生かせ。
奴の戦いのクセをつかむんだ!!
「フハハハハ、いくぞお。なぶり殺しだ!!」
来た!!………………あれ?
ドゴオオオオオン
アミヴァ卿は猛ダッシュして剣を振り下ろす。
その剣撃は地面を大きくえぐった。
でも?
「フハハ、逃げるのはさすがに上手だな。さぁ、ドンドンいくぞぉ!」
アミヴァ卿は破壊力のある剣撃を次々とくり出す。
僕はそれを黙って躱し続ける。
やがて観覧所の端に追い詰められた形になった。
この後ろは、千メートルもの奈落。
さらにその直下は魔人どもに埋め尽くされている。
「フハハハハ、さぁもう逃げ場はなくなった! この剣にかかるか、その後ろの地獄へおちるか。好きな方を選べ!」
「そうですね……では、剣の方でお願いします。介錯いただけますか?」
「フン、もっと怯えた声をだせんのか。だが『一撃で終わらす』などと慈悲を与えるつもりはない。切り刻んで、なぶり殺しといこう!」
ブゥゥゥン
アミヴァ卿が無防備に近づき、横凪ぎに浅く剣を走らせる。
僕はそれを大きくジャンプしてかわす。
頭上をすれ違いざま、アミヴァ卿の両耳を叩いて飛び越した。
「クゥッ、こしゃくな! いつまで悪あがきをするつもりだ!!」
「……アミヴァ卿」
「ん~~? なんだ、命乞いか。だったら、そこで這いつくばって……」
「遅いよ」
僕はこの戦闘が始まって以来、感じていたことを口にした。
「な、なに? アミヴァ流騎士剣術を会得したわたしを遅いというか!」
「剣術? そんなものは武術の動きじゃないよ。上半身と下半身の軸がバラバラ。ひとつの動きが終わったら、次の動きにつなげることも出来ていない」
リューヤとの修行で、僕がこんな動きをしたら思いっきり蹴飛ばされる。
ニャギと同様の激闘を予想して迎撃態勢をとっていたのに、遅すぎて思いっきりズッコケたよ。
油断させて『そんな眠っちまいそうなスローな動きで倒せるかぁ!』と雑に攻撃させて、『かかったなマヌケめ!【稲妻空裂刃】!!』
みたいな策を警戒してたけど、あれが本当に本気の動きみたいだ。
「バカな! あらゆる敵を蹂躙するアミヴァ流に、このパワーが合わされば無敵のはず! それが……それが!!」
ああ。【アミヴァ流剣術】とやらは、据え物を壊すだけの、貴族様お遊びの剣なのか。
「まぁ【アミヴァ流】とやらはともかく、その体で動いたのは多分初めてなんだね。パワーに振り回されて、まともに動くこともできていないよ。とても命乞いしたくなる気分にはなれないな」
戦闘でグチャグチャになった髪に櫛をいれながら言う。
そんな僕の舐めた態度にアミヴァ卿は激昂した。
「おのれ! もはやなぶり殺しはヤメだ!! この体の能力はパワーだけではない。魔力も極大にあがっているのだ! みろぉ!!」
ブオォォォォ
アミヴァ卿の周囲に、ものすごい圧の魔力が生まれた。
「『深淵にて燃ゆる亡者灼く紅蓮なるもの、漆黒たるもの。這い出て空を焼け、地を舐めろ。あまねく全てを地の底に引きずり込めぇ! 【煉獄召喚呪文】!!』 ふはは、どうだレベル5の極大魔法。悪魔細胞の力は人間最高位の魔法士にもなれるのだぁぁ」
アミヴァ卿の頭上に掲げた両手から、極大の”炎”の魔力が生まれる。
その熱気は、さながら太陽のよう。
「すごい………すでに終わらせておいて良かった」
「……なに? うぐっ!」
僕もさんざん学習した。
こんな油断ならない奴に、次の行動を許すべきじゃない。
さっきも、少年マンガみたいな『勝負』という形にこだわらずにさっさと倒しにいってれば、みんなを危機におとすこともなかったかもしれないのに。
いまイキったことを言ったのは、外道貴族の処刑は完了しているからだ。
「あ……あっ!? わたしは立っているのか倒れているのか? 貴様、いったいなにをしたぁ!?」
アミヴァ卿の足がプルプル震えだした。
「さっき耳を叩いたろう? あのとき内耳の【前庭器】という器官をマヒさせた」
「な、なんだそれは!」
「前庭器は体の平衡感覚をつかさどる器官。ここが効かなくなると、人間は立っていることができなくなるんだ。でも、そこで倒れたら大変だね」
『後ろをみろ』とばかりに指をさす。
「まっさかさまだよ」
「うわぁ!! さ、ささえてくれ足を! ささえてくれぇ!!」
足はすでにガクガクガク。
体が傾いていく。
「おいおい、魔法がおろそかになっているよ。そんな大呪文を暴発させたら大変だ。しっかり制御しないと君は」
手を握って開く。
「ボン! だ」
「ひょえぇ~~!!」
魔力の圧が、アミヴァ卿を押し潰さんばかりに膨らんでゆく。、
臨海は近い。
”魔法”という形をとらずに集中された魔力は、そのまま術者の体内で暴発するだろう。
「ひええ~っ! い、いやだ、たすけてくれえ!! 天才のわたしが何故こんな目にぃ! あひゃぁぁぁ! お、おちるぅぅぅ!!」
ズルッ
ついに落ちた。
「うわらばはぁぁ!!!」
ドッゴオオオオオオオオン
アミヴァ卿は魔人の坩堝に叩きつけられた瞬間に大爆発。
周囲の魔人どもをまとめて吹き飛ばした。
その場にできた空白地帯に、リューヤたちみんなが駆け込んでくるのが見えた。
「あの外道貴族も、最期に少しだけ役にたったね」
さぁ、みんなをどう助けよう?




