55話 地獄の門は開かれた! 恐怖の魔人はあふれ出す!!
聖女トゥーリは、自分のどのようなダメージも、強力な回復魔法で瞬間的に治すそうだ。
つまり【回復魔法】は通じる。
ならば、彼女を討つ得物は【回復魔法】と決めた。
彼女にしたキスは、まぁオマケだ。
快感で動けなくなっていたが、それだけで倒せるほど甘くはない。
本当の狙いは僕の額が押しつけた彼女の額。
その裏には脳の新皮質【前頭葉】という部分がある。
魔法を封じられたとはいえ、体内をめぐらす分には使える。
なのでシンの回復でさんざん鍛えられた【内燃接触魔法】でこの部分を集中的に癒やした。
微弱な回復魔法で体内器官にはたらきかけ、器官の機能を上げるのは僕の得意技。
彼女の前頭葉の機能を大きく向上させた。
脳の【前頭葉】という部分は、人間らしさのような高次判断を司る部位なのだ。
この部分で行いの善悪の判断をしたり欲望を抑えたりする。
いわば人間が持つ【正しい心】とは、ここから生まれるといって良い。
そしてこの部分の機能が向上した結果、トゥーリは目をそらし続けてきた自分の”悪”の行いを強制的に考えさせられることになった。
結果、本来は優しかった彼女の心は、罪悪感でズタズタに切り裂かれたのだ。
◇ ◇ ◇
「わた……わたしはなにをしたの?」
僕は子供のようにシクシク泣き続けるトゥーリを、悲しい気持ちで見下ろした。
「小さい頃と逆だね、トゥーリ。わたくしはいつも、あなたの側で泣いてました」
―――?!!
勝手に口から言葉が出た!?
そうか、これがこの体の本当の持ち主【アリエス】か。
彼女に代わり、元主としての言葉をかけておくか。
「でも、手は貸しません。それはあなたの罪なのだから。それは大切な痛み。それを忘れずに生きていきなさい」
そう言って冷たく背を向けた。
優しくしちゃいけないって、つらいね。
それにまだ、彼女の相手をしている暇はない。
僕はその場にいるもうひとり。
呆然としているクズへと向き直った。
「ではアミヴァ卿。さんざん嬲ってくれたお礼をさせてもらいます!」
ためしに魔法で電気を出してみると、「パチパチ」と問題なく出せた。
どうやら【魔法封じの結界】は解除されたようだ。
これで僕ひとりでも、この坊ちゃんを捕まえることができる。
「フッ……フハハハ。アリエス嬢、たしかに貴様を甘く見ていた。だが! トゥーリ殿がいなかろうと、凡人がわたしに勝てるかぁ!!」
「たしかに策でハメる手腕は大したものですね。だから何もさせません。問答無用の速攻で倒させてもらいます!!」
「それが遅いというのだ! そんな言葉をかける前に、かかってくれば良いものを。魔人ども、みんな出ろ! 下の奴らを皆殺しにしろぉ!!」
「な、なに!?」
ドォォン
轟音に下を見ると、四方の門が勢いよく開け放たれた!!
そしてそこから異形の魔人どもが一斉にあふれ出し、みんなに襲いかかる光景が見えた。
その数は百体を軽く越え、広い闘技場はたちまち魔人に埋め尽くされる。
「アミヴァ卿………こ、このっ!!」
「ウワッハハハハ! 憎しみに歪んだ美貌もまたいい。どうだね、仲間が喰われていく様を仲良く観覧するというのは」
「ま、魔人どもをとめろ! でなければ本当に殺す!!」
「フフフ無駄だ。あの魔人どもは、解放命令を出した瞬間、殺戮獣へと変わる。もはや誰の命令もきかず、欲望のままに、生命が尽き果てるまで暴れ続けるのだ。ウワーッハハハハハハハハハ!!」
「み、みんな………」
計都五拳のみんなは、ヴィジャスを中心に円陣を組んで必死に抵抗をしている。
魔法が使えるようになって元の戦闘力を取り戻したとはいえ、あの数。
加えて魔人は脅威の再生力をもっており、殺しきることはできない。
いったいどれくらい保つのだろう?
「そして! 貴様もこのわたしには勝てん。わたしは天才だ~~!! 泥人形どもを使って究明された悪魔細胞の成果は、すでに我が肉体にも宿しておるわ! みろっ!!」
「な、なにっ!?」
いきなりアミヴァ卿の肉体が不自然に膨らんだ。
それは正に、悪魔細胞を植えつけ魔人と化した者の特徴!
モコモコモコ
「ウハハハ!! アミヴァ流騎士鍛錬法によって鍛え抜かれたわたしは、魔人になったことでさらに強靱になった! この肉体の能力は、ニャギのものとほぼ同じなのだぁ!!」
な、なんっだってー!?
「そして! この天才の目をもってすれば、貴様の弱点を知ることなど容易い。不死身の魔人を倒し、トゥーリ殿をも戦闘不能に追い込んだ貴様の技だが、接近し接触しなければ発動しないと見た」
鋭い! 本当に天才だ!!
「つまり体に触れさせず切り刻めば良いだけのこと。フフフ、この肉体なら簡単すぎる作業だ」
アミヴァ卿は、剣をヒュンヒュンと呻らせ、その怪力をみせつける。
くそっ。ニャギと同格の相手を、僕一人でどうにかしなきゃなんないのか。
下では刻一刻と、みんなが魔人に潰されそうになっているし。
さて、どうしよう?




