53話 地獄の聖女よ待っていろ! いま貴様を地獄へ帰そう!!
「みんな、頼みがある。何とか僕をトゥーリのもとへ行かせてほしい」
魔法の使えなくなった状態で、僕を千メートル以上も上の観覧所へ飛ばせるか?
みんなの身体能力なら、何とか出来そうな気がするけど。
「トゥーリと交渉するのか。それならアミヴァの坊ちゃんの方だろう」
「交渉などするか? もう決着はついているというのに。色仕掛けでもする気か? ……少しは望みあるか?」
いやいやシン。自分を基準に相手を考えちゃいけない。
「いいや、”トゥーリ”で間違ってないよ」
もう一度トゥーリを見上げる。
相変わらず彼女は僕を見ている。
その視線に応えるように宣言をする。
「僕はトゥーリと勝負する。そして倒す」
一瞬、みんな黙り込んだ。
そして僕を『正気か?』という目で見た。
「アリエス、大丈夫ですか? 私を思いっきり『ギュウッ』ってして、いっぱいキスして落ち着いてください」
『大丈夫か?』と聞きたいのは僕だフェイルー。
本当に何を言っているんだ、君は。
リューヤが微妙に「イラッ」とした感じで、みんなが思っているであろうことを言う。
「できるわけないだろう。相手はおそらく人類最強の術士。お前など触れることすら出来ずに終わりだ」
「彼女が僕のことを何とも思ってないならね」
「……どういう意味だ?」
「彼女と僕とは縁がある。そのことはヴィジャス……師匠も知っている。そして最強だからこそ僕を攻撃しないし、僕が攻撃しても避けないんじゃないかな」
今度はみんなヴィジャスに注目する。
「……可能性はある。いや、そうだろうな」
ヴィジャスもトゥーリを見上げてそう答えた。
「とはいえ、彼女は強力な防御魔法を使えるうえ、死ぬほどのダメージを受けても【自動再生】で甦る。つまり魔人以上に不死身だ。君に倒す方法があるとは思えないが?」
「それはちゃんと考えてある。説明はちょっと難しいし、時間もないから言わないけど」
これだけでみんな僕に協力してくれるかな?
『どうしても、その方法を説明しろ』とか言われると、みんなが理解してくれるか怪しい医学知識とか講義しなきゃなんないから、カンベンして欲しいんだけど。
「俺は姉ちゃんに乗ったぜ」
最初に賛同してくれたのは一番意外な人物だった。
「ガイ? 正気か」
「クソ野郎との交渉なんて期待するだけ無駄だろ。それにあの”ブッ壊れ聖女”を『倒す』なんて言えることが気に入った。勇ましい姉ちゃんに”師匠越え”させてやろうぜ」
「くそっ。おれが一番に言いたかったのに。おれもいいぜ。アリエスが『やる』ってんならつき合う。地獄にだって行ってやるさ。何もいらない」
あ、シンがちょっとカッコイイ。
「私は欲深い女ですからね。ちゃんと貰うものは貰います。私をギュッてして、キスしてください」
本当になんて娘に火をつけちゃったんだろ。
僕はフェイルーを抱き寄せ、キスをする。
「はフゥ~、スゴイ」
フェイルーはペタンと崩れて幸せそうな顔をした。
あ、転生特典の【快感のキス】か。
「お、いいな。それが報酬ってんなら、俺もいただこうかな」とかガイが尻馬にのった。
ううっ、断れない。
僕のために無理させてしまうんだし。
それにこういった時、男は女との繋がりが欲しくなるものなんだよな。
そんな男の心理が分かってしまうし、仕方ない。
「い、いいけど、男が相手だと心の壁が高いからオデコね」
「チュッ」とガイの額に触れるだけのキス。
「おおっ!? なんかすげェ! 」
うん、喜んでくれて何よりだ。
オスガキは安くすんでくれて助かるな。
「ああっ! あ、あのっ。アリエス、さっきはああ言ったけど、その……」
ハイハイ。
さっきのカッコイイせりふが台無しだね、シン。
ま、それも含めてのシンだから別にいいけど。
チュッ
シンの額にもキスした。
心持ち、ガイより体を密着させて。
「フハハハハ、今こそ計都雷伯拳の神髄、見せてやろう!!」
いや、いま使えないでしょ。
リューヤもヤレヤレといった調子で言った。
「しかたない、俺も協力するか。アリエスはこれまでの戦いでも戦果をあげてきた奴だ。あの狂聖女が相手だろうと、何とかするだろう」
「信用してくれて嬉しいよ。じゃ、リューヤにも」
体をあずけてキスしようとしたけど、「スッ」と避けられた。
「俺はいい。それより、魔法なしであの高さを飛ぶとなると、かなり無理をしてもらうぞ。覚悟を決めておけ」
ははっ、断られたのは何故かちょっとショックだ。
ま、リューヤらしいかな。
僕は最後にヴィジャスにも確認をとった。
「じゃ、ヴィジャス師匠。いいですね?」
「……さっきはああ言ったが、ここまでのことをした彼女だ。もう俺ちゃんの知らない彼女になっているかもしれない。問答無用でつかまるだけかもしれないぞ」
「そうかもね。でも……」
僕は胸を「トン」と指でつついた。
「胸のここん所でね、女の子が泣いているんだ。彼女のためにもトゥーリと対決したい。たとえ、つまらない結果に終わったとしてもね」
「………そうか」
「トゥーリを悲しむ彼女のために、トゥーリをブン殴ってくるよ。全力で彼女の気持ちを届ければ、少しは何か変わるかもしれない。その可能性があるから僕は行く」
「……耳が痛いな。わかった、もう何も言わない。好きにしてくれ。どんな結果になっても、後は何とかする」
「ありがとうヴィジャス。じゃ、準備も出来たみたいだし、行ってくる」
シンとガイは並んで仰向けに寝転び、脚を曲げて上に向けながらまっている状態。
フェイルーも少し離れた場所で同じ体勢で待機していた。
リューヤはそれの説明をしてくれる。
「まず、シンとガイの足に自分の足を左右それぞれに乗せろ。二人の脚力でお前を飛ばす。同時に俺もフェイルーの脚力を借りて飛ぶ。そして空中で俺がお前を投げ飛ばし、奴らのいる場所へ届けてやる。途中で迎撃されるかもしれんが、いいな?」
「それはあんまり心配してない。そこまで僕を警戒してないだろうし」
僕は言われた通り二人の足の上に立ち、発射準備をした。
「行ってこい、姉ちゃん!」
「アリエス、待ってるぞ!」
シンとガイは同時に一気に脚と背を伸ばし、僕を宙へ飛ばす。
同時に僕とほぼ並走した形で、リューヤも宙を飛んだ。
「来い、アリエス!」
差し伸べられるリューヤの手をつかむ。
僕はそのままリューヤに引き寄せられ――――
チュッ
――――!?
キスされた!?
唇にィ!!!?
さっきは断ったくせに、何なのこの不意打ち!!
「行けェ! 聖女を倒せると信じててやる!!」
空中で巴投げの体勢をとると、一気に僕を観覧所の方へ投げ飛ばした。
さすがリューヤの体術。
正確に観覧所の上へと運び、その下にトゥーリとアミヴァ卿の姿をとらえることが出来た。
アミヴァ卿は嫌なニヤケ顔で、面白いものを見ているような顔。
そしてトゥーリは………微笑んでいる?
――――ずっと探していた、アリエスを
――――いつも待っていた、アリエスに地獄へ帰してくれる日を
そんな言葉が聞こえた気がした。
僕へ向ける視線から。
だったら、なろう。
君の【死の天使】へ。
「待ってろトゥーリ! いま、行く!!」
次回、ついに激突!
賢者の弟子VS地獄の聖女!!




