51話 悪の嗤いが響きわたる! 泥濘の拳士たち
アミヴァ様ショー開幕!
まんまとアミヴァ卿の罠にかかってしまった僕たち。
解放された10体もの魔人と戦うハメになってしまった。
「青海の水神よ、我が手にあれ。青眼裂帛水咆!」
フェイルーは中級魔法も使えるそうだ。
なので、遠距離から牽制の水魔法。
それで足をとめた魔人に、三人の魔法拳士がおどりかかり、戦闘力を奪っていく。
「風刃拳・空刃乱気流!」
「炎蓋件・炎熱赤腕!」
「雷伯拳・真雲黄光衝!」
動けなくなった魔人だが、おそるべき生命力でまだ生きている。
そして傷口はもの凄いスピードで再生をはじめる。
それにトドメを刺すのが僕の役目だ。
「死極星!」
心臓や呼吸器を正確に消失させると、完全に活動を停止させた。
そんなこんなで、やたら戦闘力の高い四人のおかげでたちまち10体は倒したが、もちろんこれで終わりなはずがなかった。
「ハハハハ、さすがの戦闘力だ。次は20体といこう」
それもどうにか倒すと、次は30体。いったい何体作ったのかね。
「やぁれやれ。そろそろ疲れたぜ。これ以上戦うのはヤバイぜ」
20体目を倒し終わった頃、ガイが呟いた。
「お前を無傷で返したことから、予想はしていたが……やはりここは死地。絶対に破れぬ自信が敵にはある。奥にはまだまだ魔人はいるようだしな」
「だな。やはり地上の扉を突き破るのは無理だ。おれ達を殺さないよう調整して出しているから助かっているが、いっせいに出てこられたらお終いだ」
「無理に突破しても、私達を出さない仕掛けはあるでしょうしね。やはり活路は一つだけのようです。体力があるうちにやりましょう」
戦いながら脱出方法を検討していたが、やはり可能性があるのは上方の観覧所。
トゥーリという絶対の守護者はいても、どれだけ強かろうと所詮は人ひとり。
逃亡に徹すれば、犠牲は何人か出ても、逃げられるはずだ。
「行くか。ヴィジャス冒険卿、指示をお願いします」
「よし、最優先護衛はアリエスだ。我々全員が死のうと、彼女だけは守り抜いて安全地帯へ送れ」
「了解だ。アリエスを守るのはおれの役目だからな」
「私です」
おかしいな。
シンもフェイルーも、僕の魔拳で僕に恋愛状態になってしまったことは知っているはずなのに。
そんなことはまったく関係ないみたいに、変わらず僕を好いているのは何故だ。
「よし、いけぇぇ!!」
ヴィジャスの合図とともに、全員がそれぞれの魔法を生かした跳躍で飛ぶ。
僕を抱えて飛んでいるのは、もっとも飛行能力に優れた風のリューヤだ。
「フハハハ、やはり来たぞトゥーリ殿。読み通りだ。では、絶望を送ってさしあげろ」
――――?!!
アミヴァ卿は、飛んできた僕らにまったく驚きもせずにそんなことを言った。
その隣のトゥーリは、両手を大きく広げて呪文を詠唱した。
「幻想は消え、奇跡は眠り、魔の標は閉ざされる。【魔法使いの嘆きの領域】」
「なにィ!?」
「魔法が!?」
「くううっ、落ちる!」
ドシャァァッ
トゥーリが唱え終わったその瞬間、それぞれの跳躍に使っている魔法が消えた。
その結果、僕らは引力に引かれて床に落下。逆戻りだ。
「フハハ、わたしは天才だ。貴様らがここを突破しようと目論んでいることぐらい見通しておる。どうだ策が破れ地面を舐めた気分は!!」
「ここ一帯の魔法を封じさせてもらいました。魔法を体内で発動させて身体能力を上げるなどはできますが、体外へ出すことはできません」
本当だ!
僕のレベル1魔法がまったく使えなくなっている。
もちろん、魔人を殺せる頼みの【死極星】も!
他のみんなは微かに炎、雷などは出せるが、放出した途端にそれは消える。
武器としては使えない。
「フハハハハ、さぁゲームの難易度を上げよう。その状態で、そいつらを殺してみろぉ!」
くそう、楽しそうにあざ笑って。
アミヴァ卿め、これが奴の本性か!
戦闘は、先ほどとは一転、みんな魔人に押されはじめた。
「くっ糞。調子にのりやがって」
「ううっ、魔法が使えないんじゃ、私は戦闘力半分以下です」
「へっ、俺はやるぜ!」
「元気だな、ガイ。さすがに、おれは傷が開いてきた」
たしかに内燃魔法の身体向上能力は使えるようで、みんな体術は変わらずに魔人の攻撃を避けてはいる。
しかし、このままではジリ貧だ。
僕にいたっては完全にお荷物になり果てたし。
そして苦しむ僕らの頭上からは、悪の笑い声。
「ハァーッハハハハ愉快愉快。いかに強かろうと、貴様らは所詮泥人形! わたしを楽しませ、利用されるだけの存在でしかない。さぁ足掻け足掻け! 虫ケラが踏みつぶされる姿は、じつに素晴らしい!」




