46話 名門ホクトゥシン家の悲劇! トゥーリよ、お前は天使なのか悪魔なのか!!
前回に続き設定説明回。
次回からちゃんと物語動かしますので、今回までがまんして下さい。
名門公爵ホクトゥシン家。
その正当の血統とか教えられたけど、何をすれば良いんだ。
『ホクトゥシン家の掟は僕が守る!』とか言えば良いのか。
「……………ええっと、いろいろ聞きたいことはあるけど。とりあえず、女の子なのに真ん中の『ケン』は何なの?」
「本当にどうでも良いことから聞くね。王族、貴族には偉大な先祖の名前の一部をミドルネームにする場合がある。君のは王国屈指の功労者、名宰相であり大賢者で名高い【リウケン・ホクトゥシン】からとったんだよ」
賢者というより謎の拳法使いの名のように感じるのは、僕が混乱しているからだろうな。
「じゃ、重要なことを聞こう。そのトゥーリって人との関わりは?」
「貴族の女子は、幼いころから年の近い家臣の娘が付き人につくのが普通だ。で、それがトゥーリだったというわけだ。いわばアリエスにとって姉のような存在だね」
「はぁ。で、そんな大層なお家の人が冒険者になったり、アリエスにいたっては【賢者の弟子】という名の人体実験の被験者にされたりってのは、何がどうしてそうなった」
「あー先に弁明しておくかな。この世界じゃ、【弟子】ってのはそういった実験の被験者になることも契約のうちなんだよ。弟子は師匠の研究にその体を使わせる代わりに、高度な技術を継承する。あの【計都五拳】の子達だって、あの強さは、とある実験の成果でもあるんだ」
「えっ、その実験ってのは…………」
「その話はまた今度。ただ俺ちゃんは特別非道なことをしてるわけじゃないってことを言いたかっただけで、そっち方面に話をもって行きたいわけじゃないんだ。今はアリエスとトゥーリの話だろう」
「あ、そうだった。やんごとない家のアリエスとトゥーリが、どうしてこうなったかの話だっけ」
「【お家乗っ取り】だよ。アリエスの母の当主夫人は早くに亡くなったんだが、その後妻がとんでもない毒蛇でね。当主を暗殺して忠臣であるサンタナ騎士家まで潰したんだ」
うげっ! 貴族のドロドロしたヤバイ裏話だった!
「そのうちアリエスも暗殺されると見たレオニスター伯爵は手をうった。アリエスの身分を庶民におとし、俺ちゃんの弟子へひきとらせたというわけだ」
「いや、殺すまではしないんじゃない? 女の子だし、どこかあんまり政治的影響力のない田舎貴族の家にでも嫁がせれば」
「毒蛇はお家乗っ取りに際して、ひとつだけ手抜かりがあったんだ。それは当主の子をつくる前に殺してしまったこと。おかげ様で名門ホクトゥシン家の正当な血統をもつ人間は君だけになってしまった。そしてその血に価値を見いだすのが、貴族という人種だ」
「その血筋が有力者に流れると、せっかく乗っ取ったホクトゥシン家が取り返される。だから暗殺しよう、と考えるわけか。でも庶民になれば安心なの?」
「『貴族は貴族同士でしか結婚しちゃいけない』という不文律があるからね。アリエスが庶民になった以上、貴族は結婚できない。だからこれで一安心……だったはずなんだけどねぇ」
ってことは安心じゃない何かがあったってことか。
「なにかあったの? あったんだね!? 聞くのが怖いけど教えてくれ」
「またまた毒蛇が横やりを入れてきたんだ。『悪魔イヴァーズを倒した魔法の研究の被験者に、アリエスを使え』ってね。俺ちゃんがアリエスを弟子にしたことを上手く逆手にとられてしまった」
それであの眠り姫状態か。
そして巡り巡って僕がアリエスになるに至った、と。
それにしても、その後妻という奴。『アリエスが目覚めている』と知ったなら、また、ちょっかいかけてくるかもしれないな。
「それで? その後妻ってのはどんな人なの。安全のために聞いておきたいんだけど」
「名は【ユリダ・ナムトセイ】。もう一つの公爵家【ナムトセイ家】の第一公女だった女で、連れ子だった息子を現ホクトゥシン家当主に据えた。いつもケバい化粧してハデなドレスを着てる『自分が世界一美しい』と思っている頭のおかしな女だ。でも知略謀略は一級品だよ」
ゾクリッ
そいつの名を聞いただけで、もの凄い悪寒が走った。
この体に眠る本来のアリエスは、そいつをそうとう恐れているらしい。
まぁ話を聞いただけでも相当ヤバイ奴だし。
「おっと、トゥーリと君の関係の話だったな。とにかくトゥーリは、家が潰されて冒険者になってもアリエスのことを心配してたし、アリエスが庶民になった後も親身になって世話をしてくれた。俺ちゃんの弟子にしたのも、彼女のつなぎによる所が大きい」
「なるほど。そんな人が悪事に手を染めていたら、泣きたくもなるね。トゥーリって人も、何でそんな残忍な魔導実験なんかしてるんだか」
「………ありえない! やはり俺ちゃんは、誰かがトゥーリの名を騙っているんだと思う。あの娘はそんなことをする奴じゃない」
だと良いね。
僕の体のどこかでも、『そうであって欲しい』という声が聞こえる気がする。
「そっか。でも、もし万一本人だとしたら?」
「逃げる。君も五拳の皆も、けっして戦っちゃいけない」
「はぁ?」
いやそこは『ぶん殴って目をさまさせる!』とかアツイ言葉を出す所だろう。
なんだ、その『シッポを巻いて逃げる』って。
そんなことじゃテレビアニメにはなれねーぞ。
「少し悪魔イヴァーズと戦ったときの話をしよう。奴にトドメを刺したのは、実はトゥーリなんだ。他のみんなは、それまでの戦いで動けなくなっていた。で、本来戦闘をしない彼女が、俺ちゃんが生成した死極星を放って倒したんだよ」
いきなり話が変わったな。それがどうした。
「その関係からか、彼女は俺ちゃん達よりさらに抜きん出たレベルアップをしたんだ。とんでもない魔力を持つ、無敵の超人になってしまったんだよ」
「な、なんだってーー!!」
たしかにトドメを刺したキャラは、他のパーティーメンバーよりも大量に経験値が入るもんね。
…………って、何でそこだけゲーム設定みたいになってんだ。
「わずかでもトゥーリが敵にいる可能性がある以上、ここの調査は危険すぎる。セイリューにも出てもらって、災害獣を討伐するだけの戦力を揃えて行うべき……いや、それでも足りない。中央からも戦力を出してもらうか」
「そ、そこまで!? そんなに凄いの、トゥーリって人!?」
「でなけりゃ聖教会も、権力基盤もない彼女を聖女認定なんかしないよ。あれは聖教会への寄付や貢献なんかも絡んでいるからね。トゥーリだけはその絶大な力が畏れられて称号を与えられたんだ」
ホントに生臭いな、権力って。
この世界の『聖女』って、そんなドロドロした政治の臭いがするモンなの?
「話が長くなったな。男爵連中の動きが鈍いのが気になるが、好都合だ。急いで帰って、伯爵に調査隊を組織してもらう。隊長はもちろんセイリューだ」
僕らは立ち上がり、ミオラと計都五拳の皆と共に、伯爵領帰還の準備をはじめるのであった。




