44話 修羅たちの饗宴! 人それを修羅場という
ともかく無事にヴィジャス達と合流した僕たち(合流した途端死闘になったけど)。
仲間内の話ということでミオラには席を外してもらい。
その場でシンの謝罪と帰参の願い。そして、この地でおきている出来事をヴィジャスに報告した。
「よくやったシン。ラドウを名乗る者の正体をあばくだけでなく、一連の事件の黒幕がここのイグザルト男爵らしいことまでつきとめるなんてね。君の帰参を願うには十分すぎる成果だ。レオニスター伯爵にもセイリューにもよく言っておこう」
「ははっ。どうか伯爵閣下、師匠にはよしなに」
とまぁ、まるく収まったわけだが、やはり納得していないのがシンに叩きのめされたリューヤ。
「ちっ命拾いしたなシン。だが忘れるな。貴様の帰参が許されようと、俺の貸しは消えていない。帰ったら俺との勝負、受けてもらう!」
リューヤってば、本当にチンピラケンカ屋気質だな。
死の淵にいたシンを蘇生させるのは本当に苦労したから、やめて欲しいのに。
シンは現代なら重症患者の療養観察期間の最中。
現代の医者だったら無理な運動は禁じてる。ましてやあんな激しすぎるバトルなんてもっての外………というかフル健康体でも死ぬぞ、あれは。
現代医者の常識なんて持っていると、本当に頭おかしくなる。
「………………おい、どうした貴様?」
リューヤの声にシンを見てみると、「ツー」と一筋の涙を流している?
「いない…………」
「はぁ?」
「お前らと同レベルのシンは、もういないんだ。リューヤ、おれとおまえの戦いは永遠に決着がついてしまった。おれはお前ごときに命をかけることはできない」
「は、はああああ!? 涙まで流して何を言っている!? 死にかけて腑抜けたのか、この腰抜けめ!!」
「おれにはな、女ができたんだよ。おれが死の淵から目覚めてみると裸。そして隣には裸になったアリエスが眠っていた。これが何を意味するか分かるな?」
「なにィィィッ!!!」×3
君の命はまだ危険ゾーンにいるというのに、何でそう、乱を招くようなことが言えるのかね。
だが悲しいかな、シンの言葉は死にぞこないの童貞ゆえの妄想ではない。
本当に僕はシンと裸で抱き合ってしまったのだ。
それはこういう訳だ。
僕は偽ラドウとの戦いあと、シンを治癒魔法で治そうとした。
だがその時の彼は重度の危篤状態。本当に手の施しようがなかった。
「ヤバイヤバイヤバイ! 脈拍も心臓も弱くなっていく! 体温は下がりっぱなし、呼吸も止まっちゃう! 僕のレベル1魔法じゃ限界だぁ!」
「だったら、レベルが低くても大きく効果の出る魔法の使い方を教える! それなら、もしかしたらシンを助けることが出来るかもしれない。【接触内燃魔法】というんだ」
ミオラから教わった方法とは、次のようなものだった。
通常の魔法は手から魔力を放出させることによって使う。
しかし放出はせず、魔法を魔力のまま体内に巡らせる。
これを【内燃魔法】という。魔力を身体向上に使う場合はこれにあたる。
それを患者と素肌で接触しながら行うことを【接触内燃魔法】だというのだ。
全身をめぐる魔力が接触者にも素肌から通っていき、広範囲に魔法をかけることができるらしい。
「……………………裸で……抱き合わなきゃなんないのか、シンと」
「アリエス。抵抗はあるかもしれないけど、今は…………!」
「いや、わかっている。治療のためなら、爺さんのケツの穴でもいじくりまわすのが医者だ。患者を前にためらう気はないよ」
と、いうわけでミオラから教わった方法をためしてみたのだが、その効果は劇的だった。
全身広範囲に小癒呪文で癒やせるだけでなく、火魔法で体温を上げ、水魔法で血液をめぐらせ、雷魔法で心臓を動かす。
それをほぼ同時に行えるのだ。まさに奇跡! 治療魔法の革命!!
そうして一晩必死に体を張ってシンを癒やし続けた結果、シンは奇跡の生還を果たしたというわけだ。
さて。一晩彼を癒やし続け、疲れて寝てしまった僕と、生還して目覚めたシン。
裸で抱き合ってる自分と僕を見て何を思ったかは…………まぁ見れば分かる。
分かりたくないけど。
「おいアリエス! コイツのたわ言は妄想だな? まさか真実とか言うんじゃないだろうな!」
え? なにこの質問? 浮気を問い詰められている彼女気分なんですけど。
「あ、その、裸で抱き合ったのは………真実です。でもそれは男女の関係とかじゃなくて、ミオラから教わった【接触内燃魔法】という治癒魔法治療であって……」
「ウッキイイイイイイ!!! 死ぃねぇええええシン! 地上に一片の肉片すら残さない!」
「フェイルー、だから治療行為だって!」
「やはり貴様には地獄がふさわしい! 死神のほほ笑む愚か者に生はない!」
「テメーの『俺らより先に女を作ったゼ』なドヤ顔が気に食わん。テメーは、きっちり死ぬべし!」
「もうヤメロぉ! 本当に違うんだって!」
ヤバい三人の拳法家の襲撃に、シンの前に体をはって手を広げる。
するとリューヤとフェイルーは僕が危いと見て、ガイを抑えにかかる。
ああ糞。バラしちゃって、どうすんだよシン?
この先ずっとこの修羅どもに命を狙われ続けるぞ!
ポン
ふいに背後から肩をたたかれる。
振り返ると、僕の苦悩も知らず「ニカッ」とすごく良い顔で笑うアホがいた。
キーーッ。
だいたい僕は女の子にモテてアイドルみたいなヒロインとイチャラヴするために異世界転生したってのに!
それが何で自分がアイドルみたいな女の子になって、ルドだのシンだの他の男にヒロインサービスするハメになってんの?
こんな理不尽な異世界転生あるかっ! 責任者何とかしろ!!
そこの猫のくせに上座で偉そうにしてるお前だよ、おいっ!!!
「それじゃアリエス、あとはまかせた。俺ちゃんはミオラ姫からもっと詳しい話を聞いてくるから」
と、ヴィジャスは僕を置いて行こうとする。この元凶がぁ!
「ヒイイイイイ待ってヴィジャス! 僕をこの”修羅の住まう土地”に置いていかないでえええ!!!」
「その”修羅の住まう土地”にミオラ姫をつれて来るわけにもいかないだろう? 君がいないとシンは殺されちゃうよ。まぁ彼女に”喋る山霊獣相手に詳しい話をさせる”ってのも難易度が高いし、正直いてほしいんだけどさ」
「だ、だったら僕の代わりにシンを守る人材を確保する!」
僕はさっきからずっと僕の側を離れないフェイルーに向いた。
「お願いだフェイルー。僕がいない間、シンを守ってくれ!」
「不可能です。わたしだってシンは殺したいのに。べ、別にアンタのことなんて、どうこう思ってなんかいないけどね!」
いや、僕ために我を忘れてシンを殺そうとまでして何言ってんの。
ツンデレめんど臭せー。
「もし僕が戻るまでにシンが五体満足で生きていたら、キスしてあげる」
「キ………キス?」
途端に真っ赤になる彼女。拳法使いの修羅でもこういう所はやっぱり可愛い。
「そう。どう?」
とうとう女を使って取引までしちゃったなぁ。女の子相手とはいえ。
「ふ、ふざけないで! わたしがそんな取引なんてするわけないでしょう! アンタに洗脳なんてされて恋なんてしてないんだからね!」
アラ、失敗した? 僕の女としてのプライドは深刻なダメージを受けた!
「でもそれに加えて、今夜いっしょに寝てくれるなら引き受けてもいい。シンとしたみたいに裸で」
レート上げてきやがった! この娘、チョロインじゃなかったよ!
「べ、別にアンタのことなんて、どうも思ってないけど! こんな危険な男達といっしょに寝るなんて怖いし! 心細いから仕方なくてアンタと寝てもらうの」
いやその男達と、死んでもおかしくないバトルを互角にしてた君が何言ってんの? 裸でなきゃいけない理由にもなってないし。
とはいえヴィジャスが戻るまで、こんな修羅どもの仲裁なんてしたくないしなぁ。
それに正直、この世界に来てからのこの陰謀劇の真相が何なのか知りたい気持ちもある。
「わかったよ、フェイルーも女の子だもんね。いっしょに寝よう。でも裸は寒いから今回はやめてほしいな」
「う、うん…………じゃあ、ただ一緒に寝てくれるだけでいい。体、キレイにしておくから」
頼んだぞベイビー。
そんなわけで僕とヴィジャスは、このイグザルト領のことを聞くためにミオラの元へ行ったのであった。
今回もご覧いただきありがとうございました。
よろしければ下の☆をタップして応援よろしくお願いします。




