42話 拳士バトルロイヤル勃発! そして魔拳はふたたび放たれる!!
「な、なんだ!?」
僕とシン、ミオラはあの後最初に来た村まで戻って、いずれ来るであろうリューヤを待っていた。
イグザルト領に来たなら最初に訪れるのはここだからね。
予想通り新たに来た三人の一行の中にリューヤがいたので、声をかけた。
だが何故か三人は疾風の速さで僕らに向かってきた!
その人間離れした速さ、殺気。まるで猛獣に襲われるよう!
「さがれアリエス、ミオラ!」
シンが僕らを突き飛ばす。
そして僕らが見たもの。
それは三つの影が空中で絡み合い、膨大な湯気が強風とともにまき散らされる様だった。
「ボシュウッ」という音とともに三人は空から降ってきて、地面におり立つ。
「ちぃっ、痛ぇじゃねえかよ!」
「何をするのですリューヤ!」
「こっちのセリフだ! フェイルー、貴様アリエスをねらったな! ガイ、貴様はアリエスをも巻き込んでヤバイ技を出そうとしただろう!」
あ、リューヤ僕を助けてくれたのか。
「邪魔しないでください。アリエス、殺しはしませんが鼻でも削っておもしろい顔になってもらいます。水泡拳・飛水青刃!」
ええっ何で!? こんな女の子に恨まれる覚えなんてないんだけど!
女の子は腕に水の刃をまとわせ、襲いかかってくる!
「アリエスは関係ないだろう! あたまクソになったかフェイルー!」
リューヤは彼女に向け風の刃を放つ。
それを彼女は見事な拳技で迎撃する。
「テメーら仲良く殺ってろ。んじゃ殺らせてもらうぜシン! 炎蓋拳・灼熱赤腕!」
赤髪の兄ちゃんの腕が禍々しく赤くなっていく。
「くっ、離れていろアリエス、ミオラ。あの腕に触れたら死ぬぞ!」
「ちょっと! 君はまだバトルなんてできる体じゃ…………」
「こっちの事情なんざ、相手はくんでくれないのが、この世界なんだよ!」
シンも腕から電気を出して赤髪の兄ちゃんへ向かっていく。
いったいどうなってんの!?
あの二人もリューヤと一緒に来たんだから、仲間じゃないの?
何でいきなりバトルロイヤルなんてことになってんだよ!
「なんだよ『味方が来るはずだ』なんて言ってたのに敵じゃん! とんだ敵地へわざわざ来ちまったじゃんかよう!」
「い、いや違うんだミオラ。あの風使いのリューヤだけは味方だから…………あ。シンにとっては敵だったっけ」
シンがリューヤをぶちのめして僕をさらった記憶が甦る
リューヤならシンを殺したいほど恨まないはずがないよな。
その辺も清算して謝るために来たはずだけど、まさか話もきかずに殺しに来るとは思わなかった。
しかもヤバイ拳法使いが増えているし、女の子にいたっては何故か僕をねらっているし。
「ぐふっ!」
ああ! 赤髪の兄ちゃんとぶつかり合ってたシンが崩れた。
やはり限界時間が短い!
「もらったぞシン!」
「やらせねぇよ。シンを処刑するのは俺だー!」
赤髪がトドメの一撃を放とうとした瞬間、リューヤが飛んできて蹴っ飛ばした。
ナイス、ライバルキャラ!
あ、水色髪の女の子を抑えていたリューヤが赤髪に行ったってことは…………!
「覚悟なさいアリエス!」
ユラリと水色髪の子が僕の前に立つ。
くそっ、僕が愛をこめて手入れしてきた、僕の嫁である僕の顔を害さんとする者は、誰であろうと許すわけにはいかない!
頭のツボを突き、脳神経を全開。
偽ラドウとの戦いで開発した脳の高速思考モードとなる!
女の子が洗練された動きで僕に手刀を繰り出すのが見えた。
女の子の拳は速いが、動きは見切った。この初撃はかわせる。
しかし二撃以降は見切れても体がついていかない。かわしきれない。
つまりこの初撃攻防の瞬間だけが、僕に与えられた勝機!
「許せ、名も知らぬ少女よ! 僕はふたたび罪を犯す!」
それは今回の事件の元ともなった忌まわしき拳。
シンを血迷わせ裏切り者の汚名を被せた暗黒の技。
この魔拳が放たれるとき、悲劇はまた生まれる!
「幻皇一目惚れ拳!!」
ピタリ
僕の指先が、手刀のカウンターで少女の額に当てられる。
彼女の手刀が切った僕の髪が舞う。少しばかり見切りが甘かった。
されどねらった部位に狂いはない。
指先から伸びた魔法針は正確に脳の報酬系の【復側被蓋野】を突いた。
いま、彼女の脳内はドーパミン大量分泌中。
見つめ合う僕と彼女。
やがて、みるみる彼女の顔が赤くなってゆく。
「な…………なに? なん……で……アンタなんかに、こんなにドキドキするの? 私、どうしたのぉ」
吸いこまれるように僕を潤んだ瞳で見つめる彼女。
完全に術中に陥ったことを確信する。
「許せ、君の心に偽りの恋を生んだことを。僕が君をとめるには、こうするしかなかったんだ」
「な、なによそれ。どういうこと? ハァハァ」
シンのときのような間違いはおかせない。
僕は彼女に、魔拳の効果で恋しているような状態になっていることを説明した。
「じゃ、じゃあアンタがかけた魔法のせいでこんなに苦しい気持ちになっているの? 許せない!」
女の子は「ガバッ」と僕に飛びかかり、僕を押し倒した。
そしてのぞき込むように僕の顔を見つめる。蕩けたような顔で。
「これは…………嘘の気持ちなの。アンタなんか……ぜんぜん好きじゃないんだからね……ハァハァ」
あれ? もしかしてヤバイくらいキマっちゃってる?
なんか完全に僕に見入っているし。
「どいて! あっちの方の戦いも止めないと」
僕は無理矢理女の子をはね除けて三人が戦っている方へ行った。
あれ? どうしたんだ三人とも。何故か戦闘をやめている。
リューヤと赤髪の男の子は憎々しげにシンを睨んでいる。
「三人の体に組み込んでいる術式回路に干渉し、魔法の発動を禁じた。山霊獣の体を通してだから時間がかかったけど」
と、足元にはいつの間にか言葉を話す猫のような動物の僕の師匠格がいた。
「ヴィジャス、君もいたのか。魔法を禁じたって、そんなこと出来たの?」
「計都五拳に魔法の術式回路を組み込んだのは俺ちゃんだからね。さて、アリエス。君がシンにさらわれてからどうなったのか聞かせてくれ」
「う、うん。ああ、あっちの子はミオラ。こっちに来てから知り合った娘だけど、このイグザルト領で起こっている出来事に深くからんでいる」
やれやれ、やっと当初の予定にはいれる。
味方と合流したってのに、なんでいきなりバトルロイヤルなんかしなきゃなんなかったんだ。
あと、背中で僕の裾をつかんで離さない彼女。
『説明すれば大丈夫。シンのときのような悲劇はおこらない』とか甘過ぎたか?




