41話 援軍到着! 最強パーティーでこの地にひそむ陰謀をあばけ!!
シンを追ってきたリューヤやヴィジャスがようやく到着しました。
あと新キャラのリューヤの同期が出ます。
今回はアリエスの師匠ヴィジャスの視点です。
ヴィジャスSide
昔の夢を見た。
【暁の牙鴉】が悪魔イヴァーズを倒した数日後。
俺ちゃんとセイリューは冒険者をやめて新しい仕事につくことにしたが、ラドウは病にもかかわらず冒険者を続ける決意をした。
その日、セイリューと共に彼の旅立ちを見送った時のことだ。
かわいた風がやけに染みる、とある朝だった。
「どうしても行くのかラドウ。悪魔を倒したことにより、俺ちゃん達は破格の力を手に入れた。だがアンタの病はどうにもならなかった。このまま冒険者を続けるなんて自殺行為だ」
できればラドウも冒険者はやめて病の治療に専念して欲しかった。
だが彼はそんな生き方を選択しなかった。いや、できなかった。
病でやつれても、その人好きのする笑顔はそのままで言った。
「悪いな。家が潰れて金のためにはじめた冒険者だがよ。どうやら思った以上に性分に合ってたみてえだ。あと、どれだけ生きられるか分からねえが最後までやるさ」
「………”家”か。たしか騎士の家柄だったのう。復興させる気はないのか? レオニスター伯爵も力になってくれるそうじゃぞ」
「ないね。サンタナ家はもう終わっている。今さら貴族になって復興なんてオレのガラじゃねぇさ。だがもしトゥーリがそれを望んだなら力になってやってくれ」
「…………それでどこで冒険者をやるんだい。あんまり危険な場所はやめてほしいな。トゥーリが泣く」
「東だ。あそこにある瘇気の濃い森の開拓事業で、冒険者を募集してるだろう。アレに参加する」
「一番危険なトコじゃん! 命知らずか自殺志願者しか参加しないって聞くよ!」
「オレの余生にはピッタリだろ。死ぬ前に歴史に残るような大物を狩ってやるぜ。さて、このまま長話してたら出るのが一日延びちまう。もういくぜ」
彼は大きな背中を俺ちゃんらに向けた。そして振り向かずに言った。
「あばよヴィジャス、セイリュー。もう逢うこともないだろう。【暁の牙鴉】。良いパーティーだった。最高だったぜ」
彼は歩く。歩きはじめる。
「達者での。体に気をつけるんじゃぞ」
「パーティー最初のクエストの獲物が牙鴉一羽だけだったんで、こんな名前にしたんだっけか。こんなに広まるんなら、もっとマシな名前にしときゃ良かったね」
「まぁな。だがオレにはピッタリだ。今、死にかけたカラスが一羽飛んで行くんだからな」
――――「二羽だよ、お兄ちゃん」
突然、横から可愛い声がして、彼は足を止めた。
そして声の方を見ると、やっぱり予想通りの彼女がいた。
【暁の牙鴉】の紅一点。年齢も俺ちゃんらよりだいぶ下なのに、治癒師として立派にパーティーに貢献した彼女。
ラドウの妹トゥーリだ。
彼女もまたラドウと同じく旅支度をしてそこに立っていた。
「トゥーリ? なんだよ、その恰好。まさか、お前………!」
「危ない場所へのクエストには腕の良い治癒師が不可欠でしょ。お兄ちゃんのケガを治すのは私の役目だからね」
――――――結局、あの娘も東の森の開拓事業に行ってしまった。
事業は成功し、今そこはイグザルト男爵領となった。
だがその後、ラドウから『開拓事業団を出て旅に出る』という手紙が来てそれっきりだったな。
おそらく死期が来たことを悟り、どこか一人で死ぬために旅立ったのだろう。
しかしトゥーリはどうしたんだろう。
生きていてくれれば良いが――――――
と、そこまで昔を思い出したとき、俺ちゃんの入っているリュックが開けられた。
意識が現在に引き戻された。
俺ちゃんはリューヤをはじめとするセイリューの弟子三人と共に、出奔したシンとさらわれたアリエスを追って馬でイグザルト領に向かった。
といっても俺ちゃんは山霊獣の体。リュックにつめられ荷物扱いで来たというわけだ。
「ヴィジャスさま。イグザルト領最初の村に着きました。さて、まずは何をいたしましょうか」
水色の髪をショートカットにした女の子が俺ちゃんをリュックから出して聞いてきた。
この娘は計都五拳のひとり。【計都水泡拳】の【フェイルー】だ。
幼い少女のような背格好だが、実際はリューヤとほぼ同じくらいの年齢だ。
この娘は生来高い魔力を持っているのだが、その魔力が成長を阻害しているらしいのだ。
「まずは聞き込みだな。最近ここに来た男女の二人組がいるか探すんだ」
「わかりました。リューヤ、ガイ。聞きましたか? ………聞いてませんね」
――――「ククク待ってろよシン。いま殺しに行くぞ」
リューヤはシンに叩きのめされたことがよっぽどトラウマだったのか、あれからやたらヤバイ雰囲気を出している。乗ってきた馬も怯えているし。
そんな彼を、やたら面白そうな目で見つめる赤毛で背の低い少年がひとり。
同じく計都五拳である【計都炎蓋拳】の【ガイ】だ。
「やめとけやめとけリューヤ。奴の処刑がはじまったら、俺にまかせてフェイルーのケツの後ろにでも隠れていろ」
性格は………まぁこういうことを言う奴だ。
リューヤとシン以上に好戦的で、リューヤとシン以上の問題児だ。
…………って、計都五拳って半分以上がヤバイ奴じゃないか!
「ガイ、奴に貸しがあるのは俺だ。奴の処刑人の役は譲れんぞ」
いやだから、どうしてシンを処刑することになっているのよ!
『まずは説得して連れ戻すことをこころみる』って俺ちゃんもセイリューも言ったよね!
「負け犬はおとなしくしておけ。貴様ごとき出しゃばろうとも、また一発でやられて上塗りだ。これ以上醜態をさらすマネをするならヤケドしてもらうが?」
「貴様………シンの前に殺されたいようだな。かかってこい。貴様の大道芸のような拳が通用するか教えてやる。命とひきかえにな」
ああ、またか。
口だけの罵り合いなら面倒なんで放っておく。この二人、道程の最中はいつもこんな調子だったので、もう疲れた。
しかし互いに構えをとって魔力を出し始めたとなれば放っておけない。
「フェイルー、悪いけどあのふたりを頼む。あとシンはいきなり殺すんじゃなく、まずは説得をこころみることも説明して」
「かしこまりましたヴィジャスさま。まったくケンカの強いオスガキは嫌ですわね。すぐ野蛮な手段をとろうとするんですから」
と、こんな厄介そうな役割も嫌な顔をせずに引き受けてくれる。
フェイルーは本当に良い娘だ。
俺ちゃんも昔はモンスターと戦う荒らくれ冒険者生活をしてきたけど、こういった男子はどうにも苦手だ。年をとったのかね。
フェイルーは濃密な闘気がただようふたりの間に臆せず割ってはいる。
「やめなさい、あなた達。私達はセイリュー様の元で共に拳を学んだ仲間。争いなど不毛です。シンのこともいきなり殺すのではなく、まずは仲間として話を聞きましょう」
うんうん、さすがはフェイルー。
計都五拳の良心だね。彼女がいてくれて本当に助かった。
「殺すべきは原因となったアリエスという女! シンを狂わせたふしだらな女に地獄をみせてさしあげましょう。計都五拳を割った報いを受けさせるのです!!」
ギャフン!!!
君も同レベルで野蛮だよ!
モテる女に嫉妬する頭のおかしい女みたいなこと言って恐いよ!
しかしマズイぞ。
いまアリエスとシンが見つかったら、血みどろの修羅場になってしまう。
とにかく二人を探しに出る前にこの子らを説得しないと――――――
――――「おーいリューヤぁ」
――――――?!!!
はるか遠くから聞き慣れた声がした。
そっちに目をやると、やはりそこには俺ちゃんの弟子のアリエスがこちらへ来るのが見えた!
しかも隣には問題のシンもいる!!
二人とも無事であっさり見つかったのは良かったが、今はマズイ!!!
「二人は見つかったが、君たち落ち着いて。まずは話を……………」
だがセイリューの弟子三人とも俺ちゃんの言葉なんて聞いちゃいなかった。
この言葉を発したときには、すでに全員二人に向かって駆けだしていたのだから。
「シィィィィーーンン!!!」×2
「男好きするクソ可愛い女! あなたがアリエスで間違いありませんね!!」
三人は猛獣のように飛び、いっせいに二人に襲いかかった。




