04話 整形美容スキルをゲットしました
さて、女性が可愛くなる方法は何といっても恋をすること。
これは医学的見地からも解明されていることである。
いま僕は恋なんてしていないが、というか男にまったく興味なんてないのだが、医学知識と小魔法で擬似的に恋愛状態にすることは可能だ。
恋愛をすると、脳の前頭眼窩皮質という部分が活性化し、HPAアクシスからいくつかのホルモンが分泌される。それらは総称として恋愛ホルモンと呼ばれており、それが女の子を可愛く発育させるのだ。
というわけで、僕は目の上にある目標部分に指先をあてる。
「快癒…………ぐっ!」
――――――ドクンッ
いきなりものスゴイ一目惚れをしたような錯覚におちいった。
胸がドキドキし、幸福感がとめどなく溢れてくる!
これはPHAが大量に分泌されているためか!
『お、おい! 大丈夫か!? なんか様子が変だぞ!』
「だ、大丈夫。うわあぁぁ! なんだかとっても恋したくなっちゃったぁぁ!」
いや、大丈夫じゃない! なんかすごく女っぽい気持ちになって高揚感がとまらない!
脳内麻薬は違法じゃないとはいえ、これはヤバイ!………あ、異世界だっけ。
ともかく脳から出てくるドーパミンをおさえるため、水魔法で手から水を出してそのまま頭にぶっかける。何度も何度もかけていくうちに、ようやく頭が冷えてきた。
「ふう。これはもうちょっと効力を弱めながらやらないとヤバイな。次は体の方をやるか」
『………もう一度いうけど、君ってすごいね。あのカタブツのアリエスがものすごく女っぽくなった。見たところ、君は人体の各器官の働きとか、かなり詳しいのかい?』
「ああ。医者だからな。なんだ。【賢者】とか名乗っているのに、臓器の働きとか知らないのか?」
『こっちの学術は魔法が中心だからねぇ。医療もどんな魔法が効果があるのかを研究するものだから、君のように各器官の働きを詳しく知ろうなんて奴はいないね』
意外な所で知識チートを見せた。
医学が魔法頼りでその程度なら、意外と僕の医学知識は活躍できるかもしれない。
『あーそれで、まだやるの?』
「当然! アリエス・アイドル化計画はいま発動した! 僕の理想のアイドルにクリソツになるまで改造は止まることはない!」
『とんでもないヤツをアリエスの体に宿らせちゃったなぁ。まぁ俺ちゃんも勉強になるんで止めないけど。アリエス、変なヤツに体いじくりまわさせてゴメン』
女性ホルモンをかなり分泌させたので、数日後には女らしい体型になっていることだろう。
なので、次はそれを格好良くするための筋肉。
理想のボデーにするためには、スタイルを維持するための適度な筋肉が必要不可欠だ。それがないと、女の体なんて無惨なブタだ。
なので筋トレ? 必要ないね。
筋肉が発達する仕組みとは、一度筋肉が破壊され、それが修復されるときより強い筋肉になるというものだ。
なので微細の雷魔法で筋肉を一度軽く断裂。それを快癒魔法で修復して、筋肉をつける。
腹筋、胸筋などを強化し、顔の筋肉もひきしめて小顔にする。
多少の切開もいれて、目を二重にしてパッチリしたものにする。
そんなこんな。整形の施術は専門外だが、聞きかじりの修正ポイントと超集中による精密魔法を駆使してアリエスの体を美少女へと変えていく。
――――そして数日後。
『ねぇ。そろそろ動いてくれないかな? いつまでも顔やら体やらいじってないでさ。俺ちゃん、アリエスを絶世の美少女にするために君を呼んだんじゃないんだけど』
「え? …………ああ、そういやアンタの代理人になって動くって話だったな。しかたない。まだ満足できないが、このくらいにしとくか」
『まだ満足しないの!? もう美貌がとんでもなくなって、さらわれないか心配になっちゃうんだけど!』
鏡の中にはまさに絶世の美少女が写っていた。
形のよい小顔の中に、くっきりとした二重まぶたのパッチリした目。整った鼻梁。つややかな髪。体の線は女の子らしくふくよかで、それでいて均整のとれたプロポーション。
当初は中学生くらいだった容姿が、今はもう高校生くらいに見える。
「フッ。僕の求める【究極ゴッドアイドル】にはまだ遠い。しかし考えてみれば、いくら僕の理想のアイドルみたいになってもつきあえるわけじゃないしなぁ」
『なんか目標がどんどんおかしくなっていくねぇ。元のアリエスの面影がほとんどないよ。どこの高級娼館のお嬢?』
む。僕好みのセクシーさは、こっちの世界じゃ商売女に見えてしまうのか。
「医者にこんな魔法を持たせてはいけないなぁ。医学知識と魔法技術がコラボレーションしては、人体をいくらでも変えることができてしまう。フハハハハ」
『ああ、とんでもない奴を連れてきちゃったよ。ともかく、言葉も一般知識も文字も魔法技術も問題ないレベルになったことだし、そろそろ俺ちゃんの窮状を伝えに出てくれ』
そうなのだ。まず僕は、この賢者?のヴィジャスが封印されていることをどこぞに伝えに行くことを頼まれたのだった。
「ああ、わかったよ。で、どこに行けばいいんだ?」
『俺の冒険者時代のスポンサーだったレオニスター伯爵だ。そこには俺の親友であり冒険者パーティーの仲間だった武闘家セイリューが仕えている。まずは彼をたずねてくれ』
このヴィジャスはかつて冒険者だったそうだ。その時にかつてない成果をあげたことにより、魔導師だった彼は【賢者】の称号を得たのだそうだ。
当然、彼のパーティーは伝説扱い。このヴィジャスも”最強”とかいわれたらしいが、この通り封印されたんだから、たいしたことない。
僕はヴィジャスのアドバイスを聞きながら外へ出る準備をする。
だが、アリエスの服を着ているときに困ったことがおこった。
「ヴィジャス、服がきつい。とくに胸と腰のあたりが」
『いきなり育ったからねぇ。アリエスの服はみんなそんなものだし。裁縫道具はあるから、それで着れるように直すしかないね』
なんと。素人の僕に服の直しをやらせるとは。
もっとも服の直しなんて、貴族や有力商人でもない限り普通に各家庭ごとにやることだそうだ。
どうやらこの世界は、女は昔みたいにいろんな技術を身につけなきゃいけないようだ。
まぁ幸い裁縫は縫合の訓練で慣れている。どうにか着れるよう直したのだが、やはり丈が足りないので、胸元は大きく開き、太ももも大きくさらすエッチなものになってしまった。
『容姿もあいまって魔導師の弟子に見えないねぇ。どっかの娼館の娘みたいだ。大丈夫かな。レオニスター卿はけっこう厳格な方だし』
愛人志願に突撃してきた娘とかに見える?
まさか僕が夢中になったことで、こんなピンチになるとは思ってもみなかった。とはいえ、これでやってみるしかない。
魔導師の弟子の証のマントをはおりながら、なんとなく疑問に思っていたことを猫になったヴィジャスに聞いてみる。
「なぁ。どうしてヴィジャズはこのアリエスに全属性の魔法を使用させようなんて思ったんだ? LV1しか使えなくなったのは結果論かもしれないけど、それでも無理をしてそんなことをする意味なんてないと思えるんだけど」
『うん、良い質問だ。複数の属性の魔法を使えるメリットは、それを組み合わせた【複合魔法】というものができることにある。風と炎を掛け合わせれば、より広範囲に燃やせる【炎嵐】とかおこせるしね。で、全属性八種の魔法をかけあわせるとだね…………』