36話 勝ち誇るには早すぎる! 悪党どもは賢者の弟子が始末する!!
「ヒャッハハー! さすがラドウさま! あんな素早い小僧を瞬殺だぁー!!」
「まったくラドウ様をニセ者扱いしやがって、バカ者がぁ。いいかぁ、あのお方の名はラドウ・サンタナ冒険卿!!」
「悪魔をブチ殺して絶大な力を手に入れた絶対無敵のラドウ様だあ!!」
三下どもはシンをつり上げているラドウのまわりでヒャッハー祭り。
くそっ。こういう時にはとりまきの方が調子にのるのはどこの世界でも同じだな。
『勝ち誇るには早すぎる! おまえたち悪党はこの賢者の弟子が全員始末してやる!』
――――――とか言えたらカッコイイんだけどなぁ。
無論、非力な僕にそんなことができるはずもなく。
それにしてもシンは生きているのか?
普通の人間ならショック死もありえるが、鍛えているあの体なら生きている可能性はかなり高いが。
そんな僕のまなざしにラドウは気がついた。
「んんー? なんだ女。コレが欲しいのか? ほうれプレゼントだ。くれてやる!」
「ブンッ」とシンをつりあげている腕をふり、「ドサリ」と僕の前にシンの体を落とした。
僕とミオラはすぐさまそれに飛びついてシンの診察をする。
「生きている! 呼吸、脈拍もたしかだ。シン、しっかりしろ」
「う………ぐっぐわぁぁぁ!」
だが軽傷にみえるのに、シンは異常に苦しんでいる。
「お、同じだ! あたしの冒険者仲間だったジュビアスたちも、こんな風に悼みに苦しみもだえて死んだんだ! こうなっちゃお終いなんだよ!」
そんなバカな。
たしかに素手でも人を絶命させる方法はあるが、こんな症状をおこさせるのは僕は知らない。
いったいシンは何をされたんだ?
僕はラドウに指で刺された脇腹をみてみる。
「なんだコレは…………?」
そこはアザになっていたが、その中心は黒い点になっていた。
それは医者の目からみてひどく不自然なものに思えた。
それをよく見ようとしたが、まわりのラドウの手下がよってきた。
「おーい、姉ちゃんよォ。そんな死人ほっといてオレたちといいことしようぜぇ。グフフ」
「ほら来いよ。テメーはオレたちがかわいがってやるからよぉ。素直にしてりゃ売り飛ばすのはカンベンしてやるぜぇ」
くそっ集中させて治療させろよ。
「行けません! シンを見捨ててなんて」
「なあにィ~行けませんだとぉ? そんなことをラドウ様が許すと思ったか!!」
グイッ
「痛たっ!」
ゴリラマッチョで顔面偏差値20以下の手下その1が僕の腕をつかんで強引にシンから引き離そうとする。
「いや、許す」
「はぁ?」
超意外! ラドウが阻んでくれた。
強キャラ特性の意外性か?
「その女にせいぜい無駄なあがきをさせてやるのも一興。その男の死をとめられぬおのれの無力さを思い知らせてやれ」
「ヘッヘイ! さすがラドウ様。高尚なご趣味なことで」
手下どもは明らかに不満そうながらも追従を言う。
そんなことより僕としたいことをしたいんだろうね。
「おい姉ちゃん、テメェの男の手当てを存分にさせてていただけるとよ! ラドウ様のやさしさに感謝するんだな」
誰が僕の男だ。
しかし感謝はするよ。この恩はあとで仇にして返してさしあげます。
とりあえずアザになっている部分に快癒魔法をかけてみる。
アザは消えたものの、黒点だけはそのままだ。
こんな小さな黒点でこれだけ苦しむのはおかしいくも思うが、これが原因としか思えない。
「燃やしてみるか」
指先から極細の火魔法を発する。
それを黒点にあててみる。
「うっ!? 熱が喰われる?」
黒点はまるで飲み込むかのように僕の魔法を吸い込む。
なるほど。やはりこれが死へ至らしめる原因ということか。
シンの苦しみはおそらく拒絶反応。たった一点のこの黒点の異常がこれほどの苦しみをもたらしているのだ。
だが、これには見覚えがある。
メギオやジャギルの弟の死んだあとに調べた肉体の性質にそっくりなのだ。
どちらもほとんどは程なく消滅したが、一部は魔素をあたえ続けることで今も存在している。
おそらく、これはあのラドウの細胞。
それを侵食させることで人間の細胞を破壊していく、といったところか。
ミオラの冒険者が三日後に死んだということから、活性化させる時期も操れるようだ。
「強さの正体は【魔人化】か。となると、やはりあの男は本物のラドウじゃない。しかし人間性をああも保ったままだとは。あいつの魔人化は相当のレベルだ」
とつぜん偽ラドウは「クックック」と嗤いだした。
「魔人になった伯爵の公子とジャギルの弟が伯爵領領都にて連続して撃破されたという報告があった。それには賢者ヴィジャスの弟子が関わっているともな。それはたいそうな美貌の女子だという。きさまがその賢者の弟子でまちがいないな」
なんてこった。僕の正体を探るためにシンの治療を許したのか。
「やはりおまえがジャギルとメギオの背後にいた黒幕か。なにが目的だ?」
「さぁてな。さて、お遊びはここまでだ。一緒にきてもらおう。それなりの自信作を壊されたトゥーリは貴様に興味津々だ。きっと良い実験台にしてくれるだろうよ」
「トゥーリ…………冒険卿の最後のひとりか。彼女のニセ者もいるのか。しかし実験台なんて御免こうむる!」
「ウワッハハハ! この状況でどうあらがう? たのみの貴様の男は死人だ。もはや貴様を守ることはできん! おいっ」
偽ラドウは鷹揚にまわりの手下に呼びかけた。
「へいっ。女は丁寧に運ばせていただきやす。傷つけずに女を運ぶのは、みんな得意でやすから」
手下は僕とミオラを囲みジリジリとよってくる。
「ヤ、ヤメロ! ラドウ、あたしの前でアリエスをさらうなんてっ!」
「公妹姫さまには悪いですが、その女は逃すわけにはいかないのですよ。不死身の魔人に対抗する手段は聞き出さねばならないのでなぁ」
「大丈夫だミオラ。シンの治療は完了した」
「えっ?」
突然、僕の下で伏していたシンがムクリとおきあがった。
「あっ嘘! あたしにも治癒師にもどうしようもなかったのに!」
「なんだと? 魔人の細胞をを処置なく植え付けられた人間は、なすすべなく死にいたるはず! それを救う方法などありえん!」
それがあるんだよ。この僕には。
あらゆるものを消滅させる八系統合成魔法【死極星】。
それを極小に発生させて、原因と思われる黒点を消滅させた。
「……………フッそうか。それがきさまの能力というわけか。だがオレにとってそいつは相手にならん。それに足元がフラついているぞ。甦ろうと死んだも同然」
偽ラドウの言う通り問題の魔人細胞は消滅させたとはいえ、死の淵から甦ったばかりのシンの体調は万全とは言い難い。
どうにかやっと立っているといった状態だし顔色も最悪だ。
それでも……………
「死んだ男は何度でも甦る」
シンの顔を見て僕は言った。
わずかの怯みもない戦士の顔だ。
「愛する者を守るためにね」
シンはちょっとだけ嬉しそうな顔をした。




