35話 冒険卿を名のる暴虐の男よ!! おまえは何者!?
ミオラの草取りクエストも終わり、その帰り道の途中。
シンはミオラにこのクエストで生まれたちょっとした疑問をたずねた。
「おまえの草取りは大したクエストだった。だが普段はどうしているんだ? あの瘇気の濃い場所には何度も立ち入っているようだが、まさかおまえ一人で行っているわけではあるまい。いつも使っている冒険者パーティはいるのか?」
何気ないシンの質問。
だが、これにミオラは悔しそうに顔を歪めた。
「みんな死んだよ」
「ええっ!?」
「ふん、何があった」
「領主のイグザルト男爵が、あたしのつくる【ハイ・メガ・ポーション】は領にとって重要なものだから、クエストの護衛はラドウの奴のパーティーに変えろって言ってきたんだよ」
ハイ・メガ・ポーション?
飲んだ人間だけじゃなく周囲にいる人間までまとめて効果がありそうな名称だ。
「もちろん領主様の命令だからって、あたしの冒険者パーティーに文句いわれる筋合いはない。そしたら…………」
「殺されたのか。だが領主とはいえ、領民にそのような前時代的な行為は問題になるはずだが?」
この世界は中世から脱却して、それなりに庶民の命も尊重する時代になっているようだ。
「わからない」
「暗殺か? だがその状況では、下手人は領主かラドウの手の者でまちがいないだろう」
「そうじゃない。みんなはそのことでラドウと揉めて、奴に指で体を突かれたんだ。すると三日後にその部分が痛みだして死んだ」
謎の暗殺法!?
まさか経絡のツボを突いて死にいたらしめる恐るべき暗殺拳か!?
「ふん…………アリエスの言う通り、たしかに事前に奴の話をきいて良かった。これはゴロツキを相手にするようなつもりでは危うい」
話しているうちに森を抜けて、その入り口までたどり着いた。
ここから町まではもう少しだ。
だが、そこには悪そうな冒険者の一団がたむろっていた。
そしてその真ん中にいるボス格の者は巨漢の大男。
身につけているものは簡素な鎧。
だが、なぜか頭部だけは黒いフルフェイス兜の重装備をしている。
その男を見てミオラは驚愕して叫んだ。
「うぐっ! ラ……ラドウ!!」
――――――あの男がラドウ!?
いきなりこんな場所で出会ってしまうとは!
本当にこの領を支配しているにふさわしい悪党のボスの貫禄がある。
「…………なんだい、アンタらもこの森にクエストかい。気をつけて行くんだね。あたしの仕事はもう終わった。帰らせてもらうよ」
そう言って通り過ぎようとしたミオラ。
しかし、まわりの手下が行くのをさえぎるようにとり囲む。
「おおっと、待ちなミオラさんよ。ラドウさんはわざわざアンタを待っていたんだぜ。この危険な森へのクエストに守ってやろうってな」
「あーあ。なのにその当のアンタが、どこの馬の骨とも知れないヤツラと組んで勝手に終わらすなんざ、どういう了見だい。ええ?」
「まったくラドウさんに待ちぼうけをくらわせるなんざ、大したタマだぜ。なぁミオラさんよ」
あいつら! あんな小さな女の子相手にオラついて!
でもそんな状況でもミオラは気丈だった。
「な、なんだよ。そうやって男爵はあたしを囲い込もうとしてんだろ。そんなのイヤだよ。それに何より…………」
ミオラはボスの大男ラドウをキッと睨みつける。
「ジュビアスたちを殺したアンタに守ってもらうなんざゴメンだ! アンタとクエストに行くくらいなら、ポーション屋を廃業した方がマシだよ!」
「クックック」と大男はわらう。
そして子供をあやすようにその罵倒にこたえる。
「いけませんなぁ。このラドウは、イグザルト男爵閣下よりミオフェリア公妹姫様の護衛をまかされております。姫のつくるハイ・メガ・ポーションは男爵家の秘宝。であるなら、その護衛も男爵閣下から特別の信認を得ている自分でなければ」
え、えーーーー!?
この子って、男爵の妹!?
本当の名前はそんなお姫様っぽいのだったの!?
「けっこうだよ。護衛ならもうこの二人をやとった。ハイ・メガ・ポーションの製作はちゃんとやるから、あたしのやり方に口を出さないでほしいな」
「フン…………おい、お前ら」
兜男は突然僕らに声をかけてきた。
なんか機嫌が悪そうでちょっと怖い。
「オレの名前をいってみろ」
え?
「オレは誰だときいている」
もしかして威圧されている?
「え、えーと…………ラドウ・サンタナ冒険卿殿?」
たしか姓の方はサンタナとかだったな。
ヴィジャスに教えてもらったけど、その辺はあんまり真面目にきいていなかったんで記憶に自信がないけど。
「の、ニセ者だろうな。顔なし野郎」
うしろのシンがとんでもないことを言った!
「シ、シン!?」
――――「ほぉ……………」
大男は低い声でただそう呟やいただけ。
それだけなのに、一気にあたりが剣呑な雰囲気になった。
「面白いことを言う。このオレがニセ者だと?」
「本物のラドウ・サンタナ冒険卿殿は十年前には重篤の病におかされていたという。その彼がいま、生きて居るはずがない。それにその兜。きさまはいつもそれを被り、素顔を人に見せたことがないらしいな。きさまが誰かは知らんが、ニセ者であることはまちがいあるまい」
「そうか。おまえ死にたいのか……」
ラドウを名乗るその大男は「ユラリ」とシンの前に進み出る。
それに怯みもせずシンは僕らをさがらせ構えをとる。
まさに一触即発の緊張感! 二人から濃密にただよってくる。
「この場であったのはちょうどいい。おれが正体をあばいてやろう」
「無礼打ちだ。おまえには三日生きることを許す必要もあるまい」
――――――!!?
やはりミオラの冒険者パーティーの人間を殺したのか!
「シン! バカやめろ! そいつと戦っちゃダメだぁー!!」
ミオラは震えながらも、叫んだ。
「フッ。コイツがただのかたり野郎でないことは分かる。だが、おれはこいつとの戦いは避けることはできん」
シンはラドウに目を逸らさずにこたえた。
その様子から奴を相当の強敵をみているようだ。
「冒険卿ラドウを名乗る者よ。いま、その素顔を見せてもらう。計都雷伯拳!」
シンは叫んだ瞬間、閃光とともにその場から消えた。
計都錬拳という拳法の体術に雷魔法を加えた【計都雷伯拳】。
その動きは人の目で追うことはできない。
それは正に雷神の化身!
その一瞬後、決着はついた。
――――「ああっ! シン!!」
閃光の晴れた場に見たその光景――――――
それはシンがラドウに指一本を脇腹に深々と突き刺され、掲げられている姿だった。
バカな! シンのあの雷光の動きを見切ったというのか!?
「フフフ………ファッハッハハハ!! ハァーーッハッハッハハ!!」
仕留めた獲物を高々とかかげ、ラドウの嘲笑はその場に響き渡った。
このあと主人公が怒りの反撃! とかやんなきゃなんないんだけど、どうしよ。
やっぱりTS主人公で北斗っぽい話をやるのは無理があるなぁ。
正統派ファンタジーをやろうとしてたのに、途中で北斗にメチャクチャはまって構成をみんな変えちゃったからなぁ。
なんてバカなことをしたんだ!
おかげで話をつくるのが大変でしょうがない。




