34話 薬草取りクエスト
ポーション作りの彼女の名前をキオラからミオラに直しました。なんか可愛くないので。
砕いた岩の前でシンは上機嫌。
「フフフどうだ。これを見れば、もはやクエストの心配など何ひとつあるまい。 フフフ。フハハハハ。フワァーハハハハハ!」
女の子にカッコイイところ見せられてハイになっている君が心配だよ!
身の危険すら感じるレベルだよ!!
女の子になって見ると、こういう男のバカがよく分かる!
「いやぁ、大したもんだ。こりゃ、拾いものだね。そんなに強いうえ、こんなすごい美人の彼女さんまでいるなんて、恵まれすぎだね。アンタ」
ミオラのやつ、シンにビビリもしないでやけにヨイショするなぁ。
コイツをあんまり調子にのらせないでほしいんだけど。
ほら、なんか「ニヤッ」っていやな感じで笑っている。
「フハハハ、そうだ、アリエスはおれの女だ」
「正気にもどれ! 僕はおまえにさらわれてきただけだ!」
「そしてアリエスよ。おれの女となったからには、いずれお前に町をプレゼントしよう。いや! 町だけではない。いずれは一国をもだ!」
「えええっ!? いらないよ、そんなの!」
「おまえは女王だ! おまえを女王にしてみせる。すべての人間がおまえの前でひれ伏す!」
ヤベェ。妄言がどんどん酷くなっていく。
どうすんだよコレ。
「いやぁ、こんなに愛されて幸せだねアリエス。とってもいい家庭をきずけそうだね」
どこがだぁぁぁっ!!!
とまぁ、とにかく僕らは高級ポーションの素材になる草をもとめて、危険なモンスターだらけの森へと冒険にでかけたのであった。
そしてシンは頭はアブない奴でも、クエストの護衛としてはかなり優秀な奴だった。
道中、ときどきモンスターの気配を察しては、
「ふん、いるな。ふたりともここで待っていろ。ヤツラの歓迎を受けてくる」
と言って果敢に一人でモンスターを排除しに行く。
そしてシンの行った先には激しいモンスターの咆吼と電撃の音が響きわたったのであった。
残された僕とミオラはガールズトーク。
「いやぁ、すごいねアンタの彼氏。本来このあたりまで足を踏み入れるには、5,6人程度のベテラン冒険者パーティーに護ってもらわないといけないんだけどね。それをたった一人でこなすなんて、どれだけだよ」
「言っとくけどね。僕はアイツの彼女なんかじゃなく、ただ、さらわれてきただけでね」
「ああ、その辺の事情はだいたい察しているよ。でも、あれだけ強いんなら本当に彼女になってもいいじゃないか。あんたみたいに男にはヤバイくらいの美人、ああいう男に護ってもらわなきゃやっていけないよ」
「なに言ってんだよ。そんな条件次第で恋人を選ぶとか! それじゃ、金持ちの権力者おやじに媚びを売る女とかわらないじゃないか。愛とか恋とかの要素はどこへいった!」
「アンタこそなに言ってんだい。恋愛なんて、それこそ余裕のある奴らのお遊びだろ。今日明日を生きるのに精一杯な女は、最適な相手を選ばないと死ぬよ」
ぐはっ! そういう女をビッチな糞女だと思う僕には、この世界の現実が突き刺さる。
「い、いや僕は別にそんな理由で恋人を作らなくても、働いて稼ぐだけの技術も場所もあるわけだし………」
「ま、アンタの人生だ。どうしようが勝手だけどね。すくなくともここにいる間はアイツに優しくして守ってもらいなよ。アンタはここらのケダモノ冒険者にはいい獲物だし。アイツ、アンタにゾッッコンだからはりきって守ってくれるよ」
………………たしかに貞操の危機はこれまで幾度となくあったし。
いつか切り抜けられなくなる時がくるなら、先に僕を守ってくれる男にでもあげた方がいいかも?
シンにセ○クスとかさせたら何でもしてくれるだろう。
それこそドレイ状態になって。
ほかならぬ同類の僕だから分かる。
僕だって僕を抱けるなら僕のドレイになったっていい!
鑑賞するだけなのは、もう嫌だ!!
「え……えええっ!? どうしたんだいアリエス、急に泣き出したりなんかして! ハッ、これが乙女の情緒不安定ってやつ? 自分にはそんな感傷なんてまるで無いから無神経なことを言っちまった?」
「やっぱりダメだ! 僕は僕だけのアイドルを自ら穢すことはできない! ミオラ、僕はあえて男たちの獣欲をくぐり抜ける綱渡りの道を選ぶよ」
「そ、そうかい。なんかアンタらにも複雑な事情がありそうだし。初対面で互いの深い所にはいるのはやめた方がいいね。もうこの話はヤメにしよう」
そ、そうだ! こんな話をするためにミオラの護衛を引き受けたんじゃないんだった。この領にあらわれた冒険卿ラドウのことを聞かないと。
「ね、ねぇミオラ。ところで最近、ここの領でダンジョンの悪魔を倒したっていう冒険卿がいるって話を聞いたんだけど。本当にいるの?」
するとミオラは露骨にイヤな顔をした。
「ああ、いるよ。まったく何が英雄だい。アイツのせいでこの領はゴロツキ冒険者だらけになっちまったんだよ」
ミオラの話によると、こうだ。
冒険卿ラドウを名乗るその大男は突然、この領にふらりとあらわれたらしい。
最初はいぶかしんだものの、危険度A級にも判別されるモンスターを単独で次々狩っていくその男に、皆すっかり畏怖してしまった。
そして、そいつはいつしか冒険者の間のボスとなっていき、冒険者はその下で無法な行いをしていくようになったのだという。
それをいさめなければならない立場のイグザルト男爵は、その強さにすっかり浸水し、それを黙認してしまっているため、この領は無法状態になってしまったのだという。
「でも、そいつって本当に冒険卿のラドウ様なのかな?」
「あん?」
「あ、いや、ラドウ様って昔、重い病にかかっていたって聞いたことがあるからさ。いま生きているのはおかしいなって思って。ひょっとしたら誰かがなりすましている可能性もあるんじゃないかな」
「そういう噂があったってのはきいているよ。でもアイツの強さは並じゃない。さっきも言ったろ。A級にも判別されるモンスターをも単独で狩っているって。あれを見せられちゃあ本物だって認めないわけにはいかないだろ」
「え? どうしてすごく強かったら本物の証明になるの?」
「あん? 何言ってんだい。冒険卿の四人は悪魔イヴァーズを倒したとき、なぜか飛躍的に強くなったってのが伝説じゃないか。それこそ人類の枠を超えるくらいに。A級モンスターを単独で狩れる人間なんて、そういった背景でもない限り存在するわけないだろう」
その冒険卿の近くにいたのに、ちっとも知らなかった。
みんなが冒険卿のことをやたらと畏怖していたのはそのためか。
それにしても『悪魔イヴァーズを討伐したら飛躍的に強くなった』とかってまさか。
それってレベルアップ?
ボスキャラ倒したんで大量に経験値がはいったとか?
この異世界はそういうゲーム設定とか無縁だと思っていたのに。
僕らは森のより深く暗い場所へとすすんでいく。
ちょっと帰り道が心配になるレベルまですすんでいる気がしたが、ミオラが方向を確認できる魔導具をもっているので大丈夫だという。
「フム、あのガキ。この道は何度も通っているな。木々に伐採のあとがあって、道になるようできている。採取する草の判別も早いし、そうとうなプロだ」
僕もミオラの仕事ぶりをみて、『薬草取り』というPRGゲーム序盤の資金稼ぎのようなイメージは完全に消えた。
やはりこの仕事にもプロはいる。
数多の草や花の中から有用なモノを判別できる知識と目がいる。
ゲームみたいに素人が資金稼ぎにできるようなモノじゃない。
ああいうのは『薬草取り』じゃなくて、『薬草取りの護衛』ってのになおした方が良いんじゃないか。
森のそうとう深い奥まった場所に来ると、シンは警告を言った。
「おいミオラ、これ以上進むのはまずい。この先は魔素の瘇気がひどい。頭がやられ、自分が何をしているのかさえわからなくなり、死ぬまで森をさまようような状態になってしまうぞ」
うえっ! ちょっと森の空気がキツくなってきたと思っていたけど、そんなにヤバな状態だったのか!
「ああ、わかっている。ここが最後だよ。ほら浄化石。魔素の瘇気を少しだけ清めてくれる。これを鼻にあてて待っててくれ」
ミオラは僕らに水色の小石を渡した。
そして自分はリュックから厚手の手袋、フルフェイスのマスクを取りだすと、それを身につけていく。
「なにその重装備。なにをするつもりなの?」
「これから猛毒のフッカスイ草を取りに行く。危険だから絶対アタシの後をついてきたりしないようにね」
「ど、毒!? なんでそんなモノを!?」
「ポーションの成分を濃縮する媒介に優れているんだ。他にも希釈すれば薬草の成分を高めたりする。扱いが厄介だけどなかなかに使える草だよ」
どこまでプロなんだよ、この子は!
しかしこの子をみているうち、薬草とかポーションに興味がでてきた。
そのうち、この子から薬草の知識とか学べないかな?
なにしろ僕の薬学知識は化学物質系だから、この世界では見事に役に立たない。
全滅だ。
魔法で医療器具とかなくても診察や手術ができるようになったとはいえ、それを補助する薬草の知識はぜったい欲しい。
カッコいい完全防毒装備を身につけ、果敢に毒の草をとりにいくミオラの後ろ姿を見ながら、そんなことを思った。




