33話 用心棒ならまかせろ! 人型の稲妻、巨石を砕き走る!
またタイトルを変えてしまいました。
さいきん情緒不安定で申しわけありません。
結局、ラドウの情報も聞けないまま無駄に目立っただけの僕ら。
僕らは逃げるように村をでると、今度はこのイグザルト男爵領の中心的な村へときた。いわゆる領都だ。
だが、そこもやはり掘っ立て小屋みたいな家がまばらにあるだけの、ただの辺境の集落だった。
「領都………ねぇ。ただの開拓村じゃないの? 文明らしいものなんて何ひとつない感じだけど。それにガラの悪そうな冒険者の割合がやたら多いよ」
伯爵領の領都は産業革命くらいの文化レベルだったのに、この村はいっきに中世に時代が戻ったような気がする。
「ここは命知らずの冒険者には絶好の稼ぎ場だからな。危険な魔物の素材は高値で売れるんだ。おれたちも行き場がなくなったら、ここで魔物でも狩ってくらすか」
「いや、僕は帰るから! 危険な魔物のいる田舎でくらすとか無理だから!」
「……………そうだな。悪かった」
シンはちょっとさみしそうに言った。
「だがさっきの連中を見ると、ラドウを名乗る奴はジャギルの件とは関係ないただのゴロツキのような気がする。面倒な調査などやめて、さっさと倒して終わりにするか」
「うーん、それも無警戒すぎる気がするな。せめて少しはラドウのことを聞いてからはじめるべきだと思うよ」
「誰に? ゴロツキ冒険者では答えは決まっているぞ」
「そうだね…………カタギの村人で事情通でも探そうか? でも時間がないし」
そんなときだ。僕より少し年下くらいの女の子が声をかけてきた。
「よう、あんたら見ない顔だけど旅人かい?」
きれいなオレンジの髪を三つ編みでまとめており、田舎の村人にしては整った理知的な顔をしている。
そして恰好は、でっかいリュックを背負い山歩き用の装備に皮鎧と、冒険者の出で立ちだ。
僕がその声に振り向くと、彼女はビックリした。
「うおっ。あんた、すごい美人さんだねぇ。でも、この村じゃよくない連中を引きつけるよ。せめて顔は隠しておきなよ」
「う、うん。ありがと。いろいろあってこんな辺境まで来ちゃったんだけど、どうしようかと思ってね」
「ワケありでふたり仲良く故郷から逃げてきちまったってワケか。ここは人のすむ境界の果て。そういう奴らはたまにくるよ。仕事がほしいなら、あたしが世話してやってもいいよ」
ああ、やっぱり駆け落ちにみえるのね。僕はさらわれてきたんだけど。
彼女は今度はシンに興味をひかれたようだった。
「そっちの男の方はずいぶんいい体してるね。強いのかい?」
「強いかといえば、無駄に強いけど」
「モンスターなんかと、そこそこ戦えるかい?」
「無論だ。それより、おまえは誰だ」
「おっと、名乗るのがおくれたね。あたしはポーション製作屋のミオラ。もしそっちの男がモンスターと戦えるんなら護衛を頼みたいんだ。素材の草をとりに森に行きたいんだけど、ちょっと命がヤバイ場所なんだよね」
「いや。せっかくだが、おれたちは…………」
「いいよ、引き受けよう。シン、ちょうど良いよ。仕事をしながらこの子にいろいろきいてみよう」
「む…………それもそうだな。いいだろう。森にいる間のおまえの命は保証してやる」
「ありがたいけど、仕事前に腕を見せてもらいたいな。冒険者は喰わせ物が多いからね。どの程度つよいかは知っておきたい」
やだ。この子ってばプロみたい。
本契約の前に性能チェックとか、デキル仕事人そのものだ。
「ふん面倒な。そうだな……………」
シンはぐるりと辺りを見回すと、悪そうな冒険者が十数人集まって何か話している場所に目をとめた。
「あそこにたむろっているゴミどもを全員半殺しにでもするか? できたら、おまえも安心しておれを雇えるだろう」
「安心わけないだろう!」×2
いくら悪そうにみえる奴らだからって、自分の強さをみせるためだけに半殺しとか!
なんで、それで僕らが安心できると思えるのだ!?
「つまんない理由でラドウの手下連中ともめるんじゃないよ! 常識ってものがないのかい!?」
「目立つことをしない! とにかく人気のない場所へ行こう。君じゃ、ただ腕前を見せるだけでも奴らを刺激しそうだ」
というわけで、僕らは村からはなれて郊外へと移動した。
そこは山のふもとで、そこら一面におおきな岩がある場所だった。
「ふん、ここなら壊すものを選ぶ必要もないな。では、おれの腕を存分に見せてやろう」
「据え物なんかいくら壊したって、モンスターと戦えるかはわからないけどね。いちおうの目安にはなるよ」
いや岩を破壊するって、かなり凄いことだと思うけど。
この子、かわいい年頃なのにキビしいね。
「フッそう煽られては、こちらも少しは本気を出したくなる。おいアリエス、銅貨を出せ」
「……………? 出したよ。どうするの?」
シンは人間の二倍ほどの大きさの岩の近くへ寄った。そしてその岩をポンポンと叩く。
「それを指で弾いて落とせ。その間にこの岩を破壊してやる」
「え、ええ!? まさかアンタ、それを銅貨が落ちる間にやるってのかい!? そんなバカな!」
「まぁ見ていろ。アリエス、やれ」
「う、うん。ほどほどにね」
言われたとおり僕は銅貨を指で弾く。
「ピーン」と音をたてて銅貨は高く宙に舞う。
ガガーーーン
瞬間、シンは眩しいほどに輝き、遅れて轟音が鳴り響いた。
―――「か、かみなり!?」
カツーーーン
銅貨が落ちた音で我にかえった。
そして目の前を見ると、あの大岩はコナゴナに砕けていくつもの小岩になっていた。
僕らはあまりにすごい光景に呆然となった。
「ま、魔法!? アイツ、あんな体格して魔法使いだったのかい!?」
「いや、雷の魔法で拳の威力を高めて岩を破壊したんだよ。いちおう職業は武闘家だよ」
「すごいねぇ。あんなことが出来るなら、どっかのお貴族様にかかえてもらえるんじゃないのかい? 腕のたつ奴は権力を守るのに必要だからね」
まいったな。シンのやつ、見せすぎだ。
腕前だけで貴族に抱えられていたことを予想されてしまう。
『ほどほどに』って言ったのに。
「ところでアイツは? どこに消えたんだい?」
僕はその言葉で、それを為したシンがその場にいないことに気がついた。
「あ、あれ? おーいシン?」
「ここだアリエス」
僕らの後ろの方から声がした。
そっちへ目をやると、シンはそこにいた。腕をくんでドヤ顔だ。
だが、その周りにはこちらと同じように小岩の塊が転がっていた。
――――まさか!?
「高く上げすぎだったな。だいぶ時間が余ったんで、もう一つやらせてもらったわ。フハハハ」
僕らは口をあんぐり開けて声も出ない。
どうやらシンの頭の中には『目立たない』とか『自重する』とかいう言葉はないようだ。




