32話 震えて眠れ悪党ども! 雷拳の裁きに慈悲はない!!
さて。僕とシンはとりあえず領境に一番近い村へときてみたのだが、やはりというか酷く寂れた村だった。
ほったて小屋みたいにみすぼらしい家がまばらに建っているだけの村で、うなだれた貧しそうな人々が、これまた元気なくそこらにいる。
レオニスター領都の貧民街に住む人達は、貧乏でも元気だけはあったのに。
「ひどいものだな。領主は何はなくとも、希望だけは領民にあたえるのが役目だ。が、ここの領主はそれすら出来んようだ」
「無能が上にいると、その下の者は不幸になるってことか。それはともかく、ここじゃ情報は聞けそうもないね。冒険者ギルドの場所を聞いたら出ようか」
「そうだな……………いや待て。すこしは話が聞けそうな奴らがいた」
「あれかぁ。ああいう獣欲強そうな野郎どもは僕の天敵なんだけど」
シンの見た方向には、数人の凶悪そうな顔とゴツイ体をした冒険者が凶悪そうな武器を持って集まっていた。
さらにそいつらは数人の貧相な村人を囲んで、
「オラ、まだ持っているんだろ? さっさと出せよ。これだけじゃ話になんねぇんだよ」
「おおお許しください。もうこれ以上は本当にないんですぅぅ」
「ヒャッハハハー、じゃあしょうがねぇな。てめぇンとこのブス娘でも売りにだすとするか!」
などとやっている。
うーん、冒険者じゃなくて押し込み強盗じゃないかなぁ。
まぁ、よくある『地方の独自ルール』ってやつだろうが。
見た以上しかたない。聞き込みのついでに助けてやるか。
「それじゃシン、先に僕だけで連中と話してくる。頃合いになったら来てくれ」
「フッ。みずから餌の役を買う、か。ますます気に入った」
あんまり気に入らないでくれ。背中が寒くなる。
「おいハゲヤロウ共。バカ面さげて道の真ん中で集まっているんじゃぁない、僕が通れないじゃないか。ついでにその人らもはなしてやれ」
すこし怒らせた方が効果的かと思って、こんな登場の仕方をした。
だが、チンピラ冒険者共は僕を見るなり、
「ウッヒョーオ! こんなしみったれた村に信じられねぇ美人がいるぜぇー」
「やっべえ! オレ、チ○コがいまからおさまんねぇ! 夜が待ちきれねぇぜ!」
「おいおいー、アニキらの順番待ちだろ。今夜まわってくるとは限らねぇぞ」
とか、頭の悪い会話をしている。
うん、セリフなんてまったく関係なかったね。
連中が僕を囲むと、村人達は一目散に逃げてしまった。
なのにチンピラどもは気にした様子もない。
ま、このへんも予定通り。
と、その中でまとめ役みたいな奴が妙なことを言ってきた。
「おい、姉ちゃん。このお方をどなたと心得る! このお方の名を言ってみろぉ!」
と、一際デカいより凶悪そうな大男をさして聞いてきた。
え? もしかして、この凶悪そうなおじさん、有名人?
そう思ってよーく見てみる。
そいつは僕に見つめられると偉そうにふんぞり返る。
が、当然、名前など分かるはずもない。
「フハハどーした。さぁ言ってみろぉ。まさか分からねぇ、なんてことはないよなぁ?」
「も、もちろん分かる! 『ちぢれ毛陰毛あたま!』」
ギロリッ
「ああ? 女ぁ、いい度胸だなぁ? 兄貴が気にしている頭髪のことをぉ!!」
ヒィィッ つい見た目通りのことを言ってしまったぁ!
「いいかぁ、よく聞けえ! あのお方こそ、史上はじめて悪魔討伐をなした四人の冒険卿のひとり! ラドウさま!」
えええっ!! あいつがラドウを名乗る奴?
見た目、力だけのバカっぽくて高度な魔法なんて使えそうもないし。
とてもあのジャギルを従えさせるような奴には見えない。
こりゃあハズレか?
「の側近のひとりゴドラムさま配下の軍団長を務める豪腕プゾリさまだぁぁぁ!!」
「……………………だいぶ遠いね。つまりそのお方も含めて、あんた方はラドウさまの下っぱってことでいいの?」
「なんだ、きさまぁ! もういっぺん言ってみろぉ!」
ちぢれ毛が動き、グイッと僕を引き寄せて怖い顔を間近に寄せる。
ヒィィィッ 怖い!
「きさまにはアジトでここの流儀ををたっぷりと教えてやる! 『力こそ正義』それがここの掟だ! 舐めた口のきき方を後悔するがいいわぁハハハ!」
その時だ。シンが音もなくちぢれ毛に近寄ると、僕を引き寄せている太い丸太のような腕を軽く握った。
ビリリッ
「えああっ!?」
一瞬、電流がはしり、ちぢれ毛は腕が硬直して僕をはなした。
「ドサリッ」と地面に尻もちをついた僕の前に、護り立ちはだかるようにシンは立つ。
「『力こそが正義』いい場所だな、ここは。強者はきさまらのようなチンピラであろうとも、貴族のように振るまうことが出来るというわけか」
「なんだぁテメェは! おれ達に刃向かうことは、ラドウさまに刃向かうことだぞ。わかってんのかテメェ!」
「では、そのラドウを連れてこい。ニセ者の正体を暴いてやる」
シンはポキポキ指をならして戦闘やる気まんまん。
調査はどうした。
まさか世紀末流儀で、下っぱからボスまで殴り倒していくつもりか?
「な、なにいこの身のほど知らずが! 貴様ごとき、このプゾリさまが処刑してくれるわ!」
ちぢれ毛は手下に持たせているでかい斧を掴むと、「ブゥゥゥン」と猛烈な勢いで振り回しはじめた。
あんな二人がかりでしか運べないような斧を振り回すとは、すごい怪力だ。
「フハハハ死ぃねぇぇぇ!」
ちぢれ毛はそこから一歩も動かない棒立ちのシンに向かって斧を振り下ろす!
バキャァァッ
巨大な質量が激突したような音が響いたその後には――――――
「もろい武器だ。こんなものを振り回して遊んでいるのがきさまの武か?」
なんと斧は柄から先が粉々になって壊れていた。
もちろんシンが拳でやったのだが、本当に一瞬で破壊してしまった。
「………なっなっなっ、なあああんだとっ!?」
「殺しはせん。とりあえずお前らからラドウの情報をいただいてやる」
ユラリ
シンは流れるような動きをとる。
使う魔法は風に対し雷と違うが、やはり動きはリューヤに似ている。
と、裂帛の気合いを吐く。
「計都雷伯拳 紫電雷歩!!!」
その途端シンはとんでもない速さで動き、その場のチンピラ冒険者全員に拳を一発ずつ喰らわせる。
かろうじて目で追えたが、その速さは正に迅雷だ。
そしてシンの拳を喰らったチンピラは人形のように「ゴロン」と転がる。
「フッ。さて情報をもらおうか。おい、おきろ」
シンはボスのちぢれ毛の頭を軽く蹴っとばす。
が、そいつはピクリとも動かず起きる様子がない。
「……………ちっ! 見かけよりずっとヤワな野郎だった。おれの雷拳は加減をまちがえると当分は目を覚まさん。こいつからの情報はあきらめるしかない」
いやはや、なんとも危険な人間兵器野郎だ。
こいつの愛から逃げるのは大変だなぁ。




