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TS賢者の弟子転生アリエス  作者: 空也真朋
第二章 風雲竜虎! 忍び寄る宿命!!
31/58

31話 あえて帰還を拒む! ただ罪深き男のために

 シンと馬にタンデムで駆けに駆けて一昼夜。

 その間シンの荒っぽい乗馬で、僕は振り落とされないよう必死に奴にしがみついた。おかげで奴の背中にたっぷり僕の胸の感触を味あわせてしまったよ。クソ。

 僕も大変だったが、僕らを乗せた馬くんも大変だったらしくバテてしまい、今は領都よりはるか離れたド田舎の川原で休みながら馬くんに川の水を飲ませている所だ。

 この川は僕の居たレオニスター伯爵領と隣領の【イグザルト男爵領】という領地の境となっている。

 このイグザルト男爵家。とても貧乏で領の治安を守る衛兵すら満足に揃えられないのに、ここには伯爵領より強いモンスターが出現するそうだ。

 なのでそれを狩ってくれる冒険者には法が甘い所があり、無法者の冒険者のたまり場になっているらしい。噂では犯罪を犯して自領から逃げてきた冒険者までいるとかいうヤバイ場所だ。


 さて。この一面、山と川と森しかないド田舎にまで、悪辣なる拳法家にさらわれてしまった僕。

 その悪辣なる誘拐魔のシンはというと――――――


 「あー、何でおれはこんなことをしてしまったんだぁ!?」


 ――――と、頭をかかえて蹲っていじけています。

 いわゆる賢者タイムだ。衝動的に一目惚れした女を拐かしてしまったものの、時間がたって自分のやらかしたことの重さに悩みまくっているのだ。 

 しかし、これに関しては完全に僕のせいだと言わざるを得ない。

 ドーパミンが大量に分泌された脳は完全に感情(エモーション)に支配されてしまい、理性的に考えることが出来なくなってしまうのだ。つまり、衝動犯罪とか犯す状態だ。

 つい開発した魔拳を試してみたくなり、そこらのチンピラ感覚で実験をしてしまい、一人の若者の人生を狂わせてしまった。人間失格!

 しかし医者の知識、技術をついノリで悪用して事件をおこしてしまうとか、僕ってもしかして医者に向いていなかったのだろうか?

 とにかく、やってしまったものはしょうがない。全力で何とかしよう。

 僕は頭をかかえているシンの横に並んで座った。

 医療カウンセリングの講義を思い出し、彼を刺激しないように話しかける。


 「シン。後悔しているなら、もどってみんなに謝らないか? 僕も君のことを出来る限り弁護するつもりだ」


 「恨んでないのか? おれはお前をこんな所にまで拐ってしまって………」


 「うらんでない。………いやルドを殺そうとしたことだけは別だけど、それでも君が反省するというのなら、できる限り手を貸すつもりだ(自分のせいだし)」


 シンは眩しいものを見るように僕をみて、さびしそうに笑った。


 「ありがとう。だが、戻ればおれはおそらく助からん。死を賜るだろう」


 「えええっ!?」


 「だが、すべてはおれの自業自得だ。これ以上、君を苦しめるわけにはいかん。戻るとしよう」


 「い、いやでも君は戻ったら死ぬとか! 拐かされた僕が弁護してもダメなの!?」


 「ダメだな。おれのやらかした罪はそれほど重い。だが感謝している。お前は、血に飢えた狼のように乱を求め、荒野をさすらうおれの心にぬくもりをくれた」


 『女に飢えた童貞が嫁を求め非モテの荒野をさすらう』だろう。

 あ、いやカッコつけている非モテ野郎につっこんでいる場合じゃない!

 はあぁぁ!! 僕のせいでこの【女誘拐金髪(パツキン)クソ野郎】の尊い命がぁ!!


 「だ、ダメだ! どうにかできないのか!? せめて君の命が助かるような!」


 「………………アリエス?」


 「君に……………死んでほしくないんだ」


 ポロリ

 おもわず涙がでた。


 「アリエス…………………おれのために泣いてくれるのか。こんな罪深いおれのために」


 いや、罪深いのは僕。

 泣いたのは、悪女と悪魔医者の両方をやって一人の若者の命を奪いかけている自分のため。

 でもシンは僕の心の中も知らず、ちょっと嬉しそうな顔をした。


 「一つだけ可能性はある。じつはこの【イグザルト男爵領】には、冒険卿のひとりラドウを名乗る者があらわれたのだ」


 「ええっ!?」


 「これから本格的に伯爵家がそいつの調査をいれる予定だ。だが、それに先んじておれが正体を暴けば、手みやげになるかもしれん」


 なるほど。詫びには手みやげがつきもの。

 そいつの正体がジャギルの背後にいた黒幕なら、手みやげには十分すぎる。


 「よし。だったら伯爵家の調査が来る前に、そのラドウをつかまえて正体を暴こう! 僕も協力する」


 「フッ。わざわざ自分をさらった男のために手を貸すか。いいのか。このまま帰れば、お前は余計な苦労は背負わず元の生活に戻れるというのに」


 「君が死んで元の生活なんかに戻れやしない。女の細腕だけど、いくらでも苦労してやるし手伝うよ」


 小心者なんで罪悪感に押しつぶされそうなんです。

 僕は握手をしようと右手を出した。


 「フッ、いいだろう」


 シンはニカッと子供のような笑顔をした。そして僕の右手を握る。

 と、グイッと僕の体を引っ張りあげ、そのまま自分の両腕にのせた。

 えええええっ! お姫様抱っこされたぁ!?


 「行こう。俺達の安住の地を求めて」


 ――――――――!!!?

 いつの間にか目的が変わっているぞ!!

 

 「はなせー! ちがうだろ! なんで『許されない恋人同士』みたいになってんだーー!!」


 とにかく、僕らはシンの命のかかったラドウの調査をはじめたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] アリエスが一言自分の所為といえば、済むんじゃない? もっともアリエスはそこまで自白する気はなさそうだけど。
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