29話 狂乱の雷拳! シンよ、天に乱を呼ぶ離反者はおまえだったのか!?
「なにをしている、シン!? アリエスの腕を放せ!」
だがシンはリューヤを無視して僕の腕を引き、そのまま抱き寄せた!?
あ、コイツの体、静電気がすごい。なんかピリピリする。
「あ、あーー!! 何やってんだよ、テメー!!!」
ルドはわめくも、シンはそれも無視し僕を抱く腕に力をこめながら言った。
「フ……フフフッ。リューヤよ、よぉーく聞け。おれは今からアリエスを連れて逃げる! アリエスこそおれの運命の女だ!」
最悪な運命の予感!!
まさか、さっき聞いた『予言』って、コレだったのぉ!?
「離反するというのか!? よせ! 『計都五拳の一角が崩れるとき、世界は乱れ、王国は揺れ、崩壊の危機がせまる』というチャフ婆さまの予言を忘れたか!」
「そんな老いぼれの戯言など、とうに忘れたわ!!」
「寝ぼけるな! 今さっき、きさま自身が持ってきた話だろう。そして、おまえはその調査にきたはずだ!」
「うるさい! おれはすべてを捨てる。この運命とであった今………」
「あっ」
シンは僕を離し拳法の構えをとった。
「アリエスはおれがもらうぞ!!」
そして、もの凄いスピードでリューヤに襲いかかる!
「シン、きさま!!」
反射的にリューヤも迎撃態勢をとる。
ふたつの疾風は交差する。
「雷伯拳 真雲黄光衝!!」
――――――落雷?!!!
交差した一瞬、光ったように見えた。
おくれて「バリバリィッ」と、電撃の音が響いた。
「うああああああ!!!」
リューヤは焦げたような臭いをしてその場に倒れた。
まるで落雷にうたれたようだ。
これが【計都雷伯拳】!?
「ぐうっ……シン、きさま計都の拳を……! そこまで本気か!?」
「そうだ、おれは本気だ。それを見抜けなかったのが貴様の敗因だ。リューヤ、アリエスはもらっていくぞ」
シンはふたたび僕の所へくると、グイッと腕をつかむ。
「いたたっ」
拳法家の腕力は女の子の体にやさしくないなぁ。
強引に引かれ、連れていかれそうになる僕。
だが、それに『待った』をかける者がいた。ルドだ。
「待て! この誘拐野郎。アリエスは渡さねぇ。おいらが相手だ!」
「フッ小僧。見ての通りおれは本気だ。死にたくなければ蛮勇はやめるんだな」
「やめるか! ここで自分の身惜しさにアリエスを見殺しにするくらいなら、男なんてやめてやるよ!」
ルドは剣を抜き、まっすぐにシンに斬りかかる。
「道理だ。では、相手をしてやろう!」
シンはあっさりルドの斬撃を流し、その腹に掌底をたたきこむ。
そしてまたしても「バリバリィィッ」と雷撃の音が聞こえた。
「速いな。しかし速いだけで計都の拳士を…………むッ?」
必殺の一撃をくらったにも関わらず、ルドはなおも斬撃を放つ。
シンはそれを大きくかわし距離をとった。
「なんだ、その鎧は? おれの雷拳がまるで通らん」
「へっ、これはミスリル製だぜ。どんなに鋭かろうと、人間の打撃や魔法が通るシロモノじゃねぇ!」
「貧乏くさい顔に似合わないものを身につけているな。一流の冒険者が、その稼いだ財をつぎこんで手にいれるものだぞ。たしかにそれには、おれの拳は通らん」
「ってことだ! かなわなかろうと、いつまでもアリエスの壁になってやる!」
ルドは僕の前に立ち『守り』のかまえをとる。
「だが、硬いだけで計都の拳から逃れることはできん。こういう技もある!」
シンは疾風の動きでルドの懐にはいり、小さく掌底をくりだし体にあてていく。
なんだ? ジャブか?
あんなもの、ミスリルの鎧に通用するはずが…………いや!?
「ぐっ!? がっ! あぐっ!?」
効いている? シンの拳があたるたびにルドは苦しそうに呻いている!
「フッフッフ浸透掌だ。いかに硬かろうと、振動まで完全に消すことはできん。それを一点集中で発生させ、ダメージをあたえる技だ。このままジワジワ潰してやるわ!」
「ぐっ、がっ、あぎっ、ぐはっ、ああぐっ!」
「フッフッフ、何発目に死ぬかなー?」
シンの掌底が突き刺さるたびにルドは苦しそうに呻き、顔色がどんどん土気色になっていく。
あの顔色はヤバイ! おそらく内臓に機能障害がおきている。
このままじゃルドが死んでしまう!
僕は思わずこのDQN野郎の背中にとびついた。
「ま、まて! もうやめてくれ。ルドを許してやってくれ!」
くらえ必殺の女の武器! おっぱいグリグリ!
効いたのか、シンはルドをいたぶるのをやめた。
「フッ、アリエスよ。では、この小僧を許すかわりに、おまえはどうする? おれの心を動かすためにおまえは何をする?」
ああ、またか。いいさ言ってやるよ糞野郎。二度目だしな。
「シン、あなたを愛します!! 一生どこへでもついて行きます!!」
おまえの一生なんて、どうせ短いだろうがな。
「フフフ、ウワァッハハハハ! わかっているではないか。想像以上の答えだ。ではついてこい」
言われるままに僕は糞野郎と馬に乗り、背中にしがみつく。
「くうっシン、きさまぁ!」
「や、やめろアリエス。行くなぁッ!」
意識はあっても、起き上がれないふたりはかなり危ない。
手当てをしたいけど……やっぱダメだよね。
「フフフではな。リューヤ、師父にはよろしく伝えておいてくれ」
「リューヤ、ルド。じゃあね。ちょっと行ってくる」
あーコイツの近くにいると静電気で髪がグチャグチャだわ。
この体質じゃ、今までまったく女にモテなかったんだろうな。
「行くぞ! ハイッ!」
僕らを乗せた馬は猛スピードで走りだした。
「アリエース!!」「うおおお!!」
背中からは、二人の僕の名を呼ぶ声がいつまでも聞こえていた。




