28話 魔拳は波乱を呼ぶ! おまえはもう惚れている!!
タイトルはCV.神谷明さんのテンションあがる叫びで脳内再生してください。
次回予告やっていたCV.千葉繁さんでも良。
と、いうわけで僕とシンの手合わせ。
僕もリューヤの修行で、それなりに剣の使い方や体の運び方を学んだのだ。
「僕のすばやい剣をかわせるかぁぁ!」
ビュンッ ビュンッ
「おっ、たしかに思ったより鋭い。当てる技術が未熟だから当たらないがな」
だがやはり、シンはまるで余裕で僕の振り回す剣をヒョイヒョイ紙一重でかわす。でも攻撃はしてこないで、本当にただかわすだけだ。
意外と紳士な野郎に、ちょっとだけ好感度アップ。
しかし本当に当たらない。鞘をはめたままだから剣がちょっと重いとはいえ、ここまで圧倒的だとは。さすがはリューヤの同門、すごい体術だよ。
でも避けられるとき、鼻からスンスンした音が聞こえてくる?
………………はっ!! コイツ汗のニオイとか嗅いでいる!?
女の子はそれ嗅がれるのはイヤなんだよ!!
やっぱり好感度爆下げだぁ!!!
まぁ、それはともかく。
僕の剣術が通用しないなんて想定内の予想通り。
僕は冷静に獲物を観察して時を待っているのだ。
観るのは動きではなく反応。
単純な展開のくり返しに、シンはかなり気が緩んでいる様子だ。
―――そろそろ仕掛ける!
「くっ、なんて素早いんだ! でも絶対あててやる。てぇい!!」
僕は剣を振りかぶり、大きく駆けだそうとタメをつくる。
「あっ!」
だがバランスを崩してしまい、フラリとよろける(というフリ)。
「お、おいっ危ない!」
シンは反射的に僕をささえようと駆け寄ってくる。
――――かかった!
剣をポイッと捨てて、無防備なシンの額、こめかみに必殺の人差し指!
「あたあっ!!」
寸分違わずピタリあてる。
その瞬間、シンはグラリと体が揺れる。
「うお? ああああ?」
ガクンッと膝が崩れ、バタリ大地に倒れた。
そしてそのまま気を失ってしまった。
「フフフ我が拳は悪女の拳。迂闊にやさしさなどを見せたら、こうなるのだよ」
いやー純情モテない君だった僕も、すっかり悪女のマネなんかできるようになっちゃったね。美人は恐いよ。
見物していたリューヤとルドがこっちへ来た。
「たいしたものだな。まさか本当に倒してしまうとは」
「うーんアリエスって強いのか? 動きはおいらが上だと思うけど、一発があたると凄えな」
リューヤは完全に意識を失っているシンを見て、不可解といった顔をしている。
「しかしシンもそれなりの功夫は身につけている。手刀一発で昏倒するようなことはないはずだ。いったい何をしたんだ?」
「脳のある機能を瞬間的に乱したのさ。僕は指先から微弱な雷魔法でつくった電気の針【魔法針】を出せる。それで頭を突いたら、どんな屈強な奴でもこんなふうに昏倒させることができるんだ」
「シンにはいい気味だが、計都の拳士がこうも簡単に眠らされてしまうとはな。少し複雑だ。もしかしたら、おまえは強くなどならない方がいいかもしれん」
「え? もう修行はやめなの?」
「そうではない。俺の考えている戦士のような形ではなく、おまえの長所を伸ばすようなものにするべきか、と思う。まぁその辺は考えておこう。今日の修行はもう終わりとしよう」
「ブッ倒れたコイツはどうすんだ?」
ルドはシンの体をつま先でツンツンとつっつく。
「立場的に放っておくこともできんからな。街に戻って、どこかで寝かせてやろう」
「ルド。君のお母さんの働く酒場でいいかな? そこの寝室に寝かせて、手のあいているお姉さんにみてもらおう」
僕は大事ないかシンの顔色を診察しながら聞いた。
「ああヤリ部屋か? 眠った若い男なんかみせたら姉さん達、イタズラしちまうと思うが。………まぁいいか」
――――――ククククそれが狙いよ!
我が拳の恐ろしさは、目覚めたときにこそはじまるのだ!!
僕が【魔法針】を突いて活性化させたのは、脳の「報酬系」と呼ばれる復側被蓋野。
ここが刺激されると、ドーパミンという脳内麻薬を出す。
で、突然の快楽と多幸感におそわれ、シンは気絶したのだが。
じつはこの技を使ったのは初めてではない。
初めてこの街にきたときに襲われたチンピラにも使ったのだが、彼のその後に興味深いことがおこった。
彼が目覚めたとき、彼の衣服を剥ぎ盗っていた貧民街のオバちゃんにゾッコン惚れてしまい、今現在、彼女にいろいろ貢いでいるのだという。
そこで僕は【恋】とは、脳がどうなっているのかを思い出した。
異性を見たとき…………いや異性とはかぎらないが、脳が快楽物質である大量のドーパミンを出し、それが感情に働きかけた状態のことを恋という。
そして現在、奴の脳は大量のドーパミンが分泌されている状態。
その状態で目を覚ますとどうなるか?
快楽に酔った脳は、はじめに見た者を強く恋したと認識してしまう。
要するに最初に見た人物にメロメロに恋してしまうのだ!!
名付けて魔拳【幻皇一目惚れ拳】!
さあシンよ。どこかのオバちゃん娼婦にハマッって貢ぎまくるがいいわ!
フッ………フハハハハ………ファーハハ! ハァーーハハハハハ!!!
パチリ
…………………………ハ?
バババ、バカな! シンがもう目を覚ました!?
「……………う? あっ………」
「おっシン、起きたか。きさまも修行が足りんな。せいぜい励むがいい」
いやリューヤ、そんな暢気なことを言っている場合じゃないんだよ!
マ、マ、マ、マズイ!!
いま、ちょうど僕はシンの顔をのぞきこんでいる状態!
目の前にいる人間は僕なんだよォォォォ!!!
「目をつぶれシン! いま僕を見るなぁぁ!!!」
とっさに逃げようとしたものの、「ガシッ」と、腕を掴まれた!?
「……………アリエス」
「は、はい?」
「おまえが好きだ! 今からおまえを連れて逃げる!!」
ヒ、ヒイイイイ!!! やっぱしィィィィ!!!?




