24話 宿命はしのびよる! ふたりの冒険卿の謎!!
素手で手術をやるのは初めてだったが(あたりまえだ)、予想以上に上手くやれた。
僕のレベル1魔法は出力が小さい分、こういった繊細な作業には向いているのだ。
臓器に刺さっているあばら骨を丁寧に抜いたあと正常な位置に戻したら、レベル1回復術で取りあえずの止血。そのあとは衛兵団の治癒師さんにまかせると、今度はみるみるうちに回復した。
様態が安定したリューヤをみんなで運んで伯爵館に帰還した。
こうして伯爵家を狙った【凶月の黒犬団】の件は完全に片付いた。
貧民街の方は壊滅的な被害を受けたが、被害はそこだけだったのが不幸中の幸い。支援を出すことも決定されたので、やがて立ち直るだろう。
だが、黒幕がヴィジャスとセイリューさんの昔のパーティー仲間だという事実は波紋を呼んだ。伯爵家としては二人を探し出し、凶悪な盗賊団などを使って伯爵家を襲おうとした理由を問いたださねばならない。
館に帰還した翌日に、僕は借りている部屋でヴィジャスに残りふたりの冒険卿のことを聞いた。
「元【暁の牙鴉】メンバーだったパーティー仲間のラドウとトゥーリ。彼らは、俺ちゃんらより一回り年下の兄妹だった。兄ラドウはパーティーの盾となるタンク。妹トゥーリは回復術士だ」
暁の牙鴉はタンクであるラドウが敵の攻撃を受け、武闘家であるセイリューさんが敵の撹乱をしつつ討ち、魔法師ヴィジャスが魔法での攻撃、支援。トゥーリは戦闘で負ったケガの治療。
ひとりひとりが高い技量をもった暁の牙鴉は、パーティー内でのもめ事もなく、十年もの間、中級冒険者パーティーとして活動を続けていたそうだ。
「話を聞く限り、こんな陰謀を仕掛けてくるような人間には思えないね。別れた後に悪い人間にでも唆されたのかな?」
「それ以前に、トゥーリはともかくラドウは生きているとは思えないんだ。彼は俺達と別れたときに、重篤の病におかされていたからね」
「はあ? 重篤の病の人が冒険者なんてやっていたの?」
「いいや。俺ちゃんらと冒険者をやっていた頃は、病気など縁のない頑丈な奴だったよ。零落した騎士の息子だったらしいが、盾を使った防御術が巧みで、その恵まれた大きな肉体とも相まって、どんなモンスターの攻撃も受け止めてくれた。だが、あの日……」
それは、【暁の牙鴉】最後の冒険となった悪魔イヴァーズとの戦いのとき。
タンクのラドウはイヴァーズの苛烈な攻撃を最後まで受け止め、防いでくれた。
それこそ全員があらゆる手段を尽くし、希望がなくなる最後の瞬間まで。
そして、その代償はラドウの体に大きくついた。
それにしても、この話をするときヴィジャスは顔をやたら前足で撫でていた。
もしかして、これが猫の悲しみの仕草?
「イヴァーズの濃い瘇気の魔法を幾度も浴びたラドウは重い病におかされ、余命幾ばくもない体となってしまった。つまり、いま生きているはずがない」
「で、そのふたりはその後どこに?」
「伯爵領での療養をすすめたんだが、彼らは兄妹ふたり故郷に帰ることを選択した。もう二度と会うことはないと思っていたんだがな。まさかここで、二人の名をきくとは思わなかった」
「でもそれって、十数年前の話だよね? じゃあ、今、こんな陰謀をしかけてくるのはおかしいね。はっ! もしかしてそいつらは!?」
「そうだ。ジャギルの背後にいるラドウとトゥーリは、ふたりの名をかたる偽物の可能性が高い。すでにセイリューは、自分の弟子をつかって調査をはじめた」
具体的には、その弟子を二人の故郷に送り足取りを追うのだという。
それとは別に、ジャギルが接触したラドウとトゥーリを名乗る人物の捜索も開始された。
「そっか。じゃあ僕らはその調査待ちだね。というより出来る事なんてないから、ぜんぶおまかせだ」
「なにを言っている。そいつら二人は偽物でも、そいつらが作る悪魔の力を人間に宿した魔人は本物なんだぞ。それに有効な攻撃方法は、今のところ君しか使えない【死極星】しかない」
「あっ、そうか。じゃ、また魔人が出たら僕も戦わなきゃなんないのか」
ううん。僕は異世界転生するなら、バトル方面じゃなくて内政チートを目指したかったんだけどな。
「だが君の戦い方は、リューヤ先生から『身体能力頼みで素人の域』という批評をいただいた。これじゃいざ魔人が出たとき困るし、その時に備え君に戦闘の仕方を教えることを伯爵家防衛の方針として決まった。つまり衛兵団と同じく、体を鍛え戦闘技術を学ぶことが君の仕事になる」
「えええええええ!?」
いや、伯爵家に仕えること自体は文句ないんですよ?
ここらで安定した仕事なんて、伯爵家以上のところなんてないだろうし。
でも内政官が希望なんですよ!?
なのに肉体労働どころか、肉弾戦バトルの仕事とか!!
「師匠はリューヤだ。セイリューによれば、彼はビアンナ姫の護衛でありながら姫を危険な目にあわせた責をとらせ、護衛を外すそうだ。そこで代わりに君を鍛える役を与えるんだって。ありがたいね」
は、はああああああ!? あの冷酷な拳法使いが師匠!?
ぜったいスパルタじゃねぇかぁぁぁ!
こんなことなら、あのとき見捨てれば良かったああああ!!!




