22話 凶月の黒犬団壊滅! そしてジャギルが語る黒幕の名は?
さて問題です。
『一般人が、凶悪な殺人強盗団のボスにイキッったらどうなるか?』
その答えがいまの僕の現状だ。
巨大魔人が倒れたことで、一斉に衛兵団は突撃した。モンスターを蹴散らし、盗賊どもを次々捕らえていく。
さながら、ドラマで見た警察の一斉検挙みたいな光景だ。悪名高い【凶月の黒犬団】もこれで壊滅だろう。
だが、さすがにボスのジャギルは機敏だった。そして僕とビアンナ姫は、そんなジャギルの目の前にいるのだ。
「この糞アマがぁ! やってくれたなァ!」
ジャギルが鬼のような形相でビアンナ姫を捕まえるのを見た。
そして僕はジャギルに突き飛ばされ、地面に転がったところで首を踏みつけられてしまった。
そのまま地べたに伏したままおさえられている状態だ。
奴の丸太のような足は力強く、まったく身動きできない。
「きさま、魔法師だったのか? どうやって不死身の魔人プードルをあんなにした!? ……いや、もうどうでもいい!」
「クッ間に合わなかったか!」と、セイリューさんの声がきこえた。
どうやら姫を救出しようと動いたが、ジャギルに出し抜かれてしまったようだ。
「ジャギルよ、おとなしく姫とアリエスを離せ。きさま一人くらいなら見逃さんこともないぞ」
「ハッハァァ! おれを舐めるなよセイリュー。修羅場をいくつもくぐってきたおれにはわかる。この状況は”詰み”だ。この場を逃げだそうと、このあと展開しやがる包囲からトンズラなんざ出きやしねぇ!」
「ではこれからどうする。二人になにをするつもりだ?」
「決まっている! 腹いせに二人ともこの場でブチ殺してやるのよ。不手際にせいぜい悔しがるんだな、テメェら!」
「よ、よせッ!」
――――――ギリギリギリッ
ぐええええッ
ヤバイッ! ジャギルの足が急速に僕の首を折りにきた!
息がまったくできない! 僕の首の骨がきしみをあげている!
――――「いやあぁぁぁ!!」
そして上の方からはビアンナ姫の悲鳴がきこえる。
僕は失敗したのか。
ふたりともここで死ぬのか――――――
――――ドンッ
(えっ?)
いきなり上の方で衝撃があったと思ったら、急に息が楽になった。
僕をおさえていたジャギルの足が緩んだのだ。
僕はそこから抜けだし、そのジャギルを見ると、誰かがジャギルの背中に小剣を突き立てていた。
その人物は――――
「ルド!?」
なんと、ジャギルの背中に剣を刺しているのはルドだった! どうしてここに?
「ようアリエス。『おいらには何もできねぇ』なんて腐らずあとをつけてきて良かったぜ。おかげでようやくアンタに借りをかえせた」
そういや、はじめてあった時にもそんな真似をしていたな。
だが、まさかそれがこんなヒーローみたいな活躍につながるとは!
なんてイケメン小僧なんだ!!
「な、なんだぁテメェはー!」
ジャギルはルドを引き剥がそうとするも、ルドはたくみにジャギルの腕の届かない場所にまわりこむ。
「この街に住むガキさ。言わせてもらえば、街をモンスターでメチャクチャにしたり、母ちゃんやミルを危険にさらしたり、アリエスとついでにそのお嬢さまを殺そうとしてるアンタに怒りまくっている」
「こ、こ、このザコがぁぁぁ!」
「アンタはこれからそのザコ以下だ。さらについでに、おいらの手柄になってもらうぜ!」
そして二人がもみ合っているうち、ビアンナ姫はジャギルの腕から逃れた。
「よくやった! お手柄だ小僧!」
ここでセイリューさんが動いた。
老人とは思えない動きでジャギルに飛びかかり、眼にもとまらないスピードでジャギルを叩きのめした。そして数人の衛兵がジャギルを組み伏せる。
(終わったか…………)
ルドのおかげで助かった。
なんとなく仲良くなったアイツのために、なぜかいろいろ頑張ってしまったが、まさか命を助けてもらうことになるとは。善行はしておくものだ。
「ルド、ありがとう。おかげで助かったよ…………って、ビアンナ姫?!!」
なんと、そのルドにはビアンナ姫が抱きついていた!
首に腕をまわし、熱く抱擁をしている!!
それはさながら、愛し合う恋人同士のように!!!
「ルド、ルドぉ! こわかったよぉ。ありがとう。助けにきてくれて!」
「い、いや、おいらが助けにきたのはアリエスであって、アンタはついで! はなれろよ、お嬢さまが………いや、お姫様か。はしたねぇぞ」
「ヒィィィィッ」と、僕は血の気がひいた。
こここ、これはマズイ!
子供とはいえ伯爵家令嬢で次期領主が、往来で男と抱き合うなんて!
これは僕が体を張るしかない。
僕も参加して、『恋人同士のように抱き合う』という事実だけでも消してしまわねば!
「ルドッ、ありがとぉぉぉぉぉッ」
僕は二人に飛びつき、衆人の眼から隠すように抱きつく。
「おおッ!? へへっ役得役得ゥ!」
ちょうど僕の胸の谷間にルドの顔がはさまってしまったのだ。
このラッキーハプニング野郎め!
「むううーっアリエス、いやらしいぞ!」
それは姫の方です。
無邪気に顔をふくらませないでください。立場ってものを考えろー!
なんで関わって数日の伯爵家のことを、僕がこんなに心配せにゃならんのだ!
さて、気にしている余裕などなかったのだが、僕らの隣では組み伏せられたジャギルとそれを見下ろすセイリューさん。こんな会話をしていた。
「悪行重ねたきさまもこれで最後だな。処刑台に送る前に洗いざらい吐いてもらうぞ。とくにきさまの背後に誰がいるかをな」
「へっ、『そのための拷問は一揃え用意してます』ってか? もうこうなっちゃぁ義理立てする必要もねぇ。いま、この場で言ってやるよ」
ジャギルの背後か。ヴィジャスも気にしていたが、伯爵家にせまる謎の陰謀勢力のことが進展しそうだ。
「おれに力を貸してくれた者の名はラドウとトゥーリ」
「な、なんだと!? その名はまさか………ッ!」
誰だ? セイリューさんにとって、その名前は衝撃的なようだが。
「そうだ! きさまのかつての冒険者パーティー【暁の牙鴉】の仲間であり、きさまと同じく【冒険卿】の称号をうけたふたり!」
「あのふたりが…生きていたのか!! だが、なぜ盗賊団などを使ってこんな陰謀を?」
「もう一つ教えてやる。きさまの息子のことだ」
「リューヤのことか? あいつがどうした」
「残念だったな、きさまの息子は今ごろ地獄の苦しみだ! いや、もう死んでいるかもなぁ?」
なんだって? いったいどういうことだ!
明かされた者の名は、残りふたりの【冒険卿】!
そして、リューヤにせまる危機とは?




