02話 賢者の弟子の女の子
本日2話目です。
「…………どういうことだ、これはぁぁぁぁ!!!」
気がつくと、僕は裸でとある部屋の水槽のような場所で寝ていた。
そこは狭く妙に薄暗い部屋であったが、何故か灯りもないのにうっすらと周りが光っていた。
あちこちには、なんの用途に使うのかもわからない道具がある。
そして自分の体を確認した。
体は中学生くらいの子供のもの。まぁそれはいい。
そのうち成長するだろうし、赤ん坊からやり直すよりよっぽどいい。
だが、その下腹部を見たときだ。
思わず先ほどの叫びが出た。
そこには男としてのあるべきものがない。未成熟な女性器のものに変わっている!
つまりこの体は、中学生くらいの女の子のものだったのだ!
「ぐわあぁぁぁぁ!! あの話の展開でなんでTS転生!? 女にモテたくて転生したのに、女になるとかありえねぇだろォ! あの賢者…………いや、賢者を僭称する詐欺師め! ダマしやがったなあぁぁぁぁぁ!!!」
するとその時だ。
自分しかいないと思っていたこの部屋に、片隅の方から声がした。
『あーあー、…………やった! 元の世界に繋がった! 声だけしか届けられなくても、大きな前進だ。やったね俺!』
それは賢者を名乗り、僕をこの世界に送って少女にしたあの元凶の男の声。
思わずそこを見てその姿を探すも、そこには誰もいない。
ただ、大きめの見たことのない猫? のような動物がいるだけだ。
だがその猫は、あの男の声でしゃべりはじめたのだ!
すげぇ! これが魔法か!?
『いやぁ詐欺とはひどいねぇ。キミの望み通りに、その体にふれた人間は軽い快感を感じるようにしたし、【俺の弟子アリエス】はけっこう可愛いくて美形?だし。ほら、そっちに鏡があるから見てみなよ』
その猫の顔が促す場所には鏡があったので、初めて自分の顔を見てみた。
たしかにそれなりに整のってはいたが、雰囲気として全体的に野暮ったく、田舎の女学生といった感じだ。
あらゆるアイドル、グラドルを鑑賞してきた僕の目にはかなわない。
「うーん。まぁ悪くはないけどイマイチかなぁ。真面目が顔に出すぎて、僕の求めるものとは方向性が違いすぎるし…………ってちがう!!!」
たとえこの子が僕好みの、グラドル並みの超美少女だったとしても、自分の体じゃ意味ないだろう! つき合えないんだから!
「性別が女だという時点で立派に詐欺だろう! やり直しを要求する! 美形の男に転生させろぉぉぉぉ!」
『ごめん無理。俺ちゃん、たしかに最強クラスの賢者だけど神様じゃないからねぇ。君の器にできる体は弟子のアリエスのものだけだったんだよ』
………………あ。
そうだ。たしかにコイツは初めてあった時から『賢者』を名乗ってはいたが、『神様』とは言ってなかった。
異世界転生ラノベ読み過ぎてついそういったモノだと思ってしまったが、ああいう便利なモノとはまったくちがったモノなのではないか?
ともかくラノベからはなれて事情を聞こう。
「それでいったいどういうことなんだ。どうして僕をこの【君の世界】とやらに送ったんだ?」
仕切り直して猫を目の前において会話する。
本当に子供になったみたいな気持ちだ。
『実は俺、世界最強クラスの賢者だったんだけど、その力を恐れる悪い奴らがいてね。あの【虚無の無限の地平世界】に封印されてしまったんだよ』
ああ、やっぱりコイツを何でも願いの叶う神様とか勘違いした僕が愚かだった。『世界最強クラス』とかイタイこと言ってるし。
『で、どうにかあの空間から脱出しようとしたんだけど、難しくてね。けど世界線を越えた君達の世界には接触することに成功した。そこから君達の世界の言葉や文化を学びながら、どうにか元の世界に帰る方法を探したんだ』
「で、それがどうして僕を巻き込んで、こんな女の子にしたんだ? いったいこの子は誰なんだ?」
『そこらの小動物なんかを使って実験した結果、死亡させればその意識を俺ちゃんの世界の秘密実験室に送れることがわかった。丁度良く、そこには実験で意識の戻らなくなった俺の弟子アリエスの体がある。で、運良く迷い込んできた君を…………あとは言わなくてもわかるよね?』
「このマッドメイジがあぁぁ! やっぱキサマ、悪の天才キャラとかじゃないの!?」
『いやいや俺ちゃん、ホントにこの世界では正義の大賢者。悪の天才キャラは別にいて、世界がピンチだから、こういった非情な手段も使わなきゃなんなかったのよ。とにかく君のことは責任をもってフォローするから、君も協力してくれ』
このマッドメイジの駒になれってか?
『異世界転生でモテスキルもらってハーレム無双』なんて目指した僕が愚かだった。
こうなった以上、この世界で生きていくために、しばらくこの詐欺師の言う通りにするしかないか。
「…………わかった。とにかくこれからどうすればいいのか言ってくれ。貴様のやったような非人道的な行為じゃなければ協力してやる」
『納得してくれてありがとう。では、まず始めるのは勉強からかな』
「勉強? なんの?」
『この世界の言語や文化。それに社会形態やなんやかや。動植物にも人間にも君等の世界には比べものにならないくらい危険なものがあるから、ちゃんと教えておくよ』
ああ、そういうのも自力で学ばなきゃならないのか。
当たり前だけど、『転生したら自動的に知っている』なんてことにはならないんだね。
『それと君の体に宿っている能力について。俺ちゃんの施した魔導回路のせいでアリスエの意識が戻らなくなっちゃったから、それについてもちゃんと説明しないとね』
「それを最初に説明! どんな爆弾をいれやがったんだぁぁぁぁ!」
お前が一番危険だよ!!!