19話 魔人プードル! それは悪夢の顕現!!
完全に実体化し、そこに立った魔人。
それはからくも人型だが、成人男性の三倍もの体長をしている。
だがその巨大な体躯は異常に筋肉が盛り上がっており、皮膚は鱗のようなもの、棘のようなものが一面に生えている。
そして顔は目二つ、鼻、口などは人間と同じものではあるが、醜悪であり、恐るべき形相をしている。
そうして顕現したその怪物は…………
「ア、アァ、アニギィィィィィィィィ!!!」
――――――――?!!
そう叫んでいきなり大泣きした。
グワシィッ
その怪物に構えていたリューヤだったが、予想に反し、怪物はジャギルを掴んだ。
「どどど、どうじでオレをアイヅに売っだぁぁぁぁ?! 信じていたのにぃぃぃぃ!!!」
「すまなかった弟よ。だが仕方がなかったんだ! あの方がどぉしても、おまえの強靱な体を所望してなぁ。団のためにも断りきれなかったんだ!」
「ウ、ウ、ウワアァァァァ!!!」
メギメギメギィィィィ
プードルはジャギルを握り潰さんと握力をこめる。
「グ……グウゥ………だ、だが弟よ。おまえのことは一日たりとも忘れたことはなかった! おまえのいない日々はまるで地獄のようだったぞ!」
「ウ………エ……そうなのか?」
「ああ。だからおまえを助けるためにあらゆる事をした! あのお方の犬となり、絶望的な仕事にもすすんで志願し、駆けずり回った! ただ、おまえを助けんがために!」
「オ、オオゥ!」
「そうして働きが認められ、ようやくおまえを解放することができた! ふたたび日の光を見せてやることができたのだ! もう思い残すことはない。ひと思いにやってくれぇ!」
「ウ………ウゥあにぎ、そんなにもおれのことを?」
「ああ、愛してるぞ弟よ。プ-ドルよぉ!」
「ウオオオオオオ、あにぎぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」
「プードル! 許してくれるのか!? おまえを闇の世界に閉じ込めたおれを。絶望の底につき落としたこのおれをぉぉぉ!」
「うんっ、うんっ。あにき、ありがとぉぉぉ!」
「いいいんだ。泣くなプードルよ。これからはまた兄弟仲良く盗賊稼業をやっていこう」
◇◇◇
――――――いったい俺は何を見せられているんだ?
リューヤは、ジャギルと怪物の一連の三文芝居を唖然呆然として見ていた。
思えばこの間に姫を連れて逃げるなり、何か仕掛けるなりすべきだった。
だがあの極悪面の巨大な怪物がいきなり号泣したり、強面ジャギルが『愛してるぞ弟よ!』とか行ってまた泣き出したりと、怪物の出現よりよっぽど信じられないものを見てしまった。
そのせいですっかりそんな常識がどこかへと行ってしまったのだ。
だが、そんな三文芝居でも見料はしっかりとるのはさすが盗賊。
「さあ、あの男を殺せ! あいつこそ、おまえを再び闇の世界に閉じ込めんとする悪漢! おまえの真の自由のためにも、完全に潰すのだ!」
「くそっ。前置きがやけに長かったが、結局やるのかよ!」
その言葉にはじかれ、すぐさま戦闘の構えをとるリューヤ。
格上の相手に後手にまわることは死を意味する。
故に相手の体勢の整わぬうちにすぐさま攻撃をしかける。
「ほあああああ!」
渾身の風圧連弾正拳。大斬撃。目、咽、金的などの集中撃。
もちろん、きっちりジャギルへの攻撃も忘れない。
「くそっ、やはりダメか!」
されどやはりというか、リューヤの与えたダメージは瞬時に回復されてしまう。
そして圧倒的な腕力は巨大な質量の腕や足を高速で動かしてリューヤを脅かす。
この怪物の前にメギオと戦っていてよかった。
でなければここまでの不死身は予想できず、この圧倒的な力につかまってしまったろう。
やがてプードルは一旦攻撃をやめた。
「素早いな。アニキ、ちょっとさがっててくれ」
「ああ、たのんだぜプードル」
地面にそっとおろされたジャギルは素早くプードルから離れた。
「ムハハハハ風使い。テメェはもうお終いだぁ! さっきまでのプードルは、おれを抱えていたために大技は出せずにいた。が、おれを離したことによりその枷は外れた! その意味をジックリ知るがいい!」
「クッ盗賊風情が!」
リューヤもそのあたりは計算して戦っていた。
あえてジャギルを攻撃することにより、怪物の動きを鈍らせたのだ。
だが、怪物にはあまりに自分の攻撃がきかなすぎる!
それでも、攻めの姿勢は崩すわけにはいかない。
ここで負けることは死を意味し、そしてビアンナ姫を連れ去られることを意味するのだ。
「うおおおおおおっ!」
最大の超加速。その道中で跳躍し、八方を飛び回り敵に的を絞らせない。
そして首の鋼線を巻きつけ、渾身の力で引き抜き断絶をはかる。
だが…………
「ぶわーーーーか」
ドッゴオオオオオオオオ!!!
その言葉とともにリューヤはあっさり吹き飛ばされた。
いかに超スピードで自分の姿を消そうと、すべて無意味。
プードルはリューヤの気配でだいたいの位置を予想したのなら、圧倒的な魔力の衝撃波を放つだけでよかったのだ。
いかに人間が技を研鑽しようと、圧倒的な力の前には無意味。
それが魔人。
「うわぁっはははは、よくやったプードル! さぁビアンナ姫をいただくぜぇ!」




