18話 計都風刃拳! 俺の拳は地獄へ最速直行!!
魔法使いの話を書こうと思って書き始めたのに、途中で【北斗の拳】にハマって拳法使いの話になってしまって。もうなにがなにやら。
◇◇◇
リューヤは貧民街のあちこちにいるモンスターが一斉にこの場に集ってきているのを見た。
そして、その中心には人間の盗賊団の生き残りがいる。
そしてそこには、わざわざ戻ってくるはずのないあの男がいた。
「ちいっ、狂犬どもが。いいだろう。そんなに俺に殺されたいなら、一人残らず地獄へ送ってやる」
リューヤはこの家の者らしき小僧をチラリと見る。
迫り来るモンスターの大群を前に、震えながらも小剣をしっかり構えている。
こいつ、どうやら俺が来るまでアリエスと一緒に戦っていたらしい。
なら、少しは使えるか。
「おい、小僧」
「えっ、えっ、おいら?」
「この家に入る者あらば、体を張って一瞬でもとめろ。そうすれば俺がしとめてやる」
「え、ええー! 逃げないのかよ!? あんなのどうしようもないじゃんかよ!」
小僧はなにかわめいたが、リューヤはかまわず首をコキコキ鳴らして表へ出た。
すでにモンスターはこの家を前にずらり居並び、その中心には人間の集団。
そしてその大将格の者こそ、あの最凶悪党の髭面。
「【凶月の黒犬団】首領ジャギル。きさま、なぜここに?」
「グフフ……それなりに逃げる奴は見慣れているんでね。おれらにビビッて逃げるのか、それとも大事なお宝が心配で逃げるのか。テメェは明らかに後者だ。そのボロ家にいるんだろう? 次期領主のビアンナ・エメ姫が!」
ジャギルの的確な指摘に、リューヤは顔をしかめた。
「フン、『黒犬』を名乗るだけあって鼻はきくようだな。まんまと付つけられたことも、少し傷ついた。だが、それが命取りだ。きさまらは死ぬためにここへ来たのだ」
そのリューヤの言葉に、ジャギルのまわりの手下は「ウプッ」「ククク……」と失笑をもらし、それは大爆笑となった。
「うあっはは、バカめー! これだけの数のモンスターを相手に、一人でどう戦うというのだ。死ぬのはテメエのほうだ!」
「これだけのモンスターになぶられたら、骨も肉も食われて跡形も残らんなぁ~。残念だぜ。死体を芸術的に飾り立ててさらしてやれんのはなぁ~」
ジャギルは大物ぶって鷹揚に命令を出した。
、「いけ、モンスターども! その男を徹底的につぶせ! 手下どもはビアンナ姫を引きずり出せー!」
手下たちはリューヤをあざ笑いながらその脇を駆け抜ける。
「ヒャハハハ思い知ったか! ジャギル様はテメェなんぞと頭のできがちがうのよ!」
「おまえらは頭自体ないがな」
「ふへっ?」
――――ズルーゥ………
手下たちのその頭はいつの間にか全員きれいに切られ、ずり落ちて地面におちた。
「な、なに! いつ切られた!?」
「俺の拳は人間ではとらえることはできん。ジャギルよ。きさまに計都風刃拳の神髄を教えてやろう。醜い兵隊とともに地獄へ行け!」
「くっ、まずは奴を殺せ! モンスターども、やれッ!」
一斉にモンスターがリューヤを目がけて押し寄せる。
リューヤはそのモンスターの大群へと躍りかかった。
「計都風刃走虎疾風!」
ゴブリンの群れは、駆け抜けたリューヤにバラバラに切り裂かれた。
「計都風刃飛鳥扇風!」
空から飛来する鳥形モンスター共は宙に舞ったリューヤにまたしてもバラバラになった。
「計都風刃大峰強風斧!」
リザードマンの群れはリューヤの手刀で硬いうろこを砕かれ斃れていく。
モンスターの大群は、リューヤの人間離れした戦闘力を前に次々数を減らしていった。
その鬼神のような戦いぶりを見て【凶月の黒犬団】の生き残りは唖然とした。
「な、なんだあの男! どうしてここまで強い!?」
「フフ………どうやら拳法使いという人種は人間ではないようだ。こうなれば最後の手段だ。弟【プードル】を解き放つとしよう」
ビクリッ
手下たちは思わず顔を見合わせた。
「しょ………正気ですかいジャギル。やつを出したら、どういうことになるか」
「腹をくくれ。このまま奴と戦っても死ぬ。いちかばちかやらなきゃならねぇんだ」
「し、しかし真っ先に殺されるのはジャギル、アンタだぞ! プードルは、自分をあのお方の実験台に売ったアンタをうらんでいる!」
「そうだ。そうして弟は悪魔の能力を身につけ魔人と化した。が、なーに。おれはプードルの性格は熟知している。魔人になろうと、奴を手なずける方法はある」
手下どもはふたたび顔を見合わせうなずき合う。
そして恐慌にかられたようにジャギルに飛びかかる。
「や、やめろー! おれたちは、もうあいつににあいたくねぇー! あんな奴、飼いならせるわけがねぇ~!」
「うるせえ!」
その手下どもをジャギルは無慈悲に大ナタで斬り殺していく。
悪党どもの仲間割れが終わりジャギルがその暴で制圧した頃、リューヤはあらかたのモンスターを片付け、その場にあらわれた。
リューヤはジャギルが粛正した手下どもを興味深げにながめた。
「仲間割れか? 悪党の末路にふさわしいなジャギルよ」
「なぁーに、ちょっとした教育さ。テメェの相手をするにゃなんの問題もねぇ」
「ほう。この後におよんで何を教える? 『処刑台では処刑人の言うことをよくきいて、速やかに処刑されましょう』か?」
「さあーて。処刑台の作法なんざとんと知らねぇな。なにせ行ったことがないもんでね」
リューヤは追い詰めたはずのジャギルが、いまだ余裕なのを不思議に思った。
なので会話をしながらその場を注意深く観察する。
「ジャギル、きさまを地獄へ送る前に答えてもらおう。きさまがこれだけの魔物を操る力を得たのは、背後に魔法師がいるな。そいつはどこの誰だ?」
「へっへっへ。そいつはいえねぇな」
「フン…………では生け捕りにして拷問でもするか。面倒なことだ。ではついでにもう一つ。【凶月の黒犬団】にはもう一人、有名な奴がいたな。きさまこと【知のジャギル】に並び、その弟【暴のプードル】。そいつはどうした? なぜ今になっても出てこない」
ジャギルの実の弟であり団の戦闘隊長を務めているはずのプードル。
その並外れた暴力は有名であり、平民は百五十人以上も殺し、その捕縛にあたった騎士、衛兵等はみな叩き潰されたという。
「グフフ……知りたいか?」
「いや、聞くまでもないことだったな。今になっても出てこないということは、そういうことだろう。大方、きさまの手に余って消したといったところか」
「へっへっへ。まぁそう言わず最後まできいていけ。『手に余った』ってところまではその通りだ。が、弟は死んでいねぇ」
「なに?」
リューヤは追い詰めているはずのジャギルに不穏なものを見た。
そして何気なくしたこの質問が、なにかの核心をついたものだとも感じた。
――――――――ボゴンッ
「うっ!?」
突然に、何もない場所から巨大な影のようなものが現れた。
それはだんだんに存在を明確にし、次第次第に実体へと変わっていく。
「なんだこれは? ジャギル、きさまの切り札か!」
「グフッ、グフフ……弟プードルだ。亜空間に閉じ込めておいたのを、今、解放してやった」
「亜空間? なんだそれは………いや、きいたことがある。たしか賢者ヴィジャスが閉じ込められているという謎空間か! だが、この巨大で醜悪な姿は何だ? 人間とは思えんぞ!」
「弟の暴力は強力無比ではあったがな。あまりに部下を殺しすぎるんで手に余ったのよ。で、”あのお方”の魔人化の実験にくれてやった。魔人になったのを封印されたまま返していただいたんで、切り札にしたってわけだ」
「魔人だと? ハッまさか!? メギオがなったアレか!」
「メギオにはいちおうの完成品を渡してやった。10日ほどで人間の意識はなくなり、完全なバケモノになっちまうシロモノだったがなぁ」
「なに? やはり相当の術師がいるのか。どうしても、そいつの名を聞きださねばならんな」
「フフフできるかな? プードルはあのお方の実験により、悪魔の力を極限までに人間の体に宿すことに成功した! その力は、たとえ一国の軍隊であろうと斃すことは不可能!」
――――――――ウウウウウウウウォオオオオオゥ…………
巨大なその影は唸り、まがまがしい鼓動が周囲に不気味にひびく。
「いけーーハハハハハハ! 今こそよみがえれ、魔人となった弟プードルよ。悪魔の化身よー!!!」




