17話 戦々恐々の防衛線! そこに現れたる風の男!!
アリエスです。
ただいまルドの家でビアンナ姫、ミルちゃん、ルドのお母さんを後ろにかばいつつ、ルドと防衛戦の真っ最中。
「死極星! ルド、頼む」
「おおっ。このっ、おとなしくしろ!」
おどりかかる狼型モンスター三体の頭に指先でふれ、絶対死の魔法をかける。
だけどなおも暴れる狼たち。それにルドは小剣で果敢に斬り込む。
されど大人と同じ体長の狼三体。
ルドはやはり力負けして突き飛ばされ、押さえつけられる。
牙がルドに迫った瞬間………
ボシュッ!
という音がして狼達の頭は消滅した。
「大丈夫? ルド」
「ああ。なんてことはねぇ」
顔は青ざめてはいるものの、僕の手をとりしっかり起き上がる。
狼に押し倒されて牙が喉元にせまったというのに、たいした奴だ。
死極星は悪魔さえ殺せる絶対死の魔法。
これのお陰で、僕でもどうにかモンスター相手に防衛戦ができている。
でも『相手に指先を触れなければいけない』という制約は、それだけ猛獣に近寄らなければならないということだ。
『ふれて5秒後に発動』という制約も微妙にきびしい。
なにしろモンスターにとって5秒あれば、後ろのビアンナ姫、ミルちゃん、ルドのお母さんに襲いかかり殺すなど十分な時間だからだ。
なので、それまでの時間をルドが壁になって稼いでくれている。
しかしバカな衝動買いと思われた小剣が、まさかここで役に立つとは。
この剣一本あったお陰でルドも戦闘に参加でき、僕の負担を減らしてくれる。
もしこれがなかったら、さすがに後ろの人達を守りきれなかった。
コイツ、じつはラッキーボーイか?
「ルド! 大丈夫か!? ケガとかしてないか!?」
とりあえずの脅威が去ったら、ビアンナ姫がルドに駆け寄る。
ルドの顔とかを愛しそうに見るその姿は、本当に恋する乙女だ。
「ありがとう。わたしのために」
僕もいちおう姫のために命をかけて戦ってんだけどね。
前世のイケメンとの格差を思い出しちゃうね。死ねよ。
「ハァ? バカだろ。なんで初対面のアンタに命かけなきゃなんねぇんだよ。母ちゃんとミルのためだよ。アンタはついで」
「むううっ。『ビアンナを守っている』といえ!」
「うっせぇな。おとなしく母ちゃん達と固まってろよ。そしたらついでに守ってやっから」
「ま、また『ついで』っていったぁ! この、このぉ!」
「イテテッ、やめろバカ。背中、痛ぇんだからさわるな」
なんなの、ルド!? 領国最高位の伯爵家公女様をあいてに、そのイケメンみたいなセリフ!
キミって、いつからそんなシブいヒーローみたいなキャラになっちゃたの!?
「まったくヤレヤレだぜ。女はめんどくせぇ」
またまたシブすぎる!
僕も一度は言ってみたかった、そのセリフ!
「で、アリエス。これから……………ってなんだその目? なんか睨んでないか」
「気にしないで。僕もめんどくさい女の一人だから」
「なんだ、モンスターをあんなに簡単に殺せるすげぇ大魔法師様のくせにつまんねぇこと気にすんだな。で、襲ってくるモンスターはとりあえずいなくなったがどうする。みんなで逃げられるか?」
僕は外を確認してみた。そして、あちこちにかなりの数のモンスターが徘徊しているのを見て、その提案は却下せざるを得ないと判断した。
「無理だ。とてもみんなを守って移動できるもんじゃない」
「くそっ衛兵が出動するのを待つしかないってか。今日中に来てくれるかな?」
希望はある。ここにはビアンナ姫がいる。
彼女は何よりも保護をしなければいけない対象のハズ。
館の中にだれか彼女がここにいることを知っていて、伯爵に知らせてくれればいいけど。
「うおっ!?」
見張りをかわったルドがいきなり呻いた。
「モンスターがいっぱい寄ってきた! そこの死骸の臭いを嗅ぎつけたのかもしれない!」
家の外にはさっき殺したモンスターの死骸がいくつも積み上がっている。それが屍肉をあさるモンスターを引き寄せてしまっているのか?
くそっ! だったら、このまま家にこもっているのも危ないじゃないか!
迫りくるモンスターに身構えたとき――――
「風刃拳・空刃乱気流!」
いきなり、どこからともなく必殺技らしいかけ声が聞こえてきた。
と思ったら、集ってきたモンスターがみんなバラバラになって散った!?
そしてヒーローっぽくあらわれた奴こそ、待ちかねたあの男。
「リューヤ!」
なんとなく不機嫌そうな顔をしていた奴は、声をかけたビアンナ姫を見ると顔をほころばせた。
「ご無事でしたか、ビアンナ姫。アリエス、よく持たせてくれたな」
しかし僕は奴の背後に広がるモンスターの肉片を見て、返事ができない。
本当にこれを拳法でやったのか? 異世界拳法ってスゲーな。
「すぐに館へ戻りましょう。アリエス、しっかりついて来いよ」
ルドの家族は見捨てる気満々か! いや、それ以前に視界にはいってないのか。
しかし僕はルド一家のことを別にしても、その提案はのれそうもない。
「悪いリューヤ。僕はついていけそうもない。昨夜、寝てないままバトルしたんで限界だ」
「寝てない? ああ、俺が戻らないせいで徹夜でビアンナ姫の警戒をしてくれたのか。すまなかったな」
いや、ルドの母ちゃんを美人にしてたせいだよ。
でも正直に言う必要はないか。
「そ、そうだぞリューヤ。体調の悪いアリエスをとても走らせられん。すまぬが、このまましばらくこの場を守ってくれ」
ビアンナ姫も妙にやさしいことを言ってくれる。
本心はルドを見捨てることができないだけだろうけどね。
「本来は一刻もはやく館に帰らねばならないのですが。アリエスにはいらない負担をかけてしまったようで、やむを得ません。やりましょう」
「悪い。じゃ、僕はしばらく寝かせてもらうよ」
安心した途端、本当に眠気に限界がきてしまった。
部屋の隅で横になって最後に聞いたのは――――
「バカな、なぜ奴がここに!?」
そんなリューヤの不穏な声だった。




