15話 運命の少年少女! 禁断の恋ははじまった!
ルドのモデルは『北斗の拳』のバットだったんですが、そのお母さんの名前はそのまま使ってしまいました。ビジュアルはあの人だと思ってください。
「それじゃトヨさん。裸になって横になってください」
ルドのお母さんは『トヨ』というそうだ。
で、その裸はというと……うん、立派なオバちゃんの体だね。
あっちこっちダルンダルンだし、肌はくすんで皺だらけだし、オッパイはしなびてるし。
動画なら即刻シャットダウンだが、仕事と思えばなんともない。
医者の客は半分くらいが老人だし、その裸に向き合えないようでは仕事にならないのだ。
しかしこれを僕の男目線で『抱きたい!』とか思えるまで改造するんだから大変だ。
まずは毒抜き。
内臓で重要な毒素浄化器官の腎臓からはじめる。
肝と腎の機能を高めなければ、見かけだけ何とかしてもすぐ元にもどってしまうのだ。
そこに手をあて、水魔法で水を出し、火魔法で体温をあげ、雷魔法で静電気をおこし、それに光魔法の快癒術を併せる。
複数の魔法を組み合わせることで、より内臓機能の向上の効果を高める魔法となるのだ。
やがて、そこから真っ黒い汚物がしみ出てくる。
それを土魔法で除去する。
「うわっ酒くせぇ! 何だこりゃっ!」
「体内の毒素だよ。けっこうあると思うから、後で捨ててきてくれ」
腎臓、肝臓のものと併せて、体重の四分の一ほどもあった毒素をすべて抜いたら、次は肌だ。
またまた快癒魔法のまじった水を肌の上にすべらせる。
それを雷魔法の微電流で体内に浸透させ、主に細胞膜の修復をさせる。
とくに顔の部分は化粧のせいでボロボロだったので大変だった。
だが根気よく修復した結果、ようやくみずみずしい肌へと変化した。
次には肌下の筋肉や脂肪。
余分な脂肪は火魔法で体温をあげ燃焼。
雷魔法の静電気で骨格、筋肉をひきしめ、体型を改善。
あまって皺になった皮は火魔法のレーザーメスで物理的に切除した後に快癒魔法で修復。
顔も多少整形する。
エラを切除し、ほおの筋肉を強化してほぐし、ほうれい線を消す。
目元もまぶたに折り目をつけて二重にし、パッチリしたものにする。
そんなこんなで一昼夜。
完成したトヨさんを立たせて披露してみると。
「す…………すげぇ。これが本当にあのババァかよ………完全に若返ってるぜ!」
「かあちゃ、わかくなったわかくなった!」
「いや、アタシの若い頃もこんな美人じゃなかったよ。アンタ、すごい魔導師さまだったんだね!」
うん、我ながらやりすぎた。
やっているときに謎のプロ意識が芽生えて、歯止めがきかなくなってしまったのだ。
胸になんか詰めたくてたまらなくなっていたよ。
”豊胸”だけは今のところ、まわりの肉を集めるぐらいしかできないからな。
さて、施術を終わらせて一息。
ふと、窓の外から朝の光がさし込むのを見て思い出した。
「……………あれ? そういや、リューヤは?」
一昼夜もの間、アイツは戻ってこなかったのだ。
まずいな。さすがのアイツも何かあったか。
ともかくこうなっては、僕らだけで館にもどってビアンナ姫の安全の確保。
そして報告をして、リューヤの捜索をしてもらわなければならない。
「ビアンナ様、リューヤになにかあったのかもしれません。僕らは急いで館にもどって…………ビアンナ様?」
ビアンナ姫はさっきから僕にまとわりついているのだが、僕の服で顔を隠しながらチラチラとルドを見ている。その顔はやけに赤い?
「なぁアリエス。その……ルドって……か、かっこいいな」
「はぁ?」
ハッ! まさかビアンナ姫!?
なんと数奇な運命! ビアンナ姫の秘められた恋、密やかな慕情! このアリエスの目をもってしても見抜けなかったわ!
……………って、ルドとは今日あったばかりだろう!
だいたい『かっこいい』って何!?
そんな汚いガキより、館の衛兵とかの方がはるかにかっこいいだろう!
そもそも、強くて顔が良くて衛兵を部下にする、かっこよさ筆頭格のリューヤを護衛に使っているアンタが、なんで貧民街のガキんちょなんぞにそんな感想を抱く!?
………………ハッそうか! さっき僕が子宮を活性化させたことか!
そもそも生殖のための器官は、男が股間の陰嚢にしかないのに比べ、女は内臓の半分にもおよぶ。
腹部の子宮、卵巣はもちろん、胎児の栄養をためる臀部、乳幼児の食事のための胸部の乳房など。
さて、その生殖の中心である子宮が活性化するとどうなるか?
脳がそのシグナルを受けとり、全身が生殖のために最適化した状態になり、それに反応して精神も異性(つまり男)を強く求め、恋に落ちやすくなってしまうのである!
つまり今のビアンナ姫は、貧民街の汚いガキんちょルドであろうと、カッコいいイケメンとかに見えてしまっているのだ!
なんという医療ミス! 元の世界なら高額訴訟されて医師資格剥奪モノ!
異世界で良かった!
「あ、あの~わかっています? あなたは大貴族なんですよ? それが貧民街の子供を『かっこいい』って………」
「う、うん。わかっているが、どうしようもないのだ! ルドを見ていると胸がドキドキして、せつない気持ちになって、でも目がはなせなくって…………こんな気持ち、初めてだ!」
どどどどどど、どーしよぉ!?
僕のせいで、ビアンナ姫をルドに大恋愛させちゃったよぉぉぉぉ!!
やんごとない身分の貴公子様を婿にとって、女領主様になって、領を統治していかねばならないビアンナ姫が、卑しい貧民街の少年に恋をしてしまったなんて知れたら!
【ふしだら姫】なんて噂をたてられ、貴族様の社交界からも爪弾きにされてしまう!
もちろん、あの冷酷残忍な殺人拳法家に知られたら―――――
『きさま…………我が領国、将来の代表であるビアンナ姫に、とんでもないことをしでかしてくれたな! きさまは死ね』
あひゃあーーーーーー!!!
あ……あの男に知られたら、まっているのは100%の死!!
「なぁ、アリエス」
「ヒィッ!」
僕を呼んだのはルドだった。
「な、なんだよ。『ヒィッ』って。母ちゃんのこと、ありがとな。それとよ。外、騒がしくねぇか?」
「え? そういえば………」
たしかに外が妙にうるさい。
大きな物がぶつかったり壊れたりするような音が絶え間なく続いている。
さらに、人々の悲鳴のようなものまで聞こえてくるのだ。
「あ、あの……ルド」
僕の背中からおずおずと、ビアンナ姫がルドに話しかける。
「うん? なんだいアンタ。いいとこのお嬢さまが、おいらなんかに話しかけていいのかい?」
「う、うん。いいのだ。その……わたしのことも名前で呼んでくれ。ビアンナ・エメだ」
「ビアンナか。まぁさっきからアリエスが呼んでいたから知っているけどな。おいらはルドだ」
なんか後ろの方では少年少女がやけに甘酸っぱいやりとりをしているが。
窓の外では、それどころではない事態がおこっていた。
「なっ! なんでこれだけのモンスターが町中に? 門を守っている衛兵は何してんの!?」
どこから出たのか、この貧民街一帯におびただしい数のモンスターが出現している!
そしてそれらが街を破壊し人を襲い、阿鼻叫喚の惨劇をおこしているのだ。
そしてこの家にも人がいることを嗅ぎつけたモンスターども。
何体かが這うように近寄ってきた!
「う、うわああああああ!!!」




