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TS賢者の弟子転生アリエス  作者: 空也真朋
第一章 舞い降りた賢者の弟子
13/58

13話 再びゴミ街へ! 悪党どもは蠢く!! 

 ヴィジャスが去ったあと、その場に残ったリューヤは今度は僕に向いて言った。 


 「アリエス。俺達は弟子同士組まされて、仕事を言いつけられた。ビアンナ姫の教育を何とかしろ、とのことだ」


 「はいい!? 伯爵館が狙われているのに、何でそれ?」


 「こっちも急を要するのだ。こうなった以上、ビアンナ姫は選択肢なく次期領主だ。が、姫はそのために必要な教養も勉強もまるで出来ていない」


 「はぁ。でもお姫様の教育なんて、女官さんとかメイドさんとかが受け持つものじゃないの? 少なくとも拳法家がやるものじゃないと思うけど」


 「その女官から頼まれたのだ。なにしろあの姫。昔、俺がチョロッと教えた”拳法演舞”を毎日熱心にやったおかげで、かなりの腕前になってしまった。おかげで女官ごときではしつけることが出来なくなってしまったのだ」


 「ああ、原因である君にお鉢がまわってきた、というわけね」


 ちなみに”拳法演舞”というのは、拳法の型の動きを踊りの中にいれたものだそうだ。これを毎日やっているうちに突きや蹴りを正しく出せるようになるのだという。


 「だが相手が姫では、俺は力づくでどうこうはできん。アリエス、お前の腕前はどのくらいだ?」


 「いやいや! 僕も女の子をねじ伏せて勉強とかさせられないから! その発想はやめようよ!」


 「ではどうする。あれは家庭教師をして『ゴブリンの子を拾って淑女作法を教える方が簡単』とまで言わしめた強敵。それをどう攻略する」


 『強敵』とか『攻略』って…………。

 本当に発想が物騒だな、この殺人拳法家は。


 「でも、あの年頃は遊びたい盛りだし、無理に勉強を押しつけるのはよくないと思うよ。まだ子供だし、領主の勉強なんてもっと大人になってからでもいいんじゃない?」


 「遅すぎるくらいだ! いいか。姫は将来”女領主”となるが、この場合婿をとって、その婿が”太守”となり領の統治にあたる。だから経営などは必ずしも必要ではないが、淑女の式典作法や謁見作法は必須だ」


 「ハァ、ソウデスカ」


 「なのにビアンナ姫は貴族令嬢に必要な教養を何一つ覚えない! おかげで婿捜しの舞踏会は開けないし、社交界にも出せない。雇った家庭教師は逃げ出す始末で、まったくの手詰まりだ!」


 ものすごいお転婆姫だ。

 ゲームとかだと、こういうお姫様は冒険に出かけたりするのだがな。


 「ああ糞! メギオの裏切りは許せんが、やはりあの学識は惜しかった。武道屋の俺がこんなことを考える必要なんてなかったからな!」


 つまり、あのお坊ちゃんが次期領主になることを見越して、お姫様には好き勝手させていたと。

 でも、お姫様のほうが次期領主になってしまったので、そのツケが一気にきてしまって大混乱になっていると。


 「アリエス。お前は昔、あのビアンナ姫と仲が良かったろう。その誼でどうにかできないか?」


 「僕はその頃の記憶がないんだ。だからお姫様のこともさっぱり」


 とはいえ”賢者ヴィジャスの弟子”という立場から、ここが僕の職場になるみたいだ。となると、知らんぷりはできない。

 それに”領主”というのは地方行政長官みたいなものらしい。

 それが無能だと、この地方に住む人間すべてが不幸になってしまう。

 勉強やその対策なんかは僕の領分だし、ひとつあのお姫様の教育を考えてみるか。


 「勉強ってのは、上から押しつけても身につかないものだよ。その子が勉強を好きになるか、もしくは何かしら将来の目標を持って、そのために努力をしようと考えるか」


 「どちらも絶望だ! あの姫が好きな勉強は拳法と戦闘魔法だし、将来の夢は『冒険者になってダンジョンに挑戦したい』などと、たわごとを言っている!」


 「ありゃあ…………どちらも淑女とも領主とも遠く離れているね」


 しかしやはりこの問題は『動機づけ(モチベーション)』が重要だろう。

 あのお姫様が『立派な領主になってこんなことをやりたい』っておもえる動機を考えるべきだ。


 「思い出したんだけど、お姫様と初めてあったとき、僕が奉公人の子供を助けたことを褒めてくれたね。正義感は強いほうじゃないかな?」


 「そうだな。たしかにそんな所はある。それでお忍びの外出でも苦労させられているが、それがどうした」


 「だったら、この街の貧民街の人達の生活を見せてみればいいんじゃないかな。『あの人達の生活を少しでもよくするために立派な領主になろう』なんて考えるかもしれない」


 「ふん、やってみる価値はあるか。この状況で外出させるのはちと骨だが、ビアンナ姫には一刻も早く次期領主の教養を身につけてもらわねばならんしな。よし、すぐ出るぞ。ビアンナ姫を連れてくる」


 「もう? あんな事件があったばかりなのに!?」


 「時間がないと言ったろう。次期領主のお披露目は一月後。それまでに来賓される他領の貴族に紹介できるようにせねばならんのだ」







 そんなわけで、僕とリューヤはビアンナ姫をつれて、貧民街ことゴミ街へくりだした。

 やはりそこは貧民街独特の悪臭が漂い、薄汚れた貧しそうな者やヤクザみたいな悪そうな者、ハデで安い衣装の娼婦、浮浪者などが雑多にいた。

 そんな高貴な者には耐えられなさそうな場所なのに、ビアンナ姫は元気いっぱいに歩いていく。


 「貧民街か。まさか、ここへ連れてきてくれるとは思わなかったぞ。今までお忍びでも、ここへは近寄らせなかったのにな」


 「ええ。今回の目的はここの住人のくらしを知ってもらおうと思いまして。領主になるための勉強だと思ってください」


 「ふふっ。こんな勉強なら毎日やってもよいぞ。ここには冒険者なんかもいるのだろう? ぜひ彼らからも話をきいてみたい」


 まったく、お姫様は家臣の苦労も知らず無邪気だね。

 とりあえず目的地は、この前知り合ったルドのところだ。

 アイツから貧民街の悲惨な生活を話してもらおう。


 だが、さすが悪そうな奴らが集う貧民街。

 ルドの家の近くまで来たとき、かなりの強面(コワモテ)なチンピラ二人が近寄ってきて、僕とビアンナ姫にからんできた。


 「おおっ、いい女どもじゃねぇか。よう、これから俺たちとあそばない?」

 「この街で騒動おこったら助けてやンぜ。おれら最強(サイキョー)だからよ、アンタの気に入らねぇ奴ら誰でもブッ殺してやンぜ?」


 恐ッ!

 なんかこの間のチンピラとは格がちがうほどに恐そうな二人だ。地元ヤクザか?

 もちろん護衛のリューヤは動いた。

 僕とビアンナ姫の前に立ってチンピラ二人をにらむ。


 「おいクズ。この二人に近寄るな。壊すぜ」


 リューヤはかなり強めの殺気で威嚇した。

 だがチンピラどもはまるで気にせず、今度はリューヤにせまる。


 「へっ、兄ちゃん。女の前でいいカッコすんなよ。殺すぜ」

 「めんどうだ。さっさと殺して女いただいちまおうぜ」


 「なに? お前ら―――」


 リューヤとチンピラ二人のケンカがはじまろうとした時だ。

 横合いから「待て、おまえら」と声がした。


 その声の主は赤銅色の肌をした精悍な男だった。

 長身で猛禽類のような鋭い目をしている。


 「なにをしている。予定まで騒ぎは起こすなと言ってあるだろう」


 すると驚いたことに、傍若無人そうな二人は素直に引き下がり、リューヤを一睨み。


 「運がよかったな、兄ちゃん。殺しそこねたぜ」

 「ケケケッ。まぁ後で殺してやるがよ」


 と、捨て台詞を残してして去っていった。

 男は確認するようにその背中を見送っていたが、やがてリューヤに向いて言った。


 「悪かったな兄ちゃん。ウチの若い者が迷惑かけたようだ」


 男はリューヤに手をあげて謝罪。ヤクザの幹部か何かか。


 「ああ、そうだな。本当に殺されるかと思ったぜ」


 ええええええ!! じつはリューヤもビビッってたの!?

 このDQNでは誰にも負けなさそうなコイツでも!?


 「あいつらは説教しとく。このことは忘れてデートを楽しんでくれ」


 そう言って男は去っていった。

 だが、リューヤはいつまでもその男の背中を見送っていた。

 どんな顔をしてるのかと思ったら、なんと嬉しそうに笑っていた?


 「フッ……フフフッ『ゴミを隠すにはゴミの中』か。迂闊だったな」


 『ゴミを隠す』ってのがまず意味不明なんだけど。

 この異世界にはゴミを隠す習慣でもあるの?


 「姫、アリエス。あいつらは『黒犬』だ」


 「ええええええ!?」

 「なんだと!?」


 「俺を『殺す』といったチンピラの殺気は本物。奴らは本気で俺を殺そうとしていた。ゴミ街とはいえ、こんな往来で殺しをやるクール野郎は地元ヤクザじゃあない」


 なんかケンカのプロみたいなことを言っている。


 「なるほど、たしかにゴミ街はやつらが潜むにはうってつけだったな。ゴミの中にゴミが紛れても誰も不思議に思わない」


 ひどいな。上級国民の目線でこの街を見下している。


 「姫、俺は奴をつけて『黒犬』のアジトを見つけてきます。アリエス、お前は知り合いの小僧の家で姫を守って待っていろ」


 そう言った瞬間、リューヤはその場から消えたように飛び出していった。

 かろうじて目で追えたが、相変わらずすごい体術だ。

 ポツンとその場に残されるビアンナ姫と僕。


 「まったくリューヤめ。わたしの護衛より『黒犬』を追うほうが好みか。あれは妻ができても、絶対に大事にしない男だな」

 

 「たしかに、かわいい彼女ができてデートとかしても、強そうなチンピラに煽られたら彼女ほったらかしにしてそっちへ行ってしまうでしょうね。女にモテそうな顔をしているのが迷惑です」

 

 なんとなく女二人、ケンカ大好き男にふられたような気分になってルドの家に向かったのであった。


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