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TS賢者の弟子転生アリエス  作者: 空也真朋
第一章 舞い降りた賢者の弟子
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12話 ケダモノ達は牙を研ぐ! 悪党どもに狙われた街!!

 【五精聖魔時空合一】通称【死極星】

 それは八系統すべての魔法を掛け合わせた際にできる異空間。

 僕がそれを発動すると指先より直径0,5メートルほどの異空間ができ、その範囲内にある物質は、あらゆる魔法防御すら関係なく、異空間へ飲み込み消滅させてしまうのだそうだ。


 僕とヴィジャスは伯爵館の庭園の片隅にて、その魔法の実験中だ。

 僕は指先に魔法【死極星】を発動させると、そこに小さな黒い玉ができた。

 それで大きめの石に触れると、黒い玉はそこに吸い込まれた。

 そして5秒後。

 「ボシュウッ!」という音と共に石は消滅。地面も少しえぐれていた。


 「すごい! レベル1の魔法しかない僕には、殺傷力のある魔法なんてできないと思っていたのに」


 それを細かく観察するように見ていた猫のヴィジャス。


 「ああ。依頼されて作った魔法術式だけど、まさか実戦で使うことになるとはね」


 「依頼された? 誰に?」


 「その辺も含めて【死極星】を作った経緯を説明しよう。はじまりは【イヴァーズ・ダンジョン】。俺が【暁の牙鴉】ってパーティーの冒険者だった頃の話だ」


 あ、もしかして”あの話”かな?


 「あの日、俺たち【暁の牙鴉】はいつものようにイヴァーズ・ダンジョン三階層でモンスターを狩ったり採取をしたりと、普通に冒険者の活動をしていた。だがそこに”ヤツ”が来た」


 「ヤツって?」 


 「イヴァーズ・ダンジョンの(ボス)悪魔(デビル)イヴァーズ】だ」


 「は、はあぁぁぁぁ!!!?」


 後の考察だが、ダンジョンは冒険者がモンスターを狩る場ではあったが、ボスの悪魔にとってもそこは人間の狩り場であるらしい。

 瘇気の中でしか生きられない悪魔は地上へ出ることはできないが、餌として人間は求めている。そこでダンジョンをつくり、モンスターを召喚し、それを狩りにきた冒険者を十年程に一度刈りとるのだという。


 「それで悪魔の狩猟日にあたったその日に、ヴィジャス達はイヴァーズに遭遇したわけか。悪魔ってのはどんな奴だった?」


 「とにかく圧巻だったね。巨大で醜悪な化け物。強大な魔力から繰り出される攻撃。不死身すぎる上、とんでもない再生力の肉体。向こうは餌として俺らを求めていたので、こちらを消し飛ばすような攻撃をしないのだけが救いだった」


 戦ったのか。ダンジョンで、浅い階のモンスターしか斃せないパーティーがボスキャラと遭遇したら、ゲームオーバーしかないな。


 「戦い、やがて体力も魔力も限界。追い詰められて魔法も最後の一発を残すのみとなったとき、研究中だった八種類すべての魔法を掛け合わせることを試みた。死ぬ前にこれがどんな効果を起こすのかを見たくってね」


 「起死回生じゃなくて実験だったの!?」


 「その時はみんなもう逃げることすら諦めていた。人間の使うどんな魔法も攻撃も、悪魔には通用しないことを、さんざん見せつけられたからね。もともと魔法を掛け合わせることは好きだった。そのために無理して四種類もの魔法を覚えたしね」


 「他の四種類はどうやってまかなったの?」


 「他の三人がそれぞれ持っていた。みんな俺の酔狂につき合ってくれたよ。で、それを俺が一つにしてイヴァーズにぶつけた。すると…………」


 「イヴァーズは斃れた、というわけか。一発で?」


 「ああ。合一魔法でえぐれた部分は綺麗に消滅して、再生もしなかった。ダンジョンは(ボス)だったイヴァーズが死ぬと、召喚されていたモンスターはどこぞへ消え、王国が支配した。そして俺たちはその功績をたたえられ【冒険卿】という貴族となった」


 「なるほど。すごい英雄譚だ」


 「物語なら『勇者になってめでたしめでたし』で終わりだが、現実の人生は功績によって権利やら義務やらが発生して続いていく。俺は【王国宮廷魔法協会】ってお偉い魔法師の権威の組織から、悪魔を斃した魔法の術式を示すよう命じられた。でもイヴァーズを斃した合一魔法は二度とできなかったんだ」


 「できなかった?」


 「いろいろ試したんだけどね。どうやっても合一魔法の再現は不可能だったよ。イヴァーズを斃したときに出来たのは、正真正銘の奇跡だったらしい」


 「ああ、それでこの体につけた回路か。弟子であるアリエスに八系統もの魔法を使えるようにして、合一魔法の術式を完成させた、と」


 「そう。あとは君からデータをとっていき、他の人間にも使えるように術式を完成させる予定だったんだがね。その暇はなさそうだ。当分は事件を追うことになるだろうな」


 その時だ。リューヤが僕たちの元へやって来た。


 「ヴィジャス卿、親父が帰ってきたぜ。さっそくアンタと話したいそうだ」


 「もう? 村に大量にあらわれたモンスターとやらはどうなった」


 「戦闘はナシに引いたそうだ。どうやらモンスターは、どこかの魔物使いにあやつられていたんだそうだ」


 「ふうん? このタイミングで現れ、メギオが死んだら退()いた。ということは………」


 「ああ。やはりその魔物使いは、メギオと組んでいた奴だろう。親父や衛兵団を引きつけ、その間にこの伯爵館へ盗賊団を送り込む手はずだったようだな」


 「ヤバイな。俺を封印した手はずといい、かなり深い陰謀だ。セイリューと話してくる。ではな!」


 そう言って走り去る猫のヴィジャス。

 やれやれ。こんな女の子に転生させられた挙げ句、とんでもない陰謀劇に巻き込まれるとは。

 これからどうなるやら。



 ◇◇◇


 領都よりはずれた危険地帯の森林の中に【凶月の黒犬団】の幹部は集まっていた。

 三年もの間、計画してきたこの領都での最大の大仕事。

 だが、いよいよそれにかかろうとした途端、同士である公子メギオと副団長ゾルクスの訃報が伝えられたのだった。

 伯爵館へ潜入するための重要な駒の喪失は、大きく計画を狂わされてしまった。



 「庭業者に化けた連中は壊滅。ゾルクス副団長も首をとられたそうです。あと伯爵家公子メギオの病死が発表されましたぜ」


 「チッ所詮はいい所のお坊ちゃんか。”詰め”でしくじりやがって。三年もの計画が水の泡か。ゾルクスの野郎も情けねぇ。衛兵ぐらいブッ殺して逃げやがれってんだ」


 盗賊団首領【ジャギル】は、忌々しそうに髭を「ブチッ」と抜いた。

 このジャギルという男、残忍だけではなくひどく狡猾で、あらゆる悪事を成功させ、ついには国内最大の賞金首となった男だ。

 そんな彼はとある者と同士になり、その要求のために、この伯爵館襲撃を計画したのだった。


 「どうしやす? 館は守りを固めるだろうし、もう破るのは無理ですぜ」


 「館の穴はおっ()んだとして、だ。ゴミ街のほうはどうだ。まだ生きているか?」


 「ええ、いちおう地下に掘らせた穴も無事。そこに潜ませている手下共もとっ捕まっちゃいませんが、どうするんです?」


 「フッフッフ。領都はできれば焼かずに略奪、といきたかったかったが、こうなれば仕方ない。ハデに皆殺しといこう。【ビレニティ・ザ・レオニスター】を燃やし尽くせ!」


 「力技ですかい? こちらもだいぶ被害は出ますぜ」


 「だが、負けはしない。この【悪魔の笛】があればな!」


 ジャギルは手に持った大きな笛を吹くと、近くにいたモンスターはいっせいに集まってきて、かしずくようにジャギルの前に控えた。


 「ちょっ! やめてください、こんな所でモンスターなんて呼ぶのは!」


 「ハッハッハ。オタオタすんない。可愛いヤツラじゃねぇか。こいつがありゃ、世界中のモンスターは俺様の手下。こわいモンなんて何もねぇ!」

 

 この【悪魔の笛】というマジックアイテムは悪魔(デビル)イヴァーズの声帯を使って作られている。

 あらゆる魔物(モンスター)の主である悪魔は、その声だけでも下級モンスターを従えることができるのだ。


 「(かしら)、マジックアイテムの過信はヤバイですぜ。相手は貴族の館。それでも破れないかもしれません。それに冒険卿も、ヴィジャスはいなくてもセイリューは健在ですぜ」


 「ああ、わかっている。だから、いざ伯爵館へ突入してセイリューが出てきやがったら、”弟”でもぶつけるか」


 「なっ! 【プードル】をですかい!? アイツはヤバい! 出すのは反対です! それほどまでに”アイツ”の依頼を引き受けるつもりなんですかい!?」


 「ああ。アイツは神にもなり代われる、とんだ怪物魔法師だ。こんな”笛”なんて作っちまうことからも分かるだろう? アイツについていきゃ、この俺でも王様になり代われるだろうしな」


 「……………わかりやした。おれ達もアンタについていく以外ねぇし、やりやすよ。ただ、”プードル”だけはやめてください。出さない方法を考えてくださいや」


 「弟も嫌われたモンだな。まぁモンスターだけで伯爵館もセイリューもカタァつけてやるよ。準備にかかるぞ。ゴミ街の手下にも連絡だ」


 【凶月の黒犬団】はいっせいに散り、領都【ビレニティ・ザ・レオニスター】攻略へと動きはじめた。


 




 

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