デイつー
「よし!!
トーヤ!そっちに行ったわ!お願い!」
前方から俺に繋ごうとする声が上がる。
「りょーかい」
低い姿勢を保っていた俺がばっと姿勢を正常に戻すと膝まで伸びた草むらを揺らしていたガサガサという音が消え、一瞬の静寂が訪れた。
俺は短剣を片手に構えその何かとの遭遇に備える。
ゴクリ
俺がそう喉をたてると同時に草むらの中から赤い目をした獣が俺目掛けて凄まじい速度で飛びかかって来た。
動きを止めたあの間に力を溜めたのかそれの速度は今までの同一個体とは段違いであった。
「クソっ!!がぁーー!!はえーって!!」
この距離で避ける時間は無い、そう判断すると俺は両手を交差し獣の攻撃に備えた。
次の瞬間前のめりに踏ん張っていたにも関わらず、グイッと上半身を支点に一回転でもしそうな勢いで後方に身体が持っていかれた。
「わっ!ばかトーヤ真っ正面から受ける奴がっ」
エゼルが俺に声を掛けたようだがそんな物は今の俺には届かなかった。
「へぶっ」
情けない声を上げるとその口先から、鼻から血がほとばしる。
俺はよろめきながら体勢を立て直すと痺れて感覚を失った腕を見やった。
「くそ、、買ったばっかだつーのに」
腕に装備した手甲がひしゃげて金属と木製の部分が剥げそうになっていた。
「首がもがれたかと思ったぞ、兎のくせに!!」
俺の目の前に猫の様に下半身を上げて威嚇してくる兎がいやがる、、、。
心なしか兎の口がニヤリと笑っているようにも見えた。
「トーヤ!無事?」
「ああ」
俺はカラカラと音をたててる手甲のついた腕で血を拭うと辛うじて持っている短剣をもう一度強く握り直し気を引き締めた。
「そいつは今までのラビキオとは別物、ここら辺じゃ見るのも珍しいラビギオ!!
逃しちゃっていいいからっ」
は?
逃す?
「値段はっ」
「は?」
「こいつの素材の値段だよ!」
「必死かよ!」
「必死だよ!」
「・・・・多分ラビキオの10倍位。」
「うっしゃ〰だったら逃す訳にいくかっ!このまま逃したら大赤字だっつーの」
「いや、、、お前死んだらもともこもないからな」
頭をポリポリしながら半ば呆れた声を出しながらこちらに手助けに来ようとするエゼルを片手で制止する
「手助け無用、エゼル!次の獲物を探して来てくれ!
それまでには片付ける」
「おいおいおい、流石にそれは無いだろーよ」
「ダイジョーブ俺にまかせておきなさーい」
「お前、頭打っておかしくなってねーか?
まぁお前がいいっていうならいいけど・・・死ぬなよ」
「任せておけ!!」
去っていくエゼルを目で追う。
よし、これで。
「ダイブ!」
彼女の事を信用していないわけでも無いが、、、念には念だ。
俺は、他人がいる前では使えないスキルを使う、そうこの世界には元々存在しないエクストラスキルを。