でいワン4
できました。
「八黒さんは、人生に未練はございますか?」
「はい?」
唐突なネロからの質問に、面食らってしまう。
そんな俺からの答えを待つ様に無言で俺を見つめるネロ。
俺と彼の間に異様な空気が流れる。
「いや、、、その、未練はありますよそりゃ」
「言っておきますが、仕事や生活全般、家族、友人、恋人、あなたが生きてきた過程で出来たしがらみの事を言っているんじゃありませんよ」
俺の心は読まれている前提で話を進めていった方がいいだろう、その方が無駄に嘘をつく必要も無いだろうし。
「ええ、その方が良いでしょう、私はあくまで貴方の言葉を補う為に貴方の心にアクセスしているだけで、貴方自身が私に心を開いてくれるなら、効率的に話が進むので助かります。」
「それは・・・・そうでしょうね、でもどうしても言いたく無い事は言いませんよ。」
「それで結構。
元々それを補う為の力ですから。
さて、本題に戻りますが、八黒さん貴方は亡くなりました、なのでしがらみについてはもうどうしようもありません。
なので、もうそれについてはもう忘れて下さっても結構です。
私が伺いたいのは、貴方がこれまで行ってきた能力の行使についてです。
それに関しては、ここにいらっしゃる能力保持者の方全員に伺っている事、それ以外の事に関してはここでは特に伺いません。」
「スキルホルダー専用って事ですか?」
「スキルホルダーですか、そうですね、そう思って下さって結構ですよ」
「・・・・お・・私は、自分の能力を上手く使えてなかったと思います。
未練と言えば、、無いとは言い切れません。
私の頭がもっと良ければ、要領が良ければ、力が強ければ、もしかしたら、私もヒーローになれたんじゃないかと思います。」
「そうですね、貴方の「ブックマン」は使い方によっては、世界をどうする事も出来る、唯一の能力だったかもしれません。
何せ、本に出てくる万物の能力を自分の物にできるんですから。」
「怖かったのかもしれません、悪用する事も考えなかった訳でも無いですし」
「ええ、貴方は小学生の時にいじめに遭い、その力でいじめた人間の家に放火して復讐を図ろうとした。
それを止めたのが」
「マックススピードです。」
「そこから貴方は大半の生活をハンドレッドヒーローの中で暮して来たと」
「ええ、それもあってか、私が他の世界、本に興味を持つ事もなかったんです、世界なんか、いくつあっても仕方ないですし、現実とハンドレッド ヒーロー だけあれば、、私には事が足りました。」
「ブックマンの能力者であれば、それこそ世界は本の数ある訳ですしね。」
「あいつら、ハンドレッド ヒーロー の面々と話すうちに、やっぱり私も一回はなってみたかったんです」
「ヒーローに?」
「はい。」
「それであの事故に直面した際、貴方は死をも問わずにマックススピード氏の能力を行使したと?」
「そうなります。」
彼はは資料に目を落とすと、ページの端を摘みペラリと捲る
「あの?」
「何でしょう?」
「未練といえば、あの小学生達はどうなりました?
というか、あの事故の顛末はご存知ですか?」
その質問をすると彼はニヤリと口角を少し上げ、俺の彼のイメージにそぐわない慣れた手つきで、箱からタバコを一本取り出すと、キーンという音を立てた高級そうなライターに火を灯してタバコに火をつけた。
「ふぅ〜」
吹き出した煙が、もくもくと天井に消えていく。
「あの一帯ににいた方々は、貴方のおかげで助かりましたよ、その数、およそ8百から千」
「へ?」
ネロの言葉に俺の頭の中がクエスチョンマークで埋まる。
「貴方はあの日ヒーローになったんですよ」
「・・・・あの・・・この状況でからかっているなんて思いませんけど、どういう事でしょうか?」
駄目だ、処理が追いつかん、俺がヒーロー!?
「あの車にはある産業廃棄物がつまれていました、人間にそれはそれは有害な代物です。
それがあの事故により、車外に漏れる可能性があったんです。」
「そんな物がなんであんな車に?」
「不法投棄。」
「・・まさか・・そんな。」
「八黒さんあなたはそれを偶然とはいえ未然に防いだんです。
ここはそんなただのスキルホルダーではなく、大勢の命を救った真のヒーロー専門に後の生活を斡旋する、案内所なんです。」
駄目だ、処理が追いつかん、俺がヒーロー!?
あかん、あかん、思考停止してた。
「はい?・・・あ、すいません、ボーッとしてました」
「上の空、、でしたね。
心なしか口角も上がっている様ですが。」
その言葉に無意識に上がった俺の右手が頬に触れる、彼が言った様に顔には笑顔が浮かんでいた。
「嬉しい、、?
俺死んじゃったんですけどね。
そうか、嬉しいんですね、、。」
ネロはそんな俺を一際深くタバコを吸うと灰だけになった吸殻を灰皿に押し付け、空中に向かって大量の煙を吐いた。
「さて、話を戻しましょうか」
「あ、はい、すいません」
「あなたは人生に未練はございますか?」
「え、そこからですか?」
「冗談です、少しはリラックスしてきましたか?」
彼なりの気の使い方なのだろうか?
「は・・い」
彼の鋭い視線が俺にプレッシャーを与えている事は黙っておこう、、、。
まぁ心は読まれているんだからこっちから言うのもあれだろうし。
「先程申し上げた通り、ここはヒーローに後の生活を斡旋している案内所なのです。」
はい、淡々と進める訳ですね。
「その案内所というのは?」
「具体的には二つ。
一つは全く新しい生として元の世界で生まれ直すか。
もう一つは、異世界で今の続きから始めるか。」
「・・・・・続き?」