デイスリー7
完成です
50901
「命に別状はありません。
恐らく、薬物によって眠らされているかと」
エゼルが板切れに乗せて運んできた木工ギルドの人達の手を取りエミさんが個々に状態を確認している。
板切れは、祭壇を破壊して入手したそうだ。
辺りはすっかり暗くなってしまい、町迄の距離を木工ギルドの人達を担いで移動するのは危険との事で、ほら穴の近くで野営をすることになった。
焚き火の明かり程度の中テキパキと作業をしているエミさんをボーッと見つめる俺とエゼル、はたから見たらえらいシュールな絵面なんだろうなぁ。
「首切る前に眠らせるなんて、結構人道的なんだなゴブリンって」
薪をくべながらエゼルが口を開く。
「嫌、生贄に攫ってるって時点でアウトだから」
「あうと?」
「いや、非人道的って意味だよ。」
ぱちっと木が割れる音がする。
焚き火には、エゼルが狩ってきたラビキオが、焼かれていた。
「たまにお前、わけわからん言葉を喋るよな、お国言葉なのか今の?」
「ああ・・・まぁ、そんなとこ」
「それに、今のはこの場の雰囲気を和ませようととした、アレだからな。」
「アレってなんだよ、、、。
まぁ、本気で言ってたとしたらドン引きだけどな」
クスっと笑ってしまう、別に言わなくてもいい事をポロッといってしまうのが、彼女らしい。
「フンっ、で、お前のその腕」
「ああ、エミさんのおかげでなんとかな」
包帯で吊るされた俺の左腕は、ホブにやられた時点で複雑骨折をしていたらしい。
エミさんの回復魔法で完治迄とはいかないが骨自体はくっついたらしい。
回復魔法も、段階があるらしく、エミさんの使える回復魔法は初級のみだそうだ。
その初級の回復魔法を連発でかけても逆に腕が変形する恐れがあるという事で、こんな状態である。
エミさんには謝罪されたがとんでもない。
俺自身は再起不能を覚悟していたので、本当に魔法のありがたさを再認識した。
この包帯も明日神殿に行ってちゃんと診て貰えば取れるって言ってたし。
「彼女本当に優秀なんだな、ギルドじゃタダの置物なんて言われてるくせに。」
「置物?」
「ああ、そういやお前がギルドに行ったのって、登録の時だけか、それじゃ知るわけないよな。
彼女、多分毎日ギルドに来てるんだが、いつも掲示板、依頼書が貼ってある奴な。
それのパーティ募集のとこ食い入る様に見てるんだよ。
だが、取っていく依頼書はいつも、個人で出来る薬草収集やモンスターの素材収集の依頼書だけ。
それを見兼ねて、何組かパーティが声を掛けたんだが、そそくさ逃げちまう。
それを繰り返すうちに誰も彼女に興味を持たなくなっちまって、今じゃ、置物扱いさ。」
「エゼルは声かけなかったの?」
「あたしが?なんで?」
「嫌、パーティメンバーが揃わないとかなんとか言ってたろ」
「あたしは基本ああいうタイプは苦手なんだ
学者タイプというか、インテリタイプというか、頭のいい奴と会話が出来るなんて思ってないしな
それに、シャッキング何て言われてるあたしの誘いに乗る奴は今のギルドにはいやしないさ。」
「じゃあ俺はどうなんだっていう話になるけど?」
「お前はあたしとおんなじだろトーヤ?」
真面目な顔でキョトンとされると何も言い返せないんですが、、。
多分、後に言ったことの方が本音っぽいけど、、。
それにしてもその置物が、責任を感じて俺に声をかけてきたのか、、。
彼女にしたら、一大決心だったに違いないな。
そのエミさんが、職人さんを起こして取り出した薬を飲ませた。
「げ、げほっうぇ」
少しして、咳と共に職人さん達が目を覚ます。
「もう大丈夫です。」
仕事モードのエミさんが力強く言葉を発した。
「へーあんな顔するんだな。」
「彼女本来の表情だろあれが。」
「ここは?」
「ほら穴の外です」
「はっ!、ゴブリン共は?」
「ここにいたと思われるゴブリンは処分しました。
私のスキルにも敵の反応はありません。」
「スキル?君らは冒険者かい?」
「はい」
「そーか、でも誰が、、依頼を?」
口髭を生やした一番がたいのいい親父を口火に質問合戦が始まる。
がたいだけ言えば、俺やエゼルなんかよりずっと冒険者よりな男達のプレッシャーはなかなかにキツいものがあった。
「えーーあの、近いです。」
ぎゅーっと握られ振られた肩が痛いです。
「いや、すまん、状況が掴めなくてな」
「気持ちは分かりますが、まずどうです?」
俺は沸かした湯にエミさんから貰ったハーブを浸した物を親父達に勧める。
「ああ、助かる」
カップを受け取ると結構熱いだろうが、ゴクゴクと音を立てて飲み干す。
「よかったらこれもどうぞ。」
ラビキオの串焼きも勧める。
彼らはそれを受け取ると、貪る様にガツガツと胃袋に納めていく。
俺はもう一度お茶もどきを勧めて話を切り出す。
「俺たちはイーラちゃんの依頼であなた達を救出に来ました。」
「イーラの?
娘は今!?」
よかった、、、本当に良かった。
イーラちゃんのお父さんは無事だった様だ、予想通りこの髭を蓄えた一番いかついこのおじさんがイーラちゃんのお父さんの様だ。
「カッコウ亭のおかみさんが見ていてくれています」
「そうか、、なら安心だな」
お父さんが大きく息を吐く。
彼の肩の力が抜けるのを感じた。
「はい、現在の状況は先程も仲間が申し上げた通り、安全です。
俺の仲間が周囲の確認も終えていますし、定期的に見張りも立てる予定です。
ここで朝まで野営して、町に戻ります。」
「ああ、わかったが、君、その怪我は大丈夫なのかい?」
「ええ、これも仲間のおかげで大事ではありません」
「そうか、、、なら良かった。
だが、、よく、年端もない子供の依頼で動いてくれた。
悪戯とは思わなかったのかね?」
「悪戯とは思えませんでしたから、もし、そうだったとしても俺は動いたと思います。」
「まぁ、、こいつ、正義バカだしな」
エゼルがチャチを入れてくるが、放っておく事にしよう。
「正義バカか、ハハ、そのバカのお陰で俺達は助かった訳だな。
感謝する」
座った姿勢のまま木工ギルドの面々が頭を下げる。
「いえ、そんな大そうなものじゃありません。」
「いや、本来は冒険者の護衛を付けるべき案件だったんだが、ここまでモンスターが活発化しているとは思わなくてな、まさか、ホブやシャーマンがここまで出張って来るなんて思わなくてな。
油断しちまった俺のミスだ、そのせいで、ザグルの野郎も、ヨインの野郎も逝っちまった。」
「あ、その方達の埋葬も済みました。
勝手に、すみません」
エミさんがボソボソと報告する。
「そうか、あんた神官さんかい?」
「え、はい見習いですが、資格はあります。」
「そうか、じゃあ安心だな、すまないな、本来ならあいつらを弔ってやるのは俺達の仕事なんだが」
「いえ、やすらかに送って差し上げるのが私の務めですから、当たり前の事です。
ゾンビ化みたいな負の連鎖を起こす訳にはいきませんから。」
「ああ、、ありがとう」
「いえ、、。」
エミさんはうつむきながらも感謝の言葉を受け入れていたと思う。
少し嬉しそうだった。
「さて、少しでも体を休めといた方がいいよ。
精神的にもキツい1日だったんだからな」
エゼルが話を切り上げ、会合はお開きになった。




