ハクと白虎【1】
お久しぶりです、実は失踪してないです、お待たせしました!
やっと現実的に時間が取れるようになったので投稿です。
『ふむ。そろそろ時間のようだ。後は任せたぞルイン』
白虎はルインの側にハクを戻すと、巨大な体が透明化していく。
そして最後は何もなかったかのように消えていった。
突如現れた虎の姿は既になく、荒れた室内には、アネットの魔法を受けた柱が佇んでいる。
…と、今度は外から慌ただしい足音がいくつも響いてきた。
「一体何事じゃ!!!!」
勢いよく開いた扉から、この学園の校長であるガンダルドと、複数の教師達が入ってくる。
「これは!?」
「イル先生!!先の膨大な魔力といい、これは一体何があったというのじゃ!!」
「…あ、それが、その」
ガンダルドは直ぐ様周りを見渡す。
「……聖獣?!」
目に止まったのは、ルインの側に居るハクを見て思わず声を上げた。
「…んん"。じゃがまずは生徒達を救護室に運ぶのが先…いや、ここを仮の場所にすればよいか」
魔法を複数唱えると、倒れていた生徒達が宙に浮き、地面から迫り出して造られた土の即席ベッドに乗せていく。
そして共に室内に入ってきた教師達に引き継ぎ、周りに指示を飛ばす。
倒れていた全ての生徒達を寝かせ終えたガンダルドは、イル達に視線を向けた。
「イル先生とそこの騎士よ、何があったか説明してもらうぞ。ルインと…聖獣様もご一緒に。グレンもこちらで見たほうが良さそうじゃ」
ルインとハク、抱えられ意識のないグレンを一瞥して、ガンダルドは入ってきた扉を開ける。
ルイン達は何も言わず、そのまま無言で後ろをついていった。
……
……
救護室に到着したルイン達はそれぞれソファの上に腰掛けた。
ルインの隣にイルが座り、後ろには騎士の男性が立つ。
テーブルを挟んだ向かいにガンダルドが座った。
グレンは室内にあるベッドの上で寝ている。
救護室の中は複数の部屋が個別に存在し、更にその中はベッドが置かれている部屋と、テーブルやソファーが置かれている休憩室のように区別されていた。
「して、説明してもらうぞ?」
ガンダルドの有無を言わさない鋭い視線を受け、ルインは思わずゴクリと喉を鳴らした。
「……私が、説明致します」
イルが、今日起きた出来事を始めから説明していく。
魔導書の不具合から始まり、ホッズ達の事からグレンが精霊である3人のフェアリーを召喚。そして、ルインが聖獣を召喚した事。アネットの暴走。巨大な虎が突如出現し、アネットを止め、生徒達が倒れた所まで。
「マグロス侯爵の息子にエルリンダ公爵の娘か。何とも馬鹿な真似をした事だ。……2名の処遇に関しては、また日を改めて話をするしかなさそうだ。此度の件、ワシの判断だけで済む様な話ではないようだしの…」
やれやれとガンダルドは頭を振るう。
「では次だ。ルインよ、今一度問うが、お主は本当に聖獣様と使い魔の契約を交わしたのか?」
「…はい、事実です。おれは聖獣の、ハクと契約を交わしました」
「きゅいっ!!♪」
あの場で契約したわけでは無いが、一応…嘘は言っていない。
ルインの言葉に、ハクは嬉しそうに声を上げる。
「……そうか、大変喜しい。この国に聖獣を使い魔にしているのはルインを含め、これで3人になったわけじゃな」
「……3人、ですか?おれと……」
「うむ。我が国の国王陛下、そして…このワシじゃ」
「えっ!?!?」
ルインの驚いた顔に、ガンダルドは豪快に笑う。
「やはりお主は気がついておらんかったか。結構有名じゃと思っとったんだがなぁ…」
「ええぇ……」
「でじゃ、お主は近々城に呼ばれ、国王陛下に謁見する事になるじゃろうて」
はははっと、今度は愉快にガンダルドは笑った。
「………え、今なんて?」
思わずルインは聞き返す。
「ん?城に呼ばれ、国王陛下に謁見するんじゃ」
「何で……」
「何で?歴史上、この国で聖獣を召喚したのはルイン、お主が初めてじゃからだろうて。ワシや国王陛下は、代々受け継がれてきた盟約によって聖獣様と使い魔の契約を結んでおるが、野生の聖獣が召喚魔法によって現れ、契約に至った例は初なのじゃよ」
ルインはちらりとハクを見る。
大変可愛らしい鳴き声と共にハクは、にぱっと笑った。
「もちろん自国の事に限っての話なので、他国では前例があるかもしれんがな。まぁそんな話は聞いた事は無いが…」
「ほ、他に聖獣と契約を結んだ例は?」
「他大国の国王達に聖国の聖女、後は初代勇者様と数名の歴代勇者様くらいかの?そう考えると、ルインは歴史上でも初めての一般人枠じゃな」
段々とルインの顔が青褪めていく。
腹を括るしか無いと思ってはいたが、寧ろ今は腹を切って眠りたい。
「まぁそう言う訳じゃ。これも近々お主の家に連絡が行くじゃろう。此方からもお主に連絡はするが、後の詳細は家族から聞くが良い」
「………はい」
「でじゃ、次は巨大な虎についての話しなのじゃが…」
そこで、がちゃりとグレンが眠る部屋から、救護担当の女教師が出て来た。
前世で言うところの、保健室の先生って所だ。
「グレンの様子はどうじゃ?」
「………おそらく魔力切れが原因かと」
「おそらくじゃと?随分と曖昧ではないか」
「症状は魔力切れとほぼ類似しているのですが、残りの魔力量が余りにも少な過ぎて…。魔力切れの症状は、多少の魔力を残した状況で気絶するのが普通なのですが、この子に関してはほぼゼロ…ショック死寸前って所でしょうか」
教師の話しに、ルインは白虎の言っていた言葉が頭を過った。
「何じゃと!?それでは相当危険な状態ではないか!!ポーションは!」
「もちろん試しました。飲ませる事は不可能でしたので、皮膚に垂らして吸収させようと。ですが何故か、弾かれるようにポーションが吸収されなくて…。唯一出来たのが鑑定です。それすらも名前と、魔力量のみが診れただけ。他に外傷などは一切なく、本当に魔力だけが根刮ぎなくなっている様な…、こんなの、外部からの干渉が無い限りは………」
教師の一言一句に、ルインの肩がびくりと跳ねる。
たらりと冷や汗が垂れ、目が泳いでしまった。
そんなルインの不自然な行動を、ガンダルドは見逃すはずはなく。
「……ルインよ。お主、何か知っているな?」
ギクギクッ!と体が言葉に反応して跳ねる。
それだけで、何かありますと言っている様なもの。
「い、いやぁ?!何の事だかおれにはさっぱりでぇ!」
絞り出した声は、大根役者もひっくり返るほどに裏返った。
グレンというオペレーターが居ないルインに、腹芸など不可能。
垂れた汗をハクがぺろりと舐める。しょっぺぇっ!っと体をのけぞらせ、ひっくり返った。
「…あの、その事なのですが、私から少し話しておく事が」
「失礼ながら、私からも少々お話しできる事があるかもしれません」
そこでイルと男性が手を上げる。
イルはハクの行動に関する最終決定権が契約者ではないグレンにあることを話す。
男性はグレンが倒れる寸前、何かと会話をしているような感じだった。など、その時の状況を述べた。
「……ふむ。確かイル先生は魔力を色で見る事が出来るんじゃったかな?」
「はい。私が持つスキルの一つで、魔力を色で見分け、その色によってどんな状況下に置かれた魔力なのかを見分けています。そのおかげで魔法の発動、召喚の上下…主従に関してどの割合の関係性なのかなど、判断しております」
「なるほどの。それが先に述べた聖獣様の最終決定権と繋がるわけじゃな。………してルインよ、これはどういう事なのじゃろうか?説明してもらえないだろうか?」




