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選ばれたのは【3】

同名【2】〜続き


しん…と室内が静まり返る。

ホッズが去り、誰も音を立てていなかったが故に、一層室内が静寂に包まれていた。


「え、えっと。初めましてな子もいるかな?私の名前はイル。後の授業は私が受け持ちますので、男の子達もよろしくね。じゃあ残りの子達も召喚魔法を始めましょうか。…あ、先にどっちにした方がいいのかな」


男子の残りは、問題があったグレンとルインのみ。

本来であれば直ぐに済むグレン達の方を、先に済ましておくのがいいが、魔導書の一件があるので悩んでいるようだ。


「女子達が先でいいですよ。俺達は一応、既に召喚魔法を試した訳ですし。それに、ここはレディーファーストと言う事で…。花を渡せる機会を頂けると嬉しいのですが」


どうですか?と、グレンは提案する。

内心、全く持って嬉しいとは思ってはいないが。


側で見ていたルインとアウグリッドは、グレンの、歯が浮くような言葉に呆れていた。



女子達は男子に比べ、使い魔を召喚出来ていた数が多かったのか、進行が遅く、残りの生徒がまだ十数名程残っていた。


「兎に、鶏。亀に……あれは何だ?」

「あれはウィンドベアー。よく耳にする方はウィルベアーだけどね」


暇になったグレン達は、召喚されたままになっている使い魔を眺めていた。


「風の熊」

「でもあれは幼体だから…大きくなると2メートルはゆうに超えるらしいよ」

「へぇ……」


まるでぬいぐるみのように地面に座り込む熊を見つめる。

おかしい。ルインの背後に、あの凶悪な熊が立っている気がしてならない。


「よく耳にするってなに?」

「それは単純だよ。名前が呼びにくいからってだけ」

「なるほどー」


女子達の召喚魔法は進み、残りは一桁になった。


「にしても、おれ達の魔導書はなんで魔力が入らなかったんだろう?」


問題が起きた魔導書は今、グレン達が持っている。


「でもホッズ達が使ったまでは、普通に使えてたじゃん?」

「確かに」


そこで、そういえば。と思い出した様にグレンは魔導書に向けてスキル【鑑定】を使った。


「あー……今、鑑定使ったんだけど」

「あ、そうじゃん!それがあるじゃん!…で?どうだった」

「普通。別に故障してるわけでもなかった」


結果は至って普通の、何の変哲もない召喚魔法の補助魔道具だった。

うーんと悩むが何か進展があるわけでもなく。


魔導書を開き、某有名な言葉を述べても、当たり前だが龍が出てくる訳もなかった。




……

……



「あら、最後はエルリンダさんだけ?残ってる女の子はいないですかー?」


召喚は進み、残る生徒はー。とイルが周りを見渡すが、召喚魔法を試していない女子生徒は、アネットのみとなっていたようだ。


「うーん、残りは男子2名だし、一緒にやりましょうか!…いいですか?エルリンダさん」

「えぇ、よろしくてよ」

「よしっ。じゃあグレン君、ルイン君。もう一回試してみましょうか!」


「………」

「………」


最後の2人だけで行うと思っていたグレン達は、まさか同時に行うなんて考えてもいなかった。

何かと自身の下に置きたがるアネットの性格にうんざりしており、少しでも距離を取りたいグレンは「レディーファースト何て言うんじゃなかった」と、小さく愚痴った。


思わずため息を溢した2人は、重い足取りのまま、魔法陣の上に立つ。


『なぁ。どうやっても主は使い魔、出てこないぜ?』


すると、今の今まで黙っていた白虎が、グレンに突然念話を飛ばしてきた。


「………は?」


思わずグレンは、念話ではなく素で声が出てしまう。



「グレン?」

「…あぁ、いや、その」


ルインの声に反応するも、困惑するグレンに、念話を飛ばす。


『どーしたん?』

『あー……白虎から聞いてくれ』

『……うん?……白虎、何事?』

『おー。主は俺っちと既に契約してるから、いくら召喚魔法を試した所で、誰も使い魔になる奴は来ないってことよ』


「………え?」


ルインの声も、素で出た。


『まぁ?俺っちの存在がデカすぎるんだよなぁ!はははっ!!いやー、ちょっと落ち込んでる主を見るのは爽快だった!!…あ。ルインは単純に、流す魔力が少なすぎるだけだから、もうちょい多く魔導書に流してみな』

『ア、ハイ』


教師のレイは2人を見て、不安なのだろうと勘違いした。


「グレン君、ルイン君。気負わなくて大丈夫ですよ。魔導書に問題は無いですし、もう一度、リラックスして試してみましょう!」

「……ソうですネ」

「ア、ハイ」


ルインの隣には、何の気負いもなさそうにアネットは笑みを浮かべている。


「じゃあ、気を取り直して!始めてください」


「【おいでなさい!ワタクシの僕!】」


「今度こそ!【一緒に遊ぼう!!】」


アネットとルインはそれぞれ魔力を流して言葉を放つ。

魔導書が輝き出した中、グレンは無言でそれを見つめていた。


「………」

『まー、そう落ち込むなって。俺っちがいるだろ?』

『……落ち込んでねぇよ』

『嘘は言わないでいいんだぜ?俺っちにはお見通しよ』

『……はいはい、そうかよ』

『強がっちゃってまぁ………しょーがねぇなぁ。契約は無理でもお遊び程度にはなるだろうさ』

『……白虎?『【おいでませ!!】』……はぁ!?!?」


カッ!とグレンが持つ魔導書が輝いた。

それは目が眩むほどの輝きを放ち、室内に居た全員が目を瞑る。

キラキラと光の粒子が室内を降り注ぐ。


「ちょぉーっとおおおぉ!!!!急に呼び出すなんて非常ぉ〜識じゃなぁい!?」

「うわぁあぁ。人間がいっぱいっ!!!」

「…………ここ、見たことある」


目を開けると、何時ぞやの森で会った精霊3人がパタパタと宙に浮き、グレンの前に現れた。


そしてルインの前には…、


「きゅいッッ!!!♪♪♪♪♪」


どうも聞き覚えのある、可愛らしい鳴き声が室内に響いた。


白銀の毛並みにつぶらな瞳。二つに分かれたふわふわな尻尾。

前足を綺麗に揃えてお座りするその姿は、どこからどう見ても、銀狐で聖獣で…ルインの使い魔でもあるハクだった。


全員の思考が停止する中、空気を読まない奴らが喋り出す。


『ぶわあ"ぁーははハっ!ヒィヒィッア"ーはハハハッ!!!狐っ子!!おめぇ俺っちが主に繋げた回廊、わざわざルインに繋ぎ直してまでそっちに出るこたぁねぇーだろーよ!ははははははっ!!』


白虎が念話で笑い出す。

止めも出来ない念話にグレンは無意識に、意味はないが、耳を手で塞いだ。


「きゅい!!きゅいきゅい、きゅーっ!!」

『あぁ?なるほどなぁ!!これで狐っ子も公認の使い魔って事か!!やるじゃねぇか!俺っちもそうすればよかったかねぇ』


側から見たら、ハクが1人できゅいきゅい、きゅー。

そして、ハクはルインの腹目掛けてダイブした。

ごふっ。と不意打ちを食らったルインが、膝から崩れ落ちる。


「んもーっ!何なの!?…って、あぁ〜〜ッ!!!アンタ!生意気なガキ!久しぶりじゃない!!あれ、アンタ随分と大きくなったわね。ちょっとイケメンになって……って、何よ、耳なんか塞いじゃって。聞こえてんでしょ!返事ぐらいしなさいよっ!!無視するなっ!!」

「ホントだぁ。久しぶりだね!あ、ルインもいる!何々、何のお祭りをやってるの??」

「………グレン、ルイン久しぶり。大きくなったね」


以前会った時は見えなかった火、空、風の精霊が、今ははっきりと目視出来ており、グレンの周りをぐるぐると回る。

姿自体は初めて見たグレンだが、どうしても聞き覚えのある声に、僅かに保たれていたグレンの目から光が消え、等々死んだ。


「…ハハ。君達、初めましテ」

「……は?アンタ何言ってるの?それよりも何、用事?アタシ達今ちょー忙しかったんですけど!!」

「用事は、無い……」

「はぁ!?じゃぁ何で呼んだのよっ!せっかくいい感じに焼けたミノタウロスの肉を放り出してまでこっちに来てあげたのに!」

「いや、多分呼んだのは俺じゃなくてルインの方…」

「何!?アタシ達じゃ不満って訳!?」

「そうは言ってないだろう…」

「ふんっ!なら代わりにグレンの魔力で手打ちにしてあげる。感謝しなさい!」

「わぁ!グレン、いいの?」

「……グレンの魔力、美味って聞いた」


ずいずいずいっと、グレンの顔面スレスレに精霊が詰め寄る。


「理不尽だろ………わかったって。睨むなよ、ほら」


精霊から一歩引いたグレンは、それぞれに自身の魔力を渡した。


「ん、まぁまぁね。…ルインや聖獣様にも挨拶したいけど、お取り込み中のようだし、仕方ないわね。…まぁいいわ!次呼ぶ時はちゃんと用事がある時に呼んでよね!」

「いや、だから俺じゃなくて…」

「わかった!?次は!早めに!連絡する事!!もぅ!アタシ達は行くわ!じゃあネ!」

「火は素直じゃないね〜。またね、グレン。次は遊ぼうね」

「………じゃあね、グレン。ルインにも、よろしく」


喋るだけ喋って、食べるだけ食べた精霊達はそう言って、瞬き一つした瞬間に消え、絶対に面倒事が増えたとグレンは頭を抱えた。


一方、グレンの同時間に腹にクリティカルダイブを食らっていたルインは、まさか内臓が少し傷ついていたなんて、誰も思うまい。

自身に〈ヒール〉を使う。直ぐに痛みがなくなった。


「きゅい…」

「大丈夫、大丈夫。怒ってないから」

「きゅー…」

「ああ、本当だって。気にしてないよ」


ハクの頭を優しく撫でる。

生徒達の視線を一片に集めるハクの姿に、ルインはどうしたものかと考えた。


『ルインよ。いずれにせよ、……ふ。いつかは狐っ子が表舞台に出てくる事になっていたはずだ。時が早まっただけの事…ぶふっ』


ルインに、白虎の念話が届く。


『まぁ…既に出てきちゃったし、腹を括るしかないよな』

『だが…ふ、ふハはハッ!本来は主の方に狐っ子が出てくる筈だったんだがなぁ。まさかこうなるとは…クククッ』

『…でもあれ、放っておいていいのか?』


チラリとグレンの方を見れば、見覚えのある精霊3人が、グレンの周りをぐるぐると回っていた。

まるで、か〜ごめ、かごめ〜と、前世のチビ達が良くやっていた遊びをしているかのよう。


『奴らは奴らで楽しんでる様だし、問題無いだろうさ。それとも何か?奴らと使い魔の契約を結びたかったか?』

『どっちでもいい、んじゃね?』

『はははっ!まぁ契約したらしたで、狐っ子が拗ねてしまうだろうさ。……ほら、そろそろ狐っ子をかまってやったらどうだ?』


抱えていたハクを見れば、ほっぺがプクッと小さく膨れていた。あまりの可愛さに、指でほっぺを挟む。

すると、ボフュンと音を立てて、ハクの口から空気が抜けた。


「きゅ〜い〜〜ッ」

「ははっ、ごめんごめん」


ルインの腕を、ハクは尻尾でぺしぺしと叩いた。


暫く2人の世界に入っていたルイン達に、ようやく思考が追いついたのか、他の生徒達から、わぁっ!と声が上がる。

丁度グレンの方も、精霊達が消えた瞬間だった。



……

……



冷める事を知らない興奮に、生徒達はグレンとルインに詰め寄った。


「なぁ!あの精霊って、フェアリーだろ!?」

「あれがそうなの!?私、初めて見た!!」

「すげぇな!!精霊の声なんて初めて聞いたぞ!!」


グレンはまるで拳銃を突きつけられ、両手をあげる罪人の様。


「ねぇ!その子、聖獣様なんでしょ?あの精霊達が言ってたわ!」

「聖獣って、使い魔に出来るのか!?」

「お願い!ちょっとだけでいいから私にも触らせて!!」


ルインはハクを死守すべく、高々と持ち上げる。

生徒達は、まるで特売バーゲンセールに群がる戦士達の様。


そして、今にも押し潰されそうになる瞬間、教師であるイルの声が響いた。


「皆さん、落ち着いてください!!」


まるで耳元から発せられたかの様に、イルの声が喧騒の中はっきりと届く。


「2人から、離れてください」


ゆったりとした声色に、生徒達は興奮が落ち着いたのか、少しずつ、グレン達から距離を取っていく。


「先生の言葉を聞いてくれてありがとう。グレン君、ルイン君、直ぐに止められなくて、ごめんなさい」

「……いえ、俺は大丈夫です」

「おれも…ハクに何かされた訳じゃ、ないですし…」


真犯人は別にいるんですよ。と…グレンは無言で、すっかり大人しくなった白虎な腕輪を強く握る。


「ありがとう。聖獣様も、騒がしくして申し訳ありません」

「……きゅい?」


イルの言ってる意味がわからないのか、ハクは首を傾げる。


「五月蝿くしてごめんなって。許してくれるか?」

「きゅいっ!」


ハクは片手を上げて答えた。


「えっと、聖獣様は何て……?」

「いいよって言ってます。ハクは優しいですから」

「…そうですか。良かった」


ルインの言葉に、イルはホッと胸を撫で下ろした。

そして一度姿勢を正すと、先までの穏やかな雰囲気が一変する。


「ウィズグラント卿」


イルはグレン達の性を述べると、その場で()()()()()()()貴族の令嬢がする様なカーテシーをした。

今世、母であるリラや姉のメイラが、この挨拶をしているのをよく目にしている。


「…………何でしょう」

「この場を借りて発言する事を、お許しください」

「…どうぞ」

「私は、現当主であるコール・ローゼ・アスロン子爵が娘、イル・ローゼ・アスロンと申します。この度、聖獣様を使い魔に召喚なされた事、大変喜ばしく思います」


この時点でグレンは、生徒と教師という立場から、貴族令息と貴族令嬢という立場に変わったのを理解した。


「………それは私ではなく、双子の弟であるルインにかける言葉では?」

「もちろんで御座います。ですが今は火急ゆえ、()()()()()()()()()()()()に申し上げております」


グレンはイルの言葉に、ピクリと小さく眉が上がった。


「……何故、契約者ではない私の方が、決定権が上であると思ったのでしょうか」

「……失礼ながら、この場ではお答え致しかねます」

「話せないのか?」

「……申し訳ありません」

「「………………」」


無言の攻防に、グレンが折れる。


「まぁいいでしょう。この場と言うくらいですから、後ほど答えてもらうとします」

「ご配慮感謝致します」

「で?火急の件とは何でしょう?」

「つきましては、別室にてお話を伺いたく」

「……はぁ。わかりました。それと私だけですか?ルインは?」

「もちろんルイン様も。付き人をすでに用事しております。そちらの者に案内をさせますので」

「ミス・アスロンは?」

「私は生徒達を別教師に預けてから伺わせていただきます」

「そうですか」


グレン達は出口がある方に目を向けた。

そこには、騎士の様な格好をした男性が、扉の前で待機していた。その男性と目が合うと、彼はその場で黙礼をする。





「納得いきませんわ!!!!」




グレン達が彼に付いて出て行こうとすると、室内に甲高い声が響き渡った。




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