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選ばれたのは【1】


あれから数ヶ月が経過し、日々過ごしていく中で、大体の行動が固定化されてきていた。


毎朝グレン達は、他の生徒達が起き始めるより少し早めに起床する。

朝食の時間になるまでは魔力制御の訓練を行い、大体の身支度が済めば、寮から転移門を使って学校へと向かう。

女子生徒から熱い視線や黄色い声などは未だに受けるが、入学当初や再開当初と比べれば大分落ち着いて来たと思う。

もちろんグレンの魔法のおかげとも言える。


日中、前世の記憶も残る現時点では、頭を悩ませる難解な授業などまず無く、機械のように淡々とこなす日々。

時に武術や剣術の授業で人目置かれ、時に魔法の授業で壁を破壊するが、A(S)クラス、金の瞳、侯爵という三代スペックによって、あぁグレン達だからね。と解釈され、特に大きな騒ぎになる事はなかった。


そして夕方から夜かけては訓練所で自主訓練を行い、白虎やハクと友情を深め、時に白虎に拳骨をして、至って平和な学校生活を満喫していた。


ちなみに、ホッズとアネットは、何かとグレン達に突っかかって来るが、その度にグレンが適当に流す日々が繰り返されていた。


そしてそれは相変わらずであり…、


「見てろ!お前より俺様の方が優れている使い魔を召喚してみせる!!」


今日は、A、Bクラス合同の召喚魔法の授業がある日だ。

授業を行う場所に移動し、さて召喚魔法を…と、担当の先生が準備に取り掛かった瞬間にこれである。


「そうですね。そうなる様に是非頑張って下さい」


にこりと微笑みながら、グレンは今日も適当に流す、流す。

最近では、何度もこの様な事が繰り返されているので、他のクラスメイト達も、ひそひそと様子を伺うばかりになっていた。


取り巻きに加わっている生徒は、後ろでホッズ達を持ち上げるのに必死にはなるが、直接的には関わってこないのでスルーしている。

担任のゴロガンや、別授業を担当する他の教師達は、注意しても全く言う事を聞かないホッズ達に、毎度頭を悩ませていた。


ただ、同じ年頃の生徒であれば、大体はこの時点で如何に温厚な生徒であれ、取っ組み合いの喧嘩に発展しても可笑しくは無く、教師達は口にはしないが、スルーを決め込むグレンに対して、評価が上がっていた。


「ハッ!強がるのも今のうちだ!その生意気な顔、今日でぐちゃぐちゃにしてやる!!」

「そうですか。お手柔らかにどうぞ」


変わらない態度にイラついたのかホッズは、ドンッ!と、グレンの肩を思い切りどついて去っていった。


『猫な主は今日も人気者だなぁ?』

『うるせぇ…毎度迷惑してるんだ。そんなに人気者がいいなら白虎が相手しろよ』

『嫌だね。クソ不味そうな魔力持ちなんて、こっちから願い下げだ。あんなもん食べてみろ、一瞬にして俺っちのキューティクルが落ちちまう』

『お前のその変な基準は何なんだ…』


相変わらずケラケラと念話を通して笑っていた白虎と話していると、キンッと耳に響く声が室内に響いた。

振り向けば、今度はルインの方が絡まれたようだ。


「はぁ……だからさ、何度も断ってるじゃん。何回このやり取りしないとダメなの?」

「あら、断る理由など無いはずだわ。今ならまだ許して差し上げます、そろそろワタクシに仕えなさい」

「だぁかぁらぁ!!ーー」


「おーい!男子達はこっちにあつまれー」

「はーい!!女の子達は此方に集まって下さーい!!魔導書を渡しますよー!」


ルインの言葉に被さるように、召喚魔法担当の教師2人が、男女分かれて声をかけ始める。


その声に気がついたアネットは、「ふんっ!」と鼻を鳴らした。


「毎度毎度ワタクシの会話の邪魔をするなんて、何様なのかしら。…ルイン、もう一度良く考えなさい。これから、誰よりも優れた、最高の使い魔を召喚するのはこのワタクシ。そこに仕える事が出来るのは最高の名誉でしょう?こうして悩めるのも今のうちよ?」


それだけ言うと、真っ赤な髪を翻し、ルインを残してアネットはその場を後にした。



……

……



「よし、じゃあBクラスから順番に召喚魔法を使用していく」


召喚魔法を担当する教師が、集まった男子に声をかける。ちなみに魔導書が手元に回って来るまではグレン達は見学だ。


「やり方自体は簡単だ。魔導書を持って、魔法陣が描かれている床の上に立つ。両手でも片手でもいい。次に魔導書に向かって自身の魔力を送る。その後自分考えた言葉で使い魔を呼ぶんだ。何か質問は?」


「自分の考えた言葉って言うのは具体的に何ですか?」


「【来い】でも【友達になって】でも、何でもいいんだ。【三食昼寝付き】でも問題ない。ちなみに私は、【君に会ってみたい】と言った。あぁ、ただ気をつけるとすれば、約束出来ない事は言ってはいけない。先程の【三食昼寝付き】と言った生徒は今でもしっかり三食昼寝付きで使い魔と共にいる。愛想を尽かされたくなければ、約束できない事は言わず、無難にするのがまぁいいだろうな」


「「「「はーい」」」」


「あぁ、そうだ。後、使い魔にも相性があるから、絶対に使い魔が来ると言うわけではない。そこは割り切ってくれ」


「なんだぁ」

「来てくれるといいなぁ」


「よし。他に何かあれば後からでも質問してくれ。じゃあ順番に始めていくぞ」


最初は3人のBクラスの生徒達が魔法陣の上に立つ。

3人は魔力を流し、淡い光が本を包んだ。


「【僕と友達になって欲しい!】」

「【来て!!】」

「【お話ししよう!】」


一瞬、カッ!と魔導書が輝くと、3人のうち、最後に唱えた1人の目の前に、小さな鳥が「チチチッ」と声を出して現れた。


「わ、あぁ!!」

「チチ、チチチッ!」

「え、ぅん。君ともっと話がしたい、から。使い魔になってくれる?」

「チチッ!!」

「……ありがとう!!!!」


小さな鳥は、男子生徒の肩にパタパタと飛び乗り目を閉じた。


「おめでとう!!無事契約が交わせた様だな!よかった!」

「はい!先生!」

「今回、使い魔が来なかった2人も、落ち込む事はない。この先、新しく使い魔になってくれる存在が現れる可能性は十分にある。是非とも何度も挑戦して欲しい」

「…はい」

「わかりましたっ」

「よし!じゃあ次の3人!」


次、また次。と、召喚魔法が行われていく。

そして、Bクラス最後の順になり、トネルの番になった。


魔法陣の上に立ち、ごくり。とトネルは唾を飲み込んだ。


「【来いっ!未来の招き猫!!!】」


カッ!とトネルが持つ魔導書が輝く。


「……キッ」

「……………き?」


目の前に現れたのは、手のひらサイズの招き猫……ではなく、手のひらサイズの猿だった。


「………猿?」

「………キ」

「未来の、招き猫…猿?えぇと、よろしく?」

「ウキ」


まるで、要はこれで済んだか?じゃあまたな。とでも言いそうな仕草をした猿は、ぼふんっと煙を立てて居なくなった。


「……あ、あれ?居なくなった!?せ、先生!!オレの使い魔いなくなっちゃったんだけど!?!?」


わあぁ!?と慌てるトネルに、声をかけられた担当の教師は、ハッ!!と目が覚めたようにびくりと肩が跳ねる。


「……と、」

「………と??」

「とと」

「とと?え、何、先生どうしたの?」


「と、ト、トレジャーモンキーィイイィ!!!」


突然声を上げた教師に、生徒達は驚く。

別の場所で召喚魔法を行って居た女子生徒達も、何事かと驚き男子達の方に振り向いた。


「トネル君!!!!!!」

「は、はひィっ!!!」


教師に、両肩をがしりと掴まれたトネルの口から、思わず情けない声が出た。


「後で私の研究室に来なさいっ!いや、むしろ是非来てくださいお願いしますっ!!!」

「は、ぇ?」

「まさか、目の前でトレジャーモンキーを目にする日が来るなんて………先生は……先生は……ぅ…っゔぅ…っ」


男泣きを始めてしまった教師に、トネルは助けてとグレン達を見た。

グレン達はそんな教師とは関わりたくなかったので知らん顔をした。白状である。


「せ、先生?その、何で泣いてるんですかね?」

「トレジャーモンキー!!それは幸運の招き猫!!」

「ま、招き猫…?」


猿だったけど?とは口にしない。トネルは空気が読める男。


「とある駆け出しの冒険者は、トレジャーモンキーを見つけて、崖から足を滑らせた。その崖下にはなんと竜の鱗が落ちていた!…とある商人はトレジャーモンキーを見つけて後を追いかけた。その間に荷馬車を盗賊に持ち去られた!だが、追いかけた先には将来伴侶となる奥方を見つけたそうだ!」



「それ、どう考えても曰く付きじゃねーか!!!」



トネルは……、空気が読めなかった。




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