蓄積した結果
訓練場を後にしたルイン達は、無言のまま前を歩くグレンに、どうしたものかと互いに目をやった。
下手に話しかけでもすれば、私憤の混じる怒りの矛先が、ルインに向くのはそう容易くなく。ルインほどでは無いが、グレンの性格を多少は理解しているので、アウグリッドもわざわざ自身から声を掛けようとは思わない。
トネルに関して言えば、なぜ、自分は此方について…いや、お前も来いと言われたような気がしたのでついて来てしまったのだ。と、自問自答し頭を抱える。
そんな3人は、この重い空気に誰が犠牲になるかと、視線だけの攻防を続けていたが。
「アーリー」
呼ばれたのはアウグリッド。
グレンは足を止める事も、振り返る事もせず、そのまま進んで行く。
「な、何…かな?」
「なぁ。俺達と同じグループは何処に行ったんだ?」
「……えっと、魔法の訓練が出来る方の訓練場に行ったよ。場所は……この先に転移門があるから」
担任からの言付けを貰い、アウグリッドはグレン達を待っていた。そこで突っかかって来たのが、ホッズ達であった。
「…そうか。じゃあ俺達も行くか」
「「「えっ?!」」」
それを聞いた3人は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で声を漏らした。
怒っていなかったか、余りにも普段通り過ぎて、なぜオレまで!?…と、それぞれ違う解釈をして。
後ろ3人の声にグレンは足を止め、振り返って一瞥した後、トネルに視線が止まった。
じっ…と無言で金の瞳に見つめられ、トネルはごくりと息を呑む。
「………お前、誰?」
「何でぇっ!?!?」
トネルは思わず、がしりとグレンの肩を掴む。
ルインとアウグリッドは、「ひぇっ」とトネルの奇行に後ずさった。
何も知らないって素敵。
「…そのまんまの意味だが」
「た、確かにオレ達は初めましてな関係だけどさ?!一応名乗ったよね?何で覚えてねーの!?それにさっきの騒動の中心だぞ?!何で覚えてねーの!?記憶障害!?でも最後はお前もついて来いって感じだったじゃん?!何で覚えてねーの!?!」
何なのお前?!とトネルは叫んだ。
大事な事だったので3回も言っちゃう。
とても煩かったので、グレンはトネルに向けてスキル【遮断】を使う。
ギャンギャンと煩い声が聞こえなくなり、パクパクと魚の様に口を開いたり閉じたりしている。
「普通に聞いただけだったんだが…。アーリー、こいつ誰だ?」
「……あー、名前はトネル・アーカート。僕達と同い年で、クラスはB。成績は特別良くは無いけど、特別悪くも無い。喧嘩っ早いけど、根はいい奴だよ。ちなみにトネルの両親は商人。僕の実家はそのお得意様って所かな?」
「なるほど」
グレンは【遮断】を切る。
静かだった廊下は、途端に騒がしくなる。
「特別良くも無く悪くもない自己紹介どーもありがとう!!!オレの声聞こえてた!?急に無視されたんだけどオレ悲しい!どうなってんの!?…あ、オレの事はトネルって呼んでくれよ!」
こいつ肝が座りすぎてる…と、ルインとアウグリッドは口元をひくつかせた。
「悪かったな、巻き込んで」
何事もなかったかの様に、グレンは話を続ける。
「…えっ!?あぁ…うん……うん?」
「俺の名前はグレン。そっちの、白くて同じ顔の奴がルイン。まぁ、見ての通り双子だ。アーリーとは学年が一年の頃からの付き合いだな。よろしく」
「お、おおぅ…よろしく?」
「でだ。そろそろこの手、離してくれないか?」
グレンは、これ。とトネルの手に指を指す。
がしりと肩を掴んだままの手を、トネルは慌てて離した。
今一グレンの感情が掴めないルインとアウグリッドは、そんな2人を静観してドキドキ、ハラハラ。
まるで時限爆弾を前にして、パチリパチリと配線を切って行く様。
「で、トネルはどうするんだ?」
「……え?どう、とは?」
「お前グループどころか、クラス違うだろ?こっち来て良かったのか?」
いやお前が来いって言ったんだろ。と言いそうになったトネルはグッとそれを飲み込む。
実際に言われてはいないし、勘違いしたのはトネルである。
「……良くはない、かも?わかんねぇ」
「あー…じゃあ、このまま俺達と一緒に来るか?どうせ今戻った所で、居心地も悪いだろ」
「まぁ…。でもそれ、いいのかn…『何だぁ主。今度は誰を侍らすのか?』
ドカーンッッ!!!!!
トネルが話す途中、近くの壁が突如一瞬にして崩壊した。
辺りに、もうもうと煙が充満する。
何が起きたかわからないアウグリッドとトネルは、衝撃のあまり尻餅をつき、ルインは「あーあ。」と呆れながら、身につけている白銀の腕輪をそっと撫でた。
そんな原因の中心であるグレンが見下ろす先、白虎な腕輪が、崩れた壁の一部ににめり込んでいる。
犠牲になったのは3人ではなく、白虎と壁だったようだ。
「はははっ。さっきから黙って聞いていれば、可笑しな事を言うな?白虎。何だ?俺が何も言わないからって、有る事無い事念話でベラベラと……お前は実況者か?字幕か何かか!?…は?気持ちを代弁?何一つ掠ってねぇよ!阿保がっ!!その口、○ッ○ィーにでもしてやろうか!?」
側から見れば、グレンは地面に向かって話しかけているヤバい奴である。
だがルインは何が起きたか察したので、また余計な一言(多数)でも言ったのだろう白虎に、自ら犠牲になった阿保に感謝と、哀れみの気持ちを込めて合掌した。
「何あれ……、怖ぇぇーんだけど」
「……そっとしておくのが一番いいんだよ」
因みにその後、崩れ落ちた壁は、爆音に駆けつけた教師が来る前にルインが魔法で、全力で直した。
グレンはと言うと、無事鬱憤は晴らせたようで、何事もなかった様にトネル達と会話を再開した。
触らぬ神に祟りなし…である。
……
……
《sideトネル》
「あっ!トネル!お前何処行ってたんだよっ心配したんだぞ」
校内の見学が終わり、トネルは1人、自身のクラスであるBクラスの教室へと戻って来た。
扉を開けるなり、先に戻っていたクラスメイト達から声がかかる。
「あー…それが、Aクラスの奴らと一緒に見学してたんだよ」
「はぁ〜?いいのそれ?怒られたんじゃねーの?」
「それは大丈夫。ちゃんと許可貰ってたから」
「どう言う事、それ」
トネルは今日あった出来事を簡単に説明した。大分…かなり…殆ど…端折ってはいたが。
「じゃあ何、お前あの王子様達と友達になったのか?!どんな奴だったよ!」
「あ〜…、面白い奴らだった…かな」
「もう少し具体的に!」
「具体的?!………ええと、意外と話しやすかった。冗談も言うし…(ちょっと怖いけど)、あ。後、めっちゃイケメンだった。それと、いい匂いがした」
「へぇー」
「なるほどなぁ」
「トネルきも」
「誰だ、今オレにキモいって言った奴!」
ぎゃあぎゃあと室内が騒がしくなる。
「何だよ、だったらお前らも話しかければいいだろっ!?」
「「「いや、無理だから」」」
クラスメイト達に全力で首を横に振られ、何でだよっ!と周りに怒るが、誰も味方になる奴はいなかった。
「俺達、トネルみたいに行動出来るほど、肝座ってないから」




