表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/42

謝ってない


異様な空気が流れる中、鐘が鳴り、同時に見知った顔の教師が2人室内に入ってきた。


「おー、久しぶりの顔ぶれがいるなぁ!!ほら、席に着けー」


一年の時の担任になった男性教師のゴロガンと、副担任だった女性のアン。

ゴロガンの言葉に、生徒は各々空いている席に着いていく。

だが、目の前の女と三馬鹿は席につかない。

まるで何も聞こえていないかのように、話を続けた。


「さぁ、名乗りなさい。このワタクシに名を聞かれるなんて光栄だと思うことね」


手に持っていた扇子をビシリとグレンに向け、早く答えろとばかりに目の前に突き出してきた。


「…………………グレン」

「グレン!!それが貴方の名前ね!……貴方、双子なのね。後ろの貴方。白髪の、名は何かしら」

「ル、ルイン…」


「………あら、家名は?」

「アネット様。このような者の家名など、聞く意味はないかと」


会話が続くのが面白くないのか、ホッズがグレン達を睨みつけながら会話に入ってきた。


「………それ、もそうね!!どうせワタクシの下に付くのだもの。ふふふっ!いいわ!貴方達、後でワタクシの元にいらっしゃいな」


「おーい、そこの4人。席につきなさい」


ゴロガンが、もう一度席に座るようにと、女と三馬鹿に促す。


「……ふん。このワタクシに命令するなんて野蛮な。でもいいわ。今はとても気分が良いもの!」

「そうでしょうとも。ささっ、アネット様。こちらの席へ」


ホッズ達に連れられ、アネットと名乗った女は、上機嫌なのか素直に席へと着く。

それを囲むように三馬鹿も席についた。


全員が席に着いたのを一瞥して、ゴロガンがこれからの日程や注意事項などを説明していく。


今日は新しくなった校舎や他の施設の建物などの見学をする為、担任のゴロガンと副担のアンのグループに分かれて行動する。

グループ分けは至ってシンプル。

丁度座っている席の前半分がゴロガン。後ろ半分がアンに着いていく形だ。

グレン達は前の席に座っていたのでゴロガンのグループ。

ちなみに三馬鹿と地雷女はアンのグループになった。

説明も早々に、分かれて教室を後にする。


「…よかった。あんな変な奴らと同じグループとか、最悪の1日になるところだった」

「あれ何なの?三馬鹿以上に強烈過ぎて、なんて言ったらわかんないんだけど。アーリー、あの女の事しってる?」


お互い鳥肌が立っていたのか、腕をゴシゴシと摩る。


「えーと。簡単に言えば、王位継承権を破棄した王子が初代の一族だね。でもって今、この国の宰相様がアネット嬢の父親。上に歳の離れた兄が3人いて、女性はアネット嬢1人。甘やかされて我儘放題って噂」

「うわぁ…」

「意外と詳しいんだな」

「んー…結構有名な女性だよ、悪い意味で。でもおかしいな?アネット嬢は第二学園に通ってたはずなんだけど。……あ、後その兄の1人が僕の父の部下で、何度か話をしたことがあるんだ」

「なるほど。でもあれの父親が宰相って…、大丈夫か?この国」

「うーん…悪い噂は聞かないよ。正直アネット嬢が目立ちすぎてて…、でも父の下で働いている兄…三男だったかな?良い人だよ」

「ふーん」


分かれたグループの最後尾で話をしていたら、次の目的地に着いた。


「ここが第一訓練場…広いなぁ」

「他のクラスの人達も結構いるね」


使う頻度の高い教室や建物に人が集まりやすくなっているんだろう。ここにも結構な数の生徒が訓練場にいた。

そこそこの広さがあるので、次の移動時間までは、グループ内の各々仲の良い者達で集まり訓練場内を見て回る。


「おーい!アーリー!!」


と、ここで別のクラスと思う男子生徒が1人声をかけてきた。


「トネル!君もここに来てたんだね!」

「ああ!でもってアーリーが見えたから声かけちった!って、あれ……え?噂の王子、様?」


後ろにいた俺達を見て、その生徒は「え?は?えぇ?」と何やら驚いている。


と、今度はそこに、


「おっ?グレンにルインじゃないか!!」


声のする方にグレン達はくるりと振り返りる。

軽く片手を上げ近づいてきたのは、この国の本物の王子殿下。後ろにはルトアもいる。


「ヴィンス先輩…。ルー兄様もこちらにいらしたんですね!」

「よっ!少しぶり?あの後から会えてなかったもんなぁ!元気そうでよかった」

「僕達も見学。まぁ何度か既に来てるんだけどね」


「そうでしたか。……で?ヴィンス先輩は、何の用です」

「なぁ、相変わらず俺に冷たくない?」

「………人が大勢いる場所で声かけるのをやめていただけるなら、変わるかもしれません」

「えー、どうしよっかなぁ?」


グレンの額に、ピキリと反射的に青筋が浮いた。

慌てたルインがグレンの肩を叩く。


「ヴィンス先輩!別の場所で話しませんか?!移動時間までまだ余裕あるし。グレン!お前もそう思うだろ?思うよな!……あ。アーリー!おれらちょっと場所離れるから、もし先生がなんか言ってたらヴィンセント殿下について行ったって言っといて!!」

「…え?あ、うん、わかったよ」


さぁ、行きましょう!とヴィンセントの背中を押すルインと、その後ろについて訓練場を出て行くグレン達を見て、緑色の髪をした少年トネルは、たらりと額から垂れた汗を、その焦げ茶色の瞳の中に入る前に手で拭った。


「…………オレ、不敬になるような事してないよな?言ってないよな?」

「してないし、そもそもほぼ声でてないね」

「あ、挨拶…オレ、王子殿下に挨拶してない」

「それを言ったら僕だってしてないよ」

「そうだった。……にしても噂の王子様は、やっぱり王子様だったんだな」

「やっぱりって?」

「王族って事。ヴィンセント王子殿下もこんな近くで見たのは初めてだったけど、あの双子な王子殿下達はもうオーラが違うじゃん。アーリーはあの2人と同じクラスなんだろ?よく平然と隣にいれるな」

「あの2人は僕の友達」

「え?………おま、王族の人と友達になってたのか!?」


慌てるトネルを見て、くすりとアウグリッドは笑う。


「あの2人は王族の人じゃなくて侯爵家の人だよ」


訓練場のど真ん中。

トネルが、がくりと地面に両膝をついて叫んだ。


「………それ、どっちもあんま変わんねぇ!!」



………

……



ルインの提案により訓練場を出た4人は、人気の少ない通路で足を止めた。

ここなら問題ないだろう。グレンは壁に寄りかかり「はぁ」と、息を吐く。


「全く。ヴィンス先輩も少しは周りを見てから声をかけてくださいよ」

「どうして?」

「目立つからに決まってるだろっ」

「お、口調が崩れた」

「…………()()()()()()()()()()殿()()?」


その声色に、流石に察したのかヴィンセントも、すまんすまんと笑う。

居るだけで目立っているなどと、この4人では誰も指摘する人は居なかった。


「…で?何ですか?わざわざあんな大勢の場所で声をかけてきた理由は」

「あー…元気かなと思って思わず。あの事件以来会えてなかっただろ?俺達はそのまま城に帰っちまったし」


街で起きた事件に関して、ルトアとヴィンセントの2人は屋敷に戻らずそのまま王城の方へ帰った為、グレン達は後の詳細については手紙で内容を教えてもらっていた。


結果として、捕まった賊達は尋問をする前に全て自決して死亡。街で暴れた理由も、女の子を拐った理由も、何もかもわからず。

残ったのは、悪意ある何かの存在があるかも。という憶測だけ…何とも後味の悪いまま、迷宮入りだ。


「元気でしたよ、手紙にも書いた通り。あれから特に変わったことも無く、鍛錬に明け暮れていましたよ」

「そうか。なら、よかったのか?…ルインはどうだ?」

「おれも特にはー。毎日魔法の練習、剣術の練習。あとセルジュの怖い勉強の繰り返しでした」


今でも主人の言いつけを守り、勉強時には背後に張り付く熊の姿が脳裏に浮かび、ルインはぶるりと背筋が震えた。


「まぁ…お前達の元気そうな顔が見れて良かった。休校になっていたから一緒の学園生活も残り少ない、何かあれば迷わず俺を頼ってくれ」


「ちょっとヴィンス。そこは"俺達が"って言うべきじゃないかな?」


静かに3人を眺めていたルトアが、これは聞き捨てならないとばかりに口を挟む。


「何だよ、ちゃんとお前も含んでいるぞ」

「言葉にしないとダメな時もあるんだよヴィンス」

「はいはい。俺達を!頼れよ」

「…と、言うわけで。何か有れば迷わず"僕を"頼ってね」

「「はいっ!ルー兄様!!」」


「うぉいっ!!!!」


三兄弟の言葉に堪らずヴィンセントは声を上げた。


………

………


しばらく話し込んでいたグレン達は、そろそろ時間的にとヴィンセント達2人と別れ、訓練場に戻った…のだが。


「だーかーらぁ!あいつらは王子殿下達と一緒にどっか行ったって言っているだろ!?」

「それをお前達が探して、ここに呼んで来いと言っているのだ!!何度も言わせるな!!」

「用があるなら自分達で探しに行けばいいだろ!?何度も言ってんのはこっちだっつーの!!!」


何やらトネルとホッズが言い争いをしていた。

アーリーがトネルの腕を引き、必死で止めようとしている。

取り巻きバカ2人と地雷認定されたアネットは、その後ろで傍観するだけでホッズを止める気は無さそうだった。


「…お前ら何してんの?」


グレンはため息混じりに近づいて声をかけ、


「あれ?おれ達のグループの皆は?どっか行ってね?」


ルインもそれに続いて周りを見渡し、同じグループの皆が居ないことに首を傾げた。


「ルイン!グレン!」


2人に気が付いたアーリーは、パッと顔を明るくし、その声にトネルとホッズ達も気がついてこちらに振り向いた。


「あっ!王子達!聞いてくれよ!!こいつら訳の分からない事言ったり、お前らを呼んで来いとか言って聞かないんだ!!」

「貴様ら!!アネット様が呼んでいるにもかかわらず、何処に行っていたのだ!!このお方を待たせるなど!恥を知れ!!」


「…あ"?」

「え、なんて?」


グレンはホッズを睨み、ルインは【主人公補正(難聴:大)】を発症した。


もう一回言ってみろとグレンが声を出そうとした時、先まで傍観に徹していたアネットが側に寄り、ニンマリと目を細め、グレンとルインの前に立った。


「ねぇ?ワタクシ、先の教室で貴方達に後で来なさいと言ったはずよ?どうして直ぐに来なかったのかしら?」

「……は?」

「あら、可笑しいわね?ここは直ぐにでも跪いて、赦しを乞うのが普通ではありません事?この高貴なる存在を前にして、いつまでワタクシを見下ろしているのかしら?」


アネットは、持っていた扇子を広げ、目を細くして口元を隠す。

この金の瞳が自身を見上げ、許してくれと縋り付く様が目に浮かぶ。先の言葉が、さも当然であるかのように。


言い争いをしていたホッズと取り巻きは直ぐ様アネットの後ろに付き、そうだそうだと捲し立てる。

近くにいる他の生徒達は、グレン達を遠巻きに静観しているのみ。他のクラス教師や別グループ担当だった副担任のアンは、グレン達のいる場所とは離れた所にいるのか、此方の騒動には気がついていないようだ。


グレンはそんな辺りを一瞥して軽く息を吐く。

そして、怪訝そうな顔をするアネットに向けて、今度は嫣然とと微笑んでみせた。

その隣でちらりとグレンを見たルインは、「ひぇっ」と小さく悲鳴を上げ、思わず一歩後ずさる。


『覚えとけよルイン』

『…………』


念話で話しかけられたルインは、心の声すら出なかった。

…怖かった。グレンの目が、あまりにも笑って無さすぎて。


「ねぇ、いつまでそうしているのかしら?」

「………エルリンダ様。どう「名前でよろしくてよ」……アネット様。どうやら我々は互いに誤解をしていたようです」

「はぁ?誤解?」

「えぇ。アネット様の仰った『後で』と、私達の考えた『後で』では解釈に差異があったようで。アネット様は担任の話が終わり、グループ分けをして教室を出る前に来るようにと仰ったのでは?」

「そうね。そうするのが当たり前だわ」

「やはりそうでしたか。ですが私達は、この校内を見終わった後、又は今日の授業が終了した後に来るようにと解釈しました。なので、互いに思い込みをしていたと言うことになります」

「だからなんですの?間違った解釈をしたのは貴方よ。それに、ワタクシを待たせたと言う事に変わりはありませんわ」

「…そうですね。女性を待たせたと言う点では、私の落ち度です。ですが解釈の差異については大目に見て頂けませんか?初めてお会いした方の、それも内なる声と言うのは、私では直ぐにわからないようで。アネット様は……いえ、高貴なるお方でしたら下々の言葉など、全てを語らずともすぐに汲み取っていけるのでしょうね、感服いたします」

「そ、そうね。簡単だわ」

「素晴らしいですね。あえて指摘して下さったのでしょうか?……いえ、これも愚問でしたね」

「え?」

「…あぁ、でも良かった。これで『後で』の言葉は此処で果たされたでしょうし。あ、そろそろ私達は移動しないと行けなさそうです。同じグループの人達が見当たりません。では、アネット様、私達はここで失礼致します」


話は終わりだと、グレンは紳士の礼をしてアネットへと微笑んだ。そして温容な笑みのまま視線を一度場内の出口へと向け、ルイン、アーリー、トネル達に軽く顎をクイッと動かして歩き出せば、察した3人はグレンの後ろについて歩く。


場内に残されたアネットやホッズ達、野次馬として静観していた生徒達は、何事もなかった様に去って行くグレン達を、ただ見ている事しか出来なかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ