どう考えても地雷
学園が入学早々に休校になってから2年が立ち、今日からまた学園に通う日々が始まった。
当初1年生だったグレン達は、今日から3年生。
ぶっちゃけ第二学園に行ってなかった生徒からすれば、ようやく初めての学園生活。
「おおぉ……何かめっちゃ変わった?」
「あぁ。でも一部はそのまま残ってるっぽいな」
きょろきょろと視線を動かしつつ指定されていた教室へと足を進める。
『おー!これが主達が通う学園か。中々いい感じじゃねーの?』
『大人しくしてろよ?バレたら面倒だ』
グレンが身につけている腕輪が、念話と同時に微かに振動する。
『大丈夫だって。なっ?狐っ子!』
「きゅいっ!!!」
突然、廊下に可愛らしい鳴き声が響いた。
その声に、周囲の生徒がグレン達の方に注目し首を傾げる。
ルインはぎょっとなり、手首に着けている腕輪を見ながら念話をする。
『ハクっ!!声は出しちゃダメだって言っただろ!?念話、念話を使って見よう?な?』
「き、『きゅい…?』
『そう!上手いな!ハクは約束、覚えているよな?』
『きゅい!きゅい!』
それをちらりと見たグレンは、注目する生徒達に向かってほんの少し微笑む。
それだけで女子生徒が頬を染めた。
男子生徒はグレンの金の瞳を見て目を見開き、何も言わずにその場からそそくさと立ち去った。
グレンはその反応を一瞥して、無表情に戻る。
何事もなかったかのようにそのまま廊下を進めば、グレン自体に注目が集まった事で、周囲の生徒達は先程の可愛らしい声の主の事は綺麗さっぱり忘れたようだった。
……
……
教室へ入るための扉が、ガラリと音を立てる。
中へと足を進めれば、数名の生徒がちらりとグレン達に視線向けた。
グレン達は1年生だった頃の時の様に、窓側の一番前の席へと座る。
「ご、ごめんな…グレン」
椅子に座ったルインは、しょぼんと肩を落としてグレンに謝る。
「何でお前が謝るんだ?」
「だって……その、せっかく隠蔽してたのに…」
『きゅい………』
ルインの段々と小さくなっていく声とは別に、頭の中でハクの声も響く。
入学当時グレン達は見た目や目の色から注目を浴びていた。
そこで今回はそれを逸らす為、お互いの身体に〈隠蔽〉のスキルを使っていた。
上手く周囲に溶け込み、周りはグレン達が見えていてもごく普通のありふれた生徒に見えていたはずだ。
だが、ハクの鳴き声が思いの外響き渡ってしまい一点に集中した注目のせいで効果が解けてしまった。
そこでハクが見つかる方が一大事なので、わざとグレンが注目を浴びるように行動した。
効果は言わずもがな、覿面である。
「怒ってないから心配すんな。『ハクも次からは約束守れるだろ?』」
『きゅいっ!!』
グレンはルインの手首に付いている腕輪に目を向ける。
シンプルな銀の腕輪に白銀の尻尾の形をした小さなチャームがちょこんとついている。
この腕輪はハクが変化した姿だ。
今朝、まだ日が昇る前にルインがハクに叩き起こされ、目の前で披露したのは変化した姿。
ルインと学園に一緒に行きたくて、白虎の指導の下、今までひたすら練習を繰り返していたそうだ。
頭隠して尻隠さず。ならぬ、身体隠せて尻尾隠せず。…だが。
念話の答えに、元気な声と、ゆらりとチャームの尻尾が小さく揺れた。
………
……
…
段々と生徒が増えていく中、ガラリと扉を開けた少年は直ぐにグレン達を見つけ、表情がパッと笑顔になり2人の名前を呼び駆け寄った。
「ルイン!グレン!久しぶり!!」
「……アーリー!!久しぶり、元気だった!?」
「2年ぶりだな、アーリー」
「2年ぶり!元気だったよ!今年も2人と同じクラスになれて嬉しいよ!!」
アウグリッド・ローゼ・バージェスタ。
少し癖のある薄茶色の髪に、わずかに下がる垂れ目で深緑の瞳。身長はグレン達より低いが、そこまで低いわけでもない。
父が魔道具師の仕事をしており、自身も同じ道を進むべく日々努力している頑張り屋だ。
ちなみに子爵家の次男で、愛称はアーリー。
入学当時からのグレン達の友人である。
「おれも嬉しいよ!手紙だけでずっと会えなかったから」
「僕も楽しみにしてたんだ!2人に会えるの」
グレン達のクラスはトップクラスのA。今年も一番上のクラスになった。
ちなみに審査結果自体はSなので、半年は3年生と同じ授業をこなし、もう半分は4年生の授業を受ける事になる。
「それにしても相変わらずだね、2人は」
「「…??」」
「ほら。廊下にいる子達、噂でルイン達を見に来た子だよ」
「噂?」
アーリーに言われ、2人は廊下側にある窓を見る。
グレンやルインと目が合った子は一瞬で顔を真っ赤に染めて、窓から姿が消えた。
「Aクラスに双子の王子様がいるーって。廊下を歩いている時結構噂されてて。あぁ…ルイン達だって直ぐに思ったよ」
「……ふーん」
グレンはそれを聞いて、窓の方へと視線を向け、女子生徒に向かってにこりと微笑んだ。
途端、真っ赤になった顔の生徒から一人、また一人と窓から姿が消えた。
『主、タラシか?!俺っちという者がいながら!!』
『煩い黙れ』
「…………それよりもルイン、消えなかった生徒はルイン目当てじゃないか?半分くらいは残ったぞ」
「嬉しくねぇぇ。むしろこえぇよ」
「2人とも淡々としすぎじゃない…?」
「珍しいのもあんだろ。俺達は第二学園の方には行ってなかったし、転校生でも来たと思われてるんじゃないか?」
「なるほど、珍獣枠」
「………それ、どっちも違うと思うよ」
教室前の廊下には、真っ赤になった顔を手で覆い蹲る、多数の女子生徒が居たという。
…
……
………
そろそろ鐘が鳴ると思った時、一際騒がしい声が廊下から響いてきた。
それだけで何が来るのか予想できた3人は、同時にため息を溢す。
「まじか…」
「……一応、2年の時もAだったらしいよ」
「何、あいつら第二行ってたのか?」
「うん。人伝に聞いただけだけど……ーー」
煩い声とドカドカと汚い足音が扉の前でピタリと止み、スパーンと勢いよく扉が開かれる。
「ふっ。やはり主役は最後に来るものだ」
「見てくださいホッズ様。皆ホッズ様の魅力に見惚れておられるようです」
「そうだろうとも。何せ俺様は天才だからな」
案の定、あの三馬鹿のお出ましだった。
基準が甘いのか腐っても貴族だからか、才能だけはあるのか。
Aクラスになっただけの何かが三馬鹿にもあるということ。
正直、面倒の塊と同じクラスになるのは避けたかったがこればかりは仕方ない。
出来るだけ関わらないようにすれば……ーーー
「ちょっと…早く中に入ってくれないかしら?通れないじゃない!!!」
「おぉ、これは申し訳ありません。中は安全です。ささ、どうぞ中へお入りください」
三馬鹿に対して怒鳴り散らす、これまた一際騒がしい声が。
ルインは、「うわぁ…」と口から声が漏れ、グレンは無言で眉間にシワが寄った。
アーリーは驚いた顔をして、その人物を見ている。
ホッズに傅かれ教室に入ってきた女子生徒は、長く伸びた真っ赤な髪の縦ロール姿に髪よりも少し暗い赤い瞳。
「ふんっ!!」と頭を振れば、縦ロールがブオンと音を立てたように広がった。
そこで運悪く、グレンはバチリと目があってしまった。
その女子生徒はニヤリと気色悪い笑みをすると、獲物を逃がさないとばかりにグレン達に近寄った。
その後ろに、ホッズ達三馬鹿がグレン達を睨みながら付いてくる。
「ちょっと貴方、名前はなんて言うのかしら」
「………………」
「ふふふっ。このワタクシを見て、一目惚れで声も出ないのかしら?…貴方は伯爵?いいえ、瞳の色からして侯爵?ふふっ、それでもワタクシより下なのは確かだわ!」
………コイツ何言ってるんだ?
目の前の女は、勝手に1人で話して納得しだした。
「ワタクシの名前は、アネット・ローゼ・エルリンダ。
王家の血筋が流れる高貴な存在。エルリンダ公爵の長女ですわ!」




