翌日
…orz
街の事件から一夜明け、いつものように朝食を食べ終わったグレン達は、自室に戻り昨日の事について話をしていた。
『ぶわぁっはっははははははっはっ!!!』
それをベッドの上に寝そべって聞いていた白虎は笑う。
「……ゔっ。白虎!そんなに笑う事じゃないだろ!?」
『だって昨日の事覚えてないって…そりゃねーだろ!わはははははっ!…ぅえっ、げほっ!げほっ!』
「……お前念話で咳き込むとか器用だな」
その隣で胡座をかきながら、片手で頬杖を付きつつグレンは呆れていた。
『ぐふっ、ふっ…だってよ〜主。いくら主のスキルで気絶したとはいえ、記憶ぶっ飛ぶとかそうそう起こらねーって!どんだけ運が悪いのか、適当に魔力使いまくったのか!』
「……ゔっっ………」
途中から記憶がないルインは、反論したくても出来ず、唸りながら白虎を睨んだ。
「……なぁグレン。もう少し昨日の事教えてくれても良くね?」
「教えない」
「どーしてさ!?」
「……気分的に」
「どんな気分だよッ?!」
暴走した事は伝えたが、詳細については教えていない。
何よりグレン自身の感情も、ルインが暴走した原因の一つでもあると思うので、出来れば教えたくない。
『まぁ?主も人の事言えたもんじゃぁねーよ?どう考えても過剰、無抵抗の奴に全力全開スキルぶっぱとか……ぶふっ、動揺しすぎ。本当に魔力制御の練習してんのか?ってなぁっ!』
「なんだって?」
グレンはがしりと白虎の顔面を鷲掴む。
だが、これは好機と白虎はグレンの手を掴んで魔力を食べ始め、それを感じ取ったグレンはすぐに手を引っ込める。
そのまま小さく舌打ちをし、グレンは何も言わずに部屋を出て行った。
『…お〜怖い怖い。ルインはあーなっちゃダメだぜ?俺っちみたいに整った顔してんだから、もっと愛想良く振りまかないと!』
「え……あ、うん?整って…るかはわからないけどな」
白虎はやれやれと息を吐いた。
『まっ、主も出て行っちまったし、ルインも行くんだろ?』
「そうだなぁ…おれも、もう体はなんとも無いし。今日はセルジュの授業はないからいつも通り魔法の練習する」
『それがいい。………あぁ、狐っ子の事はこっちで見とくから気にするな』
「………うん。よろしく」
ベッドの上を見て、眠るハクを軽く撫でてから、ルインも部屋から出て行った。
………
……
…
「……はぁ」
ルインは重い足取りのまま先程のハクの事思い出し、ついため息が溢れた。
実はルインの暴走がきっかけで、契約しているハクにも少なからず影響が出ていた。ハクの魔力も無理矢理使っていたらしい。
異変に気付いた白虎がハクを眠らせ、今は体を休めている。いずれ目を覚ます、気にするなとも言われたが…。
本来大人の聖獣なら、こんな事にはならないと白虎は言った。でもハクはまだ子供で自身の制御も甘く、急な魔力の譲渡しについていけなくなったのが原因。
その原因を作ったのが自分自身であるのは変わらず、ついため息が出てしまうのは仕方ないと言えた。
思う所があるとすれば…自分はグレンに、ハクは白虎に眠らされて何とも言えない気持ちだ。
「……いやいや。止めてもらった事に不満はないけど!それよりも、もっと魔法の練習をしてハクに負担をかけないようにしないといけな――」
「……ルイン様。ハクに負担?とは何の事ですか?」
ふと後ろから声をかけられたルインは、ビクリと肩を動かし、振り返る。
そこにはルイン達の護衛としてついているロイドがいた。
普段ルイン達が自室にいる時など、プライベートとなるような場所にいる場合は、ロイド達護衛は部屋の中には入って来ず扉の前で待機している。
だが、部屋から出てれば対象について行くのは当然で。
更に言えば、昨日護衛をつけていないまま外に出て(実は、平気だからと言って屋敷に置いて来た)、事件に巻き込まれたので、今では、過保護なのでは!?と思うほどについてくる。
「え。えぇ〜と?…おれ何か言った?」
「『もっと魔法の練習をして、ハクに負担をかけないように』…と」
ロイドの言葉に、一瞬目が泳ぐ。
「ハ、ハクなんて言ったかな…?」
「はい。ですので何の事なのかと」
「あ、えー……グレン!そう、グレンの事!ハクじゃなくてさ、グレンの負担をかけないようにしないとなって!」
「………………そうでしたか。ですが、グレン様は別にルイン様の事を負担と思っていないと思いますが」
「そうだとしてもさ。おれとしてはそうなりたくないから!」
返答に少し間があったように思えたが、この会話を出来るだけ早く切り替えたいので、それを早口で返す。遅かった足取りは早足へと変わり、グレンがいるであろう外へと向かった。
…
……
………
「はっ、はっ、はっ」
バシャ。バシャッと、前方から不規則に飛んでくる水玉を、グレンは片手に持つ剣で切っていく。
時間差で飛んで来た水玉は素直に正面から切り、横から来た水玉はくるりと交わして、それを後ろから切りさく。
「グ、グレン様〜!そろそろ休憩しませんか!?」
あの後部屋から出たグレンは、護衛として付いて来たスグルドに頼み、訓練場で水魔法を使い水玉を出してもらっていた。
今、大小様々な大きさの水の玉を出して飛ばしているスグルドも、珍しくグレンが鍛錬に付き合って欲しいと頼まれた事に気を良くし、二つ返事で了承したのだが…。
魔法を使い続け、他から見ればグレンに向かって水玉が弾丸の如く飛び交っている光景が見れただろう。
スグルドは基本、剣を使い距離を縮め、隙が有れば魔法を使う接近型。
侯爵家の護衛として採用された身で、それなりの技術に魔力量もあるスグルドでも、ここまで絶え間なく連続して魔法を使い続ける事は中々ない。
ましてや護衛の対象である、まだ二桁にもならない年齢の子供に向かって魔法を使うのは、精神的に何かゴリゴリと削られていくものがあった。
「……まだっ、もう少し!」
「無理ですよ!私が…私の魔力が持ちません!!」
「じゃあ!!、最後……何か!」
「何か!?!?〜〜無茶苦茶な!ああ、もぅ!後でしょぼいとか言って怒ったりしないでくださいよ!?!?」
すると、一瞬ピタリと止んだ魔法。
だが直ぐに、先程まで不規則に飛んで来た水玉がぶわりとグレンの頭上に飛び、横一例、綺麗に並んだ状態から一斉に降り注いで来た。
ちなみにこれは水玉を避ける練習では無い。水玉を切る練習だ。
一列に並んだ水玉は単純に剣で切ったとしても、最低2、3回は剣を振らないと全ての水玉を切る事は出来ない。
ましては均等に並んだ状態だ。一つ切ったとしても、他の水玉が地面に落ちたら意味がない。
グレンは上空をなぎ払うようにして剣を振るう。
空気を裂く音、綺麗に並んだ水玉がその音と共に割れ、グレンの前と後ろにバシャリと落ちた。
「……はぁ、っは………。ありがとう、スグルド」
グレンは肩で息をしつつ、ぽかんと口を開けて呆けているスグルドに、素直にお礼を言う。
「…………こちらこそ、素晴らしい物が見れました。ありがとうございます」
「ん?どう言う事だ?」
「最後の魔法を一薙で切り、打ち消した事に驚きました。それ以前も十分驚きましたが…」
「スグルドでも普通に出来るだろ?」
「そうですね…出来ます。ですがロイドにジャックだって出来るでしょう。ルトア様も、それこそアルバート様なんて目を瞑ってでも出来るでしょう」
「じゃあ何も驚く事なんてないじゃないか」
「……グレン様、それ本気で言ってます?」
「言ってるが?」
途端にスグルドは、はあああっ。と深いため息をついた。
「あのですね?グレン様と私達は比べてはいけないのですよ。私は大人で、グレン様はまだ子供です」
「多分ルインも出来る」
「おれがなんだってー?」
二人の会話に声が重なる。
声のした方に視線を向けると、ルインとロイドがいた。
「スグルドが俺の剣術を見て驚いた」
「は?」
「ルイン、お前もやってみろ」
「え?」
ルインは剣を渡され、訳がわからないまま、先程までグレンが水玉を切っていた場所まで移動する。
「今から俺が水魔法で水玉を出してお前に飛ばすから、それ全部剣で切れ。出来るだろ?」
「出来るだろ?って……え?これどう言う状況?」
「じゃあ行くぞ。3、2、1…」
ドパパパッ!!!
「っ!?あぶねぇ!?…おら!うおっ!おらぁ!」
グレンと全く同じ剣捌きとは言えないものの、ルインも声を上げつつ水玉を切っていく。
最後は同じように頭上からの横一例。
ルインもグレンと同じように剣を振り、フィニッシュ。
呼吸が乱れ、ぜぇはぁと肩で息をする。
「……はぁ、はぁ。……マジ、これ、なんっだったの!?」
「俺の剣術の再現」
「はぁ??グレンと同じなんて無理だから!」
「いや、ほとんど変わらなかった」
「一緒にすんな!おれ最後の方から身体強化使ったんだけど!どうせグレンは使ってないだろ!?」
「…まぁ、使ってないな」
「ほらみろ!!大体グレンはなぁ!!––––」
ギャーギャーと騒ぐグレン達を他所に、スグルドとロイドはヒソヒソと二人を見て話し出す。
「先輩。あれ、最初から最後まで身体強化無しで出来ます?」
「………自信はない。てっきりグレン様は身体強化をしているものと思っていたくらいだ」
「俺は無理…出来ますけど、咄嗟に使ってしまいそうで」
「ちなみにロイドは、一度見た魔法の動きを再現出来るか?」
「まぁ出来ると思いますが…。それなら先輩も出来るでしょ?」
「数発程度ならな。……全てだ」
「は?」
「全て先程の魔法を再現出来るかと言う事だ」
この人何言ってんだ?というような顔で、ロイドはスグルドを見つめる。
「グレン様は私が放った魔法の攻撃を剣で切っていた。そしてロイドやルイン様が来て、グレン様はその魔法の動きを再現してルイン様に向けていた」
「え?」
「グレン様は剣で魔法を斬りつつ、その魔法の動きを記憶して再現した。ルイン様は何も知らずにその魔法をほぼ同じ様に切っていた。最後に関してはグレン様は何か来る事は知っていたがルイン様は何も知らずに、だ」
自然とグレン達のいる方へと視線が向く。
スグルドもつられて視線を向ける。
いつの間にかグレン達は剣を持ち、お互いに水魔法を使って水玉を作って打ち合い、斬り合っていた。
いつもグレン達の自主訓練は、黙々と剣を素振りするか、魔法を手のひらに出す練習ばかり。
今回はとても珍しく、周りを気にせず2人が剣術や魔法に夢中になる姿を久しぶりに見た。
そんなグレン達2人を眺めていると…、
「くしゅっ!!」「へっくしょーい!!!」
グレン達が同時にくしゃみをした。
そう、今は冬。当然外は寒いし水を使えば当たり前だが濡れる。いつぞやの初魔法の時のように水浸しでは無いが。
慌ててロイドとスグルドはグレン達に駆け寄り、2人を担ぐ。
「「風呂に行きましょう!!!!」」
「「は?」」
ロイド達の言葉が同時に重なり、グレン達もつられて重なった。
……
……
「………で?」
グレン達が風呂に入っている間、扉の前で待機していたスグルドとロイドはヒヤリと冷たい声に肩を縮こませる。
その2人の目の前には目が笑ってない執事長様が。
「何故グレン様達があんなにも濡れておられたのでしょう?説明していただきますよ?スグルド、ロイド?」
その言葉に2人は寒気を感じ、ぶるりと身震いをする。
屋敷の中に冷たい言葉の雨が降っていた。




