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脱引きこもりにはハードすぎた



「もう寝てろ」



俺はルインを引っ張り、ルインの顔を片手で覆うようにしながら〈遮断〉を使う。

そこでプツリと糸が切れたように気を失ったルインを後ろから支え、そのままずるりと地面にしゃがむ。


寄りかかるように気絶しているルインを見ながら、そこでホッと息を吐いた。



……

……



あの時ルインの様子がおかしくなって俺は、しまった、と思った。共有を切ればよかったと。

ルインの思考が、ぐちゃぐちゃになってグレンにも流れ、その時脳裏に昔の大鬼戦の出来事が浮かんだ。


視覚は繋がったまま。だが、念話の反応は無く、思考がただ流れてくるだけ。


これはダメなやつだと直ぐに理解した。


正直女の子を放っておくのは気が引けたが、どう見ても暴走しているルインを止める方がグレンにとっては優先度が高い。


女の子に自分の着ていた上着をそっとかけ、建物から出る。

幸い、建物を出た近くに警備隊の人達がいて助かった。

グレンの顔を見て驚いた表情をしていたが、いったい何にそんな驚いているのかわからない。一々反応する時間も惜しく、構ってられない。


女の子がいる建物に向かって、地面に魔法で氷のラインを伸ばして道標を作る。

そのまま状況を説明するだけして、警備隊の話は聞かず、直ぐにルインを追った。



視覚が共有されているから状況がわかる。

思考が共有されているから考えがわかる。


だけど…。


近づくにつれ、魔法で壁が崩れた時に出た土煙が辺りに充満しているのが見え、男達の叫ぶ声が耳に届いた。



『…あぁ。いっそ、殺してしまおうか』



ルインの思考が流れ、グレンはそれを()()した。




…あぁ。それは、()()()()()



…………

………

……



さて、どうするか。この状況は非常にまずい。

ルインを含めて気絶している男達が5人…瀕死が4人。


「………チッ。…………"ヒール"」


…非常に不本意ではあるが、死なせたら死なせたで面倒事が増えるだけ。

男の大人4人が、子供に殺られかけるなんて………事情聴取待った無しだ。


「……はぁ」


男達の様子を伺う。"ヒール"を何度か掛け直して、外傷は殆どなくなり、途中男達の意識が戻りかけたため〈遮断〉を使ってまた気絶させた。

それと、辺りに残っていた土壁の瓦礫と煙を魔法で粉にし、風で飛ばしておく事も忘れない。


未だ気絶しているルインを背中におぶる。

そういえば警備隊の人達にこの場所教えてないな。と今更になって思い出し、げんなりしていると〈感知〉に反応があった。


それとなく空に向かって雷魔法を放つ。

すると予想通り、グレンの魔法に気がついてくれたのか警備隊の人達がこちらに向かって走ってきた。



「…ッ!グレン様!?これはいったい何が…」


先程会った警備隊の人達が側までよってきて、ルインと気絶している大人の男4人を交互に見る。


「…………」


「……あ、あの…グレン、様…?」


……正直説明が面倒とか、無言でいたら何も聞かずに男達連れてってくれないかなとか、俺の顔覚えてたんだなとか、無駄な事を考えていたが。


つい舌打ちを打ちそうになったのを堪えて、にこりと笑う。


「警備隊の皆さんご苦労様です。…あぁ、ルインは緊張が途切れて寝てるだけです。……それと、ここに寝ている人達を拘束して連れてって下さい。建物の中にいた人達ですので」


「えっ…、あ、はい!……あ、それと、この男達はどうして倒れているのでしょうか…?」

「…………、僕が魔法で少し懲らしめただけですよ。もちろん死んでません、気絶させただけです」

「……魔法で少し…?」

「はい、少しだけ」


今度はグレンと男達を交互に見ながら困惑している。

中には「どんな魔法で」「こんな子供が…?」「でもあのアルバート様の…」と話しながら警備隊の人達は男達を縄で拘束していく。


警備隊の人達も他に何かあるわけではなさそうだと判断したのか、それ以上何か聞いてくる事もなく、そのままグレンも一緒に広場へと戻った。



……

……



「………はあぁあぁぁ〜…」



自室に戻ってきたグレンは、ボフン。と音を立てて、自らベッドの上に体を投げる。


あれからグレンは、気絶したままのルインと一緒に馬車で屋敷へと帰ってきていた。


実は広場に戻った時には、賊達は全て拘束されており、残るはグレン達の問題と後処理のみ。

後はルー兄様達に任せて、一足先に屋敷に戻って来たと言うわけだ。


「…………」

『主〜〜』

「……何だ?」


ベッドの上にぴょんっと飛び乗ってきた白虎に、投げやりに返事を返す。


『魔力頂戴ッ』

「…………はぁ…好きにしろ」


既に白虎には今日の事を話している。なのに機嫌が悪いのがわからないか…空気を読めと言いたいが、それすらも面倒で素直に手を出す。


『おーおー主〜。今日は一段と怖い魔力溜め込んでるなぁ。……あ、いや、俺っちはこれはこれで好きだぜ?ピリッとしてシュワっとした魔力だ』


何だその食レポは。

俺の魔力は炭酸か?それにピリッて…辛いのか?


思わずじろりと白虎を睨むが、もぐもぐうまうまと視線を気にせず魔力を貰う白虎に、苛つきよりも呆れた。



そのまま横になりながら、今日街で起こった事件を思い出す。思えば街の様子で色々と疑問に思う事が結構あった。


街の中に入るなら門がある。だがそれを無視して賊達が街の中に入るのは可能なのか?それにルインと男達が騒いでいたにも関わらず、あの周りには野次馬が居なかった。

街の中は普通に広い。広場に避難している人がいても、そこから離れた場所に事情を知らない人が歩いていてもおかしくは無いはずなのに。

〈感知〉を使って辺りの家の中の気配を探っても見た。

結果家の中に人はいた。でも誰もこちらを見ている気配はしなかった。


正直領地に関して俺達から関わる事はしてこなかったので、判断材料が少なく、あの街の何が普通で何が当たり前なのか難しい。

……そういえば、非常時用の鐘が鳴った音も聞いていない。

鳴らすほどの事じゃなかった?ルー兄様達は特に気にした様子はなかった。

だが…考えれば考える程おかしな点が増えていくばかりだ。



隣のベッドで未だ起きず寝ているルインをふと、横目で見ていると、白虎が俺の腹の上に前足を乗せ、だらりと頭を置く。


『ルインなら夜には起きると思うぞ?』

「わかるのか?」

『主の魔法の影響もあって遅くなってるだけだ。まぁ赤子に向かって、大人が全力全開の上級魔法ぶっ放した様なもんだってな!…なに、大丈夫さ!障害が残るなんて事は無いからな』

「……そうか」


白虎はグレンのお腹を前足で叩きながらげらげらと笑う。


「…正直俺でも〈遮断〉の効果がここまであるとは思ってもいなかった」

『スキルレベルを上げれば、その分使い道がぐんと広がるからなぁ。まっ、主がまだまだ魔法が下手って事だ!くははっ!』


今回に関して白虎の言う事は正しい…最近はレベルを上げる事に集中していた。上げた後の効果や影響に関してはまだまだ勉強不足という事。


「……はぁ。ちょっと外に出ただけで、どうしてここまで問題が増えるんだ」


ベッドからぐっと体を起こして、白虎を腹からどかす。

そのままググッと伸びをすると、白虎もグレンと同じように伸びをして、ニヤリと笑った。



『ははっ!まだまだ覚える事がいっぱいだなッ主!』




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