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衝撃


『だから、道案内してって…』


走り出した足をピタリと止めてグレンに聞けば、「は?」と呆れた様な声が返ってきた。


それに対して、つい、ため息が溢れる。


おれにはわかった。グレンのその一言には、"こいつ何言ってんだ?普通覚えているだろう?"…と言う意味で言っているのを。


確かに多少はおれでもわかると思う。

でもだからといって、屋根上から追いかけている状況で、正確な下の道まで覚えてるなんて事は無いし、前ばっかり見てたから後ろなんて記憶には真っ白だ。むしろ今は一面屋根しか思い起こせない…。


当たり前のように思ってるグレンとは違う……おれには難易度が高すぎる!


『……あぁ、そうだな。いや、すまん』


わかってくれたかと思ったら[思考]がONになっていた。…すぐにOFFに切り替る。


『少し待て。場所を変える』


そう言うとグレンは潜伏してる建物と、おれが走る方面が両方目に入る位置に移動する。


視覚を共有してるから、今おれがどの位置にいるかもわかるんだろうな。ほんと、グレンの視界を見ても屋根しかない…あ、少し開けた場所がある。あっちか?……おれも屋根に上がりたいけど、戻れば人は多くなるし…少し不便だけど仕方ない。




指示された通りに進めば段々と人が多くなり、今まで居なかった警備隊の人達が集まっているのがちらほらと見え始めた。


「———……状況の確認を!…今は何処に居るかわかりません!——今はこの中に!!!」


合流を予定していた広場に到着すると、周りに魔法で作られたのか結界が張られていた。中にルトアの姿が見える。


「ルー兄様!!!」

「…ッ!!?ルイン!!!」


声に気がついたルトアは、ルインの姿を見て驚き、結界の中から飛び出して来た。


「ルイン!今まで何処に居たんだ!怪我はしていないか!?」


顔色を青くして詰め寄るので、大丈夫だからと落ち着かせる。

この状況は?と聞いたら、何でも盗賊を護送中だった馬車が道中襲われ、逃げた者達がこの街の中に入ってしまったらしい。


「まだ全員が捕まったわけじゃないんだ。だから急遽避難する場所として、近かったこの広場に今は結界を張っている。今は結界の中で待っていて欲しい。ヴィンスもこの中にいる」


なるほど、だから警備隊の人達がほとんど見当たらなかったのかと合点がいった。

だけどそう考えると、今も潜伏しているあの男は、わざわざ女の子を拐ってまでして騒ぎを起こす必要があったのか。逃げるだけならそんな事をする意味なんてないのに。


「それにグレンは?………いや。とりあえずヴィンスの方に行こう」


ルトアに連れられて、避難していた人達とは別に区切られた囲いの中に通される。


「ヴィンス」

「……ん?ルトアどうし…ッルイン!!無事だったか!」


ルトアの声に振り向いたヴィンセントが、ルインを見て目を見開いた。

そのまま近寄れば、ばしばしと背中を叩かれながら無事で良かったと笑う。


「…ん?ルイン、グレンはどこにいるんだ?」


ヴィンセントはきょろきょろとルトアとルインの周りを見て、グレンがいない事に疑問を向ける。


「え、えと…グレンは今、拐われた女の子を見張って…」

「「!!!」」


ルインは早口でグレンと拐われた女の子について語った。


「……っなるほど、ね。建物に潜伏…」

「…その女の子は俺達の友人の妹なんだ。実は今日その友人と会う予定でいた。だが丁度その時母親と妹は外に出ていてそれで…」


あちらに座っているのが女の子の母親と友人だ。と視線を別の方に向けた。

つられて視線を向ければ、俯いた状態で両手を組み、体をカタカタと震わせている女性がいた。

その隣にいる友人の青年は、遠目から見ても大分顔色が悪いのがわかる。


ひとまず今の話で、ヴィンス先輩の方から警備隊に連絡をしてくれるそうだ。


こっちの状況は理解出来た。後はグレンの方をどうするか何だけど。


『……グレン。そう言う訳なんだけど、どう?』


途中からずっと無言だったグレンに、念話で聞いてみる。

そっちがどうなってるかも知りたい。

グレンの視点を見ても感知のスキルは反映されてないから、映像以外はよくわかんないし。


『………』


……??ん?あれ、返事が…この距離なら念話は届くはずなんだけど。


『グレン?』

『……どうしたもこうしたもないんだが』


無言だったグレンから、冷たい声が響く。


あ、これは怒ってる。


『お前共有してたって、見えてても何言ってるかまでは聞こえねーよッ!アホか!!思考もずっとOFFのままで理解出来ねーだろ!』


途端に、ぐわっ!っと頭に響く怒号に、ルインは思わず反射的に両手で耳を塞ぐ。

……そうだ…共有出来るのは思考と視覚………後味覚。

さっき思考を切ってたのすっかり忘れてた。


『……チッ。下手に会話中に念話送って変に思われたら面倒だと思って黙ってたってのに。……幸いこちらの動きは無い。熱りが覚めるのを待っているのか…よくわからん』


気にせず念話すればよかった。と、不機嫌に言うグレンを宥め、とにかくこっちの状況を話せと言うので状況を伝えた。


『つまり、馬鹿共の連中がこの騒ぎの原因と。でもって拐われたのはルー兄様達の友人の妹か……』

『だから2人も顔色悪そうで…「ルイン、少しいい?」…グレンちょっと待ってて』


『……そのまま念話も使え。それなら俺にも流れがわかる』

「『……ん。えっと、何かありましたか?ルー兄様』」


グレンに言われた通り念話を使いながら、話しかけてきたルトアと話し始める。


「こんな事を頼むのは兄として間違っていると思う…でも、申し訳ない、ルイン。警備隊をグレンの元に案内して欲しいんだ」

「『警備隊の人達ですか?グレンの場所に案内するのは』」

「そう。話をしたら一度こっちに戻ってくるみたいで、そこから一緒に行って欲しい。もちろん案内だけで」

「『わかりました。おれで良ければ手伝います。警備隊の人達は後どれくらいでこっちに着くんでしょうか?』」

「もうすぐかな。そんなに遠くに行ってなかったみたいだから」

「『じゃあ来たらまた教えて下さい。ここで待ってます』」

「ありがとう」


また後で、と言ってルトアは他の警備隊の人達の元へと行った。


『……今度こそ、そう言う訳なんだけど…?』


次はしっかりとグレンに向けて念話を飛ばす。


『……ひとまず俺は、ここでルイン達が来るのを待っていればいいわけだ。……そうだな…もしこっちに向かっている最中に何かあれば、空にでも適当に魔法を飛ばす。それくらいの合図なら問題ないだろ』

『わかった』


……

……



「ルイン!」


呼ばれた方を向けば、ルトアが警備隊の服装をした人達と一緒におれの方に来た。


「ルー兄様!その方達と一緒に行けばいいんですか?」

「うん。申し訳ないけどよろしく頼むよ。時間も惜しいし、すぐに向かって欲しい」

「わかりました。………皆さん、こちらです!」



グレンに念話で道案内を頼みつつ、警備隊の人達と道を進み、その間に軽い自己紹介をする。


そして建物に近づいてきたので、そろそろです。と警備隊の人達に声をかけようと…、


——バリバリッ!


した瞬間、空に一瞬だけ稲妻が走った。

目で捕らえたのも一瞬で、長さは短くほんの僅か。おれと、警備隊の人達の周辺しか見えていないと思う。そして、これはグレンからの合図だ。2人の念話のやりとりを知らないので、何かあった。と周りにもわかるようにする合図。


周りに一度静止の声をかけ、グレンにどうしたと念話をしつつ、共有していた視界を見て、


ピシリと体が固まった。


グレンの視界は、稲妻が走った時はまだ外の視界だったのに、今は薄暗い部屋にいた。

映像越しでは薄暗くて見にくい。だけど、それでもはっきりと見えたのは、硬直する体とは別にぐわりとルインの感情をかき乱した。


拐われた女の子と特徴の一致するその姿は、両手足を縄で縛られ、移動する事が出来ないよう更に鎖に繋がれて口まで塞がれていた。

特に見た目に外傷は無いものの、目が虚なままその体は小刻みに震えていた。


…なんだこれ。


グレンの視界が動き出し、女の子にヒールをかけているのがわかる。


『……ルイン、男達が建物から出た。尾行していた男は服装が変わっている。建物にいた5人の内4人とも男。そのまま直進して3番目の角を左に曲がれば男はいる。警備隊を2人ほどこっちに寄越してくれ』


グレンの声が。警備隊の人達が話す声が。



水の中にいる時の様にくぐもった音に聞こえた。






ナンダコレ。






共有の思考が、意思に関係なくONにOFFにと切り替わる。


どろりと溶けた気味の悪い感情が、思考をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。



「………直進して3番目の角を左」



これは自身の感情か、グレンの感情か。混ざった思考読み取って、ぼそりと口に出す。

ごぽり、ごぽりと体から漏れ出る魔力を、無理やり魔法に変えて身体強化をかける。

軽く踏み込んだはずの地面は、瞬間ゴバッと音を立てて小さく割れた。


警備隊の静止の声を無視し、そのまま一気に駆け出し道を進む。


言葉通りに角を曲がれば、男が4人、ギャハハと汚い声で笑いながら歩いていた。

1人は見た事のある男。尾行されていた事も、ルインの存在にも気がついていない。好都合だとばかりに魔法を放つ。


「"土壁(アースウォール)"」


その瞬間、男達の周りを魔法で高く作った壁で囲う。そのまま壁の上に飛び乗って、空けていた天井から下を見下ろせば、男達は何だ何だと騒いでいた。


「"フリーズ"」


続けて氷の魔法を放つ。パキパキッと音を立てて、男達の足元を下から一瞬で腰まで凍らした。


「ッッ!!誰だてめぇ!?!何しやがる!!」


身動きが取れなくなった男達は上を見上げ、視界に入ったルインに向けて罵声を飛ばす。


「……何?それはこっちが聞きたいんだよ——"氷棘(アイスニードル)"」


今度は地面からトゲの様な細い氷を作り、男達の太ももを貫いた。


「「「「ギャアアア"ァッッ!!!」」」」


汚い男達の悲鳴が壁の中で反響する。

太ももを貫いた氷の周りが、男達の体温でじわりと溶け出し、空いた隙間から赤い液体が氷に伝った。


「なぁ。あんたらあの子に何したんだよ?」


脂汗をかきながらも、男達はルインの言葉の意味を理解したのかニタニタと笑い始めた。


「さぁ、なッ!!何の事だかわかんねぇなぁ!?」

「ッとぼけるな!!!」


溢れ出ていた魔力がルインの足元で暴れ、声に反応して稲妻を放つ。そのまま足元の壁に亀裂が走り、ガラガラと音を立てて崩れ、ルインもそのまま落下した。


男達は好機とばかりに、ルインが落ちたと思う場所に向けて容赦なく魔法を放って追撃をした。

魔法を止め、凍ったままの下半身を見て舌を打つ。

男達の中で火の属性を持っている者はいなく、仕方なく素手で殴って壊すか、自身に向けて風の魔法を使って削るかと動こうとした瞬間、



「"フリーズ"」



はっきりとした声で唱えられた魔法は、男達の体を頭だけ残して一瞬にして凍らせた。 

さっきとは比べものにならない程の冷たさに、急激に体温が下がっていく。


「!?!?ッふざッ、けんじゃねーぞ!クソガキ!!!!」


「……ッもう、魔力が無い…"魔力回復"——"火棘(ファイヤニードル)"」


ゆらりと土煙からルインが現れ、男の言葉を無視し、呟いた言葉と同時に、今度は火のトゲが男達の太ももを貫いた。


「「「「…ッッッアア"ァア"ァ!?!!!」」」」


ジュッと肉の焼ける音が響き、堪らず叫び声が上がった。

そのまま、貫き焼いた場所をさらに上から焼き焦がす。

火の熱で溶け出した氷にバキリとヒビが入り、支えがなくなった体は崩れるようにして地面に倒れた。


「"魔力回復"………なぁ、寝るなって。まだ答え、聞いてないんだから」


近寄って、女の子を直接拐った男の髪を掴んで持ち上げる。するとさっきまでの威勢が嘘のようになくなっていた。


また、ルインの魔力が周りに広がり出す。

パチパチと雷が走り、時折男達にバチッと雷が伝って、それと被るように男達の悲鳴が響く。



……あぁ。いっそ、殺してしまおうか。



ピクピクと痙攣し始めていた男達を見下ろして右手をかざし——、





「——…、「〈遮断〉」





最後の一言を放つ前に、ルインの耳元で声が響いた。

パシン。と弾ける音と共に、広がっていた魔力が消えて四散する。


「…ッ、あ」


目元を何かで覆われ、そのまま後ろに引かれ仰反る。


「もう寝てろ」


視界が暗く暗転し、フッ…とルインの意識がそこで途切れた。



大分間が空いてしましいました。

書いて消してを繰り返すのは良くないと、思い知りました。

すみません、次回は明日に投稿します。


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