再会。そして神様の冷や汗
書き始めると止まらなくなる、ちょっと眠いですね。
皆が居なくなって数分。
時計が動く音と自分の呼吸…そして、隣のいる赤子の呼吸だけが部屋に響く。
普段はメイドが1人待機しているのだが…今は俺と、双子の弟…ルインと呼ばれる奴が隣にいるだけだ。
そして……あれからずっと、俺とルインはお互いに見つめ合っている。
正確にはこのルインって奴が目を逸らさないので、自分も見つめ返しているだけなのだが。
―ブスり。
段々と耐えきれなくなって来た俺は、何となくルインのほっぺを指で押す。
すると、今度はルインが同じ様に指で押し返して来た。
「「…………」」
もう一度ブスり。またルインが同じ様に返す。
「「…………」」
そこで火がついたか、ずばばばばばばっ!!っとお互い相手のほっぺを指で押しまくった。
(何なんだ、こいつ!!)
奮闘の末、流石に疲れて「はぁはぁ…」と赤ん坊ながら肩で息をする。
何だか馬鹿らしくなったグレンは、ルインから目を逸らす。
そして先程の、家族がいた時の出来事を考えた。
(そう言えばこのルインに触れた時、何かに繋がった様な…体に電気が走ったような感覚は何だったんだ?)
そこでふと、隣にいる赤子の名前がこの世界に来る前の…あいつの名前に似ているな、と思った。
自分の名前もグレンと、前世の名前に一文字足しただけに何とも捻りがない。
「あぶぁ…(るい…)」
ふと、友人の名前が口から溢れる。
あいつは今、何処にいるのか。神様がいつか会えると言っていたが……。
「ぇあ…ぶあ??(え……れん…??)」
グレンの独り言に誰かが反応した。頭に響いた声に一瞬びくりと体が跳ねる。
ゆっくりと声のした方へ視線を向ければ…さっきまでブスブスと指で格闘していたルイン。
「あ……?あぶあああふ…?(は…?るいなの…か?)」
「ぶああぶ…?(れん……?)」
「「……………」」
「「あぶあぶあああ!!??!!?」」
お互いに理解がようやく追いついて、2人は大きな声で叫んだ。
そこで、バンッ!と大きな音と共にドアが開いて、数分前に部屋を出て行ったメイドが「坊ちゃま!?!?」と声を荒げて入ってきた。
2人はお互いに手をばさばさと動かしている。
「……お2人でお話してただけみたいですね…」
特に何も無かったと2人を見て思ったメイドは、ほっと肩を下ろす。
「あぁ…坊ちゃま達の湯浴み用のお湯…ひっくり返してしまったわ…」
メイドはぶつぶつと独り言を喋りながら、また部屋を出て行った。
再会を喜ぶ2人は、ひたすらあばあばしているだけだった。
…………
………
……
…
転生した先がお互いに赤子で、しかも双子という…何とも衝撃的な再会を果たした2人は、家族の顔合わせが済んだ事により、同じベッドで過ごすようになっていた。
殆どの時間をベッドの上で過ごす2人は、特に何か出来るわけもなく…
何故だかあぶあぶと声を出すだけでも、お互いの意思疎通は出来るようで。
喋ったり、人間観察などをして暇な時間を潰した。
そして、家族の顔合わせから丁度1ヶ月が経った真夜中に、突如2人の目の前に小さな光がキラキラと降り注いだ。
何だ?とお互いに首を傾げ、まじまじと降り注いできた光を凝視する。
『あーあー、テステスー、テステスー。あ、繋がった??れん君、るい君聞こえてるー?1ヶ月ぶりかしら』
声に合わせて光がキラキラと点滅する。
この世界に来る事になった原因の神様の声がして、2人はあぶあぶと返答する。
『あ、それだと私にはわからないわ、念話、使ってくださらない?』
「あぶあぶ(…念話?ゲームみたいなやつか?るい、わかるか?)」
「あぶあぶ(んー…こうやってれんと喋る時は、声は出てるし…)」
『それです、出来てるじゃない。そもそも念話が出来ていながらどうして声にも出して喋るのかしら。私教えましたよね?変な事しますね』
「あぶあぶ(そんな事教えてもらった事なんて無いんだが?そもそも転生しませんか、そうしましょう。加護あげるから。さぁお行きなさいで意識無くなったんだが?)」
「あぶあぶ(あれ?そもそも1ヶ月ぶりって?れん、1ヶ月前って家族の顔合わせの日の事だよなー?)」
神様を放置して、あぶあぶと喋り出す2人。
そんな2人のやりとりに神様は笑顔が引きつる。
『えっ…送り出してから妹経由で手紙が来ているはずで……。えっ…1ヶ月前が家族の顔合わせの日?それって魔力が馴染んで定着する日の事よね?今日よね?』
あれ?あれ?あは?あはは…と焦りの声が聞こえる。
やらかした!と独り言を喋りながら、汗がダラダラな神様。
そんな神様に、2人はじとーっと目が据わった視線を光に向けた。
冷たい視線が刺さる中、精一杯、声色を変えて神様は喋り出す。
『えーっとですね…。本来、最初に手紙でこの世界についてお教えして、1ヶ月後に私の加護を与えるという手筈でした。
本来ならこの時点で、この世界については理解しているはずだったのですが……。妹め…次に会ったらタダじゃおかな……んんっ、すみません。
手紙は一種のチュートリアルの様なもので、あぁ…渡しておきます、後で見てください。
……《世界の成り立ち》《魔力について》《魔物について》など、この世界で生きていく中で必要な《始まりの知識》というのがあります。
この世界の全ては己が生まれる瞬間から《始まりの知識》が魂に刻まれています。
ですが、貴方達2人は転生者でありすでに自分というものをお持ちです。
なので、手紙は《始まりの知識》を体に入れるための器とでも思って下さい。
それと加護の事ですが…すみません。
本来なら家族の顔合わせの日に合わせて贈るはずだったのですが…
産まれてから1ヶ月目、6歳の洗礼の日が2回目、15歳の成人の日の計3回のどれかに加護が与えられるという仕組みになっています。ですので、次は6歳の洗礼の日にお渡しします。…では、何か質問は?』
説明が終わり、光越しで、ふぅ…と息を吐く神様。
「あぶあぶ(大体はわかった)」
「あぶあぶ(この念話?の声を出さないように喋る方法、教えて欲しいー)」
『念話の方法は簡単です。体の中にある魔力を動かして普通に喋ろうとすれば出来ます』
…その魔力の動かし方が、そもそもわからない。
実は、漫画やアニメの知識を頼りに既に試していた。
結果は…ただ、唸るだけで終わったが。
とにかく2人は、手紙を読まないと始まらないと諦めた。
『では私はこれで失礼するわ。手紙は自分の中にあります。思い浮かべれば見れますので。…ではまた洗礼の時にお会いしましょう』
そして光は小さくなり、消えて行った。
俺とおれ、何となく分けてみたけど、どうだろう。わかるかな…