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今と昔


『主〜魔力ちょーだい』

「……ほら」

『あぁ〜やめられない止まらない〜』


ふんふふ〜ん♪と鼻歌を歌いながら、グレンの魔力を貰う白虎は今日もご機嫌だ。


「ったく。…もういいだろ。さっさと行くぞ」


だが、本来魔力を渡すのは一瞬で済む事なので、グレンはパッと手を引っ込めた。

そうでもしないと、白虎はいつまでも魔力を貰って味わい続けようとする。


『あ〜主の魔力がぁ〜〜〜「早くしろ」ウィッス』


急かされた白虎はピカッと小さく輝くと、黒色の腕輪へと変化した。グレンはその腕輪を右手に通す。


「俺は先に訓練場に行ってる。ルインもハクに魔力渡して早く来いよ」

「はいよー」


……


あれからグレン達がウィズグラント家に戻ってきて2ヶ月が経っていた。


帰って早々白虎が、ステータスの隠蔽出来ないぜ?などと爆弾投下をしたおかげで、今まで以上に剣術や魔法の鍛錬に力を入れる事になった。

そのため今日も、出来るだけ多くの技術を高めるべく、修行に勤しむのである。


「ハク、お前はゆっくりでいいからな?」

「きゅい〜♪♪」


ハクはルインと一緒に訓練場に行くことは出来ない。

何故なら聖獣でもまだ赤子同然なので、精霊と違って姿が見えてしまうのだ。

魔法で姿を隠す事もできるのだが、ハクにはまだ出来ないのでお留守番である。


「…グレン達みたいに、おれ達も一緒に訓練場にいけたらなぁ」

「………きゅ…きゅぃ………」


その言葉に、ハクは申し訳なさそうにしょんぼりと耳を下げた。


「あ、違うからな?!ハクを責めてる訳じゃ無いから!」


慌てて否定し、ハクの頭を撫でる。


「おれもさ、自分でステータスを隠せるようなスキルなんて無いから…。グレンは自分の為とか言ってるけど、結局はおれ達の事を考えてくれてるんだって思う。それなのにおれは何も出来なくて…いつもグレンに頼ってばかりだ」

「きゅぃ…?」

「わかってる。グレンは別にそんな事で俺達の事嫌がったりしないって」

「きゅきゅい」

「……何だろうな。今日はハクが言ってる事、いつもより分かる気がする」


あの時、森で助けを求めた声はハクの声だった。

でもそれ以来声は聞こえない。

なので今は、白虎に通訳してもらっている。


「よし!落ち込むのは終わり!おれもステータスが上げれば、いずれハクとも一緒にいれるスキルが手に入るかも知れないしな!!…じゃあ行ってくる。グレンの隠蔽があるとはいえ、一応用心しとくんだぞ」

「きゅい!!」


もう一度ハクを撫でて、ルインも訓練場へと向かった。



……

……



先に訓練場に来ていたグレンは白虎の指導の元、木剣で素振りをしていた。


『主、残り100回素振りしたら一旦休憩しようぜ』

『わかった』


一応近くに護衛やメイドがいるので、念話を通して会話している。


ここに何故白虎がいるのかというのは、こっちに来て1ヶ月位経とうとしていた時にグレンがふと、


「どうして剣の姿にはなれるのに、鞘は無いんだ?」


と、疑問を口にしたのがきっかけだった。


そこから白虎は、剣と鞘になれるかを試していたのだが…どうにも上手くいかず。

鞘にさえなれれば帯剣してても違和感はないのに…と思った時に今度はルインが、


「白虎もおれ達が付けてるピアスみたいになれたらいいのにな」


と、冗談で言ったのがまたもきっかけになった。


装飾品になれれば隠れている必要もなくなる!と。

そして…どういう理屈かはわからないが、自分で尻尾を噛んで円の形になった所、腕輪に変化する事が出来たのである。




『―――98、99、100!!主、お疲れさん!』


白虎の声共に、ドサっと地面に座り込む。


「…はぁ……はぁ。流石に、ちょっと休憩…」


木剣の素振り300回。

グレンはこれを毎日欠かさず行っている。


最初の頃はグレンの練習を見た白虎に『初心者丸出し』とか、『よくそんなんで大鬼(オーガ)に勝てたぜ』などとボロクソに言われていた。


今では疲れはするが回数をこなす事は出来るし、いずれは白虎の大剣を振れるようになる。と言うのが今の目標だ。



「グレン、お疲れ」


途中から訓練場に入って来ていたルインは、グレンにタオルを渡した。


「あぁ、ありがとう」


お礼を言って素直に受け取り、汗を拭う。


『次は何をする?』

『ん〜…護衛とかが見てるからな…下手な事は出来ないし…無難に魔力操作の練習がいいだろうな』

『おけー』


念話で会話をしつつ、一息着いた所で、各々魔力操作の練習を始めた。

グレンはそれと同時に〈感知・遮断・隠蔽〉のスキルを発動する。

感知で屋敷内を把握し、遮断と隠蔽でその魔力を惑わし隠す。

そうする事で、探知されていると言うことを気が付けないようにしているのだ。


ルインはひたすら4属性の初級魔法を出し、自身の周りを回転させる練習だ。

常に一定の魔力を出しつつ4属性を維持。更に強弱をつけた回転を加える事により、操作と制御を同時に練習していた。




「――しっかしグレン様もルイン様も良くやりますね〜…」

「そうだな。あのお歳でここまで熱心に鍛錬をするのは中々出来たもんじゃないだろう」

「これが終わったら、今度はノイシュさんと一般教養の授業ですよね?」

「……それも終わったらまた剣術と魔法の練習だ」

「………ハードですね」


護衛役であるロイドとスグルドは、そんなグレン達を見つめながら会話をする。


学園から戻って来た2人は、今まで以上に鍛錬に励んでいる。

だがここ最近思うのは、少し根を詰め過ぎではないかという所。

特にグレン様は過剰とも思える。

大人ですら音を上げるのではないだろうか。


「他の方々にも看視して頂いているし、我々も今は見守るしかないのだろうな」



……………

…………

………

……



「ぐぅ〜っ」と音が鳴ったのは、どちらの腹からだろう。

気がつけば日は頭上にあり、お昼時といった所。


「……そろそろ切り上げるか」


グレンは〈感知〉のスキルを切って立ち上がる。

すると…よろりと少し、たたらを踏んだ。


「グレン、大丈夫?」

「……あぁ……流石に腹減ったな。今日のご飯は何だろう」


何とでもないように振る舞うグレンに、ルインは胡乱な目を向けながらも、同じく立ち上がった。


『その前に一回部屋に戻らないと』

『そうだな。ハクが拗ねてそうだ』


護衛やメイド達に声をかけ、グレン達は屋敷へと戻り部屋に入る。

白虎が虎の姿になり、ハクの世話焼きを始めた。

その姿はお爺ちゃんと孫の様。


『狐っ子〜、いい子にしてたか〜?』

「きゅいきゅいっ!」

『お?そうかそうか〜』


2匹?2人?の会話はグレン達にはわからないので、「おとなしくしてろよ」と声をかけ、メイドが入ってくる前に部屋を出る。

昼食を食べる前に軽くシャワーを浴びて、そのまま食堂へと向かった。



今日の昼食のメニューは、最近グレン達がハマっているバケットサンドだ。

たっぷりの野菜と肉をパンで挟んで食べる、至ってシンプルな物だが、手頃な上に重すぎない。

何だかんだ疲れている2人の為に、さらりと食べれるこれが、良く昼食になっている傾向にあった。


「グレン様、ルイン様。少しよろしいでしょうか?」


もぐもぐむしゃりとご飯を食べていた2人に、執事のノイシュが話しかけて来た。


「(もぐもぐ、ごくん)――ノイシュ?どうかした?」

「お食事申し訳ありません。少しばかり急用で、これから屋敷を出ないといけない事になりまして、午後に予定していた授業を今日は無しという事をお伝えに…」

「そっか。急ぎなら早く行った方がいいよな…?」

「俺達の事は気にしなくていい。気をつけて」

「ありがとうございます」


そう言ってノイシュはすぐに部屋から出て行った。


「……急用ってなんだろう?」

「さぁ。わざわざノイシュが行く当たり、本当に急用なんだなってのがわかるだけだ」

「そっか。でも午後の授業が無くなったからどうしよう?」

「俺は訓練場に行こうと思う。元々授業が終わった後はまた剣術と魔法の練習をする予定だったし」

「え…でも、グレンさっき…」


――さっき訓練場で立ち眩みがしたんじゃないのか?…とルインは言いかけて止まる。


多分今のグレンは、魔力が少なくなっていると思う。

スキルを使うにも魔力が少なからず必要で、こっちに来てから、常に隠蔽をかけ続けているグレンの負担はかなり大きい。


だからといってそれを直で指摘すれば、グレンはまた大丈夫と流すだけだ。


「さっき…何だ?」

「あ…いやさ。さっきまで魔力使ってただろ?だから授業の時間だけ休んで魔力が回復すれば、その後の練習がもっと効率よくなるんじゃないかと思って」


咄嗟に言い訳っぽくなってしまった。

でも、ちょっとは休んで欲しいとも思っている。


「……効率…か。わかった、ルインの言う通り午後は少し休む事にする」

「!!!そっか…そっか!じゃあおれも少し休もうかな!効率的に!!」

「お、おう…」


何か上手くいった!とルインは喜び、ささっとご飯を食べ終えて、グレン達は自分の部屋へと戻った。



「俺は少し横になるけど、ルインは?」

「おれはハクと少し遊んでから休む〜」

「そうか、じゃあおやすみ」

「おやすみー」


グレンがベッドに横になると、直ぐに「すぅすぅ」と寝息が聞こえ始めた。


「………やっぱり疲れてる、よな」


寝ている間はスキルが発動しないので、今のグレンは本当に休めているといっていい。


そこで、ハクがグレンの方へトコトコと向かう。


「きゅいきゅい」

「ハク、邪魔しちゃダメだぞ。グレンには少しでも休んで欲しいんだ」


ルインはハクを膝の上へ乗せ頭を撫でた。

その横に、白虎も近寄る。


『……なぁ白いにいちゃん』

「ん?」

『主は…どうしてあんな頑なに人目を避ける?目立つ事を嫌う?…全属性に加護持ち、スキルや称号は希少。ステータスも同年代に比べたら遥かに高い。確かに目立つ要素がたんまりだ。……だが、それでも主の行動はちと過剰すぎやしないか?』

「…………」


突然だったが、白虎が何を気にしているのかわかった。

そして、それは自分も一番気にしている事。


『何故止めない?常に気を張り、唯一そうじゃ無いのは寝てる時のみ。主達の家族や、一部の者は、全てではないがステータスを知っているんだろう?あのままだといつかぶっ壊れる。そこまでする理由が何処にある?』


「……白虎はさ、おれ達が転生者なの知ってるだろ?」

『称号を見たからな』


「………おれさ……前世で、誘拐されかけた事があったんだ」




――それは偶然。


同じ施設で暮らしていたグレン達だが、最初はお世辞でも仲がいいとは言えず、学校の帰りはいつも別々で帰っていた。

でも、とある出来事で2人の仲は近くなり、施設まで一緒に笑って帰るくらいには、仲が良くなっていた。



…グレンは以前より、とある誘拐犯に目をつけられていた。


グレン達が2人で帰るようになり、難しいと判断した誘拐犯は誘拐するのを諦めていた。

そんなある日、たまたまグレンとルインは別々に帰宅していた。

それを好機と判断したのか、グレンを誘拐するべく実行に移した。


でも…誘拐したのは、グレンではなくルインだった。

間違えたのだ。見た目がほとんど同じだったから。


だが、そこでこれまた偶然が重なった。


誘拐犯の視線の先に、グレンが歩いていた。

ルインとほんの少し遅れて帰っていたグレンは、何となく帰る道を変えていた。

誘拐犯の一瞬の動揺と、ルイン達を目撃したグレンは叫び、その声で誘拐犯はルインを投げ捨て逃げ出した。


叫びを聞いた近隣の住民が警察へ通報。

のちに捕まった誘拐犯は、子供を誘拐しては殺し、鑑賞するという…狂気に満ちた連続殺人の犯人だった。


それからというもの、グレンは目立つ事を極端に避けるようになった。

そして、身代わりになりかけたルインを目立たせないように、自分に視線が集まるようにと立ち回るようになったのだ――



「……転生した今でも、グレンは目立つ事を避けるのに、おれがいるから前に立とうとする。ステータスがわかってからはそれが極端に強くなった。今はもっと」

『…………』

「グレンは、この件だけは何を言っても自分が悪いと思ってる。何度気にしなくていいって言っても絶対に納得しない。……だからこそ、今のグレンには何も言えないんだ」


負担になっているのは見なくてもわかる。

元々のおれの性格も、その負担に拍車をかけているだろう。

直ぐに突っ走ってしまうおれを止めるのは、いつだってグレンだ。


無理をして欲しいわけじゃない。

でも、どうしても納得しないならせめて自分も、グレンの隣に立っていられるようになろうと思うのだ。


「…白虎はさ、グレンの事好き?嫌い?」

『そりゃ美味い魔力くれる主だからな、好……冗談だって。……いい奴だと思うぜ。何だかんだで狐っ子には優しいし。生意気で口は悪いが、好きなタイプだ』

「…グレンはああ見えて、動物好きだからな〜」

『お?それはいい事聞いたぜ』

「……だからさ、白虎――」


――ゴソッ…


「あ、グレン。起きた?」

「…………」


むくりと起き上がったグレンからは、返事がない。


「…??グレン?」


「…………ハク。おいで」

「きゅ?きゅいっ!」


グレンに呼ばれたハクは、嬉しそうにトコトコと近寄ってベッドに潜り、一緒に寝始めてしまった。


「『……………』」

「……え?まさか起きてた?」

『いや流石に寝てただろうさ』

「じゃああれは…寝ぼけてた?」

『だろうな』

「ふっ、ぶはっ!!はははっ!………っっ!っっ!」


つい吹き出したルインは、慌てて口を押さえて笑いを堪えた。


『……っっ、…なぁ白虎』

『んぁ?何だ白いにいちゃん』

『おれは…グレンの行動を止める事は出来そうもないけど、おれ達で支える事は出来ない?』

『……誰に言ってんだ。俺っちは四獣様だぜ?…無茶をしそうな主を支えるのも止めるのも、使い魔である俺っちに任せなってな!』

『……ありがとう!白虎!!』

『おうよ!白いにいちゃ……いや、ルイン。おめーも、狐っ子の事よろしくな』

「もちろんっ!!!………あっやべ」


念話じゃなく普通に声が出てしまったが、そろりとベッドを見ても、グレンが起きる気配はない。


『少し休んだらどうだ?おめーさんもぶっ倒れたら狐っ子が悲しむぜ?』

「…そうだな…じゃあおれも休むよ。おやすみ」

『おう!いい夢見ろよ』


白虎に言われた通り、ルインもベッドに横になる。


思っていたより疲れていたのか、すぐに睡魔に襲われて、そのまま意識を手放していった。





『………………さて、俺っちも使い魔らしく仕事するか』





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