メリット、デメリット
「――グレン様、ルイン様。それでは夕食の時間になりましたらお呼びに上がります」
「わかった。……あぁ、夕食の時間まで少し横になる。途中で何か持ってくる事はしなくていいから」
「かしこまりました。では、失礼いたします」
静かに扉を閉め、部屋から出て行ったのは屋敷で働いているメイドだ。
あれからグレン達は学園を出て、ウィズグラント家へと帰ってきた。
何故帰って来たかと言うと、国からの通達によりまさかの学園自体が休校になったのが原因だ。
理由は当然、あの森で起きた騒動。
結局有益な情報は何も得られず、わかるのは、得体の知れない何かが騒ぎを起こしたはず。と言うだけ。
だからといって放置出来る案件でもなく…。
むしろそんな事が起きた危険な森を、学園内に置いておくのはいかがなものか!何かあってからではどうするのだ!と、貴族の一部が騒ぎ出した。
そこで、森を別の場所に移しては?と誰かが言い出すが、それを行うにどれほど時間がかかるのか…だったらいっその事休校にして、学園自体をリニューアルすれば良い!となったのである。
そっちの方が時間かかるのでは…?と思ったが、まぁ色々と複雑な事情とやらがあるみたいだ。
となると、またそこで別の問題が。学生はどうなる?と言う話である。
結果として、休校期間は2年間。
その間、自宅で家庭教師を呼ぶなりして勉強出来る者は自主学習。
それが難しい生徒は、第二学園へと通う事となった。
また、王城の一部を解放し、上級学生はそちらの方で勉強が出来るらしい。
そんな訳で、家庭教師を呼べる…と言うか、そもそも屋敷に執事兼家庭教師のノイシュがいるので、グレン達は自宅に戻って来たのである。
「ハクー。もう出てきていいぞ」
「…きゅ?きゅ〜〜っ♪♪」
「わっ!待て、落ち着けって!」
「白虎。お前も出てきていいぞ」
『お?…んじゃお言葉に甘えて』
荷物の中からひょこりと出て来たのは、ルインの使い魔になった【銀狐】の聖獣だ。
【銀狐】は種族名であって、個別の名は無かったので、白銀の毛並み…という事で、【ハク】と命名。
そして、短剣の姿から虎になったのは、グレンの使い魔になった四獣の【白虎】だ。
元々四獣はこの世界に四体しかおらず、代々受け継がれる名前の一つが【白虎】というらしいので、名前はそのままの【白虎】だ。
ちなみに、何故長剣ではなく短剣なんだというのは、そもそも白虎は[短剣][長剣][大剣]に変化することが可能らしい。
『主って……お坊ちゃんだったんだな〜』
白虎は、部屋をきょろきょろと見渡し、早くも自分の寝床を探し始めた。つられたハクも白虎に続く。
「お坊ちゃんは止めろ。そんな柄じゃない」
『へいへい。…しっかしまぁ今回は災難だったなぁ』
災難とは学園が休みになって…と言う事だろうが、グレン達にとってはそうでもなかったり。
これでも一応、書類上はまだ6歳だ。
正直その年齢の授業など受けても、ただただ眠くなるだけである。
そして、白虎やハクが使い魔になったのも頭を悩ませた一つだ。
こんな子供に、聖獣やら世界に四体しか居ない四獣が使い魔に?!なんて…どう見ても目立つし厄介ごとになるに決まっている。
周りにどう説明すればいいのかもわからない。
白虎は剣の姿になれるのでバレにくいとは思うが、正直隠せるなら隠していたかったので、都合が良かったとも言える。
「家でも勉強はするから問題はない」
「ハク達もこっちに居た方が良かったし、いいんじゃん?」
『まっ、俺っちとしてもこっちの方が自由でいいわな。それに主達もそのステータスだと周りから浮いて仕方なかっただろう?』
白虎は今グレン達のステータスを見ているようだ。
「なぁ白虎。すっかり忘れてたんだけど、おれ達のステータス見えてるんだよな?」
『おうよ。今もばっちり見えてるぜ』
「………それって何処まで見えているんだ?」
『ん?何処まで?そんなもん、最初から最後までだ』
「…俺達はステータスを隠している。俺のスキルと魔道具を使って。それでも見えていると?」
『見えてるぜ。まぁ正確には、全て見えるようになったのは契約してからではあったが…見えていなかったのは〈転生者〉の称号だけだったし』
なるほど。〈転生者〉の称号がバレているなら、本当に全て見えているようだ。
「白虎は…転生者がどういう者かわかっているのか?」
『異世界から来た人間だろ。あれ、それは転移者だったか?まぁどっちも似たようなもんだろうよ』
「理解はしているんだな。……でも、驚かないのか?俺達が転生者だったと」
『驚いたぜ?まさか俺っちの主になった人間が転生者とはなってな。いや〜長生きしてみるもんだなぁ』
何処で白虎が、"異世界"と言うモノを知ったかはわからない。
それにグレン達が転生者というのは、家族にすら隠している事だ。
まさかこんな形でバレたのは驚いたが、白虎が嫌悪感を抱いてない事に少しほっとした。
『…にしても主。これからはどうするんだ?』
「…?」
どう…とは、白虎やハクの事だろうか?
それならこの部屋にいればいいだけだろうし……いや、この部屋も怪しいか?
毎日俺達を起こしにメイドやノイシュが来るし、掃除をしに入っていたりもする。
……何処かに隠れ家が必要か?
『あの〜主?』
「――……ん?あぁ、悪い。何だっけ?」
『だから〜これから主のステータスをどう隠すんだと思ってよ』
「どうも何も、白虎以外は隠せているが?」
『あ〜…えっとな…俺っち達が使い魔になったから、その…主達のステータス、魔道具だけじゃ隠しきれなくなってると思うぜ?』
「「え?」」
隠れ家とかそんな事考えてる場合じゃなかった。
『聖獣と四獣の加護を受けた人間だからな。ステータスにも影響はあるし、いくら高性能な魔道具でも押さえ込んで隠蔽なんて出来ないだろうさ』
「……………」
どうしてこう次々と爆弾が降ってくるのか。
とにかく面倒事はごめんだと言っているのに。
騒がれたくないから、隠しているってのに…。
「よし。今からでも遅くない…契約を破棄しよう!!」
『ちょおおお〜〜っと待った!何で?!どうして主はそう直ぐに破棄って考えになるんだ!?』
「最短で最善の考えだからだ」
何言ってんだこいつ…みたいな顔をされても困る。
そもそもの原因は白虎だ。
それをなくせば問題ない……―――
『そうだ主っ!学園が始まるまで2年も猶予がある!主が持つ〈隠蔽〉のレベルを上げれば問題ない!それさえクリアできればその魔道具と合わせて問題なく隠せるだろうさ!』
「……それをするくらいならさっさと破棄した方が早『にいちゃん!白いにいちゃん!!主に何とか言ってくれよ!』……お前、俺の魔力が欲しいだけだろ」
だから、そんなこの世の終わりみたいな顔されてもな。
「グレン、今すぐ誰かにステータスを見せる事もないと思うし…様子見じゃダメか?まぁおれは何か出来るわけじゃないけど…」
確かにそうかもしれない。
でも、絶対にバレない保証もない。
「…………どのくらいレベルを上げれば問題ないんだ?」
『MAXは10だからな、5になれば今の所問題ない。…主達は双子だろう?』
「あぁ、そうだが……何かあるのか?』
『双子ってーのはよ、経験値にも影響があるんだ』
「どういう事だ……?」
『双子はステータスが似る。これくらいは知ってるだろ?だがその他に、自分のレベルを上げる際、本来100で済む経験値が、双子だと200必要になる。つまりは1人で2人分の経験値が必要になるんだ』
これは初耳だ。白虎の言う事が本当なら、他より倍は努力しないといけない。
そして、必要な経験値が多ければ多いほど辛くなっていく。
『だから殆どの双子はステータスが低い。中々レベルが上がらないからだ。だがその分、レベルが上がった時の効果は絶大だ』
なるほど、人生ハードモードってやつか。
ゲームとは違って、レベルを上げる経験値が後どれくらい必要かなんてわからない。
倍は必要と言うが、体感ではもっと多く感じるだろう。
『そこで俺っち達の登場だ。使い魔が稼いだ経験値は、量はどうあれ主達にも入る。……どうだ?契約していた方が良くないか?加護も与えたし、他より経験値は多いはずだ』
そう言う事なら、白虎の話を聞いておく価値はある。
今のステータスは、スタートダッシュが出来ているだけ。
経験値が溜まればレベルは上がる。
だが、他の人より効果が高くても、努力を怠ればいづれ追い抜かれる。
今の年齢、今のステータス、今の環境だからこそ、グレンの隠蔽や魔道具でバレていないだけという事。
上には上がいる。
別に目立ちたくないだけで、強くなりたくない訳じゃない。
「結局、目立たないようにするにはレベルを上げないといけないか………」
『ついでに、双子の繋がりが強ければ強い程、ステータスに影響がある。主達の繋がりはかなり強い。俺っちが見た中でこれほど強い繋がりは初めて見た』
…繋がり。確かこの世界に来て、アルバートが双子の繋がりがどうとか言ったことがあったような。
『正直な所…主の魔力が美味くて契約しようと思ったのは確かだが、この繋がりの強さを見て契約しようと思った所もあるんだ。もしかしたら主の魔力が美味いのは、この繋がりの影響もあるのかもしれないとな』
グレンの魔力の味を思い出しているのか、白虎はじゅるりと口から出かけた涎を啜った。
「それならルインの魔力を貰ってみたらどうなんだ?」
『いや、白いにいちゃんの魔力は貰った事はある』
「え、それいつ?」
『俺っちが剣で折れてた時だな。狐っ子に"ヒール"を使ってくれただろう?あの時だな』
「………あぁ、なるほど」
(…………ん?もしかしてあの時ハクに"ヒール"をしても治りずらかったのって、白虎に魔力が流れていたから?)
『確かに白いにいちゃんの魔力も他と比べれば美味かったんだが…主と比べると破格なわけよ。……だから主』
「…………そんな目で見ても今は渡さねーぞ」
『主のケチ』
――イラッ
とりあえず、グレンは白虎の頭をがしりと掴む。
「………とにかく。白虎の言う事が本当なら、どの道経験値が足りなくて隠蔽の効果が薄まるという事だ。ルインの言うように、今はステータスを見せる相手はいない。その間に、少しでも多く鍛錬を積んでいく事にする」
「おれも、もっともっと魔法の練習する!おれはグレンみたいにスキルのレベルは上げれそうに無いけど、魔力属性なら話は別だし!」
『主〜手離してくれよ〜』
そうと決まれば早速鍛錬を積まないと。
…その前に一度ステータスを見ておいた方がいいか。
自分のステータスなんて、普段は見てないからな。
「ステータスオープン」
「あ、おれも見る!ステータスオープン」
グレン達の声と共に、ステータス画面が表示される。
ちなみにグレン達の今のステータスは…
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[グレン・ローゼ・ウィズグラント]
6歳
種族/人族
魔力/4000→5000
魔力属性
【火/B】【水/B】【風/B】【土/B】
【光/B】【闇/B】【無/A +】
【氷/B−】【雷/B−】
【聖/C→C+】【空/C】【時/C】
[スキル]
鑑定lv1/感知・遮断・隠蔽lv1→lv2
[オリジナルスキル]
共有lv1→lv2
[称号]
〈統べる者〉〈転生者〉
[加護]
〈創造神の加護〉
《New》〈四獣:白虎の加護〉
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[ルイン・ローゼ・ウィズグラント]
6歳
種族/人族
魔力/6000→7000
魔力属性
【火/A】【水/A】【風/A】【土/A】
【光/B】【闇/B】【無/B】
【氷/B−】【雷/B−】
【聖/C→C+】【空/C】【時/C】
[オリジナルスキル]
共有lv1→lv2/創造魔法lv1
[称号]
〈精霊の導き〉〈転生者〉
[加護]
〈創造神の加護〉
《New》〈聖獣:銀狐の加護〉
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〈共有lv1→lv2〉
固定対象/グレン・ローゼ・ウィズグラント
固定対象/ルイン・ローゼ・ウィズグラント
思考C−→C/ON or OFF
視覚C−→C/ON or OFF
《New》味覚C− /ON or OFF
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グレン達はお互いにステータスを見せ合う。
一応、レベルが上がってるのがあった。
魔力属性の聖だけ上がってるのは、多分大鬼と戦った時にヒールをかなり使ったから。
嬉しい事に隠蔽も上がっている。感知・遮断・隠蔽はセットだから、常日頃隠蔽を使ったりしていたためだと思う。
ついでに共有も上がっていた。多分これも暴発したり、大鬼と戦った時にかなり使ったからだと思った。
「魔力が千も上がったのは嬉しいな!」
「あぁ。加護もお互い増えてるし……と言うか、この〈共有〉の味覚ってなんだ……?」
「鑑定してみれば?」
「それもそうか。………鑑定」
【味覚:対象が口にした物の味がわかる】
「……………」
グレンはつい、文字を二度見した。
意味がわからない。…いや、その意味はわかるのだ。
正確には、理解したく無いだけ。
白虎を離し、テーブルの上に置いてあった小さな瓶から飴玉を一つ取ってルインに渡す。
「………〈共有〉の味覚をONにして、その飴食ってみて」
「……?わかった」
疑問に思いながらも、素直にルインは飴玉を口に入れた。
カラコロと口の中で飴玉が動き、それに合わせてじゅわりとぶどうの味が口の中に広がる。
「…で?なんでおれ飴食べてんの?」
それほど大きくなかった飴玉は、直ぐに小さくなったので、ガリッと噛むと無くなった。
「…………………」
無言のままのグレンは眉間にシワを寄せる。
口元に手を当て、ぼそりと小さく「ぶどう味」と呟いた。
そして、今度は自分で飴を食べた。
同じようにカラコロと飴が動けば、ぶどうの味は消え、口の中は程よい酸味が広がった。
ルインはそれを、怪訝そうに見つめていたが、途端に目を見開き、口元を手で覆った。
「何だこれ!酸っぱ!!!!」
そう…グレンが食べた飴玉の味は、レモン味。
今頃ルインの口の中はレモンの味でいっぱいだろう。
知りたくなかった。理解したくなかった。
誰が好んで、相手の食べた物の味を知らないといけないのか。
「正しく味の共有。何の需要もないな」
「流石にこれは勘弁…嫌がらせか何か?」
嬉しくもない新しい機能。
お互いに味覚の共有をOFFにした。
口の中の酸っぱさが、今のグレン達の気持ちを代弁していた。




