学生の森
グレン達は前半の選択授業を終え、後半の授業が始まるまでの間、待機場所で休憩を取っていた。
「グレン、ルイン…その…大丈夫?」
椅子に腰掛け、テーブルにだれる2人を見て、アーリーはそっと水を渡す。
「……大丈夫だ……問題ない」
「……グレン……今ネタぶっ込むのやめて…」
グレンはあれからヴィンセントに着せ替え人形よろしくの如く、授業で用意していた全ての武器を持たされ、試し斬りを延々とさせられた。
ルインはあれから、新しいガラス玉、基魔力水晶を渡され、
ルトアに付き添われ、延々と魔力操作の練習をさせられた。
「6歳にやらせる事じゃない…」
「あれ絶対体験じゃない。ルー兄様の笑顔が怖い…」
はははと疲れた笑みを見せながら、未だぐだりとテーブルにだれる。
精神的中身は、前世含めて20歳を超えている2人だが、それを知るものは誰もいない。
多少今世の年齢に感情が引っ張られる事は多いが、体格は紛れもない6歳児だ、不貞腐れたくもなる。
「あ、2人とも、そろそろ時間だよ」
2人はアーリーの声と、その場所に何人も入って来た教師達を見て体を起こす。
「皆さん、前半の授業お疲れ様でした。これから後半に入ります。【冒険者育成】は言葉の通り、将来冒険者になるための知識、経験を増やす為の授業です。より良いスタートを出来るよう教えていきます」
1人の男性教師が、一歩前に出て、生徒全体に説明を始める。
「授業をするに当たり、人数が多い為10人で1つのグループを、そこに教師が4人付きます。そこから各グループで進めていきます。クラス別に集まり、名前を呼ばれた者は指定のグループへ移動を始めてください」
教師達の指示で、クラス別に一度集まる。
Aクラスはグレン達を含めて6人だった。
生徒の名前が呼ばれて行き、グループが次々と出来上がる。
Aクラスの3人は途中で名前を呼ばれ、グレン達まだかまだかと名前が呼ばれるのを待った。
結果、一番最後に、「ラスト残り10名!」とだけ言われ、グレン達3人は同じグループになった。
グループは、Aクラスのグレン達3名、Bクラスは男女で2名、CはおらずDクラス男子2名、Eクラス女子3名。
計男子6人、女子4人、教師は男女2名ずつだ。
自己紹介を済ませて、グループでの授業が始まった。
「では、早速始めます。そもそも、冒険者とはなんでしょう?」
担当の男性教師、ジョルナンが問いかける。
「魔物を倒す人」
「護衛」
「何でも屋さん」
生徒は各々思った事を口にする。
「確かにどれも合っているでしょう。他に何かありますか?……えーっと、じゃあ双子のグレン君、ルイン君」
「旅人ー」
「仲介者」
迷いなくそう答えた。
2人の回答にジョルナンは微かに目を見開く。
「ほぅ……そうですね、依頼をこなすだけじゃない…何せ冒険者ですから。ルイン君の言う旅人も言い換えれば冒険ですね。グレン君の仲介者は…少し難しいかと思いますが、これも合ってます」
いまいち理解が出来ていないのか、他の生徒達の顔には疑問符をうかべている。
『グレン、仲介者って?』
ルインも分かりかねたのか、念話を飛ばして来た。
『言葉の通りに近い。天と地の差があるものは、お互いに近付く事すら難しい。だけど、冒険者って言うお互いの間に入れるものは、どちらにも近いって事』
『ふ〜ん?…まぁそこら辺はグレンに任せるわ』
『………』
グレンはじろりとルインを見たが、逸らされた。
「では次に、冒険者には何が必要でしょうか。…じゃあアウグリッド君」
「えっ、えーと…やっぱり魔物を倒す、強さですか」
「そうですね…目指すランクに分けたらそうとも言わなくてもいいんでしょうけど。高ければ高いほど、やはり上位の魔物を倒すのが仕事になってしまいますからね」
「あの……ジョルナン先生」
「なんでしょう?」
「俺…俺でも…冒険者になれますか?」
不安げに問いかけるのはDクラスの男子生徒。
「なれますよ」
「でも…俺、魔法は火しか使えなくて…ステータスも、低くて……それに……やっぱり…」
男子生徒はちらりとグレンとルインに視線を向け、すぐに目を逸らす。
ジョルナンは生徒の頭をぽんぽんと軽く撫でた。
「気になりますね。私も羨ましいです」
「……え?」
「黄金の目は全属性持ち。誰もが一度は羨む事です」
「っ……」
ちらりと見たのは目の色、金の目は全属性持ち。
そんな存在が目の前にいる。そして、自分と比較する。
これほど分かりやすいものはない。
「グレン君、ルイン君。2人は普段どのくらい魔法の練習をしてしていますか?」
「え…?っと………とりあえず魔力がなくなるくらいまで?」
「魔力制御、操作の練習は毎日少しずつ」
グレン達が答えると、ジョルナンは男子生徒にまた向き直る。
「…と、このように、全属性持ちだからといって慢心せず努力しています。君はこの子達のように努力していますか?魔力がなくなるまで火の魔力を使った事は?」
「………ない、です」
「じゃあ彼らの倍は努力しないといけないです。それでも諦めず努力すれば、例え全属性持ちじゃなくても、立派に活躍できる冒険者になれますよ」
「……頑張ります」
「はい、私も教師ですから出来る限りサポートします。頑張りましょう」
それから1時間程、冒険者についての説明が続き、区切りの良い所で教師達が立ち上がる。
「では、説明ばかりじゃつまらないでしょう。新人冒険者らしい採取でも!森の中に入って見ましょうか!」
……………
…………
………
……
…
グレン達は教師に連れらて、学園内にある森の前にいた。
森は柵で覆われ、辺りには別のグループの生徒達もいる。
「この森は〈学生の森〉と言って、許可なく入る事は出来ません。ですが、一部の授業で使用するので、その際は出入り可能です。冒険者育成の授業はこの森を使用する回数が多いので、これからも授業を選択されるようでしたら何度か入る事になるでしょう。…さて!これから冒険者らしく、皆さんに採取してもらうのは、この森に自生している【万能草】の採取です」
【万能草】とは、何か作るならまずこの草を入れて使え。と言われるほど、幅広い分野で使われる薬草だ。薬、ポーション、料理、服を染める染料、防具の効果を高める薬液などなど。
正しく何にでも使う万能の薬草である。
担当の女性教師が、自身のポーチから1束の薬草を取り出す。
その薬草の見た目は、タンポポの葉にそっくりな形をしていた。
「これが万能草です。皆さんも何度か見たり触ったりした事があると思います。1人一つ、この万能草を探して採取して見ましょう」
「注意しなければいけないのは、この森には少なからず魔物が出ます。ランク自体は一番下の魔物しか出てはいませんが、危険なのは変わりありません。私達教師が貴方達を守りますが、指示を無視したり、勝手な行動はしないで下さい」
「「「「はーい」」」」
「では、森に入りましょう!」
……
……
「んー…何処にあるかなー万能草」
早速森の中に入ったグレン達は、教師の注意を守りつつ、万能草を探していた。
入って見て思ったが、魔物が出るといっても、学園が管理しているだけあって不気味さはほとんどない、穏やかな森だ。
そういえば、と、グレンは自身の持つ鑑定スキルを使った。
気になる場所に意識を向ける。
「………鑑定。あ、見つけた」
「……は?…あぁ!グレン!それずるいって!!」
「グレンって鑑定持ちなんだ、凄いね」
運良く鑑定した場所に万能草を見つけ、騒ぐルインを無視し、グレンの分の採取はあっさりと終わった。
「他は何処にある?!教えてグレン〜!」
「自力で見つけろ」
「スキルを使うのは自力じゃないと思う!反則!」
「これは有効活用だ。ヒントはやるから探してみろって」
「本当か!ありがとうグレン!!」
あっちじゃない、こっちじゃない、もっとよく見ろ。
と、グレンからヒントを貰って、ルインは万能草を必死に探している。
(……飴と鞭。だね)
グレン達を見て、アーリーは小さく笑った。
あれからグレンのスキルで、万能草を早く見つけ終わった3人は、近くで見守っていた教師に声をかけて、開けた場所で待機している、もう1人の教師の元へ戻って来た。
「早かったですね。ほかの子達はまだ戻ってきていないので、ここで休憩するといいです。あぁ、此処は魔物が入って来れないようにしてあるので安心していいですよ」
下手に動く事は出来ないので、大人しく残りの生徒を待った。
「そう言えば、アーリーの持ってる称号って何?」
「僕は〈目利き〉」
「あれ、その称号って確か…」
「鑑定系スキルが会得しやすくなるってやつだね」
「アーリーも鑑定スキル!羨ましい!」
「ルインの称号の方が圧倒的に羨ましいんだけどね…。それにグレンと違って会得しやすくなるだけで、まだ持ってないか…ら………ルイン?」
話の途中、ルインは急に立ち上がり、きょろきょろと辺りを見渡し始める。
「……どうした?」
グレンも疑問に思い声をかけるが、返事がない。
「ルイン?本当にどうしーー」
『(聞こえる)』
「……は?」
グレンが言い切る前に、ルインの声が頭に響いて重なった。
『(左……じゃない。右から?………っっ!?!?)』
ふらりと動き出したルインは、急に顔色を変えて走り出した。
「……は?…ルイン!?ちょっ、お前何処に……チッ!」
慌ててグレンも、ルインを追いかける。
「えっ…グレン!ルイン!何処行くの!!」
「……っ、と、トイレ!!トイレ行ってくる!!」
グレンは咄嗟に、苦し紛れな嘘をつく。
一緒に待機していた教師も、急に走り出した2人に静止の声出すが、グレンの慌てぶりと、トイレ!の声を聞いて勘違いをしたのだった。




