初めの一歩
遅くなりました。悩みに悩んだ末にいつの間にかこんな時期に。
―――カンッカンッカンッ
剣と剣がぶつかり合い、場内に乾いた音が響き渡る。
お互い無言で剣を振り、「ハッ、フッ」と口から漏れる浅い呼吸音は、次第に大きくなるにつれて速さを増していった。
打ち合いを始めてからしばらくして、グレンは一歩強く足を踏み込む。
「…ルイン、そろそろ愚痴っていいぞ」
ガンッ!と剣が強くぶつかり、お互い同時に振り払うと、そのまま後ろに飛んで距離を取った。
「………おれ、あいつら嫌いだ」
距離ができたルインは、構えていた剣をだらりと下げ、顔を顰める。
「…グレンはどうなんだよ」
「俺か?もちろん嫌いだが」
「じゃあどうして!あれを見て何とも思ってなさそうにしてるのさ!」
ルインの言葉にグレンは眉を潜め、剣を握り直す。
「……俺が怒っても仕方ない」
グレンはボソリと口にして、足に力を込める。
そして一気に飛び出し、ルインに詰め寄った。
一瞬で上から振り下ろされた剣に、ルインは反応が遅れるが、ギリギリのところで木剣を横向きにして受け止めた。
ガリッと剣と剣が擦れる。
すぐさまルインは火の魔法、"ファイヤー"をグレンの足元に至近距離で当てる…が、それを読んでいたグレンは、ルインの真上をジャンプして飛び越し回避する。
すぐにクルリと向き直り、着地と同時に距離を詰めた。
後ろを取られたルインは魔力を火の矢に変え、数十本作りだす。
「"ファイヤーアロー"」
背中越しに浮かび上がった矢はヒュンッと音を立てて一斉にグレンに飛んだ。
「…はっ!?ちょっ!量が、多い…ッッ!!」
普段の練習時よりも多く飛んで来た矢をグレンは間一髪、横飛びで交わす。
着地と合わせ、疎に飛んで来た矢を最小限で避け、交わしきれない矢は剣で薙ぎ払った。
「……はぁ…、流石にあの量は多かった」
その場に立ち止まっていたルインは、その言葉を聞いて、ばつが悪そうな顔で苦笑う。
「ごめん。でもグレンなら避けれただろ?…現に避けてるし。それに魔法を切るとか反則」
「……まぁ、ギリギリだったけどな………気は晴れたか?」
「………」
その問いに、ルインは複雑な顔をして答えない。
仕方ないので、グレンは話題を替えることにした。
「……お前はどうしたい?」
「え?」
「どうせ、あのアウゴリッドと友達にでもなりたいんだろ?」
「アウグリッドだって……まぁ、そう…かな」
「…なぁ、それは同情か?虐められて可哀想だと。それとも……」
「無くはない……でもあのままは嫌だ」
「……まぁ、俺も居心地が悪いとは思う」
そのまま、数秒の沈黙が続く。
「…………明日、話しかければ?来れば。だけど」
俯いていたルインは、グレンの言葉に、ぱっと顔上げた。
「え…いいのか?」
「なんで俺の許可が必要なんだ」
「…だって」
「どうせ早いか遅いかだろ。好きにするといい」
そう言って、グレンは建物に設置してある時計に目を向ける。
時刻は18時半を過ぎた頃。
「おっ、いい時間。そろそろ切り上げ………いや」
途中で言葉を切ったグレンは、ルインの肩を強めに押す。
急に押された事でルインは体制を崩して後ろに倒れた。
「危な!何するんだよっ」
「お前の負けだ」
ルインはムッとしながら、グレンを見上げた。
それに対し、ニッと不敵な笑みをしながらグレンは笑う。
一瞬、何の事だと思ったが、意味を理解したルインは堪らず吹き出した。
「……はははっ!尻餅ついたら負け……やられたなぁ」
差し出されたグレンの手を掴み、立ち上がって、服に着いた土を軽く手で払う。
それから2人は、別部屋に居た管理人に声をかけて建物から出た。
お互いにググッと両手を前に伸ばして伸びをする。
「さて、じゃあ戻るか」
「腹減った〜!早く食堂に行こう!!」
「まずは風呂が先だ」
「あ、それと、あいつら一発殴りたい」
「………阿呆。今はやめとけ」
……………
…………
………
……
…
次の日になり、ルインは浮き足立つ思いで教室へと向かう。
「来てるといいな」
グレンの言葉に、ルインは小さく頷き、「よしっ」と一声気合を入れてドアを開けた。
「あ」っとルインの口から小さく漏れた声の先。
昨日、丁度ルインが座っていた場所にアウグリッドが座っていた。ただ、周りに座る子は誰もいない。
『いたな』
『いた』
念話越しに少しホッとする。
『ほら、行ってこい』
ルインの背中をぐっと押して先に行かせる。
『友達になれなかったら、また昨日の訓練場で気晴らしだな』
『おいっ!不吉なこと言うなって!!』
教室に入ったルインは、アウグリッドが座る隣、昨日はグレンが座って居た席の前に立つ。
「えっ、何…か用?……あっ。君は昨日の…ごめん、ここ座るよね、退くよ」
いきなり隣に立ったルインを見て、アウグリッドは驚いて立ち上がった。
「へ?いや、違うから!そうじゃない!」
「でも……退くよ。僕は後ろに座るか…ら…」
だが、そこには既にグレンが座って居た。
金の瞳と目が合い、アウグリッドは「あっ」と小さく声を出す。
「おれは隣に座るから、座れって」
ルインはアウグリッドにそのまま座るよう勧めるが、それでもアウグリッドは座るのを渋った。
「……昨日の事気にしてんのか?お前最初は威勢よかっただろ。別に席が固定されてるわけじゃないんだから、好きに座れば?」
「グレン…だから言い方…せめてオブラートに包んで」
「知るか。早くしないとまたタイミング逃すぞ」
「はぁ…さっきまでの優しそうな雰囲気は何処へ…『あ?』…とっ、とりあえずさ!座んない?な?座ろう?うん、そうしよう!!」
立っていたアウグリッドの肩を掴んで、ルインは強引に椅子に座らせた。
「おれさ、お前と話したいんだよ」
「えっ、何で…?」
「何で?友達になれたらな〜と思って」
「……僕と関わったら、あいつらに目をつけられるよ」
「あいつら?馬鹿と取り巻き2人の三馬鹿?」
「三馬鹿って…侯爵と伯爵だよ。下手な事言わない方がいい…」
そう言うと、アウグリッドはまた下を向いてしまった。
あの時ホッズ達に何を言われたのかルインにはわからない。ただ、ルインにとって気に食わない。
「おれの名前はルイン。あの時は言ってなかったけど、おれも貴族だよ」
「…その目を見れば貴族なんだろうなって思ってた。家名までは、わからないけど」
「ウィズグラント。おれの名前は、ルイン・ローゼ・ウィズグラントだよ」
「……え。ウィズグラントって……あの…」
家名に驚いたのか、アウグリッドは目を見開いて固まった。
「あのって、どの?……まぁそゆこと。爵位ならあのお馬鹿と同格だし…そもそも気にしないから」
だから友達になろう!っと握手を求める。
だが、アウグリッドは手を取ろうとしない。仕方ないのでルインは強引に手を取り握手を交わした。
「よろしくな!俺の事はルインでいいから!」
押すに押され、断りづらくなったのか、ルインの手を軽く握り返してきた。
「…よろしく。改めて…僕の名前はアウグリッド。アウグリッド・ローゼ・バージェスタ。僕も一応貴族だよ、子爵家だけど」
「何だ、貴族じゃん!って、このクラスは殆どが貴族か!平民は何人いるのかなぁ……あっ!グレン!グレンも挨拶くらいしろって、今日から友達なんだから!」
ルインはくるりと後ろを振り向いて、机に伏せて寝ていたグレンをゆする。
「グレン君…だよね、さっきはごめん。えっと…ルイン君とは…顔も似てるし…双子かな?よければ僕と…友達になって欲しい」
ゴクリ。と、アウグリッドの息を飲む音がグレンの耳に小さく届いた。
グレンは体を起こし、ジッとアウグリッドの顔を無言で見つめる。差し出された微かに震える手を見て、グレンは小さく口角を上げる。
「俺はグレン。グレン・ローゼ・ウィズグラント、これからよろしく」
アウグリッドは握り返された手を見ながらほっとする。
ルインもそれを見て、ニッカっと笑った。
次はすぐに出るかと。




