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大きな山。新しい繋がり



冷たい雪が降る季節。外は既に暗闇の中。

しん…と静まる世界の中。

風が、窓をカタカタと揺らす音だけが響く。


そんな日に、ある屋敷では女達が慌ただしく動いていた。


「奥様、頑張って下さい」

「汗を拭います」

「少し力を抜きましょう」


部屋にいる女達が、1人の女性に声をかけ合う。


今、まさに出産という大イベントに、この家のメイドである女達はテキパキと行動していた。

そこで、室内のドアがガチャりと音を立てて開く。

メイド姿の女性と、顔を青くした男性が入ってきた。


「奥様、カルメです。旦那様をお連れいたしました」


カルメと名乗る女性は、旦那様と呼ばれた男性を女性が横になっているベッドの脇に座らせる。

彼女はこの屋敷のメイド長で、出産が始まったとわかると、今日は王城で泊まり込みだった旦那様を呼びに屋敷を出ていた。


「さぁ皆さん、これからですよ」


そう言ってカルメは、ぱんぱんと手を叩き、部屋の室内全体に浄化の魔法を唱える。

魔法を巧みに使い出産に最適な環境を整えていく。


そんな中、奥様ことリラの手を握り、頑張れ頑張れと連呼する男性はこの屋敷の主人で、街の領主でもあるリラの夫アルバート。


出産自体はこれで3回目となるのだが、アルバートは毎度リラよりも苦しそうな顔をする。

今にも自分から産まれるのではないかと思うくらいに顔色がおかしい。


「あぁ…リラ、大丈夫か…頑張れ…」


アルバートの必死な言葉に、リラはくすりと笑う。


「旦那様、私は2回も子を産んでいるのですよ。今回も大丈夫…ですわ」


息が途切れ途切れになりながらも、リラはアルバートに微笑んだ。


……

……


時間は過ぎ、皆手に汗握る中、部屋に赤子の鳴く声が響いた。


「奥様、おめでとうございます!元気な黒髪の男の子ですよ!」


メイド達が赤子を抱え、皆がわぁっと歓声を上げる中、カルメが「まだですわ!!!」と叫ぶ。


「奥様…もう1人でございます!!」


一息する暇もなく慌ただしくなった室内に、今度は違った赤子の鳴く声が室内に響いた。


「奥様おめでとうございます!今度は白髪の男の子……双子ですわ!!!」


今度こそ、皆が新しい家族の誕生に歓喜する。

屋敷内は喜ぶ人達の声で賑わっていた。


…………

………

……



喜びの声が少しずつ落ち着き始め、数日が経った頃。


ここは、とある一室のベッドの上。

視界に映るのはベッドの柵から柵へと、何やら透明な膜が貼られているそれを見つめる黒髪の赤子が1人。



俺は今、ベッドの上で寝ている。

目が覚めたと思ったら知らない場所。起き上がろうにも体は思うようには動かない。

動く手足は自分の記憶とはあまりに違っていて…どうやら自分は赤ん坊になっているようだ。


…あぁ、眠い。


ふと、体が浮く感覚がした。

閉じかけた目を開くと、目の前には大きな山が二つ。


視線を周りに向けてみれば、ゲームで見たような長いスカート姿のメイド達がこちらを見て微笑んでいる。

視線を戻し、山の間から上を見上げれば、今度は美女が俺を見下ろし微笑んでいた。


「さぁ、グレン。ご飯ですよ」


大きな山の一つが顔に近づいていき、むぐっと口がふさがった。


あわあわとし出した俺を見て、美女は「あらあらまあまあ」と笑う。

…ようやく美女から解放された俺は、またベッドに横になる。


そして思った。


「あぶあぶ(次からはビンのミルクを貰おうと)」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



パチリと目を覚ますと周りは柵で覆われて、見上げる視線の先は薄い何かで覆われていた。


記憶にある景色とは、全く違う場所。段々と思い出す、最後の記憶。


本当に転生してる…


思うように動かない体を必死に動かしていると、ガチャりと部屋から音が鳴る。

薄い何かで覆われていたものがなくなったと思ったら、今度は美人な顔の女性がこちらを覗いてきた。


「ルイン様、ご飯の時間です」


そう言って体を持ち上げた美人は、スタスタとドアの方へ向かう。

そして別の部屋に入り、座っていた美女に手渡された。


「奥様、ルイン様をお連れしました」

「ありがとう、カルメ。……さぁルイン、ご飯ですよ」


美女は大きな山の一つを出し、ルインに向けてむぐっと口に当てた。


唐突な展開にルインは思わず手が動く。

ミルクよりも大きな山の感触を確かめるのが優先だ。


「あらあらまあまあ、どうしたのかしら…」


一向に飲もうとしないルインを見て、美女は困り果てる。


「奥様、でしたら次はビンのミルクを飲ませては如何でしょうか」

「そうね…試してみるのもいいかもしれないわ」


気がついたら頃にはルインは、ベッドのある部屋へと運ばれていた。

かなりお腹が減っていることに気がつき、泣き叫ぶ声によって無事ビンのミルクを手に入れたのだ。



………

…………

……………

…………

………



産まれてから1ヶ月が立ち、暇を持て余していたグレンだが、唐突に家族との顔合わせというイベントが起こった。


この世界では、赤子が産まれて1ヶ月の間は決められたメイド、赤子を産んだ母親のみで育てていくという文化がある。


何でも《魔力》と呼ばれるものは誰もが持っていて、体内を循環し、生命力としての役割があるのだとか。

産まれたばかりの赤子は、その《魔力》の循環が未熟で、体内以外の魔力に触れるのはあまり良くない事らしい。


何でそんな事知ってるかって?

メイドや母親(リラと言うらしい)が、この《魔力》の話を聞かせてくるからだ。

普通だったら話なんかわかるわけが無い。そもそも…前世の記憶があるなんて思わない。

音を聴きとる練習とでも思って話しかけていたんだろう。


そんな事を考えつつグレンは「暇だな」と呟く。

(もちろん声はあぶあぶしか言えない)


ドアが開く音がして、グレンは顔を傾ける。


複数のメイド達やメイド長と呼ばれるカルメ、その後ろにリラが続き、腕には白髪の赤子を抱いている。

続いて、イケメンなおっさんがニコニコしながら入って来た。

その足元には小さな男の子と、頭一個分は低い背の小さな女の子が入ってきた。最後に執事の格好をした男性がドアを閉めた。


「これで一応は揃いましたか。来れていない者もおりますが、この屋敷は人が多すぎますし…一度に合わせるわけにもいきますまい」


執事が部屋を見渡し、室内にいる人達に声をかける。


「そうだな。居ない者は、別の日に合わせるのがいいか……あぁ、やっと私も息子達に挨拶出来る。皆もそわそわとしている事だ、早く顔合わせと行こうじゃないか」


そう言ってイケメンのおっさんは母親のリラの横に来て、抱かれている白髪の赤子をちらちらと見る。

グレンの方にものちらちら。


「ふふっ、旦那様ったら…そう焦らずとも大丈夫ですわ」


リラはくすりと笑いながら、抱えている白髪の赤子をグレンが寝ている横に置いた。


白髪の赤子は、まだスヤスヤと寝息を立てている。

こんな人が多くいる中で、よくもまぁ寝ていられるもんだなと思った。


何となくグレンは白髪の赤子に手を伸ばし、つんつんと叩いてみた。

そうすると、「あうっ」と声がして白髪の赤子が目を覚ます。

パチっとお互い目が合った。


「ルインが目を覚ましましたわ、良かった…寝ている子を起こすのは少しばかりいい気がしなかったの」


白髪の赤子こと、ルインが目を開け、周りも皆も一層ニコニコとし始める。


「よし、まずは私から名乗ろう」


そう言いながらイケメンのおっさんを順に自分の名前をグレン達に話していく。


イケメンおっさんこと、父親のアルバート。母親のリラに、メイド長のカルメ、小さな男の子は兄のルトア。女の子は姉のメイラと言った。

後に続いてメイド達が名を教えていき、最後はあの執事が名乗った。


「グレン様、ルイン様。私はこの家の執事をしております、名を ノイシュ と申します」


「よろしくお願いします」と言いながらノイシュは軽く頭を下げ微笑んだ。

そして全員の挨拶が終わると、アルバートは室内にいる皆を一度見渡す。

そして、自分の人差し指を軽く立てた。同じように周りも人差し指を軽く立て、自分の口元に近づける。


「我がウィズグラント家に産まれた息子達に祝福を。そして創造神様のご加護があらんことを」


アルバートが祝福の言葉を発して、人差し指に向けてフッ…と軽く息を吐いた。

皆も同じように自分の人差し指に息を吹きかけていく。


そうすると各々の指先から、ゆらゆらと揺れ出る魔力が流れ出て、グレンとルインの前上にキラキラと輝いた。


「後は息子達か。お前達は双子だからな…他の兄妹達とは違い、また別の繋がりがある」


そう言ってアルバートは、グレンとルインの手をそっと持ち上げ、お互い手が重なるように置き直した。

そして、自分の手を上に置くと言葉を発する。


「己の分身を映す鏡よ。名をグレン、名をルイン。創造神様のご加護があらんことを」


その瞬間、何かが繋がる感覚がビシッと電気が走るように体に流れた。



皆が名残惜しそうに部屋から出て行く中、母親と父親の2人は残りグレンとルインを見つめている。


「ようやく家族と繋がりが持てたな。これから楽しみだ」

「ふふっ、そうですね旦那様。ルトアにメイラも、この子達を見てキラキラとしておりました…とても良い繋がりになると思いますわ」


お互いに微笑み合う夫婦。

甘い空気を漂わせ、2人が出て行った部屋では…グレンとルインがお互いに目を合わせて固まっている。

なんとも言えない空気が残るだけだった。




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