クラスメイト
うううぅぅ〜!更新日です!(早かった)
グレン達はガラリとドアを開けた。
前世でよく見た見慣れた景色。
流石にそっくりと言うわけではないが、教室内には教師が立つと思われる教壇に、自分の荷物を置く荷物置き場がある。見たままで言えばロッカーだ。
前世で1人一席だった机は、2人で一つの形で並び、生徒達は、各々好きな所に座っている。
元々仲が良いのか隣同士で座って話をしている子や、一人で静かに座っている子、立って話をしている子など様々。
グレン達が教室に入った途端、子供達の視線が一斉に集まった。初日と言う事もあり、皆が初対面だ。
『びっくりした〜…。顔が一斉に、ぐりんっ!ってこっち向くの、怖すぎんだろ…ホラーかよ』
『驚きすぎ。今までだって似たような事あっただろ』
『いや、まぁ確かに?そうだけど…』
『Sクラスの話が伝わってるかも知れない。気になるんだろうさ。……お、奥の席2つ空いてる、どこでも良さそうだし、座るか』
入って奥、窓際に面した一番前の席に座った。
目の前に教師が座るための椅子やらデスクが置いてあり、この光景も2人には懐かしさを感じさせる。
授業が始まる時間まで後数分。グレン達の後に、何人か新しく入ってきた子もいた。
そして、そろそろ時間だと思っていたら、教室に3人の男子が入って来た。
「げっ…」
「ん、どうした?何かあったの…か………チッ」
ルインは入って来た男達を見て顔が引きつり、グレンは、ルイン声と視線で振り返り、思わず舌打ちをした。
「ここが俺様の教室か。まぁ当然の結果だな」
見覚えのある男子達3人が教室内を軽く見渡すと、一番後ろ、真ん中の席に向かって歩き出した。
「お前、そこをどけ」
3人の内の1人、赤茶髪の男子が、既に座っていた男子の椅子をガッと蹴り飛ばした。
「何するんだ、危ないだろっ!?」
「あぁ?てめー誰に向かって言ってんだ?」
「そんなのお前に決まってる!いきなり蹴るなんてどうかしてるんじゃないか!!」
いきなり始まった喧嘩に、周りはひそひそと声を顰め、目を合わせないように視線を逸らす。
「おいお前!ホッズ様がどけと言っているんだ!さっさと席から離れろ!」
「そうだ!むしろホッズ様に喜んで席を譲るべきでは?!」
一緒に入って来た取り巻きの男子2人が、席を立たない男子に向かって喚き散らす。
「どうしてお前達なんかに席を譲らないといけないんだ。後から遅く来たにも関わらず…空いている席に座れば良いだろう!」
その時、何かを思いついたホッズはニヤリと笑って、相手の胸ぐらを掴んだ。
喧嘩だけならまだしも、胸ぐらまで掴み出したホッズを見て、ルインは止めに入ろうと席から立ち上がる。
「ぐっ…」と呻き声を上げる男子に、ホッズは耳元でボソボソと何かを話すとすぐに手を離した。
ニヤニヤするホッズ達に、男子は肩を揺らして立ち上がった。
先程まで怒りを3人に向けていた男子は、絞り出した声と共に、ぐっと顔を歪めつつ席を譲る。
「どうぞ…座ってください」
ぎゃははっと下品な笑い声をさせながら、ホッズ達は空いた席にドカッと座った。
「最初からそう言えよ。俺達も優しいよなあ?助言までしてやったんだから!!」
立ち上がった男子は周りを見て、2席分空いていたグレン達の後ろの席に座った。
男子は後ろの席に静かに座って俯く。
ギュッと拳を握りしめ、微かに震える男子にルインは声をかけようとするが、丁度校内の鐘が鳴り、教室に堅いの良い男性と眼鏡をかけた小柄な女性が入って来てしまったので、仕方なく席に着く。
グレンは未だ下を向く男子をちらりと見て、すぐに前を向いた。
「皆、揃っているかな!今日からこのクラスの担任になったゴロガンだ。メインの担当科目は武術、剣術。よろしく頼む」
「わ、わたっ、私ぃ!私は!初めましてぇっ!えと、名前はアンと申します。副担任です、担当科目は薬学です!どうぞよろしくお願いしまっ…ぐっ、ゴホゴホッ」
「おいおい、先生大丈夫か?」
「ゴホッ、ぐふっ…いえ、大丈夫です、すみません」
盛大に噛みまくり、むせて咳き込むアンと言う女性の背中を、ゴロガンはぽんぽんっと優しく叩く。
「んん。よし、じゃあさっそく皆の自己紹介から始めようか!名前と…一つ好きなものでも言ってくれ、なんでもいいぞ!」
ゴロガンは生徒に目を向ける。
すると、あのホッズという男子が勢いよく立ち上がった。
「俺様が一番手だ」
「おっ、じゃあお前さんから」
ホッズは仁王立ちをして腕を組み、ふんぞりかえる。
「俺様の名前は、ホッズ・ローゼ・マグロス。家は侯爵家、好きなものは、"一番,,だ!ホッズ様と呼ぶがいい」
決まった!とばかりにニヤリと笑いホッズは椅子に座る。
周りの皆は先程の事があったからか、微妙な空気だ。
「ん?皆どうした?ほれ、拍手拍手」
ゴロガンとアンは先程のホッズ達の揉め事は知らないため、気にした様子はない。
一部の男子はぱちぱちと拍手をしていたが、ゴロガンにつられて他の子らも拍手をし出した。
続いてホッズの取り巻き2人。
「俺の名前はドルト・ローゼ・ナイカ。家は伯爵家、好きなものは王都にある高級料理」
「私の名前はバーン・ローゼ・ブリッシュ。家は同じく伯爵家。好きなものは宝石です」
どちらも同じ様にニヤりと笑って椅子に座った。
ぱちぱちと拍手の音が鳴る。
ルインも複雑だが、とりあえず拍手する。
グレンは腕と足を組み、窓の外を見ているだけだったが。
皆、順に自己紹介をしていく。
Aクラスは貴族が大半を占め、平民はごく僅かだと聞く。
それでも、貴族から平民になった所の子が多いため、純粋な平民からAクラスになる子はほぼいないらしい。
グレン達の番になった。先にルインが立ち上がる。
「おれの名前はルイン。好きなものは魔法全般!皆よろしくな!」
ニカッと笑って座ったルインに皆拍手し、数名の女子がポーっと頬を染める。
「俺の名前はグレン。好きなもの…事か、体を動かす剣術が好きだ。よろしく」
いつもとは打って変わって、グレンは人受けの良さそうな笑顔でニコりと微笑んだ。
数名の女子は一瞬鼻を抑えたり、両手をきつく握りしめてグレンを耳まで真っ赤にして見つめる。
ルインはと言えば、グレンに対して、宇宙人を見た!とでも言いたそうだ。
ルインよりもいくばか拍手の音が大きくなった中、椅子に座ったグレンはちらりとホッズ達の方を見る。
ホッズはギリリと歯を食いしばり、グレン達を睨みつけていた。
最後の1人になって、男子が立ち上がる。
先程ホッズ達に理不尽な事をされた男子だ。
ホッズ達のニヤニヤとした顔が見えて、ルインは眉間にシワを寄せる。
「僕の名前はアウグリッドです。好きなものは本を読む事…どうぞよろしく」
少し俯きがちに話したアウグリッドはすぐに座って、また下を向いてしまった。
周りも複雑そうに男子を見つめながら、拍手をして自己紹介が終わる。
まだ授業の時間だが、これから渡す資料を忘れたとかで、ゴロガンとアンは、教室から出て行った。
「グレン…お前さっきのなんだよ」
「…あ?さっき?」
「自己紹介!あの笑顔はなんだ…気持ち悪い」
「それはもちろん印象がいい方がいいだろ?よく出来たと思わないか?」
「あぁ……十分に効果はあっただろうさ……」
ちらりと周りを見てみれば、数名の女子達がグループで固まって話をしている。たまにこちらを見ては顔を赤くした。
「はぁ」
「…なんだ」
「本当はこれだもんなぁ…ちょっと女子が可愛そうだなって思っただけ」
「?」
意味のわかっていないグレンは置いといて、ルインは後ろの席にいた男子を探す。いつの間にか教室におらず、数分後にアウグリッドと名乗った男子が教室に戻って来た。
顔色は未だ良くないが…後ろに座ったと同時にゴロガン達も戻ってきた。
「すまない、待たせたなぁ!一枚取ったら後ろへ流してくれ。余ったのはアン先生が回収する」
そう言って数枚束になった資料を各列ごとに渡していく。
グレン達も受け取って、後ろへ渡そうと振り返った。
「おい」
手に持った資料を、後ろの男子に渡そうと声をかける。
男子は俯いたままこちらを向かない。
「おいお前、聞いてるのか?」
「ちょっ、グレン。言い方!『それと印象良くしたかったんじゃないのかよ!?』」
「『コイツは別。』…あー、アウガ……アウグリッド。資料だ、取れよ」
もう一度声をかけ、コンコンと軽く机をつついて音を出す。
ハッとしたアウグリッドは、顔を上げるとグレンにお礼を言って資料を受け取った。
「よーし、皆行き渡ったか?じゃあ説明するぞー」
ゴロガンの声と共に、皆は資料に目を落とす。
資料に書いてあったのは、これからの日程表だった。
今日はこの授業が終われば解散。
明日はクラスごとに学園内の見学。
明後日は主に選択の授業がどんなものなのかと分かりやすく説明するためのオリエンテーションもどきをするらしい。
それからは通常通りの授業が始まる。というような流れだった。
説明が終わり、軽い質問等をしていると、授業終了の鐘がなった。
「おっ?丁度いいな。今日の授業はこれでおしまいだ。寮に戻って休むといい。慣れるまで大変だと思うがこれから1年間クラスの皆と一緒に頑張れ、じゃっ、寮母さんを困らせるなよ〜、各自解散、お疲れ!」
「「「「「「お疲れ様でした」」」」」」
先生達が教室から出て行き、アウグリットも教室を出ようとドアを通り過ぎようとした時、近づいていたホッズがアウグリッドに足を引っかけた。
「うわっ」と小さい声と共に、アウグリッドが盛大に転ぶ。
「おっと…わりぃわりぃ。つい足が出ちまった、大丈夫かあ?起き上がれるかぁ?…ぶふっふはは………あ?なんだその目、いいのか?俺様にたてついて…」
アウグリッドはすぐに立ち上がりホッズを睨む…が、言葉に一瞬ビクリと肩を揺らし、そのまま逃げるように教室を出て行った。
「うはっ!情けねぇなぁ。なんであんなのがAクラスにいんの?Eクラスの間違いじゃねぇ!?なぁ?」
ホッズは取り巻き2人に同意を求めて話を振る。
2人もそれに便乗して大笑いしながら教室を出て行った。
……
……
グレン達は先生の話を適当に聞き流しつつ、念話で話をしていた。気がついた時には鐘が鳴り終わり、先生達が出て行った後。
突然教室の後ろから「ドサッ」っと何かが倒れる音がして、グレン達は振り返る。
何事だと見てみれば、アウグリッドが立ち上がりホッズを睨んでいた。
だが、すぐにアウグリッドは教室から走って出て行ってしまった。会話からしてホッズがアウグリッドを転ばせたようだ。
グレンはホッズを睨むルインの頭を軽く、手の甲で小突いた。
「…ルイン。寮に戻るぞ」
…………
………
……
…
がちゃりと音が鳴り、ドアを開ける。
部屋の中に置かれている左右対象のベッドに、ルインは制服の上着を乱暴に放り投げ、そのままベッドに倒れて呻き声を上げた。
「ううううぅうぅ〜〜!!!」
「……サイレンか」
「グ〜レ〜ン〜……」
恨めしい声と共に、ルインはグレンをじっと睨む。
それを見て、グレンは素直に「冗談だ」と謝った。
時計を見ても、まだ夕食や風呂に入る時間ではない。
荷ほどきも既に終わり、明日の準備は特にすることはなさそうだ。
このまま部屋にいても、先程の事が頭にチラつくのかルインは唸る一方。気晴らしに体でも動かせる場所がないか、グレンは受付のおばちゃ…マリンダに聞いてみることにした。
階段を降りて、グレンは受付を覗く。
「おやぁ?どうしたね」
「夕食や風呂まで時間があるから、何処かで体を動かせる場所が近くにないか、知ってるかと思って」
「あぁ、あるよ。寮を出て、すぐ隣に建物があるだろう?あそこは休日でも自主訓練できる様にと作られた場所だから。そこなら使えるよ。入学早々、1年生で使う人なんていなかったから教えるの忘れてたわ」
「そうか。じゃあ遠慮なく使わせてもらう」
「あぁ、建物に入れば中に管理している人がいる。一声かけるといいさ」
「わかった、ありがとう」
「時間には帰ってくるんだよ、晩ご飯は18時から食べれるから」
「あぁ、そうさせてもらう」
マリンダに礼を言って、部屋に戻る。
未だに唸っていたルインに、動きやすい服装に着替えろと言って、自身も着替え、教えてもらった建物に向かった。
中は前世の一般的な体育館を、校庭の広さに広げたくらいの大きさだった。
入ってすぐ隣、聞いた通りこの建物を管理しているだろう男性がいた。
「おや?この時間に自主訓練?君達何年生?」
「1年です。マリンダさんに、ここを使うと良いと言われて来ました」
「なるほど。いいですよ、この建物の使い方はわかるかい?」
「いえ、わかりません」
「何も聞いてない感じか。ざっくりとだけでいいかな?」
「はい、問題ありません」
「随分としっかりしているね…1年生で来るのも珍しい……あぁ、すまない。えーと、まず、この建物は4階建てになっていて、一、二階は武術と剣術の訓練をする人。三、四階は魔法を訓練したい人が使う。人が少ない時は一階だけですませる事もあるよ。今は見ての通り誰もいないから一階だね。
剣を使うなら、指定された剣のみ使用可能。魔法は初級レベル3まで使用可能だ。それ以上の事をするなら、最低でも1人は教師を連れてくる必要がある。
危険行為は一切禁止、何かあった場合はすぐに連絡。設備を壊した場所も速やかに連絡。
ここに入る時と出る時は、管理している人にに声をかけ、この紙に学年と名前を記入。
そして…これを腕に着けること。これは危険がある時に自動で発動する防御装置だよ」
管理人の男性は紙と、シンプルな腕輪を二つグレン達に渡した。
グレンとルインは受け取った腕輪を付け、紙に名前と学年を書いて渡した。
「何か聞きたいことは?」
「いえ、今は特に」
「そうか、じゃあ何かあったら聞いてくれ。帰る時も声をかけてね。私はこの部屋にいるから」
そう言って男性は部屋へと入って行った。
「ルイン」
「……………」
グレンは、無言のルインに、持ってきた木剣を投げ渡す。
「……おれ、魔法メインなんだけど…」
「俺と一緒に剣術も練習してるだろ」
「………グレンほど出来ねーし」
「それを言うなら、俺はルインほど魔法は得意じゃないぞ」
お互いに50メートル程距離を取る。
「いつものルールでいーの?」
「あぁ、魔法が擦る、尻餅をつく、剣の寸止め。どれかで負け。負けた方は勝った方の好きな練習に一日付き合う」
「魔法は初級レベル3まで、だったよな」
「あぁ、それ以上はダメらしい。だがまぁ、知られても面倒だ、丁度いいだろう」
「わかった。合図は?」
「ルインの魔法で…今日は、花火にするか」
「了解」
剣を構え、お互い見つめ合う。
ルインは火の魔法、ファイヤーをマッチ程の大きさにする。
段々と圧縮され密度の濃い炎が、これ以上は小さくなれないとボコボコとその表面が波打つ。
「いくよ」
お互いの、丁度真ん中程に投げられた炎は、地面についた途端、シュッと音を鳴らして上空に浮かび上がった。
ひゅるひゅると音が聴こえてきそうな、そんな細い煙を出しながら、炎が頂点に向かって尾を引く。
お互い木剣を強く握り直す。花開く音を聞き取るため、耳を澄ませーーー
―――ドパッ!
一瞬の破裂音。
それは、炎が爆発した音か。
否、それは、お互いが地面を蹴った音だった。
決闘じゃないよ、気晴らしと言う名のトレーニングです