この人は誰だ?
更新日です(不定期)
「なぁなぁグーレーン〜無視しないでー…そろそろ機嫌直せよ、悪かったって」
「……………………(モグモグモグ)」
「せっかくのご飯なんだから楽しく食べないと…なっ?」
「……………………(ゴクゴク)」
グレン達は寮での荷ほどきを終え、昼食を取るため食堂に来ていた。
学園の食堂はかなり広々としており、中はわいわいガヤガヤと賑やかな声が溢れ、多くの生徒達が昼食を取るべくここに集まっていた。
ここは好きな物、好きな量を自分で取り分けて食べるバイキング形式。
ただ少し違うのは、どれか一品は絶対に野菜が多く取れる品を選ぶ事。栄養面も考えてこそ。種類が多く、どれを食べるか悩む生徒も多い。
そして2人は、食堂内の一角でそれぞれ取って来たご飯を食べている最中。
ルインは白パンにコーンスープ、ネバネバサラダ、そしてシンプルに焼いたてんこ盛りの肉。
グレンは三種類の味のパスタにスタンダードなサラダ、コーンスープだ。
ただ、片方は不機嫌さMAXで食べているが。
「もーっ!どうしたら機嫌直すんだよー、そこまで恥ずかしがる事ないのにさぁ〜」
ピクリと反応したグレンは無言でギロりとルインを睨みつける。
「……………………。(黙れ阿呆)」
「阿呆じゃないから!漏れてるからね!?無言で睨んでも内はダダ漏れだから!!」
「…………うるさい」
「グレンはちょ〜っとでも動揺すると、すぐスキルが発動するよな!ははっ!耳も赤い??………………ちょっ待ってグレン!氷はダメ!肉が凍る!!!」
グレンの魔法でルインが食べていた肉が、端から少しずつピシピシッと音を立てて凍って行く。
慌ててルインはお皿を持ち上げ、凍ってしまった肉を、火の魔法を使って少しずつ溶かしていった。
「ひどいぞグレン!肉に当たるなんて!!」
「お前は肉だったら何でもいいだろう?例え凍っていても」
「おれの歯は、凍った肉を噛み切れるほど強く無い!」
「……凍ってるのは気にしないのか」
ぎゃあぎゃあと言い合いながらご飯を食べ、そろそろ食堂を出ようとした所、辺りの騒がしさが一部ザワりと変わった。
「…何だ?」
音が変わる方へと目を向けてみると、視線の先には生徒が道を開けて話している。
開いた道から2人の生徒が歩いて来ていた。
2人の内の片方は知らない男。もう1人は…
「ルー兄様?」
辺りを見回しながら歩いているルトア。
そこにルインの声が聞こえたのか2人を見つけると、パァッと笑顔になり、一緒に居た男に何かを話すと2人はこちらに歩いて来る。
「グレン!ルイン!やっと見つけた」
「ルー兄様。どうしてこちらに?それにこれは…どうしたのですか?」
グレンは周りを見て首を傾げる。
何故だか兄達と他の生徒の間は、一定の距離が出来て遠巻きに様子を伺っている。
そんなルトアは困った顔をして苦笑いをした。
「あー…これはいつもの事なんだけど…」
「「???」」
ルインはもう一度周りの様子を見て、
「ルー兄様もしかして…いじめられてる?」
「え?……いや!いやいや!違う違う!これは僕が原因じゃなくて、こっちの…」
「おーいルトア。その振り方は酷く無い?俺が原因ですみたいに振ってきて」
「だって本当の事でしょ。いつも――」
話を振ったもう1人の男と何やら話を始めてしまった。
その間も周りの生徒達は様子を伺うようにしており、いい気持ちはしない。
…何だか、ここ最近は居心地が悪い事が多いような。
「あのー…ルー兄様?場所を変えませんか?」
グレンの言葉にピタリと話が止まったルトアは「そうだね」と言って、一緒に食堂を出る。
そして、案内されて来た場所は何故か生徒会室。
軽くノックをして開けたドアから、ルトアはひょこっと顔を覗かせ中を確認した。
「おや?誰もいない。珍しいなぁ…会長もいないなんて。まぁいっか…入って入って!…あ、そこのソファーにでも座ってて」
我が家の様に振る舞う兄は、自ら4人分の飲み物やお菓子などを用意しに行ってしまった。
給仕をしている姿なんて見た事がなかったグレン達は、ポカンっと間抜けな表情をしたまま立ち尽くす。
「おいおい、お二人さん。そんな所で固まってないで座ったら?」
当然のようにソファーに座る金髪、赤目の無駄にイケメンな男。
「え?あぁ…はい。そうします」
我に帰った2人は、言われるままにソファーに座る。
『ルー兄様のあんな姿見た事無かったんだけど!!!』
『………確かに。普段ならメイドに用事してもらうもんな』
「お2人さん、ルトアの弟なんだろ?あんま顔似てないのな。まぁ美形なのは一緒だけど」
念話で話をしていた2人に、また男が話しかけて来た。
「はぁ、まぁ……そうですか」
初対面で随分な話ではないか。
少しムッとしたグレンは、自分の鞄から本を出して読み始める。
「おっと、何か癇に障った?ごめんな?」
「いえ、気にしないでください」
「んー…弟はもっとやんちゃだとルトアから聞いていたんだが……緊張してる??」
的外れな返答に少し呆れつつ、本を見るのはやめて話に乗る。
「そもそも、場所を変えるのにどうして生徒会室なのか理由を教えて欲しいです。俺達が気軽に入っていい場所じゃないはずです」
「おれからも質問!まず、お兄さんって誰?ルー兄様の友達?制服着てるから先輩だよな?」
「おいルイン、せめて敬語」
「え?あ……、先輩ですよね?」
タメ口で話し出したルインに、グレンは肘で脇を小突く。
「あはは!そこはちゃんとルトアの弟だな!」
男はいきなり笑い出したと思えば、今度は兄に似ていると言う。一体なんなんだ。
「あぁ笑った…えーと、質問の答えな?ここに来たのは多分俺がいるからだな。入れた理由は、俺は副会長。ルトアは書記なんだよ」
兄が生徒会の役員に入っている事を今初めて知った。
日中は学園へ行っていて家にいないし、話をするといつも自分の話より、グレン達の話を聞きたがるからだ。
「そして、ルトアとは友達だ。あ、同じ学年だけど同い歳ではない」
「……?」
「んで、俺の名前はヴィンセント。ヴィンセント・レウス・エリュグリンダ。一応この国の第三王子だな!」
「「は?」」
バサっとグレンが持っていた本が床に落ちる。
前のめり気味に話を聞いていたルインはズルっと手がソファーから落ちる。
今この男は何と言ったのか。
エリュグリンダ?第三王子?
今度はソファーの上で固まるグレン達。
「…おーい?お二人さーん、大丈夫?」
ヴィンセントは2人の目の前を、ひらひらと手を振って確認する。
「「………はっ!?」」
2人して同時に声が出た。
「なんだ、面白いな。行動が一緒か流石双子」
理解が追いついたグレン達は咄嗟に立ち上がり頭を下げる。
「失礼しました。私はグレン・ローゼ・ウィズグラントと申します。先程の無礼、お許しください」
「私はルイン・ローゼ・ウィズグラントと申します。お許しください」
知らなかったとはいえ、この国の王子である。
流石にあの話し方はまずかった。
『やばくね?!なんでいんの王子様!!』
『知るか!俺に聞くな』
とにかく頭は下げなくてはいけない。…内では念話で話をしているが。
その時、この部屋からいなくなっていたルトアがようやく戻ってきた。
「いやー、ごめんごめん。お茶菓子が無くてね、別の場所からもらって来たんだ…………ヴィンス、弟達に何したの?」
ルトアが部屋に入れば、弟達がヴィンセントに頭を下げている所だった。
「えっ俺!?何も!何もしてない!!」
「じゃあどうして弟達が頭を下げているの?」
「俺は聞かれた事を言っただけだって!」
かくかくしかじか。
「あはは!なるほど、そういえば言ってなかったね。僕去年から生徒会に入ってね。その時にヴィンスと会って仲良くなったんだよ」
「俺は最初他国に留学していてな。戻って来た時は誰も俺に話しかけようとしなかった。そして最初に話しかけて来たのがルトアだ。「君、王子様?あ、敬語必要?」とな。あれは衝撃的だった…それからだな、友として一緒にいるのは」
懐かしいな〜とルトアとヴィンスは口にする。
「あの、同い年じゃないと言うのは?」
「一つしか変わらないけどな、ルトアの一個上だ。…あ、俺が王子だからっての、気にしなくていいから、敬語もいらない。公の場は仕方ないけど」
「流石にそれは…」
「ここは学園だろ?王子、貴族、平民だからとか関係ない。先輩後輩の差はあるから難しいだろうけどな…。似てるって言ったのは、俺に普通に話しかけてきた事だ。周りは王子って事で遠巻きだった。今でも周りはあんな有様だ」
食堂でみた光景を思い浮かべ、2人は「あー…」と小さく声が出た。
「だからお二人さんも普通にしてくれ」
「……えーと……わかった!王子様」
ルインはすぐに調子を戻す。
「……はぁ、ったくルインは。わかった普通にする。これでいいか、王子様」
渋々グレンも口調を戻す。2人の反応に、ぱぁっと笑顔になったヴィンセントは隣に座っているルトアの背中を叩く。
「聞いたか、ルトア!流石お前の弟達!双子も俺の友達だ!」
「「え?」」
「えっ?違うのか?」
「………あぁ」
「よろしく!王子様」
嬉しそうに話すヴィンセントに否定しづらく、流れで友達になってしまった。
その隣でルトアは少し不機嫌そうな顔をする。
「ルー兄様?」
「……グレンもルインも、僕にももう少し砕けて話してほしい」
しょんぼりするルトアに、どうする…と2人は考える。
いくら砕けてと言われても、身内となれば話が変わる。
たまに素が出るが、慕っている相手に、『だから?』だの『うるせぇ』だの言えるわけがない。
そして考えた結果…
「……俺はルー兄様が好きですよ」
グレンは少し耳を赤くしてぼそりと喋った。
その声が聞こえたルトアは、バッと音が鳴りそうなほど勢いよくグレンを見る。
「もう一回言って」
「…………」
「もう一回」
「…………勘弁して」
ずいずいとルトアが詰め寄る。
グレンはもう言わないとそっぽを向く。
「おれもグレンと一緒で、ルー兄様好きだー」
今度はルインの言葉に、ルトアはまた一段と笑顔になって抱きついた。
「「ぐぇっ」」と2人の声が聞こえた気がするが気にしない。
そのまま髪をわしゃわしゃと撫で回す。
「僕も2人が大好きだよ!!嬉しいなぁ!」
「いいねぇ仲が良くて。俺も兄上とかに言ってみるかなぁ……」
「いいだろ、いいだろ〜。可愛い僕の弟達だー」
抱きつきから解放されはしたものの、わしゃわしゃと撫でられるとは変わらず。
「そうだ、お二人さん……いや、グレン、ルイン。俺の事は王子様じゃなくてヴィンス兄様って呼んでくれ」
「「………ヴィンス先輩」」
「そうじゃなくて、ヴィンス兄様。だ」
「「ヴィンス先輩」」
「いいだろう!?名前くらい」
残念なものを見るように、2人はじーっとヴィンセントを見つめる。
「ヴィンス、兄様呼びは僕の特権なんだ。諦めて」
2人の間に座って笑顔なルトアは、ふふんっ。と得意げだ。
「……んーまぁ、仕方ないか。じゃあこれからよろしく、グレン、ルイン」
少し残念そうにしながらも、ヴィンセントは笑う。
「よろしく、ヴィンス先輩」
「よろしくな!ヴィンス先輩!!」
2人の頭をわしゃっと撫でて、ヴィンセントはまた一段と笑った。
4人で話をしていると、ふと気になった事があった。
「ヴィンス先輩、王子なんだよな?」
「いかにも。王子だな」
「護衛はいないのか?」
「いるぞ?ドアの前に2人。部屋に1人」
「「え?」」
きょろきょろと辺りを見るが部屋には4人しかいない。
ついでに部屋の外に人の気配はしない。
ルインはドアを開いて廊下を見る。が、人はいなかった。
「いない…ぞ?」
「隠れたかな?俺もいまいちわからんのだ」
「じゃあ、部屋の1人は?」
「ん?いるじゃないか」
「え?いないぞ?」
「僕だよ?」
へらっと笑顔で自分を指差すルトア。
口に運ぼうとしたグレンの手から、お菓子がポトりと足に落ちた。
「はああああ!!??」
もう何度驚いた事か。
「驚いた?言ってなかったもんね」
「ルー兄様どうして!父様は、父様は知っているの!?」
「流石に知ってるよ。大丈夫、護衛って言っても僕1人じゃない。学園内のみっていう条件で身近にいる方がいいからね、それに…僕が強いの、知ってるでしょ?」
確かにルトアは強い。訓練で手合わせをしたりもしているが、勝てたことはない。
「嫌々とか、命令とかではない?」
「んー…半分は命令?に近いけど…もう半分は自分の意思だよ」
「…気をつけて。何かあったら助けるから」
「護衛……おれもルー兄様が困ってたら助けるよ!」
「…ありがとう」
そこで校内の鐘がなる。
「あぁ、もうそんな時間…そろそろ授業の時間だね。グレン、ルイン、自分達の教室はわかるかい?」
「わかる」
「大丈夫」
すっかり笑顔になった2人は、いそいそとルトアが持ってきた紅茶を飲み干して、部屋から出て行った。
「…いい弟達だな。あの歳で護衛の意味をきちんと理解している」
「うん。普通なら、ただ喜ぶだけなんだけどね」
王族の護衛は貴族にとっての憧れで、でもその分危険も大きくて…それを理解してのあの反応だろう。
「俺の護衛は嫌か?」
「え?そんな事ないよ。王族の護衛なんてそうそうなれないし、それに友達だから」
「…そうか」
「何?心配しちゃった?…ヴィンス兄様?」
「やめろ、背中が痒くなる」
「弟達は良くて、僕はダメなの?同じ友達だよ?それに年下だし」
「お前は別だ」
「えーっ、何でさー」
……………
…………
……
…
生徒会室を後にして、グレン達は学園の地図が書かれている紙を片手に自身のクラスへと向かう。
「あ〜ぁ、なんか疲れた。まだ半日しか経ってないってのに、内容が濃い〜」
「確かに。入学式でSクラスになって、校長室で校長と話して、学食行って生徒会室に入って…んで、話したのが王子で、ルー兄様はその護衛だったと」
指折りで数えながら、今日の事を振り返る。
確かに濃い内容だ。
これがまだ半日しか経っていないのだと思えば、流石に疲れたと言いたくなる。
「ってか、ルー兄様が王子の護衛してるなんてな。改めて違う世界だなと思った」
「どゆこと?」
「本当に剣があって魔法もある、これだけでも違う。俺達にも護衛はいた…でも身内で、それが兄で目の前に護る人がいる。俺の知ってる護るは、チビ達を見守るって感じだった」
「あー…うん。おれも何か…違うなって。漫画とかじゃないんだなって改めて思った」
「俺達、これからもっと頑張らないと」
「そうだな!おれ達の旅はこれからだ!!」
「おい、それアニメで終わる言い方」
2人は笑いながら廊下を歩く。
段々と学生が多くなっていき、次々と自身のクラスの部屋へと入っていくのが見える。
「1のA…。ここだな」
ドアの上を見上げれば、クラスの番号が書かれた札が吊り下がっている。
「じゃあ入りますか!」
「あぁ」
ガラガラと音を立ててドアが開く。
そして2人は、自身の教室に入ったのだった。
ヴィ「兄上」
兄「なんだ、ヴィンセント」
ヴィ「俺、兄上の事が好きです」
兄「…………」
ヴィ「兄上…?」
兄「すまない、私には既に婚約者がいる。それに兄弟ではお前の気持ちに答えてやる事は出来ない」
ヴィ「……え?兄上……?」
兄「大丈夫だ。お前にも良き相手が見つかる。そうだ、気晴らしと言っては何だが、今度一緒狩りでも行くか」
ヴィ「………はい、ご一緒させてください」