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小さな興味


〈〈カーン、カーン、カーン〉〉


ぼんやりとする意識の中、微かな鐘の音が頭の中に響き渡る。

その鐘の音が、耳から聞こえてきているものだと自覚すれば、次第に意識が覚め始めた。


ぱちりと目を開け周りを見れば、そこは連れてこられた校長室の部屋の中。

テーブルの上には飲みかけの紅茶にお菓子。

視線を下げれば毛布が一枚、自身にかけられていた。


「おや?グレンくん、目が覚めたかね?」


声のする方へ目を向ければ、執務用の椅子に座りながら書類を片手にこちらを見ている老人が1人。

ぼーっとする頭で老人を見れば、段々とはっきりとしてくる記憶。

隣を見ればルインはまだ、すーすーと寝息を立てていた。


いつの間に寝ていたんだろうか。校長を待ってる間に黒猫を撫でて、それから……。


「俺、どれくらい寝てた?」


ガンダルドは持っていた書類を机に置いて椅子から立ち上がり、グレン達が座る向かいのソファーに腰掛ける。


「30分くらいじゃよ。…あぁ、そろそろルインくんも起こすと良いじゃろう」


確かにと思って、未だに寝ているルインを軽く揺する。


「おいルイン、起きろ」


ルインは顔を歪めるだけで起きようとしない。


「ん〜……後…5時間……」


それは桁が違う。

少しイラッとしたので、ルインの額にバチーンとデコピンをする。

我ながらいい音が鳴った。


「いってええええええええ!!!何すんだよおぉ!!」


ドーンと盛大にソファーから転げ落ち、ジンジンとする額に手を当てながら涙目でグレンを睨む。


「すぐに起きないのが悪い」

「だからってデコピンは無いだろう!?」

「デコピン…?何の事だ?」

「しらばっくれるなよ!?どう考えてもこの痛みはデコピン!!」

「痛みで何かわかるのか……凄いな?」


グレンはクククと笑いながらルインをからかう。


「なんじゃ、仲が良いのぉ。…だが、そろそろ2人も自身の教室に行った方が良いと思うのじゃが?入学早々、校長室で眠りこける双子よ。…可愛らしい寝顔ではあったがね?」


今度はガンダルドにグレンがからかわれ、思わず舌を打つ。


「キミ達が寝てる間にこちらで手続きなどはしておいた。半年はAクラスで学び、もう半年は2年のBクラスで学ぶと良い。…あぁ、もう教室じゃなくて寮に行った方がいいか。今頃生徒達は荷ほどきをしている頃じゃろう。後の事はそちらの方で聞くと良い」


ガンダルドは自身の人差し指をふいっと揺らす。

リーンと可愛らしい音が指先から鳴り、続き部屋から焦茶色の髪に朽葉色の瞳をした男性が入ってきた。


「失礼します。校長、どうされました?」

「この双子達を学生寮まで案内してほしくてな。今、隣で手が空いている者はいるか?」

「それでしたら私が案内しますよ。丁度私も行こうとしていたので」

「おぉ、そうじゃったか…それなら頼むとしようかの。…グレンくんルインくん、今更じゃが入学おめでとう。良い学園生活を送れる事を願っておるよ」


「…あぁ、ありがとう」

「じゃあな校長先生!」




3人が部屋から出て行き、しばらくするとカタリと室内の窓が開く。


「………にゃぁう」

「おや、もうあの双子はいないぞ、今は学生寮に向かった」

「…………」


窓から入ってきた黒猫は、ガンダルドの話を聞いてまたすぐに窓から出て行った。


「…すっかりお気に入りじゃな。あの子がああも子供を気にかけるとは珍しい」




…………

………

……





グレン達は案内をしてくれている男性の後ろをついて行く。

この男性の名前はゼスと言うらしく、この学園で土魔法を教える先生だ。

お互いに軽く自己紹介をしながら廊下を歩く。


「君達が噂のSクラス判定の子達だったとは。…あぁ、噂って言ってもSクラス生が出たってくらいで、それも僕たち教師陣の中だけだから!他の生徒達にはまだ知れ渡って無いと思うよ。まぁ君達の近くにいた生徒は流石に知っていると思うけど」

「何か問題が…?」

「ん〜…問題ってわけでは無いんだけどね。ただ最初のうちは周りが煩くなりそう…勇者や王族関係じゃない人からSクラスが出たってのは初めてだからね」

「「ふ〜ん」」


そんな他愛も無い話をしながら歩いていると、廊下と廊下の間にホールのような場所に着く。そこには転移門が設置されていた。


「転移先は学生寮前…っと」


ゼスが転移門の横に設置されているパネルを操作する。

たちまち転移門が光を纏い、一度見た事のあるモヤが掛かり出した。


「これを潜れば学生寮前だよ。僕は寮の中には入らないけど、君達はそのまま寮の中に入って受付の人に話しかけるといいよ。案内してもらえるだろうから…じゃあ行こうか」


そう言ってゼスが転移門を潜る。続いてグレン達も転移門を潜った。


一瞬で視界が変わる。

今までいた校内から一変して辺りは木々が生い茂り、花々が咲き誇る庭園の様な雰囲気の場所に出る。

視界の先を見れば、寮の外見は学園と同じ様な白色の頑丈な石壁。何箇所かある塔が繋がり建物を囲う。

所々に可愛らしい置物や模様があり、思ったよりも堅苦しく無い。


「じゃあ僕はこれで!授業の時にまた会おう!良い学園生活を!」


そのままゼスと別れて、グレン達は言われた通りに寮に入った。

すぐに受付が目に入り、カウンターにあったベルを鳴らして窓越しに声をかける。


「あ〜…誰かいないか?」


「はぁ〜〜い!!はいはい!ちょっと待っててね〜」


カウンターの奥、目隠し用のパーテーション裏から女性の声が聞こえてきた。

タイミングが悪かったか。とりあえず待つしか無いので、グレン達は寮内をきょろきょろと見渡す。


「一階には誰もいないのなぁ、学生は皆二階かな?」


耳をすませば、時折聞こえる人の声や物音が階段の方から聞こえた。


「俺達一年は荷ほどきって言ってたしな。先輩達は学園内にいるだろうし」

「あ〜そっか。おれ達も荷ほどきしないとか!うぇー…めんどくさい」


他に何があるかなと、あまり離れない程度に寮内を見ていると、数分してようやく受付の所から声がかかった。

カウンター越しにおばちゃんらしき人が、ひょっこりと顔を出してグレン達を呼ぶ。


「待たせたねぇ!あんた達かい?呼んだのは」

「あぁ、校長…先生にここへ行く様にと言われた。受付の所で話をすれば分かると」

「なるほどね。えーと、あんた達は…新入生か、名前は?」

「グレン・ローゼ・ウィズグラント」

「ルイン・ローゼ・ウィズグラントー」

「おや、ウィズグラント家の人か。グレンくんに…ルインくんね。ちょっと待ってね……」


カウンターの下で何やらゴソゴソとし出したおばちゃん。

そして何枚かの書類と小指の先程度の大きさの小さなリングを渡された。


「はいこれ、あんた達のね。説明する前に自己紹介。あたしの名前はマリンダ、よろしくね。2人は侯爵様だけど、この学園で学生は貴族の子も平民の子も、どちらも等しく接する事になっている。まぁ普段の生活とそこまで変わらんだろう。中には貴族だからと偉ぶる奴もいるがね。……まぁそれは別として。あたしはこの学生寮で受付として働いているよ。他にも受付の子はいるけど、基本的にはあたしがいつもいるね」

「そうなんだ、よろしくなー」

「はい、どうも。じゃあ説明するよ。

渡した書類には注意事項と寮の案内地図、寮内の時間割などが書いてある。後でじっくり目を通すといい。何、難しい事は書いてないから安心しな。そして、このリングはあんた達の部屋鍵さ。首に下げているステータスチップのチェーンに通しなさい。身につけていれば開く時に自動で鍵が開くし、出る時には閉まる。なくす事はまず無いけど、気をつけてね」

「わかった」

「あーい」


「うんうん。それで部屋は基本2人部屋で、あんた達の部屋は1塔5階10号室。荷ほどきが終わり次第、学園内の食堂で昼食を取ると良いよ。午後の授業時間までは自由時間だからそれまでゆっくりすると良いさ」



一通りの説明が終わり、グレン達はマリンダにお礼を言って受け付けを後にし、自分達の寮部屋へと移動した。


「1塔の〜〜5階〜10号室〜〜…あ!あった、グレン!ここ、ここ!!」


階段を上がって左右に分かれている廊下を右に曲がり、番号を口ずさみながら、ルインは先に早足で部屋前に行き、大きく手を降る。

中間くらいに自分達の部屋番号の札があった。


「わかったから!そんなに大きな声を出すな、恥ずかしい」


ちらほらと廊下には学生達が話をしたりしており、遅れて来たグレン達を興味深そうに見ながら話をしている。


グレンも部屋前に着き、いざっ!とルインはドアノブに手をかける。

するとリングに反応して、ドアノブ周りに魔法陣が現れ、カチリと小さな音を立てて鍵が開いた。


「うおっ!?おおお!これ、すげーな!」


ルインは興奮して、パタンパタンとドアを開けたり閉めたりを繰り返す。

そんなルインの背中をグレンは軽く足蹴りする。


「何してんだ阿呆。さっさと中入れ阿呆」

「蹴るなよなぁ!それと阿呆阿呆言うな!阿呆!」

「阿呆に阿呆と言って何が悪い、荷ほどきが終わんないと昼飯食えないんだからさっさと済ませるぞ」

「…そうだった!!!なぁ!学園のご飯って何かなぁ!」

「…………」


グレンは思わず、はぁ…と小さくため息を吐く。こいつ本当に大丈夫だろうか?

眉間にシワを寄せながら部屋の中に入り、2人は荷ほどきを始めた。


粗方荷物を出し終わり、2人は学園内にある食堂に向かう為に部屋を出る。

階段を降りかけた時、グレンはピタリと止まる。

そのままくるりと体を反転して、きた道を戻る。


「悪い、忘れ物したから先に転移門前に行っててくれ」

「ん?わかった〜先行ってんなー」

「ああ」


グレンは部屋の中に入り、忘れていた書類を鞄に入れる。

他に忘れ物が無いか確認をして、部屋を後にするため、ドアノブに手をかける。

リングに反応してカチリと鍵が開く音がした。


「…………」


少し押して開けたドアをまた引いて、ドアノブから手を離す。

するとカチリと音がして鍵が掛かり、ドアは閉まった。


「…………」


またドアノブに手をかけて、鍵を開け、また締めようとした所でグレンはピタリと止まる。

閉まりかけたドアを押して出て、廊下に人がいないかを小さく横目で確認する。


(何やってんだ俺は……ガキかっ)


グレンの耳は恥ずかしさで薄らと赤みを帯び、誰もいなかった事にホッとしつつ、先程の事は忘れようと早足でルインの元へと戻った。




転移門前でグレンを待っていたルインは、急に共有スキルが発動した事に、おや?っとなった。

その共有の感覚は〈恥ずかしさ〉。

グレンから流れてくるこの恥ずかしさは何があっての事なのか。


にやりとしたルインは、まだ来ないグレンを待つ。



(後で何で恥ずかしいのか、聞かないと!)




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