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学園


ガタゴトと音をたてながら道を進む馬車が一つ。


現在グレン達は王都ラルクスにいる。

7歳となり今日から国が運営している学園に通う為、馬車で移動中だ。

宿泊エリアの大通りを進み、2人は通り過ぎる人や家を窓から眺めていた。


「グレン様、ルイン様。旦那様から頂いた"あれ"はきちんと身につけていますか?」


学園へ向かう為に同じ馬車に乗っていた執事のノイシュに、2人は自分の横髪を少し持ち上げて、片耳を見せた。

そこには瞳の色と同じ色をしたピアスを着けている。


「ちゃんと着けてる」

「もちろん、着けてるよ!」


このピアスはステータスを偽装する為の魔道具で、父のアルバートが2人に渡したものだ。

何でも、アルバートとリラが2人がかりで2ヶ月かかって作った物だそう。

偽装の魔道具はとても作るのが難しく、全属性必要なのは当たり前、高度な技術を必要なのも当たり前。

そして使用者に合わせたものじゃないと使えないと言う。

とっても貴重な物だった。


「それなら良いです。これから約3年間は学園で寮生活ですから、外したりなさらない様にして下さいね。鑑定持ちの人が学園にいないなんて事はないのですから…」

「わかっている。それに俺も鑑定持ちだ。レベルの高い奴には無理だが、低い奴なら弾ける」

「それはそうですが、教師にも鑑定持ちはいますし、ルイン様は持っていませんから、結局は偽装しなければいけませんよ。お2人は双子ですから」


この世界で双子と言うのはステータスも似ている事が多いらしく、片方を見るだけで、もう1人の大体のステータスも予測出来てしまうらしい。


ちらりとノイシュは窓の外を見て、「そろそろ学園エリアです」と言った。


学園エリアとは、王都ラルクスの基本エリアの内側に作られているもので、この中にグレン達が通う学園がある。


貴族や平民問わず誰でも入学でき、教育を受けることができるのだ。



エリアを分ける高い城壁の入口をくぐり抜けると、遠くから見てもわかるくらい一際大きな建物が見える。

宿泊エリアの街並みから一変して、辺りは広々としており、道の他に、中央の大きな建物…これが主棟だろう。そして、その周りを囲うようにまた別の建物が何個も並んでいる。


道を歩く人は、もう殆どが子供達で皆指定されている学生服を着ていた。


「これは…凄いな」


自分が知っていた学校とは全く違う。グレンとルインは驚きながら見慣れない光景をひたすら眺めた。


そうしてるうちに学園内に入り、馬車をとめる指定の場所で降りる。

他に止まっていた馬車からも次々と子供達が降り、職員だろう人が誘導していた。


「「ここまでありがとう」」

「いえいえ、旦那様と奥様の代わりにお2人とここまでご一緒出来て嬉しく思いました。そうそう、荷物は既に届いておりますのでご安心を。グレン様、ルイン様、どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ」


一緒に来てくれたノイシュと、御者の人にお礼をいい、グレン達は職員が誘導している場所へと向かった。




…………

………

……




「なぁなぁグレン」

「………どうした」

「学校の入学式?ってこんなんだっけ?」

「………聞いても一番意味のない俺に聞くな」

「……だよなぁ〜」


あれから職員に誘導されたグレン達は、とても、それはそれは大きな建物内に移動した。

だが道中もそうだが、2人が想像していたのとは全く違う。


まず最初に案内されたのは近くにあった少し小さめの建物だった。

中に入るや否や、職員に誘導された子供達が次々と部屋の中にあった、大きく色とりどりのモヤがかかったアーチをくぐり抜けている。


これは転移門と呼ばれており、莫大な広さの学園内を行き来するための物。

所々にこの転移門が設置され、行きたい場所の近い転移門に移動するらしい。


そして今は転移先の建物内。

辺りを見渡す限り人、人、人、人の山。

よくあるスポーツの観戦場のように、ファンタジーっぽく言うならコロシアムの様な、周りには在校生だろう人達がずらりと囲うように座っており、グレン達はその中央にいる。

前世の"入学式を行うから体育館に集まってー"とさらりと言えるレベルではない。

何千人いるの?と言えそうなレベルである。


「体育館?と言うより〇〇ドームがしっくりくる」

「確かに…大物の歌手とかがライブするとこんな感じなのかな」


自身が比較できる範囲の想像をしながら、この状況に唖然としつつ、式が始まるのを待つ。

そして転移門から来る人がいなくなり、少しすると、建物内の上空からキラキラと光の粒が降ってきた。


しん…と場内が静まり返った時、1人の老人が現れ宙に浮く。

何かの魔法を唱え、老人の声が場内いっぱいに響き渡った。


「洗礼の儀を終えた新入生諸君、シューゼルド第一学園へようこそ。ワシはこの学園の校長をしておる、ガンダルド・ローゼ・クラッソじゃ、よろしく。

今日からキミ達が通うこの学園は、何十年と生きる長い人生の中で数少ない、失敗も学べる場所だ。この機会を無駄にしない様にしっかり勉学に励むと良い。……長話は得意じゃなくてな、これでおしま……おっとそうじゃ、これからキミ達は適性調査をし、クラス分けを行う。きちんと教員の指示に従う様に。そして……在校生及び各教員達もキミ達新入生を歓迎する」


ガンダルドと名乗る校長がパッと両手を広げた瞬間、座っていた一部の学生達と教員達も立ち上がり、一斉に魔法を放つ。

すると場内いっぱいに、色とりどりの花びらが舞い、辺りを埋め尽くした。


ひらひらと落ちる花びらに、手を伸ばす新入生達。

ルインも両手を上げて魔法の花びらに手を伸ばしている。

そんなルインをグレンは横目で見ながら、自分も小さく手を前に出す。

そこにふわりと花びらが一枚。

白く、少し透明な花びらは、ルインの髪色を表しているようで。思わずグレンも小さく笑みを溢す。

2人はそれぞれ、これからの学園生活に胸を躍らせるのだった。






入学式が終わり、在学生と一部の教員達は各々場内から出て行った。

残った新入生達は言われた通りに教員達の指示に従って数十人ごとに整列をする。

順番にステータスチップを、用意された小さな箱の様な物に乗せていき、すると箱から紙切れが出てきた。

その紙に書かれているのが自身のクラスらしい。


なんでもその箱は、ステータスに記録されている評価、そして今までの経験を読み取る魔法が組み込まれているらしく、エリュグリンダ王国に協力してくれている聖獣や、精霊が作ったらしい。

読み取る事は出来るが、内容を見る事は出来ないので、個人情報が漏れる心配もない。

グレン達はステータスを隠蔽してるのでホッとした。


グレン達の番になり、クラス分けの紙を受け取る。

やはり2人はステータスも似ているし、環境は同じだったので、クラスは同じだった。


「1の…S?ルインも同じだろ?」

「おー、同じ同じー」


2人は紙を見せ合い、クラスが同じ事を喜ぶ。

するとグレン達を担当していた教員がくわっと目を見開いた。


「お……お2人のクラスは1のSなのですか……?」


話しかけてきた教員はあわあわとしながらもグレン達の持つ紙に目が釘付けだ。


「そうだが…これはどの教員についていけばいいんだ?」


クラス分けの表記は前世で何年何組を表すのと同じで、グレン達の1のSは、1年S組というようになる。

だが、教えられていた組にはSはなく、下のEから上のAまでの5つしかなかった。


「少々お待ちください!!!」


そう言って教員の人は何処かへ行ってしまった。

残されたグレン達は列から外れ、とりあえず毎日練習している魔力操作の訓練をしながら教員が戻ってくるのを待った。


他の子供達の調査が終わり、ぞろぞろと自分達のクラスに移動し始めた頃、先程の教員の他に、校長のガンダルドが一緒にやってきた。

全力疾走したのか教員は、ぜい、はぁと息を漏らす。

その隣で校長のガンダルドは、んん?と目を細め、グレン達を見る。


「キミ達2人がSクラスになった者達か」

「この紙の通りでしたら」

「あぁ、説明上はSクラスは無かったな」


ガンダルドは「ふむ」と言って自身の顎に手をやる。


「キミ達の名前は?」

「…グレン・ローゼ・ウィズグラント」

「ルイン・ローゼ・ウィズグラントです」


名前を聞くと、何やら納得した様にうんうんと頷いている。


「そうかそうか、やはりウィズグラント家の者達だったか」


自分達の事を知っているかの様に話すこの校長に2人は首を傾げる。


「あの…どうして俺…いえ、僕達をご存知で?」

「あぁ、そうだな…立ち話も何だ、とりあえず一緒に来なさい」


そう言って再び来た道を戻るので、グレン達は疑問に思いながらもついていった。

そして案内されたのはまさかの校長室で、入学早々に入る部屋ではないとグレン達は念話で愚痴る。


ソファーに対面する様に座り、ガンダルドは自ら紅茶を作り2人に出す。


「なんじゃ、そう緊張するでない。実はの。キミ達の父親とは昔から知り合いでね、子供達の話を聞いたりしていたのだよ。今年入学すると聞いておってな、話だけじゃったが…キミ達の姿を見て、もしやと思った。なるほど確かに髪色を除けばそっくりじゃな」


はははっと豪快に笑いながら、紅茶に手を伸ばす。


「えーと、それで俺…僕達はどうしてここに」

「あぁ、かしこまらんでも良い。父親からキミ達の性格は聞いておる」


グレンはそれを聞いて今は城にいるであろう父親に、何話したんだオーラを飛ばしつつ、ジト目になった。


「ははは!まぁ彼奴が話をする子と話をしてみたかったのも事実、そしてSクラスについても話さないといけんしな」


そう言ってガンダルドはクラスについて語った。

クラス分けとは、産まれや自身の持つ属性、属性の種類など人それぞれなので、年度の同じ人でも個人差がある。その為、能力の平均で5つのクラスに分け、クラスごとに足並みを揃えている。

E、Dクラスは平民しかおらず、Cから平民と貴族が混じりやすく、Bで半々、Aで貴族が大半を占め、平民は少数。

確かに話を聞くに、このクラス分けは理解出来る。

平民と貴族では入学前の勉学に差が出るし、属性数も貴族の方が多い。

ではSクラスとは何なのか。

それはこの学年に置いて、ほとんど学ぶ必要がない者らしく、あるとすれば同年代の交友関係を結ぶくらいしかない。

この判定が出るのは、勇者の称号を持つ者や、王族、又は血筋柄の公爵などが普通で、他の貴族から出たのは初めてだそうだ。


「まさかウィズグラント家の双子からS判定が出るとは思わなかったのぅ。優秀だとは聞いておったからAは行くだろうと思っておったが…」


うーんと悩みながら黙ってしまった校長にグレンは、


「じゃあ、その勇者とか王族とかはS判定が出たらどうするんだ?」

「ん?そうじゃな、入学して1年は基本的に基礎中の基礎を学ぶ年じゃから、S判定の出た勇者と王族などは半年は交流のためにAクラスで学ぶ。もう半年は2年のBクラスで学ぶのじゃ」

「えーとそれだと、勇者と王族が2年になったらどうなるの?」


ルインが出された紅茶をゴクゴクと飲み、ついでに出されたお菓子をパクパク食べながら話に加わる。


「…キミ達は性格は違うのぅ。そうじゃな、毎年ごとに適正調査をしてクラスを分ける。その時にまたS判定が出たら同じように半年で分ける。その繰り返しじゃな」

「俺達もそうなるのか?」

「うーん…まぁそれが一番だろうのぉ。…一応ステータスを確認しても?」


一瞬ドキリとするが、この場で見せない訳にはいかない。

称号やステータスについては隠すことが多いが、偽装のピアスとグレンの持つスキルが上手くいってくれる事を願う。

2人はチップを取り出し、ステータスを見せる。


「……あぁ、この部屋には結界が貼ってある。情報は他言しない上、精霊の力によって、ほぼ強制的聞き出した個人情報は話す事は出来んようにしておる、安心せい。……属性は…まぁその目を見れば全属性なのは分かる。ほうほう、魔力値2500!これは凄いのぅ!ほう!グレンは無属性【B−】、ルインは4属性【B−】か!おぉ、グレンは鑑定待ちか。なるほどなるほど……」


ガンダルドは2人のステータスを見ながらころころと表情や表現を変える。

そして2人の称号を見て一瞬固まる…が、すぐに表情が元にもどった。


グレン達はガンダルドが一瞬固まったことにひやっとした。


「ふむ。キミ達がS判定されたのもうなずける。勉学に関しては、ウィズグラント侯爵家だしのぅ、この時点でBクラスはほぼ確実。属性は全属性、レベルは【B−】あり、魔力値は2500でS判定の王族とほぼ変わらず。そして称号…」


グレン達はゴクリと息を飲む。


「〈一流者〉に〈打ち解ける者〉ときた。一瞬、伝説の称号かと思ったが、それならまず今日はこの場にいないしのぅ。

それでもこの称号は凄い。大抵の武器は初めてでも使えるし、精霊から好まれやすい、聖獣も好まれる。そして最後に加護持ち。それも属性無し…羨ましいの……」


上手く隠蔽と偽装が発揮されており、2人は顔には出さずにホッと安堵する。


「えと…、羨ましいとは?」

「なんじゃ、その歳でこのステータスは普通に羨ましいじゃろうて。称号と加護も素晴らしい、文句なしのS判定じゃ。まぁ聖獣様が作られた物だしな、早々疑ったりはせんよ」


羨ましいそうな目でグレン達を見る校長は、ふとルインの紅茶が無いことに気づく。


「おや、随分と話し込んだのぅ…新しい紅茶を用意しよう、少し待っておれ」


そう言って続き部屋になっている隣の部屋へ行ってしまった。


2人は少しばかり緊張していたのか、フッと気が抜けて息を漏らす。


『ステータス、バレなくてよかったな』

『校長が一瞬固まったからバレたのかと思って焦ったわ〜』

『まぁ、称号に関しては似たような物にしたからな。そうしないと後々大変そうだし』

『流石グレン。頼りになるー』


部屋には2人しか居ないのだが、念のために念話で話をする。


するとそこで校長が入ったドアが小さく開き、隙間から黒い猫が入ってきた。


「おっ、黒にゃんこ。おいでおいで〜」


ルインは手を猫の目線まで下げ、軽く揺らして誘う。

それに釣られて黒猫はそろそろと手元に寄り、スンスンと嗅いだ後、ぴょんとルインの膝上に飛び乗った。


「にゃあぅ」

「くぅぅ〜可愛いなぁ。ほれほれここが良いのかー」


ルインは耳裏や顎下などを撫でて触り、それに反応して黒猫はゴロゴロと喉を鳴らす。


「グレンも触ってみたら?大人しいぞこいつ」


グレンは恐る恐る黒猫に手を近づける。

パチリと一瞬、猫と目が合うがすぐに黒猫はグレンの手をスンスンしてからペロリと軽く指先を舐めて、頭をスリッと手に擦り付けた。

そしてグレンの膝上に移動してゴロゴロと喉を鳴らしながら、そのまま寝始める。


「よかったなーグレン」

「……うるさいな」

「猫好きな癖に、いつも怯えられてきたもんな〜」

「…うるさいと言っている」


ケラケラと笑うルインを無視して、グレンは膝上で寝ている黒猫を優しく撫でて小さく笑う。


(もー、グレンは素直じゃないんだからなぁ。嬉しい癖に)


「…おい」

「何?」

「俺は別に普通だ」

「え?いきなりどうし…」

『共有』

「あぁ…漏れてた?あはは〜良いじゃん本当の事なんだから…って、痛っ!どつくなよっ!?」

「うるさい、猫が起きる」


軽口を言いながら、校長が戻るのを待つ。

2人は段々と深くソファーに埋まるように座って猫を撫でる。


そうしているうちにガチャりとドアが開き、ガンダルドが戻ってきた。


「すまんすまん、ちょっと教員と話しておった。遅くなったの………おや?」


グレン達はソファーに寄りかかるように座りながら、お互いに頭をくっつけて、すーすーと寝息を立てていた。


ガンダルドに気がついた黒猫は、トンっと軽くグレンの膝から降りる。


「んにゃあぁん」

「んー?おぉ、子守かの?ありがとう」


軽く黒猫の頭を撫でる。

そして双子が起きないようにそっと毛布を掛けた。

ガンダルドは先程の会話を思い出しながら、寝ている2人の顔を見て思う。



「こうして寝顔を見てると、まだまだ子供じゃの」





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